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3章

7話目 後編 出現

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 突然の出来事にその場にいた全員が相当困惑したことだろう。
 チャラ男は悲鳴を上げる間もなく飲み込まれていってしまった。

「……ケプ」

 可愛らしいゲップとは裏腹におぞましい行為を目の前にしてしまった俺たちは敵味方関係なくみんなが唖然とし、その場が静まり返ってしまっていた。
 そんな中、ウイルスによって感情の起伏が制限されていた俺はこの状況を冷静に見て観察していた。
 今のまるで「スライムのような」半流動体っぽい感じ……
 まさかこいつ――

「お前がグロロか」

 俺がポツリと零した一言に、チャラ男を飲み込んだ奴を含めた全員が俺を注目した。

「グロ、ロ……だと……?」

 俺の血によって痺れて動けなくなっている男が呟くように喋ろうとする。

「その顔、どこで見たかやっと思い出した。連合の掲示板に貼られてた行方不明者にいた一人だ。つまり……その姿は食った奴の擬態、今までこの街で行方不明になった奴らもお前が食ったんだな?」

 俺がそう言うとグロロらしき人物?は背筋が凍るような笑みを浮かべた。
 明らかに普通の人間ができるような口角の釣り上げ方をしていない。
 その笑みを見た周囲のチンピラどもが小さく悲鳴を上げて怯える。
 まさかとは思ってたが、やっぱ本当にグロロなのか……
 今のところ俺が出会った中で最弱の生物と呼べるぐらいに弱いはずのグロロが、なぜ人間の姿に擬態できているかはわからない。
 ただ、目の前にいるグロロが「最弱」と認識するにはちょっと無理があるな。
 するとグロロはふらりと揺れ、予測不能な動きで素早い攻撃を仕掛けてきた。
 腕をまるでシャドウと戦った時のようにしならせながら伸ばしてくる。
 俺はララをすぐに抱き寄せながら転がって回避した。
 しかしグロロはそれを読んでいたかのように片手に剣を持って走ってきた。
 グロロが剣を振り、俺は持っていた短剣二つでその攻撃をなんとか受け止めることができた。
 なんだよこいつ……本当にグロロなのか?戦闘能力が桁違いになってるじゃねか!
 シャドウみたいな身体能力と人間のように武器を使うとか……まさか食った奴の経験を身に付けてるとかか?
 だとしたら今のうちにさっさと倒しとかないと、もし逃がしたら後々さらに強くなって襲ってくるってことだよな。
 ……死なないだけが取り柄の俺に倒せるのか?しかもララを守りながらなんて……
 ……なんて、弱音を吐いてる場合じゃねえよな。
 ララは武器を持って……ないよな。
 まぁ、これから女の子と飯を食うってのに普通、武器を持って行くわけないだろうし。
 あらやだ、それじゃあ俺がまるで普通じゃない最低野郎みたいじゃないですかー。

「……よっと」

 ガードに使っていた二本のうちの一本をグロロの頭に突き刺した。
 人間を貫いたことはないけど、人間とは明らかに異なる感触で突き刺さる。
 包丁で豆腐を切るような?いや、少し違うが。
 固くもなく柔らか過ぎず。それがグロロを切った感触だ。
 これだけ手応えがないってことは……
 ニィと不気味に笑うグロロを見て、俺の攻撃が通じてないことがよくわかる。
 そしてグロロはもう一本の腕の先を細く尖らせて俺の体を貫く。
 さらに俺は勢いよく投げ飛ばされそうになった。

「うおっ!?」

 すんでのところでその腕を掴んだ俺。
 グロロは普通なら死んでいてもおかしくない致命傷を与えたはずなのに平然としている俺に驚いていたようだったが、その後すぐに地面へ叩き付けられた。
 何度も、何度も、何度も……
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も――
 気付くと俺は自分の足で地面に踏みとどまっていた。

【体内のウイルスが著しく弱ってます。体の制御が宿主から移行します】

 アナさんの音声が頭の中に響き、同時に体が動かなくなっていたことに気付いた。
 それどころか勝手に手が動き出し、俺の体を貫いていた腕を短剣で切断する。
 あっさり切れた箇所からは血どころか骨や肉すら無く、ねんどのような半流動体が見えた。
 グロロは驚いた様子も見せず、俺が切り落とした腕を元通りになる。
 体の制御が移行されたとか聞こえた気もするし、一体何が起きてるんだ……?
 俺の戸惑いと思考とは関係なく体は動き続ける。
 一直線にグロロへ向かっていくつも斬撃を繰り出す俺と、斬った端からすぐに治っていくグロロの体。
 例えるならかなりリアルなVRを体験しているような気分。
 とはいえ俺にこんな力があったことにも驚いたが、グロロにも大してダメージを与えられてるようには見えない。
 つまりお互いに致命傷を与えられず、決着がいつまでも着かない平行線になる。
 周囲にいるチンピラたちは逃げるでも戦うでもなく、ただ唖然と俺たちの戦いを眺めるしかしていなかった。
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