最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

合同パーティー

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 僕たちはアヤトさんに流されるままギルドから出て、クルトゥから目的地であるディグラム洞穴へ馬車で向かっていた。
 徒歩は流石に時間がかかる場所も馬車ですぐに着く、ということで、僕たちの金銭事情を知ったアヤトさんが全てお金を出してくれた。申し訳なく思いつつも、アヤトさんの懐の広さに感動してしまう。
 馬車の中でお互いの自己紹介を済ませ、雑談に興じていた。

 「あの、気になったんですけど、アヤトさんたちのパーティ名の由来ってなんですか?」
 「ああ、『自由な傭兵』ってのか?」
 「はい。傭兵って元々自由なイメージがあるんですけど・・・・・・」

 お金をより払ってくれる方に味方する。自分の身が危なくなったらすぐに逃げてしまう。
 悪い意味の自由なイメージが傭兵という職業にはあった。
 そもそもパーティー名というのは、いつも一緒に依頼を受ける団体に付ける名前である。
 所属していている人は、一人が倒した魔物のポイントのほんの数割が貰える、といった特典があるというくらい。
 そんな感じでほとんどメリットもデメリットもないけれど、強いて言うなら一人の評価が全員の善し悪しに繋がるくらいかな?
 一人が活躍をすれば英雄たちと呼ばれ、一人が悪事を働けば賊と蔑まれてしまう。
 だから、気心の知れた仲間たちならまだしも、知らない人とパーティーを組むには気を付けなくてはならないのだ。

 「自由なイメージ、か・・・・・・まぁ、違いないな。金を積まれれば裏切ることだってするのが基本的な傭兵だ。運がよければ任務が終わるまで雇い主を裏切らない、ってくらいの奴はいるだろうな・・・・・・ただ、少なくとも俺の場合は依頼は自分で決める。たとえいくら金を積まれようと、国から強制されようと、やりたくないもんはやりたくないと答える。今までそうしてきた俺にはそれがピッタリかと思ってな」

 そう言ったアヤトさんは、どこか寂しそうな表情をしていた。しかしそれもすぐにはにかむ笑顔に変わり、「ああ、そうそう」と言って言葉を続ける。

 「逆に、気が乗ればビー玉一つでも盗賊退治でもやってやるぞ♪」

 ーーーー

 それからしばらく馬車に揺られていると目的地近くに到着し、降りてまた少し歩いたところに、目的地であるディグラム洞穴に着く。
 中は涼しく、水滴が落ちる音と僕たちの歩く音だけか響く。
 まだ入って間もないからか、魔物には出くわしていないけれど、いつ遭遇するかと緊張してしまっている。
 足取りが覚束ず、上手く歩けない。それは僕だけじゃないようで、マヤも強ばった顔をしている。
 いつも計画的に進めてきたマヤと、その後を付いて行くだけだった僕。予想外な場面に出くわしてしまった今・・・・・・正直吐きそうだった。

 「・・・・・・大丈夫か、お前ら?」

 アヤトさんが歩みを止めて、僕たちの方を振り向いて心配してくれた。

 「だ、大丈夫、です・・・・・・!」

 顔を青くしながらマヤが強がる。だけど僕より大丈夫じゃなさそうだった。ここは僕がしっかりしなくては!
 するとマヤが言葉を続ける。

 「ここで・・・・・・ここの魔物を私たちが倒せばDランクへランクアップします。そうすればーー」

 「より高いランクでお金も稼げる」そう言いたかったであろうマヤの言葉をアヤトさんが遮る。

 「もしお前らがランクアップ目的に魔物を倒そうってんなら、俺は手を貸さねぇぞ」
 「「ーーえ?」」

 その言葉に僕とマヤの驚きの声が重なる。

 「ここでお前らに勘違いさせないための処置だ。万が一にでも俺が手を貸して魔物を倒してランクアップしたとして、お前らがDランク相当の実力があるかと問われれば・・・・・・あとはわかるだろう?」
 「あ・・・・・・」

 マヤの口から小さく声が零れ、僕もその意味を理解する。
 今、アヤトさんたちがいるのは金銭的な手伝いをしてもらっているだけで、ランクアップが目的じゃない。これでランクアップしたとしても嬉しくないんだ。それは・・・・・・実力が付いた時に自分でしなきゃいけない。

 「ありがとうございます」
 「礼を言われることはしてない。おっ、さっそく出てたぞ」

 そう言ってアヤトさんが指を差す方向に、地面を這う芋虫型の魔物がいた。

 「うわぁぁぁっ! む、虫!?」
 「っ!?」

 すると金髪の女の子、メアさんが悲鳴を上げ、真っ先にアヤトさんの腕へと縋り付いた。その悲鳴に驚いたマヤの肩が跳ね、僕との距離を縮めてくる。
 さっきまでの緊張感はいつの間にか消え、マヤに頼られてる気がして嬉しく思えた。

 「デカい芋虫だな」
 「俺、虫嫌いなんだよぉー・・・・・・」

 メアさんが侮蔑の目をその魔物に向けており、心の底からそう思っているのがわかる。
 最初はガサツな子だと思っていたけれど、目に涙を溜めてアヤトさんに助けを求める姿は女の子らしかった。

 「あれ、前に蟻の魔物倒したとか言ってなかったっけ?」
 「あれはまだカッコイイから大丈夫だ!」

 キリッとした顔で少年のようなことを言い出すメアさん。
 その発言にアヤトさんも呆れて溜め息を吐いていた。

 「あれは這い虫。強いけど、手を出さなければ実害はない」

 すると誰に向けてか、ミーナさんが簡単な解説をしてくれる。
 たしかにその通りなのだけれど、這い虫は一般的にもかなり有名で知られる魔物の一種だ。
 今更それを言ったところで、この魔物を知らない人なんて・・・・・・

 「おお、そんな魔物もいるんだな」

 するとアヤトさんがまるでこの魔物のこと知らないような口ぶりでそう言った。
 この魔物のことは僕でも知っているというのに・・・・・・じゃあ、どうやってこの人はランクを上げたんだろう?
 そんな僕の疑問を他所に、会話は進む。

 「そういえば、依頼の一つにこいつの糸が必要だとかあったよな? どうすりゃいい?」
 「刺激すればいい」

 ミーナさんが簡単だと言わんばかりにそう答え、アヤトさんが短く返事をして這い虫の方へ向かう。

 「待ってください、下手に刺激すれば攻撃されちゃいます! 距離を取ってーー」
 「ズブシ」

 僕の言葉に耳を貸さず、アヤトさんは擬音を口にしながら這い虫に指を突き刺した。
 それを見てやってしまったと思った瞬間、這い虫がアヤトさんに向けて糸を吐き付ける。
 あの糸はかなり凶悪で、毒などの殺傷能力はないけれど、一度捕まれば脱出は困難。捕まったら最後、他の魔物に食べられてしまうか、魔術師などであれば自滅覚悟で自分に火をかけて燃やすこともできるけれど・・・・・・。
 しかしアヤトさんは以外な方法でその糸を回避した。

 「よっと」

 まるで曲芸でもやってるかのように、這い虫から吐き出される糸を片腕にグルグルと巻き付けていった。
 それが徐々に大きくなり、人間の頭より一回りくらいになったところで、這い虫は吐き終える。
 ・・・・・・そんな大きな糸の塊を無事に取った人、初めて見た気がする。
 するとアヤトさんは何を思ったのか、這い虫に手を伸ばそうとし、警戒している這い虫は甲高い鳴き声を出して威嚇をする。

 「アヤトさん、何を・・・・・・?」

 その手は這い虫の頭に置かれ、優しく撫で始める。

 「悪いな、今これが必要だったもんでね。あとは襲ってこなきゃこっちからは何もしない。安心しろ」

 そう言って頭を撫で続けると、這い虫は鳴き声を止め、洞穴の奥へと帰って行ってしまった。

 「魔物に意思が通じた・・・・・・?」

 今まさに僕が思っていたことを、マヤが口に出してくれた。

 「なぁ、これどうすりゃあいいんだ? 下手に触ったらベトベトしそうなんだけど」

 そんな僕らの心境を知ってか知らずか、這い虫の糸片手にアヤトさんがそう言って振り返る。

 「いえ、ベトベトするってレベルじゃありません。それはかなり粘着力が強いので・・・・・・まずは水の霧吹きを表面にかければ固まるんですが・・・・・・」

 まさか這い虫を相手にするとは思わなかったから、準備を全くしていなかった。しかしアヤトさんは気にした様子もなく。

 「霧吹きか。んじゃあ、簡単な魔法でできるな」

 そう言うとアヤトさんは空いてるもう片方の手を、そのグルグル巻きになった糸へかざし、シュッという音とともに霧吹きを出してかけた。
 すると繭のようなそれから、ピキピキと固まる音が聞こえる。

 「おお、凄いな」
 「よかった、水の魔法が使えたんですね! あ、待っててください。まだその手は糸が付いているので、そっちも水で固めて・・・・・・」

 ーーズボッ!

 説明の途中で変な音が聞こえたと思ったら、アヤトさんの腕に絡み付いていたはずの糸が丸々綺麗に抜け取れていた。
 絡み付いていた方の手からも水を出したのかな? と思ったけれど、それにしては糸も水も付いてない綺麗な手をしていた。代わりに、糸の塊に腕が刺さっていた穴の部分が螺旋状に飛び出ていた。
 一体何が・・・・・・?

 「じゃあ、とりあえずこれは俺の鞄に入れといていいか?」
 「は、はい、大丈夫です・・・・・・」

 僕と同様に戸惑いつつも、アヤトさんの問いに答えるマヤ。やっぱりマヤもアヤトさんのしたことに驚いているようだった。
 その後も驚いてばかり。目で捉えることが難しい攻撃など簡単に避け、体の固い敵を簡単に砕き、足元すら覚束無い薄暗い中でも遠くの敵を見付けてしまっていた。
 この人は色々凄いことをしているけど、都会の人ってみんなできることなのかな? なんて考えているとアヤトさんがまた何かに気付く。

 「ん? ・・・・・・宝箱?」
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