最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

早朝の訓練

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 「はぁぁぁぁぁっ!」
 「そい」

 一人の少年の叫びが周囲に広がるように木霊し、それに応えるように気の抜けたもう一つの声が上がる。
 先に叫んだのがカイトで、もう一人は俺。
 互いに拳を合わせ、時に大剣を、時に槍を、時に弓を使っていた。
 あらゆる武器を使いこなせるようにと試している。
 始めたばかりだからたどたどしいかと思っていたが、カイトは意外と慣れた手付きで使いこなせていた。
 大きな武器を振り回し難い森の中に場所を移しても、木などの障害物にぶつけることなく攻撃するその姿に、やはり違和感を感じざるを得ない。
 俺以外に教えられる奴がいるとしたら、エリーゼくらいなもんだが……

 「フッ!」
 「なぁ、カイト。俺以外の誰かに何か教えてもらったことあるか?」
 「……え?いえ、誰にも……ノワールさんに魔法を教えてもらったりってぐらいですよ?あとは……ココアさんから受ける精神干渉ぐらいですかね」

 俺たちは依然として拳を交えるスピードを落とさないまま、会話を続ける。

 「じゃあ……なんか最近変わったことは?」
 「そう、ですね……この際なので言いますけど、少し前から変な夢を見るようになったんです。その……師匠の夢を」

 俺の夢?
 疑問しか出てこないカイトの発言に、俺は思わず防戦一方になってしまった。攻撃はしないだけで防御はちゃんと取ってる、ここ大事。

 「……って、なんで俺が出てくることが変わったことなんだよ!?どんな夢を見せたらお前にここまで言わせられる!?」

 もしそれがホモ系の夢であれば死にたくなる。
 俺の考えを他所に、カイトは神妙な顔付きで俯く。それでも攻撃の手を緩めないのは感心してしまう。

 「夢に見るのは……多分師匠の過去だと思います」

 意外な返答に驚き、俺とカイトの手が同時に止まる。

 「……どういうことだ?」
 「師匠の幼い頃の記憶だったり、最近のだったり……師匠の言う『元の世界』っていうのも見ました。車とかいう走る鉄だったり、前に師匠がリナに教えてた銃っていう目に見えない玉を出す武器だったり……しかも誰も魔法すら使ってなくて、それがお伽噺ってことにされてた。正直、夢の中で夢を見ているかのようでしたよ。まぁ、結局夢なんですけど」

 あははと軽く笑うカイト。カイトが切れてしばらく経つが、あの翌日からすでにいつものカイトに戻っていた。
 「敬語も使わず生意気なこと言ってすいません」と謝って。
 それでも焦りはあるのか、メアたちの寝ている早朝から起きて素振りや筋トレをしてたので、どうせなら朝も相手してやろうという話になった。
 もちろん、メアたちには話していない。男二人で話すこともあるだろうから都合がよかったとも言える。
 しかしその「お話」第一回目が、まさかこんな「俺の過去を夢で見る」になるとは思わなかったけれども……
 銃はまだしも、「車」という言ったこともない単語が出てきたのなら信憑性も高い。

 「じゃあ、そこに出てきた俺は何をしてた?」
 「えっと、そうですね……師匠のお爺さんとか家族が出てきたり、師匠やエリーゼさんみたいな強い人がいっぱい出てきました。あとは……話で聞いたよりもかなり不幸に見舞われてますよね、師匠って!」

 唸りながら思い出していると、その場面を思い出したかのように笑うカイト。
 本当に夢で俺の過去を見てきたようだ。あと最後にバカにされたような笑いをされてちょっとムカつく。

 「うるさいよ。って、本当に見てきたんだな」
 「あー、やっぱりアレって本当に師匠の……?」
 「なんでそんな俺の夢なんか見るようになったんだ?」

 俺がそう聞くと、カイトは再び考え始める。

 「たしか……シトから飴玉みたいなのを貰ってから、ですかね」
 「あいつの仕業かよ……いや、映像で見せるならまだしも、夢で見せて追体験させるなんてことできるのはシトぐらいか」

 「またあいつか」と溜息を吐いてそう言い、カイトと拳の打ち合いを再開する。
 俺が勝手に始めてしまったがためにカイトは反応が遅れて、腹部にまともな一撃を食らってしまっていた。

 「ぐっ……!?ちょっと師匠、ズルいですよ!」

 しかし少し仰け反った後、カイトはすぐに大勢を立て直して反撃してくる。
 さっきの会話で緊張の糸が切れたのか、隙だらけなカイトを足払いして顎に掌底を食らわせ、仰け反って宙に浮いた足を掴んで反対の方向に投げ飛ばす。
 飛んでいったカイトは木に当たり、「ぐぇっ!?」と奇妙な悲鳴を上げて地面に落ちる。

 「うぅ……急に動きのレベルが上がった……」
 「急も何も、さっきまで俺と対等に打ち合えてたじゃねぇか?だからレベルアップだ。ほれ、回復」

 ダメージなどで体力が消耗して動けなくなっていたカイトに回復魔術をかけ、復活させる。

 「朝食の時間までまだ二時間ある。もう少しやるか?」
 「……ギリギリまで」

 カイトは一息吐き、力強く頷く。

 「じゃあ、三十分前までな。さすがに汗に塗れて学園いきたくないし」
 「わかりました!」

 気合の入ったカイトの返事から一時間半、組手と多種多様な武器の使用、ランニングや筋トレなどを均等に行い、その空間の露天風呂へと向かう。

 「えっと……ちょっと待ってください」
 「ん?」

 カイトが引きつった顔をして、頭を洗う俺の後ろに佇んでいた。その腕には肌の青い魔族の赤ん坊を抱いている。
 周りも騒がしく、カシアなど魔族の女性陣と僅かに亜人の男女も入り交じっている状態だ。

 「なんでここの皆さんは男女関係なくお風呂に入ってるんですか……?というか、なんで俺、赤ちゃんののお世話してるんですかね?」
 「そりゃお前、男女の仕切りが作ってないからそのままなんだよ。ここに住んでる奴らも使ってるくせに何もしてねぇようだし」
 「色々とごめんなさい?それにその子のことも……他の子はまだ寝てるんだけど、その子だけタイミングがズレちゃって。まさかお風呂で寝ちゃうとは思わなかったわ……」
 「申し訳ないッス!」

 湯船に浸かっているカシアが申し訳なさそうに苦笑いして、逆にリンが申し訳なく思ってなさそうにたははと笑う。
 ちなみに今カイトが抱いている赤ん坊はリンのものである。なんでカシアとリンの態度が逆なんだよ……しかしそれはそれとして、母親ってのは本当に大変そうだよな。

 「亜人の方々も男性率が低く、本人たちも元の環境のせいかそんなに裸体を晒すことに抵抗感がないようだったので、仕切りは無しにしてるんです。ただやはり人間の人たちはそういうのを気にしていまして……でもそれも時間帯をズラせば問題はないので、本人たち気にしてないようです。ですがもしアヤト様が必要だというのなら……」
 「お前らが文句なきゃやらんでいい。メアたちも屋敷の風呂に入ればいいだけだし。本当に必要だってんなら、仕切りだけじゃなく、もう一つ露天風呂作ってやらぁ」

 消してテンションの高くない声色でそう言うと、「キャー素敵ー!」とか「流石マオーサマー!」とか「じゃあ、ついでに洗濯物を楽に洗えるものも作ってー!」という歓声に似た声が上がる。最後のはドワーフ辺りに洗濯機でも作らせとけよって思うが……その場合の魔石も俺が取りに行かなきゃいけないか。

 「この規模をもう一つ作るって……相変わらず簡単に言いますね。ちなみにどのくらいで作れるんですか?」

 カイトが苦笑いしながら興味本位で聞いてくる。

 「材料が揃ってればここと同じものを作るのに三十分もかからないな」
 「早……」
 「まさにドワーフ顔負けだよね!」

 カイトの驚いた呟きの後に、今度は別の女の声が聞こえてきた。
 そこには虎柄の少女が全裸で仁王立ちしていたのが鏡越しに見えた。こいつはたしか、奴隷商を潰した際に助けた亜人の少女か。
 カイトは恥ずかしさからか、振り返らずに俺を凝視している。やめろよ、そんな男に見つめられても気持ち悪いだけなんだから。

 「そういえば名乗ってなかったよね?あたしマーティ!虎族の戦士さ!」

 そう言って隠すどころか大股で近付いてくるマーティと名乗る虎柄の少女が、鏡越しに確認できた。

――――

この作品を次回7月14日から1話を4日毎、その日の22時に投稿と変更させていただきます!
読者様には毎回ご迷惑をおかけします……m(_ _)m
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