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Extra 1巻
閑話 出会うまで
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猫人族出身である私、ミーナがデタラメな力を持つ人間のアヤトと出会うまでの話をしようと思う。
奇跡と言える出会いより二年前、私は猫人族が住む小さな村を出てた。
猫人族は亜人の中では俊敏の部類に入るが、一番早いわけではない。
力では他より劣り、自慢の俊敏さでさえ勝てない相手がいる。それはただでさえ穏便な種族にとって、弱肉強食の亜人大陸の中では致命的だった。
だから私は村を出る事を決意した。両親の反対を押し切り、生き残るための力を求めて。
それから数ヶ月が経った。
亜人大陸にいる数少ない魔物を倒し、縄張り争いをしている比較的実力の近い相手と戦ったりもした。
しかし現実は厳しい。
豹族、虎族、鳥族、蛇族、鬼、エルフ。他にも多大な種族が生きているこの大陸では、私と同等の実力を持った者などいないに等しい。
敗者になった時など、危うく陵辱されるところだった。この時だけは、猫人族の俊敏さに感謝した。
そして疲労により、その俊敏すらなくなってきた頃、実力はあるが温厚な種族のドワーフの里へ辿り着いていた。
その中で少し話すようになったある一人に私の想いを打ち明けると、ある答えが帰ってきた。
「だったら人間の大陸に行けばいいんじゃねえか?」
お茶を飲みながらそう言ったドワーフの言葉に、私は目を見開いて驚いた。
「でも、人間は残酷だと聞いてる」
「まぁな。だけどこの大陸にいるよりは安全だ。血眼になって生存競争してるここよりは、多少ゆっくりはできるだろうよ。普通に暮らしてる奴だっているしな」
ここよりは安全・・・・・・?
首を傾げてドワーフに尋ねる。
「人間の大陸に行けば強くなれる?」
「・・・・・・さぁな」
ドワーフが呆れたように答える。
「どうすれば強くなれるかなんて、俺は知らねえよ。結局は亜人の大陸で無茶するか、人間の大陸で無茶するかの違いじゃねえか?同じ無茶でも生きるためだってんなら、人間の大陸でゆっくりと少しずつ強くなればいい」
「・・・・・・ん」
簡単には頷けないドワーフの提案に返事をしておく。
たしかに生き急いでいるわけでもない。
亜人の大陸で生き抜くためには強さが必要。でも人間の大陸に行けば、その強さは絶対に必要ではなくなる。
それはまるで、村を出た私の数ヶ月を否定された気分だったからだ。
「だが一つ教えといてやる。おめえさん感情が読めるっつったよな?だったら精々当てられないよう気を付けろよ」
「当てられる?何に?」
私の問いかけにドワーフは真剣な顔をし、傷付いた腕を見せてくる。それは剣で斬られた傷のようで・・・・・・
「人間の底知れない『悪意』に、だ」
それからドワーフの里で一ヶ月お世話になり続け、とうとう亜人の大陸から人間の大陸に移った。
人間の街は向こうと違って建物が多く、耳や尻尾が一切ない温厚そうな人たちで溢れていた。
しかし中にはドワーフの言っていた通り、悪意を持っている人もいる。
「おいおい、お前猫人族の亜人じゃねーのよ?こいつはラッキーだ!あいつらに売れば当分金に困らねえ獲物じゃんかよ!」
「ーーッ!」
ガラの悪い人たちが私を捕まえようとする。
『あいつら』とは奴隷商人の事。
違法にもかかわらず人間、亜人、魔族問わず、売りさばこうとするタチの悪い連中。
ある意味私たちの天敵だ。
「おっと大人しくしとけよ?そうすれば痛くしねえからよ・・・・・・いや、そうだな。多少価値が下がるかもしれねえが、やっぱ少し俺たちのオモチャになってもらうとしようか・・・・・・」
そう言って下衆な笑みを浮かべる奴ら。
だが猫人族は俊敏さがあれば、チンピラ程度を撒くのは容易だった。
そして逃げ切ったその日には、チンピラたちの悔しがった顔をおつまみにお酒を飲むのが習慣となっていた。
性格が悪いと思われるかもしれないが、こうしていると今を生きていると実感する。
幸い地域ごとに亜人の扱いが違うらしく、比較的差別の少なく安全と言われたサザンドへと行き着く。
そこにはドワーフの言っていた通り、他の地域では見ない亜人や魔族までもが移住していた。
そして中でも出入りが最も多いのが冒険者ギルド。簡単に言えば仕事の斡旋所である。
中に入り、正面の受け付けで座っている女性たちが数人。その近くにあるボードから紙を一枚剥がし、受け付けの一人に話しかけた。
「依頼受けに来た」
短くそう言って剥がした紙と、数ヶ月前に冒険者登録した時に貰ったカードを見せると、女の人は亜人の私にも関係なく笑顔で出迎えてくれる。
「Dランクのミーナ様ですね、この依頼を受理しました。ですがお気を付け下さい、この依頼場所の近くには・・・・・・」
途端に女の人の表情が暗くなる。この理由を私は知っている。
「ん、大丈夫。わかってるから」
そう言って振り返り、ギルドから出て依頼のある場所へと向かう。
女の人が心配している理由は、これから向かう場所が終地と呼ばれる荒地の近くだからだ。
終地とは、文字に書いた通り終わった地。
危険な魔物が多く生息し、人が踏み入れば自殺同然となる。
その分、そこの魔物を倒して素材を持ち帰れば、高額で買い取られる事になるだろう。
そう、持ち帰れれば。
実力の高いSランクやSSランクの冒険者ならいざ知らず、私みたいなのが下手な下心だけで足を伸ばせば無駄死して魔物の餌になるだけ。
だから誰もそこに近付かない。
私の今受けた依頼も内容は簡単なものだったのにも関わらず残っていた。多分、終地の近くだったからだろう。だから通常よりも報酬が高かった。
そう、つまり私は目の先にある欲に負けてしまったのだ。
毎日その日稼ぎの生活に、簡単で高額のこの依頼が魅力的に見えてしまった。
その欲が原因で、運命のあの日を迎えた。
「ほっほう、確かに噂通りの上玉な女じゃねえか!」
これで何度目聞いた事だろうか、チンピラの男たちがよく聞くセリフを吐き、依頼に行くための道を阻んできた。
太った男と細身の男、そして身体的な大きさは普通だが、ガッチリとした筋肉を付けた男の三人。
いつものチンピラと変わらない組み合わせなのだが、なぜかこの時は嫌な予感がしていた。
なんせ、正体を誤魔化す作用のあるローブを着ていたにも関わらずバレたのだから。
「偽装だろうが隠蔽だろうが、俺の高レベルの鑑定スキル『見破り』の前じゃ意味がないぜ?」
鑑定スキルの見破り・・・・・・言い方を変えれば、見ようとする人物のある程度の詳細が分かったり、壁の向こう側が見えたりする。
だがそのレベルまで到達するには鑑定スキルを使い続け熟練度を上げる必要がある。
でなければ、ただ名前が表示されたり説明されるだけの便利スキルなのだから。
「流石兄貴、最高ッス!」
細身の男が兄貴と呼んだリーダーの男を褒め称える。
「だろ?伊達に長年使い続けてねえぜ!」
「兄貴、女風呂が覗けるとわかった途端使い始めましたもんね、それ」
太った男が余計な発言をし、無言で殴り飛ばされる。するとその太った男は200はありそうな体重など最初から無かったかのように吹き飛んでしまう。
その光景に私はゾッとした。
太った男が見た目だけで実は軽かった、ならいいが、それだけ男の腕力があるのであれば・・・・・・
そんな馬鹿みたいなやり取りをしてる間に私は逃げようとしたーーが、走り出したところですでに追い付かれていた。
「どうした?そんな驚いた顔をして?俺をそこら辺のチンピラとでも思ったか?残念、これでも俺はレベル120だ」
「ッ!」
レベル120・・・・・・私のレベルは75。数値だけでも明らかに格上だった。
「さぁ、観念しな、奴隷ちゃん♪」
いやらしく笑う男の手が伸びてくる。
諦めるわけにはいかない、そう思った私はせめてもの抵抗に、自分に速さを上げる魔術を掛け、全力でその場から逃げた。
「あっ!逃げやしたぜ兄貴!?」
「チッ、面倒だな・・・・・・行くぞ、てめぇら!」
リーダーらしき男がそう言うと、三人もまた走り出す。
細身の男が詠唱を唱え、自らと他二人に私と同じ魔術をかける。
しかし魔術自体の強さは私の方が上だったようで、走る速さは同等だった。
「クソッ、さすが猫人族ってところか・・・・・・速さだけは一人前だな!」
リーダーの男が皮肉を吐くが、反論する余裕はない。
男の言う通り、自慢の俊敏さを全力で活かして男たちと同レベルなのだから。
段々と自信が失われていく私を他所に、目の前に魔物が現れた。
それは私の腕と同じくらいの胴体をした虫のような魔物で・・・・・・
『『キシャァァァッ!』』
「ッ!?」
十匹はいるであろう数が飛びかかってきた。
その魔物の名前は忘れたが、かなり厄介な魔物だったはず。そしてそれはそこら辺に生息している魔物ではなく、とどのつまりここは・・・・・・この場所はーー
「終・・・・・・地・・・・・・?」
目の前に飛びかかってくる魔物を回避し、ポツリと呟く。
そうだ、今の魔物は終地にしかいない魔物・・・・・・
それは簡単な結論、私たち四人は終地に迷い込んだのだ。
振り返ると目印となる草木も無くなっていて、男たちも魔物に襲われて足を止めていた。
「やべぇ、やべぇよ、兄貴!ここは終地だ!」
「るせぇ!んな事はわかってんだよ!さっさとあのガキを捕まえて帰るぞ!」
リーダーの男の言葉に、魔物を片付けた三人共私の方を見る。
私も止まっている場合じゃない!
焦ってまた前を向く。しかしその先にはまた新たな魔物がいた。
『ギギギギ・・・・・・』
不快な音を出す魔物がいた。
犬の骨に毛が申し訳程度に張り付いたような姿。胸には心臓部であろう丸い球体が剥き出しになっている。
『リビングウルフ』と呼ばれる魔物で、先程の虫よりも厄介・・・・・・いや、危険な奴だ。
そのリビングウルフは私たちを認識すると、口に炎を溜め込み、高温の炎を吐き出した。
私はその炎をギリギリで避け、男たちの元へ向かう。
「うおっ、マジかよ!?デンド!」
男が最後に叫ぶと、太った男が二人の前に出る。デンドというらしい。
するとデンドに炎が直撃した・・・・・・が、ケロッとした様子で佇み、その炎は消された。
「う、そ・・・・・・?」
あの炎を受けて平然としているなんて・・・・・・!?
しかし、今は他人の事を気にしてる場合時じゃない。早く逃げなくてはーー
そう考えた矢先、リビングウルフは私の目の前にいて、大きな口を開けて頭に噛み付いてこようとしていた。
終わった。そう諦めかけた瞬間ーー
ドゴンッ!
遠くで一本の光の柱が立ち、同時に地面に何かの衝撃が走って小さな地震が起こった。
それにびっくりしたのか、リビングウルフは慌てて走り去って行ってしまった。
いや、リビングウルフだけじゃない。この終地には多くの魔物がいるはず。
普通ならこうやって立ち止まっていても、数匹が向こうから襲ってくる・・・・・・にも関わらず、辺りは静まり返っていた。
まるで嵐の前の静けさのように。
後ろにいる男たちも何が起こったのかと呆然とした様子で立ち尽くしていた。
これはチャンス以外の何物でもない。そう考えた私は、さっき見た光の柱が出現した方向へと走り出す。
「あっ、待てちくしょう!」
男たちも我に返って追ってくる。
するとすぐに目の前に私たちとは別の、五人目が現れた。
少し混乱して私たちを見ているその人は人間の男。
そして一目見て理解した。その男は安全だと。
冷たさと優しさを兼ね備えた目をしている。
この人なら頼っても大丈夫だと瞬時に理解した私は、その男に助けを求める事にしたーー
奇跡と言える出会いより二年前、私は猫人族が住む小さな村を出てた。
猫人族は亜人の中では俊敏の部類に入るが、一番早いわけではない。
力では他より劣り、自慢の俊敏さでさえ勝てない相手がいる。それはただでさえ穏便な種族にとって、弱肉強食の亜人大陸の中では致命的だった。
だから私は村を出る事を決意した。両親の反対を押し切り、生き残るための力を求めて。
それから数ヶ月が経った。
亜人大陸にいる数少ない魔物を倒し、縄張り争いをしている比較的実力の近い相手と戦ったりもした。
しかし現実は厳しい。
豹族、虎族、鳥族、蛇族、鬼、エルフ。他にも多大な種族が生きているこの大陸では、私と同等の実力を持った者などいないに等しい。
敗者になった時など、危うく陵辱されるところだった。この時だけは、猫人族の俊敏さに感謝した。
そして疲労により、その俊敏すらなくなってきた頃、実力はあるが温厚な種族のドワーフの里へ辿り着いていた。
その中で少し話すようになったある一人に私の想いを打ち明けると、ある答えが帰ってきた。
「だったら人間の大陸に行けばいいんじゃねえか?」
お茶を飲みながらそう言ったドワーフの言葉に、私は目を見開いて驚いた。
「でも、人間は残酷だと聞いてる」
「まぁな。だけどこの大陸にいるよりは安全だ。血眼になって生存競争してるここよりは、多少ゆっくりはできるだろうよ。普通に暮らしてる奴だっているしな」
ここよりは安全・・・・・・?
首を傾げてドワーフに尋ねる。
「人間の大陸に行けば強くなれる?」
「・・・・・・さぁな」
ドワーフが呆れたように答える。
「どうすれば強くなれるかなんて、俺は知らねえよ。結局は亜人の大陸で無茶するか、人間の大陸で無茶するかの違いじゃねえか?同じ無茶でも生きるためだってんなら、人間の大陸でゆっくりと少しずつ強くなればいい」
「・・・・・・ん」
簡単には頷けないドワーフの提案に返事をしておく。
たしかに生き急いでいるわけでもない。
亜人の大陸で生き抜くためには強さが必要。でも人間の大陸に行けば、その強さは絶対に必要ではなくなる。
それはまるで、村を出た私の数ヶ月を否定された気分だったからだ。
「だが一つ教えといてやる。おめえさん感情が読めるっつったよな?だったら精々当てられないよう気を付けろよ」
「当てられる?何に?」
私の問いかけにドワーフは真剣な顔をし、傷付いた腕を見せてくる。それは剣で斬られた傷のようで・・・・・・
「人間の底知れない『悪意』に、だ」
それからドワーフの里で一ヶ月お世話になり続け、とうとう亜人の大陸から人間の大陸に移った。
人間の街は向こうと違って建物が多く、耳や尻尾が一切ない温厚そうな人たちで溢れていた。
しかし中にはドワーフの言っていた通り、悪意を持っている人もいる。
「おいおい、お前猫人族の亜人じゃねーのよ?こいつはラッキーだ!あいつらに売れば当分金に困らねえ獲物じゃんかよ!」
「ーーッ!」
ガラの悪い人たちが私を捕まえようとする。
『あいつら』とは奴隷商人の事。
違法にもかかわらず人間、亜人、魔族問わず、売りさばこうとするタチの悪い連中。
ある意味私たちの天敵だ。
「おっと大人しくしとけよ?そうすれば痛くしねえからよ・・・・・・いや、そうだな。多少価値が下がるかもしれねえが、やっぱ少し俺たちのオモチャになってもらうとしようか・・・・・・」
そう言って下衆な笑みを浮かべる奴ら。
だが猫人族は俊敏さがあれば、チンピラ程度を撒くのは容易だった。
そして逃げ切ったその日には、チンピラたちの悔しがった顔をおつまみにお酒を飲むのが習慣となっていた。
性格が悪いと思われるかもしれないが、こうしていると今を生きていると実感する。
幸い地域ごとに亜人の扱いが違うらしく、比較的差別の少なく安全と言われたサザンドへと行き着く。
そこにはドワーフの言っていた通り、他の地域では見ない亜人や魔族までもが移住していた。
そして中でも出入りが最も多いのが冒険者ギルド。簡単に言えば仕事の斡旋所である。
中に入り、正面の受け付けで座っている女性たちが数人。その近くにあるボードから紙を一枚剥がし、受け付けの一人に話しかけた。
「依頼受けに来た」
短くそう言って剥がした紙と、数ヶ月前に冒険者登録した時に貰ったカードを見せると、女の人は亜人の私にも関係なく笑顔で出迎えてくれる。
「Dランクのミーナ様ですね、この依頼を受理しました。ですがお気を付け下さい、この依頼場所の近くには・・・・・・」
途端に女の人の表情が暗くなる。この理由を私は知っている。
「ん、大丈夫。わかってるから」
そう言って振り返り、ギルドから出て依頼のある場所へと向かう。
女の人が心配している理由は、これから向かう場所が終地と呼ばれる荒地の近くだからだ。
終地とは、文字に書いた通り終わった地。
危険な魔物が多く生息し、人が踏み入れば自殺同然となる。
その分、そこの魔物を倒して素材を持ち帰れば、高額で買い取られる事になるだろう。
そう、持ち帰れれば。
実力の高いSランクやSSランクの冒険者ならいざ知らず、私みたいなのが下手な下心だけで足を伸ばせば無駄死して魔物の餌になるだけ。
だから誰もそこに近付かない。
私の今受けた依頼も内容は簡単なものだったのにも関わらず残っていた。多分、終地の近くだったからだろう。だから通常よりも報酬が高かった。
そう、つまり私は目の先にある欲に負けてしまったのだ。
毎日その日稼ぎの生活に、簡単で高額のこの依頼が魅力的に見えてしまった。
その欲が原因で、運命のあの日を迎えた。
「ほっほう、確かに噂通りの上玉な女じゃねえか!」
これで何度目聞いた事だろうか、チンピラの男たちがよく聞くセリフを吐き、依頼に行くための道を阻んできた。
太った男と細身の男、そして身体的な大きさは普通だが、ガッチリとした筋肉を付けた男の三人。
いつものチンピラと変わらない組み合わせなのだが、なぜかこの時は嫌な予感がしていた。
なんせ、正体を誤魔化す作用のあるローブを着ていたにも関わらずバレたのだから。
「偽装だろうが隠蔽だろうが、俺の高レベルの鑑定スキル『見破り』の前じゃ意味がないぜ?」
鑑定スキルの見破り・・・・・・言い方を変えれば、見ようとする人物のある程度の詳細が分かったり、壁の向こう側が見えたりする。
だがそのレベルまで到達するには鑑定スキルを使い続け熟練度を上げる必要がある。
でなければ、ただ名前が表示されたり説明されるだけの便利スキルなのだから。
「流石兄貴、最高ッス!」
細身の男が兄貴と呼んだリーダーの男を褒め称える。
「だろ?伊達に長年使い続けてねえぜ!」
「兄貴、女風呂が覗けるとわかった途端使い始めましたもんね、それ」
太った男が余計な発言をし、無言で殴り飛ばされる。するとその太った男は200はありそうな体重など最初から無かったかのように吹き飛んでしまう。
その光景に私はゾッとした。
太った男が見た目だけで実は軽かった、ならいいが、それだけ男の腕力があるのであれば・・・・・・
そんな馬鹿みたいなやり取りをしてる間に私は逃げようとしたーーが、走り出したところですでに追い付かれていた。
「どうした?そんな驚いた顔をして?俺をそこら辺のチンピラとでも思ったか?残念、これでも俺はレベル120だ」
「ッ!」
レベル120・・・・・・私のレベルは75。数値だけでも明らかに格上だった。
「さぁ、観念しな、奴隷ちゃん♪」
いやらしく笑う男の手が伸びてくる。
諦めるわけにはいかない、そう思った私はせめてもの抵抗に、自分に速さを上げる魔術を掛け、全力でその場から逃げた。
「あっ!逃げやしたぜ兄貴!?」
「チッ、面倒だな・・・・・・行くぞ、てめぇら!」
リーダーらしき男がそう言うと、三人もまた走り出す。
細身の男が詠唱を唱え、自らと他二人に私と同じ魔術をかける。
しかし魔術自体の強さは私の方が上だったようで、走る速さは同等だった。
「クソッ、さすが猫人族ってところか・・・・・・速さだけは一人前だな!」
リーダーの男が皮肉を吐くが、反論する余裕はない。
男の言う通り、自慢の俊敏さを全力で活かして男たちと同レベルなのだから。
段々と自信が失われていく私を他所に、目の前に魔物が現れた。
それは私の腕と同じくらいの胴体をした虫のような魔物で・・・・・・
『『キシャァァァッ!』』
「ッ!?」
十匹はいるであろう数が飛びかかってきた。
その魔物の名前は忘れたが、かなり厄介な魔物だったはず。そしてそれはそこら辺に生息している魔物ではなく、とどのつまりここは・・・・・・この場所はーー
「終・・・・・・地・・・・・・?」
目の前に飛びかかってくる魔物を回避し、ポツリと呟く。
そうだ、今の魔物は終地にしかいない魔物・・・・・・
それは簡単な結論、私たち四人は終地に迷い込んだのだ。
振り返ると目印となる草木も無くなっていて、男たちも魔物に襲われて足を止めていた。
「やべぇ、やべぇよ、兄貴!ここは終地だ!」
「るせぇ!んな事はわかってんだよ!さっさとあのガキを捕まえて帰るぞ!」
リーダーの男の言葉に、魔物を片付けた三人共私の方を見る。
私も止まっている場合じゃない!
焦ってまた前を向く。しかしその先にはまた新たな魔物がいた。
『ギギギギ・・・・・・』
不快な音を出す魔物がいた。
犬の骨に毛が申し訳程度に張り付いたような姿。胸には心臓部であろう丸い球体が剥き出しになっている。
『リビングウルフ』と呼ばれる魔物で、先程の虫よりも厄介・・・・・・いや、危険な奴だ。
そのリビングウルフは私たちを認識すると、口に炎を溜め込み、高温の炎を吐き出した。
私はその炎をギリギリで避け、男たちの元へ向かう。
「うおっ、マジかよ!?デンド!」
男が最後に叫ぶと、太った男が二人の前に出る。デンドというらしい。
するとデンドに炎が直撃した・・・・・・が、ケロッとした様子で佇み、その炎は消された。
「う、そ・・・・・・?」
あの炎を受けて平然としているなんて・・・・・・!?
しかし、今は他人の事を気にしてる場合時じゃない。早く逃げなくてはーー
そう考えた矢先、リビングウルフは私の目の前にいて、大きな口を開けて頭に噛み付いてこようとしていた。
終わった。そう諦めかけた瞬間ーー
ドゴンッ!
遠くで一本の光の柱が立ち、同時に地面に何かの衝撃が走って小さな地震が起こった。
それにびっくりしたのか、リビングウルフは慌てて走り去って行ってしまった。
いや、リビングウルフだけじゃない。この終地には多くの魔物がいるはず。
普通ならこうやって立ち止まっていても、数匹が向こうから襲ってくる・・・・・・にも関わらず、辺りは静まり返っていた。
まるで嵐の前の静けさのように。
後ろにいる男たちも何が起こったのかと呆然とした様子で立ち尽くしていた。
これはチャンス以外の何物でもない。そう考えた私は、さっき見た光の柱が出現した方向へと走り出す。
「あっ、待てちくしょう!」
男たちも我に返って追ってくる。
するとすぐに目の前に私たちとは別の、五人目が現れた。
少し混乱して私たちを見ているその人は人間の男。
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連載時、HOT 1位ありがとうございました!
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こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
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