無実の男爵令嬢と無能チートの牢番くん~最強SSRの侯爵令嬢が出るまで過去改変を繰り返し「囚人ガチャ」を引きまくるしかないようです~

鈴林きりん

文字の大きさ
4 / 18

消えた男爵令嬢の行方~アンナ2~

しおりを挟む
「ダメ。途中で近衛兵に掴まった後はまた同じコース。殿下の発言力が強すぎて私じゃどうにもならない。言い訳も釈明もできなくて。泣き叫んで救いを求めても殿下が勝手に話を進めてしまう」

「婚約披露パーティの夜にしか戻れないのが厳しいか。他に協力してもらえそうな相手は?」

 彼女は首を振る。男爵令嬢とは言え平民出。
 育ちもあって気後れして、周りとも距離があったらしい。

「何より私の偽物が現れたという話も不気味です。何が起こっているのでしょう」

 直接は目にしていないらしいので、一度確かめる必要はありそうだ。

「君が居なくても話が進んだ。何かを盛られた以上は計画的だ。誰かが姿を変える祝福でも使っているんじゃないのか?」

「あり得るよね。こんな規格外の祝福もあると知った今となっては、それくらい誰かしらが持っていても全く不思議じゃない。それならいっそ、架空の人物でもでっち上げてやって欲しい。どうして私が巻き込まれなくてはいけないの」

 怒りと憤りを滲ませて彼女は拳を握る。

「実在の誰かにしか変身できないのかもしれないね。そして失敗した場合に泥を被せる者が必要ということで君が選ばれた」

「あぁ、おぞましい。この繰り返しですっかり淡い想いも消し飛んだ。よく考えたら私のことを小馬鹿にするような言動も多くて、とにかく上から目線だったんです。可哀想に可哀想にってね。もう本当に腹が立って逆に闘志が湧いてきました」

 すっかり夢から覚めたようだ。
 気の毒ではあるが最初に会ったときよりよほど力強い。

「その意気だよ。頑張ろう。僕も話を聞いて腹が立ってきた」

「えぇ、とにかく助かる手段を見つけましょう」

 それから相談を重ねた。今晩が過ぎれば明日には断頭台。勝負は夜明けまで。彼女が戻ってくる時間は今の僕の体感時間における最新時点に戻って来るらしかった。これは過去にも経験済み。だから時間は今晩だけしかない。

「いっそその場から逃げるのも手だが、君の偽物が居ると言うのが厳しいね」

「えぇ、お父様にも類が及びますし、何もかも捨てて逃げ出すのは難しいです」

「そうだね。大きく違う動きを取れば、ここに戻れるかもわからない。そうなればやり直しも出来ない」

「試しながらも牢に戻る必要があると言うのが厳しいね。どこまで変えていいものか」

 そこが繰り返しの最も難しい点だ。
 仮に逃亡して、より時間が進めばそれ以上過去へは戻れない。

「侯爵令嬢の下へは行けない?」

「試してるんだけど、誰かしらに途中で止められてしまうの。身分の差ってそれほどのものよ。でも、繰り返しているうちに周りの動きは読めるようになっていると思う」

「薬を飲んだフリをして、どこかで抜け出してみるのは?」

「やってみる。簡単なことなのに、意外と思いつかないものね」

「それは生きるか死ぬかと言うときなら当然だよ」

「とにかくやってみます」

 消えては現れることを繰り返す。
 ただこの祝福による逆行には一つ大きな欠点がある。

「だんだん戻る時間が進んでいるの。これまでよりも余裕がなくなって行ってる」

「祝福の仕様だ。ここに居る僕の時間が進む分だけ、戻れる時間もずれていく」

「それに、あなたの姿がしばらくの間見えなくなる。急に現れるように感じるんだけど、これはどうなっているの?」

「どうも、何らかの制限らしい。恐らく常に『今の僕』の下に戻るようになっている」

 つまり僕の最新時点での祝福を使った直後。
 そこが彼女の戻る時間となる。
 そうでないと僕に記憶の混乱が生じるためだろう。

 これは僕自身にも曖昧にしか説明できない。
 人知を超えた能力であり、全容を把握しているとは言い難かった。

「やり直しにも限界があるということね」

 溜め息を吐きながらも、彼女は諦めずに繰り返す。

「感触として上手く行きそうだった」

 幾度目かのやり直しを経て、そんな希望を覗かせた。
 ただし限界は刻一刻と近づいている。
 自由に身動きが取れなくなった時点で終わりだ。

「身を隠して私の偽物を確認した。部屋の窓から出て大広間に回り込んでね」

 何度も失敗を重ねた上で、ようやく成功しそうな状況に辿り着く。
 周りの人間が同じような動きをする以上、一切の隙が無いとは言えないだろう。

「護衛の不意を突いて侯爵令嬢の近くに飛び込めそうだった。多分それで上手く行くと思う」

「もう少しのところで失敗したの?」

「ううん。あなたともう一度会いたくて」

 その言葉を聞いて、少し体が震える。
 ぞくっと、何か深い部分が揺れるような気持ちだった。

「お礼を言いたかったの。ありがとう」

 僕からしてみれば、彼女の様子は短い間で一気に変わった。
 その印象も、どんどんこちらに対して親密さを感じさせるものになる。
 戸惑って、彼女の眼差しから目を逸らす。

「いや、僕の祝福は女神様から賜ったもので、お礼はその」

「でも女神様があなたを遣わしてくださったから私は救われたのよ。力だけじゃない、ずっとずっと励ましてくれていたわ。もう幾日が経ったでしょう」

「僕からするとまだ一晩経ってないよ」

「もう何回繰り返したかしらね。とても特別な体験だったわ。牢に入れられるたびに、気が付いたらあなたのことばかり考えていたわ。唯一信頼のおける相手だもの」

「えっ」

「あなたほどに頼れる相手も居ないでしょ」

 彼女は悪戯っぽく微笑む。

「それは、君からしたらそうだろうね」

 こちらの体感と彼女の体感した時間はまるで違う。
 彼女にとっては処刑が決まるまで数日が経過しており、それを延々と繰り返したことによって僕と数日おきに顔を合わせていることになるわけだ。

「ねぇ、あなたの名前を教えて」

「シュテファン」

「素敵な名前。ねぇシュテファン、私の名前を呼んでくれない? アンナよ」

「アンナ。とっても美しい君にぴったりの名だね」

 そんな気障な言葉が自然と出て来て、驚いた。

「ありがとう。また、貴方に会いたい。ねぇ、会えないかな」

「僕は牢番だからね。もうずっとここで暮らしてる」

 守る秘密も多いだけに、この仕事を継いで以来、外へ出たこともない。
 冷たく据えた匂いのするこの牢屋で多くの時間を過ごしていた。

「一度も外には出られないの?」

「難しいだろうね。でも、君が助かるならそれだけで十分だよ」

「あぁ。またあなたに会いたい。会いたいよ」

 彼女はとても気が弱っている。
 だから目の前の唯一縋れる相手にぐらついているんだろう。
 こちらもまた彼女に惹かれている。
 初めて出会えた天使のような人。

「アンナ。元気出して。それより今は君が助かることだけ考えて」 

「えぇ。わかってる。生きていれば、いつか会えるよね」

「うん。もちろんだ」

 鉄格子の隙間に手を入れ、彼女と握手を交わす。

「シュテファン。あなたと一緒に明るいお日様の下で会いたい」

「それは、とても素敵な夢だね」

「できるなら、もっともっと素晴らしい夢を見たいわ」

 力強い眼差しで見つめられ、全身に熱が走る。
 指先の感触、汗ばんだ手のひらの心地よさ。
 あぁ、何年ぶりだろう。誰かの温もりに触れたのなんて。
 両親が亡くなってから、もうずっと一人だった。

「僕は君が救われるならそれでいいんだよ」

「それだけじゃ嫌。私はこれまで多くのものを奪われてきたわ。でも、自分で何かを得る努力をもっとすべきだったと思うの。女神様の慈悲に泣いて縋るだけじゃダメだったのよ。そんな愚かな者にはきっと誰も微笑みかけてなどくれない。だから」

 過去へと遡る日々は彼女の精神的な成長を促したらしい。
 牢の中で震えていた幼さはもう消え去っている。

 その眩しさに、僕は。

「さぁ、行っておいで」

 それだけを、ようやく口にする。

「うん。またね」

 僕は返事を返さなかった。
 そして彼女は消えた。
 牢屋の中は空っぽには……ならなかった。

「私がどうして、こんな目に遭わなくてはいけないの」

 牢屋の中ですすり泣くのはアンナではなかった。
 同じ年頃の別の女性である。
 着ている服は粗末なもので、貴族の女性には見えない。

「あの、あなたは誰ですか?」

「え、あなたこそ」

「僕は牢番ですが、何があったのかと。その、話をお聞きしましょうか」

 戸惑いながら、そう申し出た。
 真偽を見抜く祝福を発動させる。

「私、アンナ様という方を殺してなんていません」

 その言葉の衝撃に、僕は凍り付く。
 彼女は真実を示す青色の光をまとっていた。
 心を貫くような絶望に全身が震えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました

菱沼あゆ
ファンタジー
 妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。  残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。  何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。  後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。 (小説家になろうでも掲載しています)

離婚するはずの旦那様を、なぜか看病しています

鍛高譚
恋愛
「結婚とは、貴族の義務。そこに愛など不要――」 そう割り切っていた公爵令嬢アルタイは、王命により辺境伯ベガと契約結婚することに。 お互い深入りしない仮面夫婦として過ごすはずが、ある日ベガが戦地へ赴くことになり、彼はアルタイにこう告げる。 「俺は生きて帰れる自信がない。……だから、お前を自由にしてやりたい」 あっさりと“離婚”を申し出る彼に、アルタイは皮肉めいた笑みを浮かべる。 「では、戦争が終わり、貴方が帰るまで離婚は待ちましょう。   戦地で女でも作ってきてください。そうすれば、心置きなく別れられます」 ――しかし、戦争は長引き、何年も経ったのちにようやく帰還したベガは、深い傷を負っていた。 彼を看病しながら、アルタイは自分の心が変化していることに気づく。 「早く元気になってもらわないと、離婚できませんね?」 「……本当に、離婚したいのか?」 最初は“義務”だったはずの結婚。しかし、夫婦として過ごすうちに、仮面は次第に剥がれていく。 やがて、二人の離婚を巡る噂が王宮を騒がせる中、ベガは決意を固める――。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

転生王女の破滅回避プラン90! ~無自覚人たらし王女、アリスが来るまでに美形側近を溺愛モードにしていました~

とびぃ
ファンタジー
◆「悪役令嬢」の皮をかぶった「ブラック企業耐性MAXの元オーナーパティシエ」が、命を懸けた90日間のRTA(リアルタイムアタック)に挑む! 主人公リリアは、激務で過労死した元オーナーパティシエ(享年29歳)。次に目覚めたのは、乙女ゲームの**「断罪される悪役令嬢」**でした。90日後、ヒロイン・アリスが来訪する日までに、ヒステリックな女王の理不尽な命令で処刑される運命! 「二度と過労死(バッドエンド)は嫌だ!」 死刑執行(激務)から逃れるため、リリアは前世の経営スキルを発動します。彼女の目的は**「破滅回避」と「優雅なスローライフ」。恋愛なんて非効率なものは不要。必要なのは、最高の業務効率と、自らの命を守るための『最強の経営資産』**だけ! ◆美形たちを「最高の業務効率」と「お菓子」で買収! リリアは、絶望と疲弊に沈む攻略対象たちを、冷徹な『経営哲学』で救済します。 • 愚直な騎士団長ジャック:予算不足で士気が崩壊した騎士団を『エナジークッキー』と『現場理解』で再建。「貴女こそが真の主君だ!」と忠誠(独占欲)を捧げる。 • 過労死寸前の宰相ラビ:書類の山を『完璧な事務処理』と『脳疲労回復チョコ』で劇的改善。「貴女の知性は神の領域!」と行政権限(支配欲)を委譲する。 • ミステリアスな情報屋チェシャ猫:「退屈」を嫌う彼を『予測不能な策略』と『日替わり気まぐれスコーン』で餌付け。「君という最高の獲物を独占する!」と影のシナリオライターとなる。 ◆RTA成功の代償は「逃げ場のない溺愛ライフ」? 90日後、最強の布陣でヒロインの告発を論理的に打ち破り、見事RTA成功! リリアは安堵とともに「明日からは優雅なスローライフ!」と宣言しますが、彼らの溺愛は彼女の想像を超えていました。 彼らの忠誠心は、リリアの「自由」を脅かす**狂気的な『独占任務』**へと進化! 「貴女の創作活動は、この国の公務です。24時間私が管理します」 破滅フラグは折ったのに、なぜか最強の美形たちに囲まれ、自由を奪われる新たな**「難易度インフィニティの溺愛ライフ」**が幕を開ける! これは、過労死寸前王女の、甘くて恐ろしい逆ハーレムエピローグ!

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

処理中です...