BL世界に迷い込んだ人、死を賭し風紀を取り締まる(旧:オリジナルBLでよくある設定の世界に迷い込んだ人の話)

とりのようこ

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第1話:私という他者?いや、マジで他人

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 頭が痛い。
 目を開ける前に昨日の一連のことを思い出そうとした。
 昨日、スーツを脱いだ記憶が無い。
 それどころか玄関で靴を脱いだ記憶が無い。
 では、どうしたんだっけ。
 そう、玄関を開けて、そのまま倒れこんだんだ。

 勤めている商社の年末の大忘年会。
 普段から酒を飲むのは大好きだが私生活で飲まずには居られない事があり、ついつい我を忘れ四次会まで突入。
 どの店に行って何をしたのか何を食べたのか、全く思い出せないが、最後に「よし、ここで寝よう!」と叫んで靴を枕に玄関で寝たことだけなぜかハッキリ覚えていた。
 
 ここまでひどく酩酊したのは大学以来だ。
 酔っ払いに言ってもしょうがないが、少しは明日の俺の立場になって考えてほしいもんだ。
 首も頭もズキズキ痛んでいる。
 いくら今日が休みだからってめちゃくちゃだ。
 多分もう、午後になっているんだろうな。

 財布の中身は、果たして残っているだろうか……。
 
 そうすると今日は残高をおろして、それから図書館に本を返さないといけないな。
 借りた「大霊界」「足いっぱい嬉しさいっぱい虫の世界」「ムー書房特選ブック・宇宙人の作った古代文明」「地球の歩き方・アトランティス編」の返却期限は今日までだったはずだ。どれもアタリで面白かった。
 そういえば、一冊ほど会社に持っていってたな。確か「実践!死者の書で学ぶ黄泉がえり」だった。
 会社にも寄らないと駄目か……。
 
 それにたしか冷蔵庫が空っぽだった。高円寺まで歩いて食糧も仕入れないと。
 両親は都内在住なので帰省とは無縁だが、年末に一度は顔を出せと言われていたし、今日ついでに行ってしまうのもいいだろう。

 大分やることが多いな、
 まずは……とりあえず目を開けるか。


 …あれ、なんて高い天井だ?
 視界に拡がる見知らぬ天井。
 驚いて部屋を見渡すとホテルの一室のような空間が広がっていた。

 20畳はあろうかというダブルベッド付きベッドルーム、敷き詰められたペルシャ絨毯。

 覗いてみた隣の部屋はベッドルームと同じほどの広さのリビングルーム。
 重厚なコーナーソファが部屋の中央にしつらえてある。
 (取引先の会社で見た覚えがあるやつに似ている、確かイタリア製だったか)
 その正面に設えられた42型のテレビジョン。
 真っ赤な壁紙には金持ちのマンションにいかにもありそうな小さな抽象画。

 頭痛がひどくなった気がした。

 どれほど酔っ払ったのだろうか。
 眠る前の記憶も取り違えていたらしい。

 しかし取り違えたとして、ここは一体何処なんだ。
 ホテルだとしたら誰と宿泊したんだろうか?
 ベッドとゴミ箱を見たが、情事の痕跡と思えるようなものは無かった。

 他に誰かいるのかと思い起き上がってシャワールームを見に行ったが、シャワールームは無かった。
 ということはここはホテルでもマンションでもないのではないか。
 こんな豪華なホテルやマンションにシャワーが無いことは考えられない。
 一体この部屋はなんだろうか?

 表に出てみると、部屋のドアには「2S 恐川槇尾おそれがわまきお」と書いてある。
 記憶にまるで無い名前だ。
 2Sとは何だろうか。何かの所属を表しているのだろう。
 ここは寮で、そして2Sとは寮の部屋の名前だろうか。歩いて隣の部屋と思しきドアを見に行ったが、そこには3Sと書かれている。更に隣の部屋のドアを見に行くとそこには2Sとある。
 連番でない事から部屋名ではないことが分かる。

 散策をやめて部屋に戻る。
 珍しい名前であるためはっきりと言い切れないが、おそらくこの部屋の持ち主は男だろう。
 俺は名前を知らない男の部屋に昨日泊まったらしい。

 …ふと恐ろしい可能性を感じ、尻を探ったが、なんとも無い。
 まあベッドに乱れた痕跡も何も無いし、見知らぬ男と一夜を明かしたわけではないようだ。

 考えるのはやめて腹ごしらえでもしようと冷蔵庫に向かう。
 見知らぬ人の冷蔵庫だが、ここまで訳が分からないのだから訳の分からないついでにタマゴとパンくらい借りてもいいだろう。
 オムレツでも作ろう。
 家の持ち主が来たら
「昨日のこと覚えて無いんです、てへ、ところであなたも食べますか」
とでも言えばいいだろう。

 台所を探しに廊下に出て、驚いた。
 見知らぬ男がそこに居た。

 しかし、そいつがまるで自分と同じしぐさで驚き、同じしぐさでこちらを指差し、呼びかけるのを見て、それが鏡だと気がついた。

「どういうことだ……」

 鏡に映るのは、若い男。
 俺も若い男だが、鏡に映る姿は更に若い。
 高校生くらいでは無いだろうか?
 すらりと背の高い、精悍な美形。
 柔らかくウェーブした髪質、茶にも見える明るめの髪色だが与える印象にまるで柔弱なものは無く、神話の英雄のような男らしい印象を与える。

「イケメン……」

 本当の俺の顔も自分で言うのは何だがかなり良かったと思う。
 しかしまるで違う顔なのは間違いない。

 俺は寝ている間に整形をされたのか?
 そんな改造人間な出来事があるのか?
 誰が、何のためにそんな事を?

 訳がわからなくなりすぎ、混乱を抑えるためにベッドまで戻り腰掛けた。
 そうしてそのまま眠った。
 混乱のきわみに達し、もう一度眠れば元の自分に戻るかもしれないと考えて眠る事にしたのだ。

 そうして目覚めてからまた鏡を見たが、何も変わりはしない先ほどと同じ顔があった。

 訳の分からない部屋、見知らぬ自分の顔、戻ってこない家主。

 頭が酷く混乱していた。

 状況を探らねば。
 そう思い、机の引き出しを開け、本棚を見た。
 そこにあった目を引くものは教科書だった。

『高校2B数学』

 ふと思い立ち衣装ダンスを開けるとそこには男子用学生服が入っていた。
 ついていた校章には『桜堂学園』とあった。

 どういうことだろうか。
 俺は見知らぬ高校生の部屋に一晩泊まっていたのだろうか?

 部屋の隅のデジタル時計を見やると、月曜日午前12時と表示されている。
 ということは、家主の男子高校生は俺を泊めた後学校に行ったのだろうか?

 校章の着いた制服を部屋に置いて?
 校章のついた制服を2着持っているやつなんて早々いないだろう。

 いや、そんなことをいくら考えてもしょうがない、俺の顔が変わった理由に行き着かない。
 いくら考えるのが怖いからといって、一番大事なことを置いて何を考えても意味が無い。

 そしてふと恐ろしい考えが浮かぶ。
 つと衣装ダンスに手を伸ばして、制服を着てみるとサイズがぴったりだった。
 それから衣装ダンスにあった全ての衣装を試しに着てみた。
 すべてが誂えたようにぴったりだった。
 サイズを見ると、俺が持っているものより全て5cmは大きい。

 ……漫画や小説で良く見かける内容だが、俺は、誰か別人になったのではないだろうか。
 それが、この部屋の持ち主の男子高校生なのでは?

 ……そう考え、酷くショックを受けた。
 俺の今までの人生は何処に行ったんだ?
 大体、そんなことがあり得るのだろうか?

 気になって外に出る事にした。
 本当に高校生になったとして、今日が月曜日なら学校があるはずだ。

 洗面所に飛び込んで最低限の身支度だけすると、教科書がつめてあるカバンを手にして部屋を飛び出した。
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