BL世界に迷い込んだ人、死を賭し風紀を取り締まる(旧:オリジナルBLでよくある設定の世界に迷い込んだ人の話)

とりのようこ

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第28話:Fクラストップ・時任礼治

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「鳥羽…殺す気かサイコ野郎。その足を下ろせ。」

 唸るような低音が再度呼びかける。
 振り返れば廊下に繋がるガラス戸の前に一人の男が立っていた。
 堂々たる体躯に短く刈り込んだ髪、着崩した制服。鋭い据わった三白眼が印象的な精悍な面持ちはとても高校生のものには見えない。
 きつい目を更に鋭く吊り上げて鳥羽というらしい男を見据えている。
 そっちに目をやっている間に、鳥羽がこちら目掛け走り出したのが視界の隅に映ったので慌てて向き直った。
 間合いに入られたら蹴り入れようと構えていると、間合いの少し手前で鳥羽はピタと足を止めた。
 何だと見れば、先ほどと同じようにまたまじまじとこちらの顔を見ている。
 次に全身を上から下までじろじろ、何回も眺め回してくる。
 なんだこいつは、本当に。
 さっぱり行動が読めなくて本当にやりづらい。
 出方を伺うべくこちらも相手を見ていると、鳥羽は突然にふ、と息を吐いて呟いた。
 
「あー、なんか、お前…
 やっぱキモい…。
 …ダルくなってきたから帰るわ、じゃな。」

 言い置いてそのまま、後方に向けて走り出した。
 鳥羽が片手を支点にひらりとフェンスを越えたところで自分が構えたままに固まっていたことに気が付いた。
 
 どうも理解できないことを言われて脳のブレーカーが落ちていたものらしい。
 そんな事を言われたのは生まれて初めてだ。
 先ほど顔が変だとか言っていた時も意味は分からなかったが、『キモい』と来るとは。
 いや、本当に何を表している言葉なんだ。
 間違っても不細工とかの意味ではないと思うが…。 

 しかし相手が去ってしまったのだから問いただす事も出来ない、取り合えず次の行動を起こそうと風紀委員達の方を振り向く。すると生徒会長が校舎のひさしの下の段差に腰掛けこちらをじっと見ていた事に気が付いた。合羽を着たまま片膝を立てて座りこみ、もう片足を段差の上からぶらぶらと振っている。

「何だ、大人しく立ち去っちまったか。」

 自堕落な姿勢のままだるそうに呟く。
 どうやら鳥羽の漏らした謎の言葉は聞こえていなかったようだ。
 もし聞こえてたなら何か嫌味な言及でもしそうな気がする。

「狂犬野郎とFクラストップ、それにお前…バトルが始まったらいい見ものになると思ったんだが…つまんねえな。」
 
 狂犬、とは恐らく言動や行動から見て鳥羽の事を指しているのじゃないだろうか。
 すると後で現れた高校生に見えない男はFクラスの頭なんだな、不良クラスの頭、という事は古風に言えば番長に当たるのか。

 生徒会長はどうやら観戦と洒落込む気だったらしく手にコーラを持っていた。
 どこで入手したんだろうか。自販機は近くにないしそんなものを持っているらしい様子も無かったが。
 ふと目線を生徒会長の足元から少し先の地面にやると、菓子をぶちまけたバックパックがあり、ポテトチップが袋から飛び出してぐちゃぐちゃに潰れて地面の上でマッシュポテトになっていた。その近くにコーラの缶もいくつか散乱している。あそこから盗ったのかもしれない、転がっているものと生徒会長が持っている物は全く同じ銘柄だ。
 生徒会長の癖に適当な事をする奴だな。

 ただ、雨具をつけて騒ぎに近い位置で観戦していたところを見ると、乱闘になったら何かする気はあったのかもしれない。
 
 まあ何にせよ鳥羽が去ってくれたのは助かった。
 殴りかかって来られたら厄介だった。
 動きが変則的で動作が早い上、キレたら歯止めが効かなくなりそうなタイプ、絶対やり合いたくない相手だ。
 すでに頭がずぶぬれで風邪を引きそうだし、これ以上の面倒事は真っ平ごめんだ。
 
 庇の下に入り合羽を脱ぐと風紀委員の一人が駆け寄って来た。

「委員長、最初に鳥羽にやられた生徒の意識が回復しましたが、相当具合が悪そうなので救護班を呼びました。
 様子を見ましたが、腹部に触れると相当辛そうな様子で、骨にヒビが入るか骨折している可能性があります。」

 ヒビ、骨折。であればもう完全に暴力事件と言う事になるな。
 そうなると、風紀が鳥羽を捕まえないとならないのだろうか?あの走っていく様子を見るだに捕まえられる気はとてもしない。
 いや…多分追わなくてもいいか。
 どうせ追っても捕まえられないだろうし、もし山まで逃げられていたら山狩りでもしない限り見つけ出せないだろう。一介の生徒組織にそれをさせるとは考え難い。
 誰もが現場を見ていたわけだから、沙汰さたは本人不在でも下せるだろう。処分が決まった後に暴れるならそれはその時に改めて対処するだけの事だ。

 そんな事を考えているとまた声を掛けられた。

「恐川。」

 声の方へと目をやると、寮の戸口に立っていた高校生に見えない男がこちらを睨むように見据えていた。いつの間にか周りに3、4人風体の良くない生徒が居り、『番長』と同じくこちらを睨みつけている。様子から言って取り巻きだろう。

「ち…てめえが出てきやがったか。」

 そうだ、次はこいつの相手をしなくちゃならない。
 この男と『風紀委員長』はどういう関わりがあるんだ。それが分からないうちにはうかつに対応できない。この男も鳥羽とやらも昴の説明に該当人物が無かったので、どう対処すれば『風紀委員長』らしいのか分からなくて困る。
 ただ普通に考えて、校内警察もどきの『風紀委員長』と『不良の頭』は敵対関係だろうと思われる。
 そして強姦事件を起こしたのがFクラスの連中であるならこの男の手下に当たるわけだから事件の命令を下したのはこいつである可能性があるのだ。
 
「お前か?こんな事件を示唆しさしたのは。」

 距離を取ったまま声を大きくしてただす。

「は?見くびってくれるな。
 こんな糞ダセエ事しねえよ。」

 こちらを睨みつけたまま相手も大声で返してくる。
 
「じゃあ、この事件の首謀者は誰なんだ。」

「知らん。」

「は?知らない?」
 先ほどまで座ったまま気怠げに飲み終わった缶ジュースの頭を指で掴んでぷらぷら手元で振っていた生徒会長が、いきなり大声で会話に割り込んできた。

「はっ、じゃあダセエのはお前じゃねえか。
 お前Fクラスのトップだろ。
 手下に裏切られてそれが誰かもわかんねえって事か?
 偉そうに言う事じゃねえだろ。
 なんだ、Fクラスは下克上まっただなかか。」

 やたら喧嘩腰の挑発的な言葉に対して、番長挌は口を切り結んだまま何も返さない。
 その様子を見ると、生徒会長の指摘は図星か。

「…誰がやったか予測はついてる。始末はこっちでつける。」

 そう言うと番長は雨の中に歩み出た。
 倒れている生徒の間をぬって白黒髪の男の横まで歩み寄る。
 そういえばやつも鳥羽にけり倒されていたが容体はどうなのだろうか。
 先ほどまで鳥羽の足元に居たはずだから、まだ風紀委員は容体を見ていないはずだが。

「気絶した振りはやめろ、起きてるんだろ…。」

 呼び掛けに対しては何の応えも無かったが、番長は雨に打たれたまま白黒髪の男の横から動かない。
 しばらく経って、観念したかのように白黒髪の男はゆっくり上体を起こした。

「…お前には聞きたいことが山ほどある…。今日こそ全部吐いてもらおうか…。」

 白黒髪の男の襟首をしゃがんで掴み、顔を近づけて低い声で脅す。
 かなり距離はあるが、白黒髪の息を飲むような表情は見て取れた。

「おい、待て。」

 そこでまた生徒会長が物言いをつけた。

「おい、時任ときとう。騒ぎが終わった後にようやく出てきたくせに処理だけ身内で済ませようとしてんじゃねえよ。
 そいつは生徒を襲ってんだ、処理すんのは風紀だろ。大人しくこっちに引き渡してもらおうか。制裁だの尋問だのはその後でやれよ。
 何を吐かせたいのかは知らないが、風紀が調書を取ってからにしろ。」

 生徒会長は珍しく風紀側に立った物言いをしている。
 いや、違うか。『学校側』に立っているんだな。
 学校公認組織である生徒会と風紀委員、非公認組織であるFクラス不良組織、刑罰関係で優先されるのは学校側だと言っているだけだな。

「てめぇらの内輪のごたごたなんざ知ったこっちゃねえ。そいつを渡せ。」

「てめえ…。」

 取り巻きの一人の星型のヘアピンを付けた金髪の男が前に出てきた。
 その他の番長の取り巻き達も殺気立った目で会長を見ている。
 俺は彼らがどう出るかを遠巻きに伺っていた。
 それぞれの力関係、それから性質を、できれば自分が絡む前に少しでもいいので知っておきたい。 
「お前ら…いい、やめろ。…分かった、今回はそいつは渡す。」

 あっさりとそう言って、番長はすぐ踵を返した。
 意外だ、確かに理は生徒会長にあるのだが大人しく聞き入れるとは思わなかった。
 引き渡す引き渡さないとかでまたひと悶着起こるかと思っていたが。
 
「おい、待て。」

 踵を返した番長の背中に向かって生徒会長はまた声を掛ける。

「お前、俺達の姿を見て、他に何か言う事はねえのか。」

「あ……?」
 番長は振り返り、解せないと言った顔で俺と生徒会長をじろじろ見る。

「相変わらずの、間抜け面ぞろいだな。」 
 
「人の心がねぇのかお前は。
 てめぇらの不始末だが監督不行き届きだかの始末つけるために合羽でひたすら格闘してたから隙間から水が入って気持ち悪いんだよ。
 ちょっとでも仁義があるならタオルか着替えでも出しやがれ。
 風邪ひいたらどうすんだ。」

「……。」

 番長はこちらに目線を寄越した。どうも俺の頭を見ているようだ。
 まあ、確かに頭はずぶぬれだし寒いのでタオルは欲しい、着替えは要らないが。
 番長はふっとため息のように息を吐くと、「出してやれ」と手下に声を掛けた。

「はい、礼治れいじさん。」
 
 手下の返事を聞くか聞かないかといったところでそのまま校舎へ入っていった。
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