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ア・ヌンナック編
プロローグ、クローヴィス彗星
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2万年前、最後の氷河期であるヴュルム氷期が終わりつつあった。徐々に暖かくなってきたが、地球年代的な傾向であり、その時代に生きていた人々にとっては、暖かい時期、寒い時期が交互に訪れるのであって、間氷期に入ったという意識はなかった。
西暦2025年よりも12,788年前、紀元前10,763年のこと。
バイカル湖はタタール語で「豊かな湖」という意味である。バイカル湖周辺に住んでいたのは、現在のロシアやモンゴル国、中国に住むモンゴル系民族であるブリヤート人と先祖を同じに持っていたと思う。
東方に移動する間に、このブリヤート人の家族は、カムチャツカ半島とチュコート半島に住んでいた先住民族のアリュートル人の家族などと嫁取りや婿取りをして徐々に混血していった。家族の人口も増え、部族を形成していった。
この部族のある支族はまだベーリング海峡が氷結して陸橋であったため、たやすく海峡を渡り、筏や丸太船で海岸伝いに北米大陸に移っていった。彼らは、クローヴィス文化(Clovis culture)と呼ばれる後期氷期の終わりの北米を中心に現われた、独特な樋状剥離が施された尖頭器を特徴とするアメリカ先住民の石器文化を形作っていった。
紀元前10,763年以前には、アジアに残ったこの部族の一部は、ハバロフスクからアムール川の支流のひとつであるウスリー川沿いに南に進んだ。その頃は、間氷期の寒の戻りで、地球平均気温は現代よりも8℃ほど低かった。
ウラジオストックにたどり着いたこの部族は、紀元前10,763年のある日、巨大な火球がはるか北方を西から東に動いているのを見つめていた。轟音を発して彗星の尾のような噴煙を残して、火球は北の空に消えていった。
現代クローヴィス彗星と呼ばれるこの火球は直径が4キロほどもあったろう。6600万年前、恐竜を絶滅させた小惑星の直径が16キロ程もあったと言われるので、それよりも遥かに小さい彗星であったが、十分に地球の生命の大部分を絶滅に追いやる大きさだった。ただし、進入角度が異なったので、大量絶滅は起こらなかった。
アムール川、紀元前10,763年以前
アムール川、あるいは黒龍江は、モンゴル高原東部の現在のロシアと中国との国境にあるシルカ川とアルグン川の合流点から始まり、中流部は中国黒竜江省とロシア極東地方との間の境界となっている。
バイカル湖岸に住んでいたある家族がいた。彼らは、獣を追って、バイカル湖岸からアムール川にそって東に進み、現在のロシアのハバロフスクあたりに移り住んだ。数万年前の話だ。この部族の一部は、ハバロフスクからアムール川の支流のひとつであるウスリー川沿いに南に進んだ。その頃は、間氷期の寒の戻りで、地球平均気温は現代よりも8℃ほど低かった。
日本海は氷結しており、海底でオホーツク海と結ばれた巨大な塩水の氷湖だった。彼らが着いたのはそんな氷結した日本海の沿岸、ウラジオストックあたりだった。
クローヴィス彗星、紀元前10,763年
ウラジオストックにたどり着いたこの部族は、12,785年前のある日、巨大な火球がはるか北方を西から東に動いているのを見つめていた。轟音を発して彗星の尾のような噴煙を残して、火球は北の空に消えていった。
現代クローヴィス彗星と呼ばれるこの火球は直径が4キロほどもあったろう。6600万年前、恐竜を絶滅させた小惑星の直径が16キロ程もあったと言われるので、それよりも遥かに小さい彗星であったが、十分に地球の生命の大部分を絶滅に追いやる大きさだった。
中生代に衝突した小惑星は考え得る最悪の角度(鋭角)で地球に突入したため、大気圏の摩擦で分裂もせず、ひと塊で地球に激突したが、このクローヴィス彗星は北極上空で浅い角度(鈍角)で大気圏に突入した。その突入の入射角は、12度ほどで、大気圏上層部をバウンドしながら進み、その摩擦熱と圧力により数多くの直径数百メートルほどの小片となって、地球に降り注いだ。そのため、中生代に衝突した小惑星がユカタン半島一箇所に爆心を持ったのに較べ、爆心は数十箇所に及び、北米、グリーンランド、ヨーロッパ、北アフリカという広範囲に広がったが、一つ一つの破壊規模は小さくなった。
ある小片、小片と言っても1キロくらいの直径の彗星の破片は、現代のアメリカの五大湖周辺に衝突した。その頃の五大湖は、一つの巨大な氷湖を形成していて、氷河の重みと地殻との摩擦で、底部は数兆トンの真水になっていた。それが氷河によって押し止められていたのだが、彗星の衝突で真水の地底湖が決壊し、数兆トンの湖水が大西洋に一気に流れ込んだ。
巨大な津波が大西洋を渡り、ヨーロッパ、北アフリカを襲った。塩分濃度の非常に低い津波は、数百メートルの高さで地中海に流れ込んだ。
もしも、古代ギリシアの哲学者プラトンが著書『ティマイオス』と『クリティアス』の中で記述した伝説上の島、そこに繁栄したとされる帝国であるアトランティスがあったとしたら、北米大陸の氷湖の決壊によって一瞬の内に海底に沈んだであろう。
北米には、彗星の破片が広範囲に衝突し、ブリヤート人を祖先に持つアメリカ先住民の部族が形作った石器文化をも壊滅させた。
衝突により巻き起こった粉塵は大気をおおい、その頃、現代よりも8℃ほど低かった地球平均気温をさらに7.7℃低下させた。最終氷期のヴュルム氷期と同じ気候が起こったのである。
その状態は十数年続いた。紀元前10,763年から紀元前9,600年頃まで約1,200年間続くヤンガードリアス期の始まりであった。
地球の寒冷化は、彗星の衝突範囲から考えると大西洋沿岸の方が太平洋沿岸よりもひどかった。しかし、太平洋沿岸も少なからず急激に寒冷化した。ウラジオストックあたりに移り住んでいたブリヤート人の混血部族は、寒冷化に押されるようにして南に移っていった。そして、日本列島にたどり着いた。
こうして、後期旧石器時代の文化を持つブリヤート人の混血部族が日本の縄文人の祖先となった。
と、こう『ヤンガードリアス衝突仮説』を元にした急激な地球の寒冷化の原因を『クローヴィス彗星』という天体の衝突として21世紀の科学者たちは説明している。
しかし、誰も『クローヴィス彗星』の存在を証明していない。
『クローヴィス彗星』が天体でなかったらどうだろう?
西暦2025年よりも12,788年前、紀元前10,763年のこと。
バイカル湖はタタール語で「豊かな湖」という意味である。バイカル湖周辺に住んでいたのは、現在のロシアやモンゴル国、中国に住むモンゴル系民族であるブリヤート人と先祖を同じに持っていたと思う。
東方に移動する間に、このブリヤート人の家族は、カムチャツカ半島とチュコート半島に住んでいた先住民族のアリュートル人の家族などと嫁取りや婿取りをして徐々に混血していった。家族の人口も増え、部族を形成していった。
この部族のある支族はまだベーリング海峡が氷結して陸橋であったため、たやすく海峡を渡り、筏や丸太船で海岸伝いに北米大陸に移っていった。彼らは、クローヴィス文化(Clovis culture)と呼ばれる後期氷期の終わりの北米を中心に現われた、独特な樋状剥離が施された尖頭器を特徴とするアメリカ先住民の石器文化を形作っていった。
紀元前10,763年以前には、アジアに残ったこの部族の一部は、ハバロフスクからアムール川の支流のひとつであるウスリー川沿いに南に進んだ。その頃は、間氷期の寒の戻りで、地球平均気温は現代よりも8℃ほど低かった。
ウラジオストックにたどり着いたこの部族は、紀元前10,763年のある日、巨大な火球がはるか北方を西から東に動いているのを見つめていた。轟音を発して彗星の尾のような噴煙を残して、火球は北の空に消えていった。
現代クローヴィス彗星と呼ばれるこの火球は直径が4キロほどもあったろう。6600万年前、恐竜を絶滅させた小惑星の直径が16キロ程もあったと言われるので、それよりも遥かに小さい彗星であったが、十分に地球の生命の大部分を絶滅に追いやる大きさだった。ただし、進入角度が異なったので、大量絶滅は起こらなかった。
アムール川、紀元前10,763年以前
アムール川、あるいは黒龍江は、モンゴル高原東部の現在のロシアと中国との国境にあるシルカ川とアルグン川の合流点から始まり、中流部は中国黒竜江省とロシア極東地方との間の境界となっている。
バイカル湖岸に住んでいたある家族がいた。彼らは、獣を追って、バイカル湖岸からアムール川にそって東に進み、現在のロシアのハバロフスクあたりに移り住んだ。数万年前の話だ。この部族の一部は、ハバロフスクからアムール川の支流のひとつであるウスリー川沿いに南に進んだ。その頃は、間氷期の寒の戻りで、地球平均気温は現代よりも8℃ほど低かった。
日本海は氷結しており、海底でオホーツク海と結ばれた巨大な塩水の氷湖だった。彼らが着いたのはそんな氷結した日本海の沿岸、ウラジオストックあたりだった。
クローヴィス彗星、紀元前10,763年
ウラジオストックにたどり着いたこの部族は、12,785年前のある日、巨大な火球がはるか北方を西から東に動いているのを見つめていた。轟音を発して彗星の尾のような噴煙を残して、火球は北の空に消えていった。
現代クローヴィス彗星と呼ばれるこの火球は直径が4キロほどもあったろう。6600万年前、恐竜を絶滅させた小惑星の直径が16キロ程もあったと言われるので、それよりも遥かに小さい彗星であったが、十分に地球の生命の大部分を絶滅に追いやる大きさだった。
中生代に衝突した小惑星は考え得る最悪の角度(鋭角)で地球に突入したため、大気圏の摩擦で分裂もせず、ひと塊で地球に激突したが、このクローヴィス彗星は北極上空で浅い角度(鈍角)で大気圏に突入した。その突入の入射角は、12度ほどで、大気圏上層部をバウンドしながら進み、その摩擦熱と圧力により数多くの直径数百メートルほどの小片となって、地球に降り注いだ。そのため、中生代に衝突した小惑星がユカタン半島一箇所に爆心を持ったのに較べ、爆心は数十箇所に及び、北米、グリーンランド、ヨーロッパ、北アフリカという広範囲に広がったが、一つ一つの破壊規模は小さくなった。
ある小片、小片と言っても1キロくらいの直径の彗星の破片は、現代のアメリカの五大湖周辺に衝突した。その頃の五大湖は、一つの巨大な氷湖を形成していて、氷河の重みと地殻との摩擦で、底部は数兆トンの真水になっていた。それが氷河によって押し止められていたのだが、彗星の衝突で真水の地底湖が決壊し、数兆トンの湖水が大西洋に一気に流れ込んだ。
巨大な津波が大西洋を渡り、ヨーロッパ、北アフリカを襲った。塩分濃度の非常に低い津波は、数百メートルの高さで地中海に流れ込んだ。
もしも、古代ギリシアの哲学者プラトンが著書『ティマイオス』と『クリティアス』の中で記述した伝説上の島、そこに繁栄したとされる帝国であるアトランティスがあったとしたら、北米大陸の氷湖の決壊によって一瞬の内に海底に沈んだであろう。
北米には、彗星の破片が広範囲に衝突し、ブリヤート人を祖先に持つアメリカ先住民の部族が形作った石器文化をも壊滅させた。
衝突により巻き起こった粉塵は大気をおおい、その頃、現代よりも8℃ほど低かった地球平均気温をさらに7.7℃低下させた。最終氷期のヴュルム氷期と同じ気候が起こったのである。
その状態は十数年続いた。紀元前10,763年から紀元前9,600年頃まで約1,200年間続くヤンガードリアス期の始まりであった。
地球の寒冷化は、彗星の衝突範囲から考えると大西洋沿岸の方が太平洋沿岸よりもひどかった。しかし、太平洋沿岸も少なからず急激に寒冷化した。ウラジオストックあたりに移り住んでいたブリヤート人の混血部族は、寒冷化に押されるようにして南に移っていった。そして、日本列島にたどり着いた。
こうして、後期旧石器時代の文化を持つブリヤート人の混血部族が日本の縄文人の祖先となった。
と、こう『ヤンガードリアス衝突仮説』を元にした急激な地球の寒冷化の原因を『クローヴィス彗星』という天体の衝突として21世紀の科学者たちは説明している。
しかし、誰も『クローヴィス彗星』の存在を証明していない。
『クローヴィス彗星』が天体でなかったらどうだろう?
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