よこはま物語 弐、ヒメたちのエピソード

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ヒメと明彦4、良子・芳芳編

第22話 雅子と明彦

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 私のマンションから飯田橋駅で総武線、中央線で東京に。東海道線がすぐ出るようなので、東海道で横浜に行こう、横浜駅で京浜東北に乗り換えて関内駅に行くよ、と明彦が言う。京都生まれの私には、関東の地理はピンとこない。京都から大阪に行くよりも近いってことよね。1時間、かかるから。神戸から明石ぐらいの感じかしら?

 だけどなあ、この急展開はなに?数ヶ月、部室で顔を見合わせて、やっと告白されたのが昨日。早速、エッチして(自分から誘った節があるのは否めない)、翌朝、彼氏の元カノ探しに横浜へ行く?あれ、パズルのピースが合わない。詳しく話を聞いてないせいだ。そう思うと疑問が湧いてくる。最後に、仲里美姫に会ったのが、この前の日曜日と彼は言ったけど、その時、どうしたの?エッチィしたの?元カノとエッチィして、数日後、美術部の先輩に告白してエッチィするって、そういう男は誠実じゃないでしょ?

 東海道線は空いていた。ボックス席に座る。「ねえ、一点、ハッキリしたいことがある。日曜日に美姫ちゃんに会って、エッチしたの?それで1週間も経たないで私に告って、私ともエッチィした。それは、せーじつじゃないわよね?」

「詳しい話はしてないね。スマン。まず、日曜日にヒメとセックスしてません。大学受験を全部フケた2月から、ぼくらはギクシャクしていて、喧嘩が絶えなかった。ヒメはセックスでつなごうという態度で誤魔化すから、さすがにぼくも怒った。もう一度、立て直して、ちゃんと予備校に通って来年受験するんだ、と説得した。でも、今思えば、どうも去年の秋から冬、ヒメの態度がおかしくなってきたな、という気がする。これから連絡する良子とヒメは特に仲が良かったんだけど、彼女ともギクシャクし始めた。ぼくは受験勉強のストレスかな?と思っていたけど、あの手紙にあるように、ぼくと良子に内緒でボーイフレンドを作っていたのかもしれない。一人じゃないかも。そういう付き合いの影響で、もともと大学行きたくない、ぼくの嫁になる、という主義だったから、突発的に大学受験をフケたのかな?とも思う。良子も受験、全部フケに激怒して、ヒメをビンタしたと言っていた」

「ねえ、明彦。ぜんっぜん関係ない話だけど、昨晩、キミに『何人くらいと経験したのよ?』って聞いたら、『三人。ヒメと雅子も含めて』と答えたけど、もしかして、その三人目というのは、高橋良子さんじゃないんですか?」
「雅子、なぜわかる?」とギョッとしている。図星なんかい?やれやれ。
「女の勘です。『彼女の親しい友達を知らない?』と聞いたら、『一人は、高橋良子さん。もうひとりは坂下優子さん』とキミは答えた。その声のトーンでまずピンときた」
「やれやれ」
「それで、さっきの会話で急にキミは『良子』呼びした。自分じゃ気づいてないだろうけど。それで、ピンピン来ました。つまり、宮部明彦、これからですね、キミは、今付き合っている私、つまり、今カノと一緒に、家出した元カノを探しに行くのに、エッチィした三番目、あれ、違うな?エッチィの順番では私が三番目だね。だから、二番目の女の子に私たちは会いにいくってことだよ。ゲェ~、なんなの、これ?明彦、三角関係だったの?その良子とは今でもエッチィしてるの?私、キミとの付き合いやめるわ。アホらしい!」
「弁解できるか?説明できるか?」
「被告人、自己弁護を許可します!さあ、白状しなさい!」

 東海道線の車内で、京浜東北線の車内で、1975年の夏の初体験の話から、去年の大学の合格発表日の話(え?私が『スケッチブックの女のMasako Komori 』で美姫ちゃんが私に敵愾心を持ってた?信じられない!運命なの?)、部屋探しの話、去年の三月からの半同棲の話、予備校の申込みで4月に良子に会った話、それで美姫が急に言いだして三人でセックスした話、美姫の言う三位一体の話(横浜じゃあ、父と子、父と聖霊、子と聖霊がエッチィするのが流行りなの?)などを白状させた。かなり明彦は話を端折ったけど、だいたい理解できた・・・いや、出来ない。これが三角関係じゃなくて、別の関係ってポイント、理解できない!・・・いや、昨晩『私と明彦がヒメと三人でセックスするとか・・・』って私は言ってたね?あ~、混乱する!

 桜木町という駅を通り過ぎた。去年の夏くらいまでの話が終わったが、多少、これから会う良子という女の子のこともわかった。去年の夏から今年の春までの話は後で聞こう。「明彦、だいたいわかった。アトリエって次の駅で降りるの?」

「そう、次の駅。関内駅だ」
「良子の家の近くの駅は?」
「その次の石川町駅だけど?」
「このまま石川町まで乗っていこう。アトリエ、休めないの?」
「休めなくはないけど・・・」
「じゃあ、石川町駅までこのまま行く。公衆電話からアトリエに電話して、理由はなんでもいいから今日休むと言う。美姫の家に電話して、良子の家の電話番号を聞く。良子に電話して、会う段取りをする。よろしい?でも、なんでエッチィまでした聖霊ちゃんの良子の電話番号を知らないのさ?」
「それはセックスしたけど、あくまでヒメがいたから。ぼくが直接良子に連絡することはないし、ぼくのアパートの電話番号は良子が知っているから」
「ねえ、横浜ではそういう関係、普通なの?」
「いいや、普通じゃないね」

「私が混乱しているの、キミ、わかる?」
「・・・わかります」
「それなら、よろしい。じゃあ、良子に会ったら、私が明彦の付き合っている彼女で・・・昨日の夕方からだけど・・・エッチィもしました、って紹介してね。そうじゃないと、私の立場もよくわかんなくなるじゃない?」
「それはそうする。だって、事実だから」
「あのね、私、こういう、なんていうか、吉田万里子的世界って嫌いなのよ。共依存関係というのは。もちろん、明彦たちの世界は、共依存じゃなさそうだけど。良子に私をそう紹介してもらうのは、明彦は私のものですからねぇ~、って表明じゃない。私の立場的に、明彦の1年先輩です!っていう立場は嫌なの・・・いや、まあ、あなたはわたしのもの、私はあなたの女、って意識が微塵もないってことでもないわね・・・あ~、混乱する」

「雅子、無理に付き合わなくてもいいんだよ。雅子の言う、ヒメが危ない目にあっているかもしれない、という推測に基づくし、単に好きな相手ができて、家出しました、という話になるかもしれない。探し出せても、私の邪魔をしないで!って追い返されるかもしれない。ぼくはそんな大事(おおごと)だとは思わないんだけど、可能性として雅子の推測も考えられるんで、一応、探してみるか、ということ」
「付き合うわよ。キミの大事なヒメだから、彼女を探して『私の邪魔をしないで!』って言われるなら、それでいいじゃないの?それに、キミの聖霊ちゃんの良子と会ってみたい気もするんだ。非常に面白そうな女の子じゃない?」
「・・・まあ、雅子がそう言うなら。でもね、良い子の良子と悪い子の悪子だからね、彼女は」
「その二面性に興味があるのよ。あ!キミが関係を持った女の子と会いたいって趣味悪いって思ったでしょ?思っていいのよ。我ながら趣味悪いと思ってるんだから。良子の前で嫉妬でヒステリーを起こしても許してね」
「やれやれ」
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