よこはま物語 弐、ヒメたちのエピソード

✿モンテ✣クリスト✿

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ヒメと明彦4、良子・芳芳編

第35話 救出

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 高いフェンスのところで、徐さんがバックからワイヤーカッターを取り出した。フェンスの金網をパチンパチンと切っていき、金網を曲げて、人が通れるくらいにした。徐さんは大きなバックをフェンスの側に置くと、小さなバックを持った。エアガンをズボンの後ろにさした。まず、王さんがフェンスの中に入った。私たちもつづく。

 私はファンの背中をつついた。小声で言う。
(なんだ?良子?)
(エアガン、渡して。射撃の腕には自信があるの)
(お前、射撃できるのか?)
(パパとクレーとかライフル射撃に行くもの。命中率はいいのよ)
(呆れたね。まさか馬に乗れるとか?)
(乗馬?ファンは馬に乗れないの?)
(お前にできないことは何だよ?)
(そぉね、何でもできるから、男に敬遠されて、モテないことかな?)
(あ~あ、ほら、エアガン)

 ファンの渡してくれたエアガンを歩きながら点検する。セーフティーは・・・これか。コッキングレバーを引く。これで発射準備オッケーね。撃たないと弾がどれだけお辞儀するかわからないな。あとは、出たとこ勝負。王さんが弾丸は狩猟用の物が装填って言っていたわね。狙いは相手の攻撃能力を削ぐ太ももだな。エアガンといえど、弾丸は肉にめり込む。十分だわ。

 王さんが一番奥の建物のドアの取っ手を回した。もちろん施錠されているようだ。王さんが、徐、と声をかけた。徐さんがバックの中から針金みたいなものがリングに吊り下げられているものを取り出した。ピッキングの道具かしら?

 幅が3メートルくらいの廊下に入った。米軍基準だから、こんな倉庫の廊下の幅も日本の建築物よりも広い。二階に登る階段がある。二回は後だ。右手にトイレがあった。王さんの推測ではトイレの近くだ。トイレの近くの部屋のドアに王さんと徐さんが耳を当てている。吉村刑事が前後左右を見回して警戒している。トイレから4つ目の部屋に来た。王さんが親指をあげる。ここか!

 スライドドアだ。備品倉庫か何かなのだろう。王さんがドアを細めに開けた。覗いている。王さんが私たちの方を向いて、頭の上で手をヒラヒラさせて人差し指から三本指を立てた。手を目の辺りでをヒラヒラさせて人差し指から二本指を立てた。手の平を広げて五本。でかいのが三人で、小さいのが二人って意味だろう。5人、敵が中にいるってことだね。

 王さんが指二本で部屋の中を指す。突入って話ね。さあ、行きましょう。

 王さんがスライドドアを思いっきり引き開けた。王さん、徐さん、吉村刑事の順で中に踏み込んだ。私とファンも続く。さっと部屋内を見回す。左手の一番奥に猿轡をされて手脚を縛られた女性が5人、転がっていた。右手の丸いテーブルに5人、座っていた。軍服を着た米兵が3人。これがでかいのね。小さい東洋系の男が二人。これが台湾マフィアね。ファンが後ろ手で折りたたみのナイフを私に渡す。

 私は手脚を縛られた女性5人に近寄った。いた。美姫だ。彼女に駆け寄る。膝をついた。乱暴された様子はない。Tシャツにジーンズを着ていた。脚の縄、手の縄をファンが渡したナイフで切った。人差し指を口に当てた。シッ!話さないで!良子よ!まず、あなただけ先に逃がすわよ、と耳打ちする。目をまんまるにして美姫は驚く。立ち上がろうとする彼女に、まだ座っていてと肩を押して座らせる。

 振り返ると、ファンが台湾野郎と組み合っていた。一人がファンに殴りかかるのをファンが合気道の技で放り投げてリノリュームの床に叩きつけた。その隙にファンがもう一人に首を掴まれる。私は、床に転がった男の喉仏を踏みつけ踏みにじる。男が喉をおさえてのたうち回る。ファンを掴んでいる男の手を捻り上げた。手を差し上げて、後ろにおもいきり捻じ曲げた。肩が外れる。男は肩をおさえて跪いた。側頭部にエルボーをみまわした。二丁上がり、ですわよ。

 ファン、縄をほどいた子が美姫よ。彼女を明彦のところに連れて行って。すぐ戻ってきてね。戻ったら残りの女性4人の縄を切って、逃がす準備をするのよ、あとは任せて、と言う。怖い女だよ、お前は、とファンがブツブツ言う。

 王さん、徐さんと対峙している軍人はほぼ互角の勝負だ。アメリカ人はボクシングで腕を繰り出していた。アメリカ人が徐さんを多少圧している。吉村刑事は残り一人と組み合っていた。刑事の分が悪い。私はスルスルと吉村の相手の後ろについた。股ががら空きよ。金玉を思いっきり蹴り上げる。金的打ちの良子なんて言われちゃうわ。今日、達夫に続いて二人目だわ。はしたない。男が股をおさえて膝をついた。後は刑事にお任せします。

 王さん、徐さんの方は相手のパンチを避けるのに忙しい。時間があればじっくりやればいいけどね。こっちは女性4人、三井倉庫まで逃さないといけないのよ。ファンが戻ってきて、人質の女性の縄を切り出した。ああ、じれったいわ。

 私は、ズボンの後ろにさしたエアガンを持った。徐さんの相手の左の腿の後ろを狙って撃った。近距離だから弾はおじぎしない。命中。男が片膝をつく。徐さんが蹴りを頭にヒットさせた。コッキングレバーを引いて、次弾を装填、王さんの相手の腿も撃った。米兵が腿を押さえる。その隙をついて、王さんがアッパーカットを相手にみまわした。これで相手は全員戦闘不能かしら?ファンは女性たちの縄を切り終えたようだ。

 王さん、退散のお時間よ、私はファンと一緒に女性を逃がすから、殿(しんがり)お願いね、増援が来るかもしれない、急ぎましょ、と言った。私を見てなにか驚いている。徐さんも吉村さんも私を見ている。私、何か変なことしたかしらね?

 吉村刑事が女性たちのところに行く。尻ポケットから警察バッジをだして彼女らに見せた。神奈川県警の者です。ここは米軍の敷地内ですので、外に出ないと県警は手出しできません。私どものこの女性二人と一緒に外へ逃げてください。300メートルくらい走れば、日本政府の管轄になります。急いで。身を低くして。喋らないで、と彼女たちに指示した。コクコク頷く彼女たち。

 刑事に、吉村さん、台湾の連中、一人は連れて行ったほうがいいんじゃないのかしら?台湾マフィアの関与の証拠に?肩を外した男、連れて行きやすいわよ、手加減しておいたから。ハイ、これ女性たちを縛っていた縄、と吉村さんに縄を渡す。私をそんなにジッと見ないで。私、変なことしてないでしょ?

 女性たちを急き立てて、廊下を走った。フェンスの金網を越えた。ファンが先に低いフェンスを飛び越す。私は、女性たちがフェンスをのり越えるのを手伝った。ファンがフェンスの横で彼女たちを手助けした。ファンを先頭に狭い斜面を渡った。女性4人が後に続く。後ろを振り向くと、吉村さんが台湾野郎をせきたてているのが見えた。出てきた建物のドアからアメリカ兵が出てきた。王さんと徐さんがエアピストルで米兵を撃っている。

 ちょっと私は残った。吉村さんが台湾の尻を押してフェンスを乗り越えさせようとする。台湾が抵抗した。私は台湾の髪の毛を掴んで、大人しくフェンスを乗り越えるんだよ、もう一方の肩も外されたいかい?と囁いた。台湾は諦めた。フェンスを乗り越えた。吉村さん、後は任せましたわよ、とファンたちの後を追った。

 追いついた。人質の女性の最後を走っている人がヨタヨタしていた。彼女の手を私の肩に回した。しっかり、後200メートル頑張れば助かるんだと声をかけた。もうちょっとだ。ファンが倉庫の警備室に駆け込む。女性たちが続いた。ファンがバラクラバ帽を脱いだ。私たちは神奈川県警の者です。彼女たちは誘拐されて、米軍施設に監禁させられていました。今、上司の吉村が参ります。彼女たちをお願いします、と言った。

 倉庫の警備が目を丸くして私たちを見ている。ファンがバラクラバ帽を脱いだんだから、私も、と思って脱いだ。倉庫の警備と女性たちが私をジッと見た。ねえ、私、変なこと、した?

 吉村刑事と台湾が到着した。吉村刑事もバラクラバ帽を脱いだ。警察バッジを警備に見せる。警備室の電話を借りて、県警に電話し始めた。揉めてるわね?可哀想。王さんと徐さんも到着。アメリカ兵は追ってこれない。ここは日本領土だものね。

 いっけない!とファンが言う。何?どうしたの?明彦たちに、30分経ったらズラがれと言ったんだった。もう25分経ってる!と叫んで、東高島貨物駅の方に駆け出した。やれやれ。45分って言っておけばよかったじゃない。ファンも読みが甘いのよ。

 吉村刑事に手を振った。バイバイ、後でね。王さんと徐さんに、さあ、まいりましょうと声をかけた。王さんが、高橋の嬢ちゃん、あんたすごいな、助かったよと言う。あら、何のことかしら?
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