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第1章 尾崎と比嘉編
第5話 身上明細書、2017年11月12日(日)
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女将さんが「美香さんのアーカードは夜毎美女の血をすするドラキュラじゃなくて、雷雨の日に怪物を作り出すフランケンシュタイン博士なのかもね?」とニコニコして美香さんに言う。
美香さんはマンガの『マカロニほうれん荘』のトシちゃん(俺も古いなあ)みたいに口が菱形になって目をまん丸くして女将さんを見ている。美術館でも俺が絵画の説明をしているとこの表情をしていた。本人は気づいていないのだろうか?美人がこういう変顔をするのは面白い。今度ムンクの『叫び』の真似をお願いしてみようか?
美香さんが俺の方を向いて「フランケンシュタイン博士なんですか?私、『ヤング・フランケンシュタイン』のジーン・ワイルダー、好きです。でも、アーカードと違うかな?」「俺、美香さん的にアーカードに似てるのか?」「ハイ、似てます、似てます。でも、あの・・・」
「尾崎さんの国家機密って・・・言えないんですよね?」
「研究テーマ自体は機密でもなんでもない。リチウムイオンキャパシタと言って電気二重層キャパシタの負極材料の炭素系材料、そこにリチウムイオンを添加してエネルギー密度を向上させたものを開発している。そのキャパシタを連結してキャパシタバンクを構成させる。蓄電池の一種だが、電気自動車に使う蓄電池と違うのは、1)3.6GJ、1MWhの大容量を貯めて、2)0.05~0.1秒で放電させ、3)それを連続で100~200回繰り返せる耐久性を持たせて、4)40フィートコンテナに収まるようなコンパクトな大きさにする、という研究だ。
日産のリーフの蓄電池容量が40kWh程度だから25台分だが、電気自動車みたいにトロトロとモーターを動かして200キロ走る、というものじゃない。瞬発力のある電源を開発している。0.05~0.1秒で連続放電させてそれを100~200回繰り返す、という特殊な使い方なのだよ。また、これほどの電流を瞬間的に流そうとすると、回路に逆起電力が発生して回路素子を破壊してしまう恐れがある。だから、逆流防止回路を組む必要がある。
放電される電力は巻コイルを通じてローレンツ力の総和である電磁力を発生させる。高校の物理でフレミングの左手の法則を習ったと思うが、ほら」と俺は左手の親指と人差指、中指を互いに鉛直になるようにして、親指から順番に『運・磁・電』、運動・磁界・電流の方向になる。
この巻コイル2組の間に伝導体を置くとものすごいスピードで射出される。この射出体も問題で、鉄や鉄の合金の金属製射出体では蒸発してプラズマ化してしまうくらいの温度になる。それで耐熱性のあるチタニウム合金を使用するんだが、この組成が難しい。普通の「TiAl」、チタン・アルミニウムの1:1のチタンアルミナイドの組成比では耐熱性は1000℃。これを1250℃くらいに高めたい。それから、射出体の中にGPS装置、慣性誘導機能を持たせた高速射出弾(HVP弾頭)を組み込まないといけない。普通のGPS装置だと融解してしまうからこの装置保護も難しいのだよ」
節子がカウンターから乗り出して、俺の目の前で両手をヒラヒラさせた。「おっさん、おっさん、わけのわかんない理科の授業をするんじゃないの!美香さんの顔をご覧よ。ムンクの『叫び』になってるぜ」
俺は美香さんの顔を見た。本当だ。ムンクの『叫び』のポーズだ。いいよなあ、この変顔。「おいおい、おっさん、もっとわかりやすく説明しないといけないだろ?ここに居る四人の中でおっさんの説明がわかるのは女将さんだけだよ」と言う。
「ええ?女将さん、今の説明がわかるんですか?」と美香さん。
「そうよ、美香さん。女将さんはね、大学の専攻が物理で、院卒なんだよ」と節子。
「天体物理を目指したのよ、私。でも、今はお父さんのあとを継いで居酒屋の女将さんをやっているけどね」女将さんがブリを捌きながら言う。
「女将さんは、私と順子ねえさんに店を任せて空いている時間を大学院に通って、博士課程の論文を書いているのよ」
「へぇ~、へぇ~、へぇ~、言葉が出ない・・・」下町の居酒屋の女将さんが天体物理学者というのは普通なんだろうか?と美香は思った。顔がまた『マカロニほうれん荘』のトシちゃんになっている。
「美香さん、尾崎さんは相手構わず自分のペースで説明するから覚悟しておいたほうがいいわよ」と女将さんが俺を見て言う。俺ってそうなのか?
「あ!だから、ワックに鬼!と呼ばれているのかしら?」
「あら、よく知ってるわね」
「でも、女将さん、美術館で絵画の説明はすごくわかりやすかったんですよ。フーコーの振り子も」
「専門に入るとそうじゃないのかもしれないわ。今ね尾崎くんが説明したのは兵器の原理なのよ」
「え?・・・ああ、防衛省の航空装備研究所勤務ですものね」
「そうそう。私も最初に説明された時面食らったわ。私の専門だと素粒子とかだから、フレミングの左手の法則って言われて思い出したくらい」
「素粒子・・・私にとってそれはそれでわけがわからない世界・・・面白そうですけど。今度女将さん聞かせてください、素粒子の話」
「美香さん、おっさんと同じだよ。女将さんが天文学とか相対性理論とか話しだしたら、尾崎さんと同じで頭の中をはてなマークが飛び交うよ」と節子。
「あら?私は尾崎くんよりもひどくないわ。それでね、今、尾崎くんが説明したのは、電磁砲、レールガンという兵器の原理なの」
「?・・・マンガで『とある科学の超電磁砲』というのがありましたね。でも、あれは超能力開発実験の話し・・・」
「たぶん、マンガの方がわかりやすいかもね」
「あれは・・・指先からコインを射出する話で・・・ああ、なるほど!」
「だからね、そんな最先端の開発中の兵器を扱っているから、秘密取扱者の対象者なのよ。中国や韓国、アメリカだって狙っているかも」
「面白い!つまり、尾崎さんを狙ってスパイが暗躍したりするんですね?それで、私も尾崎さんの交友関係で自衛隊や日本政府に調査されるんだぁ~。ワクワクしちゃう!」
「美香さん、ワクワクしちゃうの?」
「え?ワクワクするのおかしいですか?」
「普通はそういう身辺調査を嫌がる女性の方が多いと思うわ」
「何か、小説の登場人物になったみたいで楽しいです。尾崎さんが脅迫されたり、女スパイに迫られたり、PCから設計図のデータが盗まれたり・・・」
「・・・尾崎くん、美香さん、あなたにお似合いかもしれないわ」
「お似合いかな。まあ、今日会ったばかりだけど、俺にとっては美香さんは一緒にいて楽しいからな」
「尾崎さん、泣いちゃってもいいですか?うれしい」
「今日は何回泣きそうになってるの?あのさ、みんなマスコミのニュースなんかで勘違いしているが、『PCからデータが盗まれたり』して技術情報が漏洩したとしても、中国や北朝鮮、韓国なんかがそれで先端技術品を作れるわけじゃないんだ」
「そうなんですか?設計図とかがあれば簡単に彼らお得意のパクりができそうですけど?」と美香さんが不思議がる。
「これはね、そうだなあ・・・行列のできるラーメン屋とのコラボで、その味をカップラーメンで再現するようなものに似ているんだよ」
「カップラーメン?」
「そう。行列のできるラーメン屋のレシピって再現性が難しい。その店の店長でも、その日の気温、湿度、材料の違いで味が微妙に変わるじゃないか?それをカップラーメンという大量生産品で均一に生産しないといけない。カップラーメンの会社がラーメン屋のレシピ、美香さんの言う設計図のデータが手に入ったとして、その味が再現できるのか?ということ。カップラーメンの会社の工場はラーメン屋の店舗と違う。そこで同じ味を出すというのは、同じレシピ、同じ作り方じゃダメなんだ」
さっき言った射出体も同じことで、最初はラーメン屋と同じ手作りでチタン・アルミニウムの配合を変えて射出体を作ってみる。日によって微妙に違うのを試行錯誤して作り続ける。ラーメンの出汁の昆布・煮干しと豚骨・ゲンコツの配合をいろいろ変えるようなもんだ。それで、偶然に出来ちまうことが多いんだ。
これで配合は突き止めることが出来た。どういう手順で何割とかがわかった。手作りの段階では。それを何千発、何万発と大量生産するには、手作りの手順じゃダメなんだよ。今度は、協力する企業と共同で大量生産するには、いつどのようにチタン・アルミニウムを混ぜるか、最初から混ぜるのか、熱を加えながら徐々に混ぜるのか、という違った試行錯誤をしないといけない。
だから、マスコミが騒ぐようなPCから設計図のデータが盗まれて敵国の手に渡ったとしても、再現ができるとは限らないわけさ。
例えば、俺が敵国に拉致されたとする。美香さんを殺害すると脅迫されてイヤイヤ兵器を作るとする。設計図は敵の手にすでにある。しかし、作ろうとしても、それはカップラーメンの会社がラーメン屋のレシピを手に入れて、開発部門のスタッフが手に入ったようなものにすぎない。同じものを作ろうと知れば、技術部門の技量の同じスタッフが必要だ。協力企業の工場と同じ製造設備が必要だ。材料も日本で手に入る99.999999999%といった高純度の材料が必要だ。これを敵国が準備できるか?と言ったら無理。
「パクリはパクリでしかない、本物は越えられないんだよ。ところが敵国の諜報部門にはそんなことは理解できないのさ。設計図があるのになぜ同じものが出来ないんだ?というのは諜報部門の人間にはわからない。俺が拉致されてもダメなものはダメなんだ」
「うわぁ、すごくよくわかります!行列のできるラーメン屋とカップラーメンの会社!うんうん」と美香さんがまた『マカロニほうれん荘』のトシちゃんの変顔をして感心した。俺、この顔、毎日見ていたいな。
美香さんが「でも、順子さん、自衛隊情報保全隊?そこの身上調査に私通るんでしょうか?」「美香さんは普通の人だから当然通るよ」
「でもですよ、実は私の本名は比嘉(ひが)美香じゃなくて、北朝鮮の女スパイの金美姫とかで、尾崎さんの持っている国家機密をハニートラップで引っ掛けて諜報してたりするかもですよ?」
「美香さん、最近の北朝鮮って、彼氏いない歴=年齢の処女の女性を採用するの?美香さん、ハニートラップの意味、知らないでしょ?」
「アハハ、それもそうですね。ハニートラップってどうするんでしょ?」
「美香さん、『アハハ、それもそうですね。ハニートラップってどうするんでしょ?』って、年上だけど、そんな無邪気な顔でマジで聞かないで」
「想像はつくんですけどね・・・」
順子がカウンターから乗り出して美香さんの顔をジッと見た。「でも、美香さんは心配しなくていいわ。普通のお嬢さんだし、カタギの設計事務所勤務なんだから。セーフですよ。もしも、尾崎さんの付き合う相手が私だったら確実にアウト。なんども警察沙汰になっている、私なんか少年院出所で、未だに経過監察中なんだもん。でも、羨ましいわ」
「え?順子さんが?私を?羨ましいの?」
「もちろん!」
「そうかなあ・・・」
「だって、まっすぐ人生歩いてこれたって、私からすると羨ましいですもん。彼氏いない歴=年齢の人でも羨ましいわ。私なんか、覚醒剤に手を出したり、キメセクしたり、合法JKに売春させたりしていたんです。人の人生を壊しちゃって。少年院に入れられるのももっともなのよ」
「えええ?順子さん、落ち着いているし、そうは見えないけど・・・」
「落ち着いているように見えるのは、適切じゃない早い年齢で人生の通過儀礼を経験しちゃったからだから。美香さんがこれから輝いてくる時期に人生の通過儀礼を経験できる、私や節子みたいに物みたいに処女を捨てることもなく、人生の潤いのある経験がこれからできるのってすごく羨ましいです」
「そうなんだ・・・なんて言ったらいいかわからないけど、ドイツの小説家の書いたもので『鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない』という一節があるの。人生の通過儀礼って、成人する時の時期だけじゃなく、何度も何度も訪れるものなのかもしれない。だから、今日、尾崎さんに出会えたのも一つの私にとっての通過儀礼だったのかも。順子さんもこれから次の通過儀礼が訪れるのかもしれないって・・・」
「『鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない』・・・いい言葉だわ・・・」と順子。
「もちろん、尾崎さんは単なる通過儀礼じゃなくて、これからずっと一緒にいられたらなあって思います」
「すごいなあ、美香さん、彼氏いない歴=年齢の人がサラッとそういうこと言えちゃう。それも本人の前で!」と節子。
「あれ?ダメだった?」
「ダメじゃないけど・・・こら、おっさん、何を沈黙してるの?なんか反応はないのか?」
「いや、ちょっとジーンと来た。俺も『行列のできるラーメン屋とカップラーメンの会社の話、すごくよくわかる』と美香さんが言った時、この顔、毎日見ていたいなと思ったぜ。だって、この美人の美香さんがたまに変顔するのが好きだ。ちょっと目には美人で取り付く島もなさそうなのに、ムンクの『叫び』みたいな表情をしたり、『マカロニほうれん荘』のトシちゃんの菱形の口になったり」
「私、変顔するんですか?」と美香さんに聞かれた。
「うん、する。今もしてる」
「おっさん、それ、惚れてるの?茶化してるの?」
「俺から付き合ってくれ、って申し入れたんだから、惚れているんだろうな」
「美香さんも尾崎さんも不思議ちゃんだねえ・・・」
美香さんはマンガの『マカロニほうれん荘』のトシちゃん(俺も古いなあ)みたいに口が菱形になって目をまん丸くして女将さんを見ている。美術館でも俺が絵画の説明をしているとこの表情をしていた。本人は気づいていないのだろうか?美人がこういう変顔をするのは面白い。今度ムンクの『叫び』の真似をお願いしてみようか?
美香さんが俺の方を向いて「フランケンシュタイン博士なんですか?私、『ヤング・フランケンシュタイン』のジーン・ワイルダー、好きです。でも、アーカードと違うかな?」「俺、美香さん的にアーカードに似てるのか?」「ハイ、似てます、似てます。でも、あの・・・」
「尾崎さんの国家機密って・・・言えないんですよね?」
「研究テーマ自体は機密でもなんでもない。リチウムイオンキャパシタと言って電気二重層キャパシタの負極材料の炭素系材料、そこにリチウムイオンを添加してエネルギー密度を向上させたものを開発している。そのキャパシタを連結してキャパシタバンクを構成させる。蓄電池の一種だが、電気自動車に使う蓄電池と違うのは、1)3.6GJ、1MWhの大容量を貯めて、2)0.05~0.1秒で放電させ、3)それを連続で100~200回繰り返せる耐久性を持たせて、4)40フィートコンテナに収まるようなコンパクトな大きさにする、という研究だ。
日産のリーフの蓄電池容量が40kWh程度だから25台分だが、電気自動車みたいにトロトロとモーターを動かして200キロ走る、というものじゃない。瞬発力のある電源を開発している。0.05~0.1秒で連続放電させてそれを100~200回繰り返す、という特殊な使い方なのだよ。また、これほどの電流を瞬間的に流そうとすると、回路に逆起電力が発生して回路素子を破壊してしまう恐れがある。だから、逆流防止回路を組む必要がある。
放電される電力は巻コイルを通じてローレンツ力の総和である電磁力を発生させる。高校の物理でフレミングの左手の法則を習ったと思うが、ほら」と俺は左手の親指と人差指、中指を互いに鉛直になるようにして、親指から順番に『運・磁・電』、運動・磁界・電流の方向になる。
この巻コイル2組の間に伝導体を置くとものすごいスピードで射出される。この射出体も問題で、鉄や鉄の合金の金属製射出体では蒸発してプラズマ化してしまうくらいの温度になる。それで耐熱性のあるチタニウム合金を使用するんだが、この組成が難しい。普通の「TiAl」、チタン・アルミニウムの1:1のチタンアルミナイドの組成比では耐熱性は1000℃。これを1250℃くらいに高めたい。それから、射出体の中にGPS装置、慣性誘導機能を持たせた高速射出弾(HVP弾頭)を組み込まないといけない。普通のGPS装置だと融解してしまうからこの装置保護も難しいのだよ」
節子がカウンターから乗り出して、俺の目の前で両手をヒラヒラさせた。「おっさん、おっさん、わけのわかんない理科の授業をするんじゃないの!美香さんの顔をご覧よ。ムンクの『叫び』になってるぜ」
俺は美香さんの顔を見た。本当だ。ムンクの『叫び』のポーズだ。いいよなあ、この変顔。「おいおい、おっさん、もっとわかりやすく説明しないといけないだろ?ここに居る四人の中でおっさんの説明がわかるのは女将さんだけだよ」と言う。
「ええ?女将さん、今の説明がわかるんですか?」と美香さん。
「そうよ、美香さん。女将さんはね、大学の専攻が物理で、院卒なんだよ」と節子。
「天体物理を目指したのよ、私。でも、今はお父さんのあとを継いで居酒屋の女将さんをやっているけどね」女将さんがブリを捌きながら言う。
「女将さんは、私と順子ねえさんに店を任せて空いている時間を大学院に通って、博士課程の論文を書いているのよ」
「へぇ~、へぇ~、へぇ~、言葉が出ない・・・」下町の居酒屋の女将さんが天体物理学者というのは普通なんだろうか?と美香は思った。顔がまた『マカロニほうれん荘』のトシちゃんになっている。
「美香さん、尾崎さんは相手構わず自分のペースで説明するから覚悟しておいたほうがいいわよ」と女将さんが俺を見て言う。俺ってそうなのか?
「あ!だから、ワックに鬼!と呼ばれているのかしら?」
「あら、よく知ってるわね」
「でも、女将さん、美術館で絵画の説明はすごくわかりやすかったんですよ。フーコーの振り子も」
「専門に入るとそうじゃないのかもしれないわ。今ね尾崎くんが説明したのは兵器の原理なのよ」
「え?・・・ああ、防衛省の航空装備研究所勤務ですものね」
「そうそう。私も最初に説明された時面食らったわ。私の専門だと素粒子とかだから、フレミングの左手の法則って言われて思い出したくらい」
「素粒子・・・私にとってそれはそれでわけがわからない世界・・・面白そうですけど。今度女将さん聞かせてください、素粒子の話」
「美香さん、おっさんと同じだよ。女将さんが天文学とか相対性理論とか話しだしたら、尾崎さんと同じで頭の中をはてなマークが飛び交うよ」と節子。
「あら?私は尾崎くんよりもひどくないわ。それでね、今、尾崎くんが説明したのは、電磁砲、レールガンという兵器の原理なの」
「?・・・マンガで『とある科学の超電磁砲』というのがありましたね。でも、あれは超能力開発実験の話し・・・」
「たぶん、マンガの方がわかりやすいかもね」
「あれは・・・指先からコインを射出する話で・・・ああ、なるほど!」
「だからね、そんな最先端の開発中の兵器を扱っているから、秘密取扱者の対象者なのよ。中国や韓国、アメリカだって狙っているかも」
「面白い!つまり、尾崎さんを狙ってスパイが暗躍したりするんですね?それで、私も尾崎さんの交友関係で自衛隊や日本政府に調査されるんだぁ~。ワクワクしちゃう!」
「美香さん、ワクワクしちゃうの?」
「え?ワクワクするのおかしいですか?」
「普通はそういう身辺調査を嫌がる女性の方が多いと思うわ」
「何か、小説の登場人物になったみたいで楽しいです。尾崎さんが脅迫されたり、女スパイに迫られたり、PCから設計図のデータが盗まれたり・・・」
「・・・尾崎くん、美香さん、あなたにお似合いかもしれないわ」
「お似合いかな。まあ、今日会ったばかりだけど、俺にとっては美香さんは一緒にいて楽しいからな」
「尾崎さん、泣いちゃってもいいですか?うれしい」
「今日は何回泣きそうになってるの?あのさ、みんなマスコミのニュースなんかで勘違いしているが、『PCからデータが盗まれたり』して技術情報が漏洩したとしても、中国や北朝鮮、韓国なんかがそれで先端技術品を作れるわけじゃないんだ」
「そうなんですか?設計図とかがあれば簡単に彼らお得意のパクりができそうですけど?」と美香さんが不思議がる。
「これはね、そうだなあ・・・行列のできるラーメン屋とのコラボで、その味をカップラーメンで再現するようなものに似ているんだよ」
「カップラーメン?」
「そう。行列のできるラーメン屋のレシピって再現性が難しい。その店の店長でも、その日の気温、湿度、材料の違いで味が微妙に変わるじゃないか?それをカップラーメンという大量生産品で均一に生産しないといけない。カップラーメンの会社がラーメン屋のレシピ、美香さんの言う設計図のデータが手に入ったとして、その味が再現できるのか?ということ。カップラーメンの会社の工場はラーメン屋の店舗と違う。そこで同じ味を出すというのは、同じレシピ、同じ作り方じゃダメなんだ」
さっき言った射出体も同じことで、最初はラーメン屋と同じ手作りでチタン・アルミニウムの配合を変えて射出体を作ってみる。日によって微妙に違うのを試行錯誤して作り続ける。ラーメンの出汁の昆布・煮干しと豚骨・ゲンコツの配合をいろいろ変えるようなもんだ。それで、偶然に出来ちまうことが多いんだ。
これで配合は突き止めることが出来た。どういう手順で何割とかがわかった。手作りの段階では。それを何千発、何万発と大量生産するには、手作りの手順じゃダメなんだよ。今度は、協力する企業と共同で大量生産するには、いつどのようにチタン・アルミニウムを混ぜるか、最初から混ぜるのか、熱を加えながら徐々に混ぜるのか、という違った試行錯誤をしないといけない。
だから、マスコミが騒ぐようなPCから設計図のデータが盗まれて敵国の手に渡ったとしても、再現ができるとは限らないわけさ。
例えば、俺が敵国に拉致されたとする。美香さんを殺害すると脅迫されてイヤイヤ兵器を作るとする。設計図は敵の手にすでにある。しかし、作ろうとしても、それはカップラーメンの会社がラーメン屋のレシピを手に入れて、開発部門のスタッフが手に入ったようなものにすぎない。同じものを作ろうと知れば、技術部門の技量の同じスタッフが必要だ。協力企業の工場と同じ製造設備が必要だ。材料も日本で手に入る99.999999999%といった高純度の材料が必要だ。これを敵国が準備できるか?と言ったら無理。
「パクリはパクリでしかない、本物は越えられないんだよ。ところが敵国の諜報部門にはそんなことは理解できないのさ。設計図があるのになぜ同じものが出来ないんだ?というのは諜報部門の人間にはわからない。俺が拉致されてもダメなものはダメなんだ」
「うわぁ、すごくよくわかります!行列のできるラーメン屋とカップラーメンの会社!うんうん」と美香さんがまた『マカロニほうれん荘』のトシちゃんの変顔をして感心した。俺、この顔、毎日見ていたいな。
美香さんが「でも、順子さん、自衛隊情報保全隊?そこの身上調査に私通るんでしょうか?」「美香さんは普通の人だから当然通るよ」
「でもですよ、実は私の本名は比嘉(ひが)美香じゃなくて、北朝鮮の女スパイの金美姫とかで、尾崎さんの持っている国家機密をハニートラップで引っ掛けて諜報してたりするかもですよ?」
「美香さん、最近の北朝鮮って、彼氏いない歴=年齢の処女の女性を採用するの?美香さん、ハニートラップの意味、知らないでしょ?」
「アハハ、それもそうですね。ハニートラップってどうするんでしょ?」
「美香さん、『アハハ、それもそうですね。ハニートラップってどうするんでしょ?』って、年上だけど、そんな無邪気な顔でマジで聞かないで」
「想像はつくんですけどね・・・」
順子がカウンターから乗り出して美香さんの顔をジッと見た。「でも、美香さんは心配しなくていいわ。普通のお嬢さんだし、カタギの設計事務所勤務なんだから。セーフですよ。もしも、尾崎さんの付き合う相手が私だったら確実にアウト。なんども警察沙汰になっている、私なんか少年院出所で、未だに経過監察中なんだもん。でも、羨ましいわ」
「え?順子さんが?私を?羨ましいの?」
「もちろん!」
「そうかなあ・・・」
「だって、まっすぐ人生歩いてこれたって、私からすると羨ましいですもん。彼氏いない歴=年齢の人でも羨ましいわ。私なんか、覚醒剤に手を出したり、キメセクしたり、合法JKに売春させたりしていたんです。人の人生を壊しちゃって。少年院に入れられるのももっともなのよ」
「えええ?順子さん、落ち着いているし、そうは見えないけど・・・」
「落ち着いているように見えるのは、適切じゃない早い年齢で人生の通過儀礼を経験しちゃったからだから。美香さんがこれから輝いてくる時期に人生の通過儀礼を経験できる、私や節子みたいに物みたいに処女を捨てることもなく、人生の潤いのある経験がこれからできるのってすごく羨ましいです」
「そうなんだ・・・なんて言ったらいいかわからないけど、ドイツの小説家の書いたもので『鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない』という一節があるの。人生の通過儀礼って、成人する時の時期だけじゃなく、何度も何度も訪れるものなのかもしれない。だから、今日、尾崎さんに出会えたのも一つの私にとっての通過儀礼だったのかも。順子さんもこれから次の通過儀礼が訪れるのかもしれないって・・・」
「『鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない』・・・いい言葉だわ・・・」と順子。
「もちろん、尾崎さんは単なる通過儀礼じゃなくて、これからずっと一緒にいられたらなあって思います」
「すごいなあ、美香さん、彼氏いない歴=年齢の人がサラッとそういうこと言えちゃう。それも本人の前で!」と節子。
「あれ?ダメだった?」
「ダメじゃないけど・・・こら、おっさん、何を沈黙してるの?なんか反応はないのか?」
「いや、ちょっとジーンと来た。俺も『行列のできるラーメン屋とカップラーメンの会社の話、すごくよくわかる』と美香さんが言った時、この顔、毎日見ていたいなと思ったぜ。だって、この美人の美香さんがたまに変顔するのが好きだ。ちょっと目には美人で取り付く島もなさそうなのに、ムンクの『叫び』みたいな表情をしたり、『マカロニほうれん荘』のトシちゃんの菱形の口になったり」
「私、変顔するんですか?」と美香さんに聞かれた。
「うん、する。今もしてる」
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