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第1章 尾崎と比嘉編
第7話 三國優子、2017年11月14日(火)
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一体何時間立ちっぱなしだったんだろう?
昨日月曜日の08:40に東京駅の社のロッカーで制服に着替え出社して、ワゴンの準備をした。09:30ののぞみに乗車。私はシニアパーサーだが、今日はワゴンサービスに回った。3人1組の乗務。クルー・マネージャーは智子にやってもらった。クルー・マネージャーと聞こえはいいが、車内のトイレの掃除、お客様の忘れ物の確認、不審物・不審者のチェック、お客様への対応、ワゴンサービスの補充などの手伝いなどで忙しい。私は接客ができてお客様と会話のできるワゴンサービスの方が好きだ。
昨日の乗務は、09:30→12:00ののぞみ21号で東京-新大阪。15:09→17:36ののぞみ30号で新大阪-東京。20:00→22:27ののぞみ109号で再び東京-新大阪。新大阪では社の指定旅館で1泊。そして、今日はぐずる智子を04:00に叩き起こして旅館を出て、05:00新大阪に出社。06:00の始発のぞみ200号で東京へ。東京駅着08:23だった。東京駅で引き継ぎ、次の業務確認をして09:30に勤務終了。翌日朝までオフ。乗務する車輌はずれてくるがだいたいこの予定で週3回ローテされて、1日オフだ。もちろん日曜日が休みとは限らない。
私や智子は大卒でJR小会社の正社員だから月給は17~18万円ほど。まだ恵まれているが、一緒にチームを組んでいる由紀恵は派遣会社所属。月14~15万円程度にしかならない。ハッキリ言って薄給でブラックな仕事なのだ。最初の1年で半数は止めていく。私と智子は入社から4年目。もうこれでベテラン組扱いされてしまうのだ。
女性ばかりの職場で、やっていることはキャビンアテンダントや看護師の仕事と似ている。ようするに体育会系のサークルみたいなもの。上下の関係に厳しく自分に優しく人に厳しく、お局様ごとの派閥がある。30才を超えたパーサーはお局様なのだ。
こんな収入だから一人住まいなど望めない。私は智子と大井町の2DKのアパートをシェアしている。それから会社に内緒でバイトも。
同僚や先輩の中には水商売に走る人もいる。智子もそうだ。彼女は恵比寿駅近くのガールズバーで働いている。営業時間が早い店なので、新幹線の今日みたいな朝勤の場合、昼から仮眠して夕方にバーに出ていく。私も勧められたが私のスタイルじゃないと断った。智子は男好きのする容姿と性格だ。私はオフの夜まで接客業で笑顔を振りまく気はサラサラない。
私の副業は不定期な企業コンサル会社のお手伝い程度。英文翻訳やら録音データからの文字起こし、コンサルさんの書類や雑誌記事の代筆などをしていて、そこそこ月に十万円ほどになるのだ。
智子は心配だ。次の日に新幹線の始発便勤務が入っているような時、午前0時に部屋にへべれけで帰ってくることが有る。朝無理やり起こすが、目の下に隈ができ顔色は土気色になっている。なんとか手伝って化粧で誤魔化すが、先輩のお局様たちに何を言われるかわかったものじゃない。
朝になっても帰ってこないこともある。彼女は出先から直接出社する。私の勘だけど枕営業をしてるんじゃないか?と疑っている。彼女に言わせたら自由恋愛と言うだろうが。そういう時の週はやけに羽振りが良い。よしなというのだけれど食事代をすべて出そうとしたり。高価な服やバッグを買ってしまう。二ヶ月前に本命の彼氏に振られてから朝帰りが増えた。
私と智子は25才になった。ダラダラと卒業以来四年過ごしてしまった。
私はホテルのコンシェルジュかソムリエの職に転職したいと思っている。検定試験はまだ合格していないが。同じ接客業でもパーサーよりはマシだろう。もちろんパーサーの職が嫌いというわけではない。この仕事をしていて、いつの間にか鉄道オタクになってしまった。1日中列車に乗れる職業など女性の場合あまりない。でも、車掌は嫌だな。
智子にもコンシェルジュとソムリエの話をしたが興味がなかった。
最近彼女が専念しているのは婚活なのだ。乗車勤務がオフでガールズバーの仕事がない時は必ず婚活パーティーに参加している。「優子も婚活したら?このまま年をとっていって望みもないでしょ?それよりも条件のいい男性と結婚して養ってもらうのが一番。もうアラサーなんだから売り時を逃しちゃうわよ」と言う。
私はと言えば結婚願望がないとは言わないが、婚活パーティーに行って品評会みたいに選別されることに耐えられない。
彼女は必ずパーティーで男性をゲットする。確かに容姿端麗で多少派手だが彼女はかなりの美人の部類に入るのだ。でも、知り合った男性とデートして部屋に帰ってくると私に今日の相手の愚痴をこぼす。私は聞きたくないのだけど。
「今日デートした男ってさ、食事の予約をしてないのよ。仕事の接待だったら普通するよね?」
「私の名前を覚えてないのよ。覚えてないどころか別の名前で呼ぶんだよ?失礼しちゃう」
「今日の食事、割り勘よ!あっちが誘って予約したのに割り勘にしましょう、だってさ」
「今日のヤツ、自分のことばかり話していて退屈だったわ」
「デートしてから1日何本もLINEしてくるのよ!今どこ?とか何してる?とか。それで既読がつかないと怒りだすのよ。やってらんない」
「食事中、何度も携帯に着信が来るのよ。着信、切っておくのがマナーでしょ?」
「いいな、と思って1回寝たらもう自分の女扱いで、こっちは下僕みたいになってる」
「ブ男だけどいいところの出なのよ、でも、態度が上から目線過ぎるんだなあ・・・」
「シャツの襟の裏が汚かった」
「体臭がキツイの」
「時間にルーズなのよ」
私が、その愚痴の中で智子にも同じことが当てはまるじゃないの?相手のあら捜しばかりしていたら、付き合えた相手でも付き合えなくなるわ、と言うと「優子は私の味方になってくれない!」と泣き出すのだ。それでお酒を飲みだす。私も付き合わされる。
「智子は相手に求めることが多過ぎるのよ。じゃあ、相手の立場になったらどう?もしも、理想的な男性と知り合ったら、その男性が感じる智子の魅力って何なの?」と聞いてみる。すると、彼女はしばらく黙り込んだ後、突然また涙を流し始める。
「分かんないよ」と一言。彼女は泣きながら「婚活はゴールが見えない。いくら頑張っても成果は見えない。このまま私はずっと独身なの? と思ってしまう」と。
自分が頑張っているのに、なかなか結果が見えなくて、自信がなくなってしまった裏返しの愚痴だったのかな。パーサーの仕事ではバリバリとしっかりやっているんだけど。後輩の面倒見もいいんだけどなあ。
智子はちょっとだけ必要以上に依存心と所有欲が強いんだろう。だったら、自分も同じように依存させて所有させれば良いのだけれどそれは嫌なのだ。自分自身は共有されたくないのだ。
私も智子もレズじゃない。でも、そういう愚痴を言って泣き出す夜は決まって私の部屋に忍んできて私の体を求める。長い付き合いで無下にも断れなかったので1回許したら、その後はたびたび私の部屋に来るのだ。私も性欲がないわけじゃないので、智子に付き合うけど、男とうまくいかないからって、女の私の体に慰めを求めるのもどうなんだろう?
・・・このまま、二人とも、相手を見つけられずに、お互いの体に慰めを見出す、という未来は・・・嫌だなあ・・・
昨日月曜日の08:40に東京駅の社のロッカーで制服に着替え出社して、ワゴンの準備をした。09:30ののぞみに乗車。私はシニアパーサーだが、今日はワゴンサービスに回った。3人1組の乗務。クルー・マネージャーは智子にやってもらった。クルー・マネージャーと聞こえはいいが、車内のトイレの掃除、お客様の忘れ物の確認、不審物・不審者のチェック、お客様への対応、ワゴンサービスの補充などの手伝いなどで忙しい。私は接客ができてお客様と会話のできるワゴンサービスの方が好きだ。
昨日の乗務は、09:30→12:00ののぞみ21号で東京-新大阪。15:09→17:36ののぞみ30号で新大阪-東京。20:00→22:27ののぞみ109号で再び東京-新大阪。新大阪では社の指定旅館で1泊。そして、今日はぐずる智子を04:00に叩き起こして旅館を出て、05:00新大阪に出社。06:00の始発のぞみ200号で東京へ。東京駅着08:23だった。東京駅で引き継ぎ、次の業務確認をして09:30に勤務終了。翌日朝までオフ。乗務する車輌はずれてくるがだいたいこの予定で週3回ローテされて、1日オフだ。もちろん日曜日が休みとは限らない。
私や智子は大卒でJR小会社の正社員だから月給は17~18万円ほど。まだ恵まれているが、一緒にチームを組んでいる由紀恵は派遣会社所属。月14~15万円程度にしかならない。ハッキリ言って薄給でブラックな仕事なのだ。最初の1年で半数は止めていく。私と智子は入社から4年目。もうこれでベテラン組扱いされてしまうのだ。
女性ばかりの職場で、やっていることはキャビンアテンダントや看護師の仕事と似ている。ようするに体育会系のサークルみたいなもの。上下の関係に厳しく自分に優しく人に厳しく、お局様ごとの派閥がある。30才を超えたパーサーはお局様なのだ。
こんな収入だから一人住まいなど望めない。私は智子と大井町の2DKのアパートをシェアしている。それから会社に内緒でバイトも。
同僚や先輩の中には水商売に走る人もいる。智子もそうだ。彼女は恵比寿駅近くのガールズバーで働いている。営業時間が早い店なので、新幹線の今日みたいな朝勤の場合、昼から仮眠して夕方にバーに出ていく。私も勧められたが私のスタイルじゃないと断った。智子は男好きのする容姿と性格だ。私はオフの夜まで接客業で笑顔を振りまく気はサラサラない。
私の副業は不定期な企業コンサル会社のお手伝い程度。英文翻訳やら録音データからの文字起こし、コンサルさんの書類や雑誌記事の代筆などをしていて、そこそこ月に十万円ほどになるのだ。
智子は心配だ。次の日に新幹線の始発便勤務が入っているような時、午前0時に部屋にへべれけで帰ってくることが有る。朝無理やり起こすが、目の下に隈ができ顔色は土気色になっている。なんとか手伝って化粧で誤魔化すが、先輩のお局様たちに何を言われるかわかったものじゃない。
朝になっても帰ってこないこともある。彼女は出先から直接出社する。私の勘だけど枕営業をしてるんじゃないか?と疑っている。彼女に言わせたら自由恋愛と言うだろうが。そういう時の週はやけに羽振りが良い。よしなというのだけれど食事代をすべて出そうとしたり。高価な服やバッグを買ってしまう。二ヶ月前に本命の彼氏に振られてから朝帰りが増えた。
私と智子は25才になった。ダラダラと卒業以来四年過ごしてしまった。
私はホテルのコンシェルジュかソムリエの職に転職したいと思っている。検定試験はまだ合格していないが。同じ接客業でもパーサーよりはマシだろう。もちろんパーサーの職が嫌いというわけではない。この仕事をしていて、いつの間にか鉄道オタクになってしまった。1日中列車に乗れる職業など女性の場合あまりない。でも、車掌は嫌だな。
智子にもコンシェルジュとソムリエの話をしたが興味がなかった。
最近彼女が専念しているのは婚活なのだ。乗車勤務がオフでガールズバーの仕事がない時は必ず婚活パーティーに参加している。「優子も婚活したら?このまま年をとっていって望みもないでしょ?それよりも条件のいい男性と結婚して養ってもらうのが一番。もうアラサーなんだから売り時を逃しちゃうわよ」と言う。
私はと言えば結婚願望がないとは言わないが、婚活パーティーに行って品評会みたいに選別されることに耐えられない。
彼女は必ずパーティーで男性をゲットする。確かに容姿端麗で多少派手だが彼女はかなりの美人の部類に入るのだ。でも、知り合った男性とデートして部屋に帰ってくると私に今日の相手の愚痴をこぼす。私は聞きたくないのだけど。
「今日デートした男ってさ、食事の予約をしてないのよ。仕事の接待だったら普通するよね?」
「私の名前を覚えてないのよ。覚えてないどころか別の名前で呼ぶんだよ?失礼しちゃう」
「今日の食事、割り勘よ!あっちが誘って予約したのに割り勘にしましょう、だってさ」
「今日のヤツ、自分のことばかり話していて退屈だったわ」
「デートしてから1日何本もLINEしてくるのよ!今どこ?とか何してる?とか。それで既読がつかないと怒りだすのよ。やってらんない」
「食事中、何度も携帯に着信が来るのよ。着信、切っておくのがマナーでしょ?」
「いいな、と思って1回寝たらもう自分の女扱いで、こっちは下僕みたいになってる」
「ブ男だけどいいところの出なのよ、でも、態度が上から目線過ぎるんだなあ・・・」
「シャツの襟の裏が汚かった」
「体臭がキツイの」
「時間にルーズなのよ」
私が、その愚痴の中で智子にも同じことが当てはまるじゃないの?相手のあら捜しばかりしていたら、付き合えた相手でも付き合えなくなるわ、と言うと「優子は私の味方になってくれない!」と泣き出すのだ。それでお酒を飲みだす。私も付き合わされる。
「智子は相手に求めることが多過ぎるのよ。じゃあ、相手の立場になったらどう?もしも、理想的な男性と知り合ったら、その男性が感じる智子の魅力って何なの?」と聞いてみる。すると、彼女はしばらく黙り込んだ後、突然また涙を流し始める。
「分かんないよ」と一言。彼女は泣きながら「婚活はゴールが見えない。いくら頑張っても成果は見えない。このまま私はずっと独身なの? と思ってしまう」と。
自分が頑張っているのに、なかなか結果が見えなくて、自信がなくなってしまった裏返しの愚痴だったのかな。パーサーの仕事ではバリバリとしっかりやっているんだけど。後輩の面倒見もいいんだけどなあ。
智子はちょっとだけ必要以上に依存心と所有欲が強いんだろう。だったら、自分も同じように依存させて所有させれば良いのだけれどそれは嫌なのだ。自分自身は共有されたくないのだ。
私も智子もレズじゃない。でも、そういう愚痴を言って泣き出す夜は決まって私の部屋に忍んできて私の体を求める。長い付き合いで無下にも断れなかったので1回許したら、その後はたびたび私の部屋に来るのだ。私も性欲がないわけじゃないので、智子に付き合うけど、男とうまくいかないからって、女の私の体に慰めを求めるのもどうなんだろう?
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