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第2章 実と早紀江編
第13話 北千住の分銅屋Ⅱ、2017年11月23日(木)
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四時半に分銅屋に着いた。割烹着も買っちゃった。ムフフ。こんど、ミノルに裸エプロンならぬ、裸割烹着を見せてやる。興奮させて、8回くらい犯してもらおう!・・・あ!ダメ!想像するだけでジンジンする・・・
暖簾をくぐってお店に入る。女将さんが「早紀江ちゃん、早いわね」と言われた。あれ?今日は順子さんと節子さんはいないんだね?土日の代休?ほほぉ。
時間が早いのでお客さんはいない。私は髪をポニーテールにまとめて割烹着を着た。セーターとジーンスでちょっとバランスがおかしいけど、動きやすいからいっか。そういえば、割烹着を着た生物学者がいたっけね?
野菜の下ごしらえをしたり、魚を捌いたりする。それをタッパに詰めておく。煮物、焼き物。エビを剥いたり。
おいももジャガ芋だけじゃない。海老芋とか里芋のネットリ系、八ツ頭のほくほく系。里芋の煮物だけじゃないんだね。味噌汁に入れたり(これは知ってる)、ひき肉あんかけにしたり、素揚げにしたり。今が旬のクワイは苦味があるからお米のとぎ汁で一度茹で煮こぼすのが良いとか。ほほぉ。
ぶり大根を作るというので、大根の皮むき、生姜は千切り。同時に女将さんは出汁をとったり、ブリを捌いているわけですよ。すべて同時進行でそつがない。それでこれだけ仕込んでいれば、なんでも魔法のごとく料理が出てくるのです。私には真似できない。
「早紀江ちゃん、家庭の料理と居酒屋の料理は違うわ。自衛隊みたいに大量調理。もちろん自衛隊よりも多品種少量調理。何を注文されても組み合わせてお客様にお出しできるようにしておく。家庭で数人の食事を作るのとは違う。だけど、食材の準備は参考になるから。例えば、お野菜を切って冷蔵庫に入れておくとか、お肉を小分けしておくとかは見ていてね」
「ハイ、わかりました。なんか、すごい。あの、女将さん、今度、ブリの捌き方も教えてください」
「いいわよ、もちろん。今度さ、朝、時間があれば、築地に一緒に行きましょう。仕入れを見てみるのも面白いわよ」
「是非、ご一緒させて下さい」
おお!この調子だと、高校卒業までに和食調理のプロ!なわけないけど。順子さんや節子さんと一緒にお店を任されたりして!・・・あ!大学、行かなきゃ・・・
引き戸が開いた。誰か来た。こんな早くお客さんかな?と思ったら、あれ?私と同じような年の女の子が・・・美少女じゃん・・・同じ髪型、ポニーテールでセーター、ジーンズ・・・
この子、どっかで見たような?と思ったら、私!私に似てるじゃない!姉妹で通用する!入り口に立っている子も私を怪訝な顔をして見てる。あら?それなら、私も美少女なのかね?
女将さんが「カエデちゃん、お手伝い、ありがとう」と彼女に言った。私を指して「この方、ほら尾崎さんの後輩、遠藤さんの婚約者の早紀江ちゃん、・・・って、あれ?二人は姉妹じゃないよね?そんなわけないもんね」と言う。
やっぱり似てるんだ!「あらら、土曜日は早紀江ちゃんはビジネススーツで髪をアップにしてたけど、髪をおろしてカジュアルな服だと似てるのがわかるわ。別々に見ていたらあまり気づかないけど、一緒に見ると姉妹じゃないかと思うほど同じよ、あなたたち」
カエデちゃんと呼ばれた子が私と目を見合わせて、私と同時に「ドッペルゲンガー?」と言った。・・・ううう、声も似ている!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
彼女が板場の中に来た。「ドッペルゲンガーさん、私は兵藤楓と言います。あなたは?」ドッペルゲンガーさんだって。私の言いそうなフレーズじゃない!「兵藤楓さんというのね。私は遠藤早紀江」私は、楓さんに自己紹介した。
女将さんが私の代わりにザッと私の紹介を楓さんにした。女将さん、私のことを遠藤さんの婚約者だって!婚約者!そうよ!私はミノルの婚約者!
「あれ?早紀江さん、遠藤さんの名字にもう変えちゃったの?」と彼女が板場の中で私の頭から爪先まで観察する。私もそうだけど。目線が同じで、背の高さも同じ?ということは170センチ?ゲゲゲ!のっぽじゃない!
「それは偶然。私、元々遠藤姓なの。だから、結婚しても便利。名字変更が不要なの」
「私は、この前、名字が変わったの。パパが早くに亡くなって、CAをやっているママが女手一つで育ててくれたんだけど、去年再婚しちゃって、兵藤になった。確かに、名字が変わると面倒よ。手続きが大変なのがよくわかった。それで3歳年上の大学生の義理の兄もできてしまった、という」
「おっと!それ、まんまのマンガのシチュエーションじゃない?血の繋がらない兄と妹が突然同じ屋根の下で暮らす!おおお!何も起こらないはずがない!ワクワク!」
「ハハハ。迫ったけどダメでした。キスまで迫ったんだけど」
「キ、キスしちゃったの?」いやいや、楓さんと会話のリズムが合うんだなあ。やっぱりドッペルゲンガー?会うと死んでしまうんじゃなかったっけ?彼女もアンアンするタイプかな?
「練習だ!と無理やりキスさせた。ねえ、面倒だからサキエと呼び捨てで良い?私はカエデで良いから」
「カエデとサキエ。音も似ていて、それいいわね。それで、カエデ、キスまでしか進まなかったんだ?」
「それがさあ、ごうだつされたのよ!強奪!その縁でここにいるんだけどね」
「ええ?聞きたい!聞きたい!」
「お兄がね、タケシって言うんだけど、大学2年になったから一人暮らしするって言い出して、住むのは下町、北千住だ!って、ここの不動産屋さんに来てアパートを探したの。そうしたら、そこの一人娘さんの同い年の女性と仲良くなって、会ってその日に結婚して下さい!なんて言われて。強奪されたのよ、私のお兄を!その人、田中美久さんって言って、分銅屋に昔から出入りしていたってことで、私もここに出入りするようになったの。まあ、もうさ、美貌でも性格でも負けたから。諦めたわ。今じゃあ、美久姉さんと呼んでる」
「あれ?美久さん?ミノルが言っていたのが、順子さんと節子さんの元親分のヤンキーの名前が美久さんって」
「そうです。元ヤンです。ギャル系ファッションだったらしいけど、それが今ではフレンチカジュアルのお嬢様ファッションだよ。でも、怒るとすごい。地が出るとすごいのよ。空手やっているんで、橋本真也の水面蹴りとか踵落としとか、半グレを簡単にのしちゃう。踵落としで相手にパンツ見せてる、って言うと急に恥ずかしがるけど」
「へぇ~、お会いしたいな、カエデのお姉さんに。お茶大の物理科なんでしょ?元ヤンで」
「それがね、私も同じ志望で、来年には後輩になるかもしれないの。サキエは?」
「私は今推薦の1次が通ったから、来年は駒場かもしれない。ミノルの後輩になるかも。工学部」
「あれれ。それ、お兄とも後輩じゃん?」
「なんだ。みんな理系じゃない。女将さんもそうだし。ここはリケジョの集会所なのかしら?」
「変なお店だよ、ここは」
「同感です!」
カエデが女将さんに「女将さん、この生ひじき、作っちゃってもいい?煮物よね?」と聞く。ああ、いいわよぉ、と女将さん。
「カエデ、このひじき、ヌメヌメしてるけど?」
「これ、乾燥ひじきじゃないのよ。築地で買う産地直送の生。乾燥ひじきと違って、『無機ヒ素』が含有されているんで、7分加熱して茹でこぼすの。賞味期限は冷蔵保存でも2~3日なので、家庭用には不向き。栄養面ではほぼ同じなんだって。でも、生の方が私は食感がシャキシャキしていて好き」ほほぉ。
カエデは、手慣れた様子で、にんじんを4cmくらいの長さの少し太めのせん切りに切った。確かに、にんじん5本使うなんて、家で作る分量じゃないわね。油抜きして下ごしらえした油あげも8枚。細めの短冊に切る。おおお!リズミカル!
カエデは、大きなアルミの雪平鍋に米油を入れて熱してにんじんを入れてさっと炒めた。それからザルにあげてあったひじきも入れ、菜箸でさっさと混ぜた。油揚げを加えて、女将さんがさっき準備したお出汁を目分量でお玉で加える。
醤油、砂糖、みりんも計量スプーンなんか使わない。容器、瓶から直接投入。弱火で水分を飛ばしながらグツグツ。小皿で味見してうんとうなずいて、鍋底に煮汁が少し残るくらいまで煮て、ごま油を一回し。出来上がり。大皿に盛って、カウンターに置いた。
「カエデ、すごい。目分量でさっと作った。慣れてるね」
「サキエ、ここまでくるのに4ヶ月だよ。お客さんから、やれ、女将さんが作ったのと違う、醤油の煮出しか!砂糖が足らん!みりんが多すぎる!って文句を言われてさ、大変なんだよ、ひじきの煮物でも。サキエ、食べてみて」
お小皿にとって食べてみた。うま~!乾燥ひじきで作ったやつより、うま~!
これはご飯が何杯でもいけるって、あれですかい?
ぶり大根も味見!とか言われて食べた。うま~!くわいのうま煮も!うま~!これ、お母さんがおせちの時に作るやつじゃん!
レンコンとさつま揚げの甘辛煮も!うま~!うま~!うま~!
「美味しいなあ。家庭料理のごく普通のお料理なのになんか違う」
「素材の質、作る量、何種類かの違うお出汁。それからあくまで御飯のおかずじゃない酒のおつまみだから味付けも変えていると、女将さんは言ってる。小料理屋の板前さんが奥さんの家庭料理を喜んで食べる、というのは料理の味付けがちょっと違うからなんでしょうね」
「ほほぉ」
6時ぐらいからボツボツとお客さんが来た。近所の人たちや会社員。
おおお!今日はごく普通の小料理屋の雰囲気じゃないか!変な人いない!・・・変な人は、私か・・・
6時頃からお客さんが増えていって、8時には満席になった。私みたいな変な人間はいない。普通の近所の常連さんと会社員の人たち。
4時半からお店の準備のお手伝いをして、早い時間にはミノルの部屋に戻ろうと思っていたが、今日は順子さんと節子さんもいない。女将さんとカエデ二人では大変だ。女将さんは、お店が立て込んできた時、早紀江ちゃん、もういいわよ、お帰りなさい、と言ってくれたけど、もう少し手伝うことにした。調理を女将さんとカエデに任せて、私は注文取りと接客に回った。
常連さんが「あれ?カエデちゃんが二人?こっちがカエデちゃんだよね?とすると、こっちの人はカエデちゃんの妹さん?」と聞かれる。近所の常連の吉田さんだそうだ。やっぱり、私たち、ドッペルゲンガーに見えるんだね。
「ハイ!私はカエデ姉さんの妹の早紀江です」と答えた。ヘヘヘ。「年は同じ18歳ですけど・・・」「まさか、双子?そんな話、聞いたことないけどなあ」「実はですね、小さい時に、私は養子に出されて、今まで私に姉さんがいるなんて知らなかったんです」「へぇ~、そっくりだものなあ」
カエデが「吉田さん、ウソですよ、ウソ。ついさっき、サキエに初めてあってビックリしました。他人の空似だけど、ドッペルゲンガーかと思いました。サキエ、花嫁修業でここに料理を習いに来ているんです。ほら、お客さんの遠藤さん、知っているでしょ?彼の婚約者なんですよ」と板場からカウンターの吉田さんに説明した。婚約者!私、高校生の幼妻だよ!フヘヘヘヘ。
吉田さんが板場の女将さんに「女将さん、順子に節子だろ、カエデちゃんにサキエちゃん、それに美久や佳子や紗栄子、これさ、小料理屋止めて、この店、キャパクラにすれば儲かるじゃないか?」「何言ってんの、吉田さん。美久と順子の他はみんな未成年じゃない!それでキャパクラのママが倍の年齢の私?」
キャパクラねえ。もしも、カエデとかみんなとベイビーメタルの衣装を来たら、ここはコスプレ小料理屋?なんて・・・おっと。
11時半頃になって、やっとすいてきた。残っているお客さんも会社員のグループが一組だけ。
女将さんが「早紀江ちゃん、もう11時半を回ってる。お料理の仕込みだけのつもりだったんだけど。接客まで手伝わせてゴメンナサイね。もうお帰りなさいよ。送っていこうか?」と言われた。「大丈夫ですよ、女将さん、ミノルの、遠藤さんのマンションも近いですし、一人で帰れますって」「大丈夫?でも、左手の公園の方は物騒だから行っちゃあダメよ」
暖簾をくぐってお店に入る。女将さんが「早紀江ちゃん、早いわね」と言われた。あれ?今日は順子さんと節子さんはいないんだね?土日の代休?ほほぉ。
時間が早いのでお客さんはいない。私は髪をポニーテールにまとめて割烹着を着た。セーターとジーンスでちょっとバランスがおかしいけど、動きやすいからいっか。そういえば、割烹着を着た生物学者がいたっけね?
野菜の下ごしらえをしたり、魚を捌いたりする。それをタッパに詰めておく。煮物、焼き物。エビを剥いたり。
おいももジャガ芋だけじゃない。海老芋とか里芋のネットリ系、八ツ頭のほくほく系。里芋の煮物だけじゃないんだね。味噌汁に入れたり(これは知ってる)、ひき肉あんかけにしたり、素揚げにしたり。今が旬のクワイは苦味があるからお米のとぎ汁で一度茹で煮こぼすのが良いとか。ほほぉ。
ぶり大根を作るというので、大根の皮むき、生姜は千切り。同時に女将さんは出汁をとったり、ブリを捌いているわけですよ。すべて同時進行でそつがない。それでこれだけ仕込んでいれば、なんでも魔法のごとく料理が出てくるのです。私には真似できない。
「早紀江ちゃん、家庭の料理と居酒屋の料理は違うわ。自衛隊みたいに大量調理。もちろん自衛隊よりも多品種少量調理。何を注文されても組み合わせてお客様にお出しできるようにしておく。家庭で数人の食事を作るのとは違う。だけど、食材の準備は参考になるから。例えば、お野菜を切って冷蔵庫に入れておくとか、お肉を小分けしておくとかは見ていてね」
「ハイ、わかりました。なんか、すごい。あの、女将さん、今度、ブリの捌き方も教えてください」
「いいわよ、もちろん。今度さ、朝、時間があれば、築地に一緒に行きましょう。仕入れを見てみるのも面白いわよ」
「是非、ご一緒させて下さい」
おお!この調子だと、高校卒業までに和食調理のプロ!なわけないけど。順子さんや節子さんと一緒にお店を任されたりして!・・・あ!大学、行かなきゃ・・・
引き戸が開いた。誰か来た。こんな早くお客さんかな?と思ったら、あれ?私と同じような年の女の子が・・・美少女じゃん・・・同じ髪型、ポニーテールでセーター、ジーンズ・・・
この子、どっかで見たような?と思ったら、私!私に似てるじゃない!姉妹で通用する!入り口に立っている子も私を怪訝な顔をして見てる。あら?それなら、私も美少女なのかね?
女将さんが「カエデちゃん、お手伝い、ありがとう」と彼女に言った。私を指して「この方、ほら尾崎さんの後輩、遠藤さんの婚約者の早紀江ちゃん、・・・って、あれ?二人は姉妹じゃないよね?そんなわけないもんね」と言う。
やっぱり似てるんだ!「あらら、土曜日は早紀江ちゃんはビジネススーツで髪をアップにしてたけど、髪をおろしてカジュアルな服だと似てるのがわかるわ。別々に見ていたらあまり気づかないけど、一緒に見ると姉妹じゃないかと思うほど同じよ、あなたたち」
カエデちゃんと呼ばれた子が私と目を見合わせて、私と同時に「ドッペルゲンガー?」と言った。・・・ううう、声も似ている!
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彼女が板場の中に来た。「ドッペルゲンガーさん、私は兵藤楓と言います。あなたは?」ドッペルゲンガーさんだって。私の言いそうなフレーズじゃない!「兵藤楓さんというのね。私は遠藤早紀江」私は、楓さんに自己紹介した。
女将さんが私の代わりにザッと私の紹介を楓さんにした。女将さん、私のことを遠藤さんの婚約者だって!婚約者!そうよ!私はミノルの婚約者!
「あれ?早紀江さん、遠藤さんの名字にもう変えちゃったの?」と彼女が板場の中で私の頭から爪先まで観察する。私もそうだけど。目線が同じで、背の高さも同じ?ということは170センチ?ゲゲゲ!のっぽじゃない!
「それは偶然。私、元々遠藤姓なの。だから、結婚しても便利。名字変更が不要なの」
「私は、この前、名字が変わったの。パパが早くに亡くなって、CAをやっているママが女手一つで育ててくれたんだけど、去年再婚しちゃって、兵藤になった。確かに、名字が変わると面倒よ。手続きが大変なのがよくわかった。それで3歳年上の大学生の義理の兄もできてしまった、という」
「おっと!それ、まんまのマンガのシチュエーションじゃない?血の繋がらない兄と妹が突然同じ屋根の下で暮らす!おおお!何も起こらないはずがない!ワクワク!」
「ハハハ。迫ったけどダメでした。キスまで迫ったんだけど」
「キ、キスしちゃったの?」いやいや、楓さんと会話のリズムが合うんだなあ。やっぱりドッペルゲンガー?会うと死んでしまうんじゃなかったっけ?彼女もアンアンするタイプかな?
「練習だ!と無理やりキスさせた。ねえ、面倒だからサキエと呼び捨てで良い?私はカエデで良いから」
「カエデとサキエ。音も似ていて、それいいわね。それで、カエデ、キスまでしか進まなかったんだ?」
「それがさあ、ごうだつされたのよ!強奪!その縁でここにいるんだけどね」
「ええ?聞きたい!聞きたい!」
「お兄がね、タケシって言うんだけど、大学2年になったから一人暮らしするって言い出して、住むのは下町、北千住だ!って、ここの不動産屋さんに来てアパートを探したの。そうしたら、そこの一人娘さんの同い年の女性と仲良くなって、会ってその日に結婚して下さい!なんて言われて。強奪されたのよ、私のお兄を!その人、田中美久さんって言って、分銅屋に昔から出入りしていたってことで、私もここに出入りするようになったの。まあ、もうさ、美貌でも性格でも負けたから。諦めたわ。今じゃあ、美久姉さんと呼んでる」
「あれ?美久さん?ミノルが言っていたのが、順子さんと節子さんの元親分のヤンキーの名前が美久さんって」
「そうです。元ヤンです。ギャル系ファッションだったらしいけど、それが今ではフレンチカジュアルのお嬢様ファッションだよ。でも、怒るとすごい。地が出るとすごいのよ。空手やっているんで、橋本真也の水面蹴りとか踵落としとか、半グレを簡単にのしちゃう。踵落としで相手にパンツ見せてる、って言うと急に恥ずかしがるけど」
「へぇ~、お会いしたいな、カエデのお姉さんに。お茶大の物理科なんでしょ?元ヤンで」
「それがね、私も同じ志望で、来年には後輩になるかもしれないの。サキエは?」
「私は今推薦の1次が通ったから、来年は駒場かもしれない。ミノルの後輩になるかも。工学部」
「あれれ。それ、お兄とも後輩じゃん?」
「なんだ。みんな理系じゃない。女将さんもそうだし。ここはリケジョの集会所なのかしら?」
「変なお店だよ、ここは」
「同感です!」
カエデが女将さんに「女将さん、この生ひじき、作っちゃってもいい?煮物よね?」と聞く。ああ、いいわよぉ、と女将さん。
「カエデ、このひじき、ヌメヌメしてるけど?」
「これ、乾燥ひじきじゃないのよ。築地で買う産地直送の生。乾燥ひじきと違って、『無機ヒ素』が含有されているんで、7分加熱して茹でこぼすの。賞味期限は冷蔵保存でも2~3日なので、家庭用には不向き。栄養面ではほぼ同じなんだって。でも、生の方が私は食感がシャキシャキしていて好き」ほほぉ。
カエデは、手慣れた様子で、にんじんを4cmくらいの長さの少し太めのせん切りに切った。確かに、にんじん5本使うなんて、家で作る分量じゃないわね。油抜きして下ごしらえした油あげも8枚。細めの短冊に切る。おおお!リズミカル!
カエデは、大きなアルミの雪平鍋に米油を入れて熱してにんじんを入れてさっと炒めた。それからザルにあげてあったひじきも入れ、菜箸でさっさと混ぜた。油揚げを加えて、女将さんがさっき準備したお出汁を目分量でお玉で加える。
醤油、砂糖、みりんも計量スプーンなんか使わない。容器、瓶から直接投入。弱火で水分を飛ばしながらグツグツ。小皿で味見してうんとうなずいて、鍋底に煮汁が少し残るくらいまで煮て、ごま油を一回し。出来上がり。大皿に盛って、カウンターに置いた。
「カエデ、すごい。目分量でさっと作った。慣れてるね」
「サキエ、ここまでくるのに4ヶ月だよ。お客さんから、やれ、女将さんが作ったのと違う、醤油の煮出しか!砂糖が足らん!みりんが多すぎる!って文句を言われてさ、大変なんだよ、ひじきの煮物でも。サキエ、食べてみて」
お小皿にとって食べてみた。うま~!乾燥ひじきで作ったやつより、うま~!
これはご飯が何杯でもいけるって、あれですかい?
ぶり大根も味見!とか言われて食べた。うま~!くわいのうま煮も!うま~!これ、お母さんがおせちの時に作るやつじゃん!
レンコンとさつま揚げの甘辛煮も!うま~!うま~!うま~!
「美味しいなあ。家庭料理のごく普通のお料理なのになんか違う」
「素材の質、作る量、何種類かの違うお出汁。それからあくまで御飯のおかずじゃない酒のおつまみだから味付けも変えていると、女将さんは言ってる。小料理屋の板前さんが奥さんの家庭料理を喜んで食べる、というのは料理の味付けがちょっと違うからなんでしょうね」
「ほほぉ」
6時ぐらいからボツボツとお客さんが来た。近所の人たちや会社員。
おおお!今日はごく普通の小料理屋の雰囲気じゃないか!変な人いない!・・・変な人は、私か・・・
6時頃からお客さんが増えていって、8時には満席になった。私みたいな変な人間はいない。普通の近所の常連さんと会社員の人たち。
4時半からお店の準備のお手伝いをして、早い時間にはミノルの部屋に戻ろうと思っていたが、今日は順子さんと節子さんもいない。女将さんとカエデ二人では大変だ。女将さんは、お店が立て込んできた時、早紀江ちゃん、もういいわよ、お帰りなさい、と言ってくれたけど、もう少し手伝うことにした。調理を女将さんとカエデに任せて、私は注文取りと接客に回った。
常連さんが「あれ?カエデちゃんが二人?こっちがカエデちゃんだよね?とすると、こっちの人はカエデちゃんの妹さん?」と聞かれる。近所の常連の吉田さんだそうだ。やっぱり、私たち、ドッペルゲンガーに見えるんだね。
「ハイ!私はカエデ姉さんの妹の早紀江です」と答えた。ヘヘヘ。「年は同じ18歳ですけど・・・」「まさか、双子?そんな話、聞いたことないけどなあ」「実はですね、小さい時に、私は養子に出されて、今まで私に姉さんがいるなんて知らなかったんです」「へぇ~、そっくりだものなあ」
カエデが「吉田さん、ウソですよ、ウソ。ついさっき、サキエに初めてあってビックリしました。他人の空似だけど、ドッペルゲンガーかと思いました。サキエ、花嫁修業でここに料理を習いに来ているんです。ほら、お客さんの遠藤さん、知っているでしょ?彼の婚約者なんですよ」と板場からカウンターの吉田さんに説明した。婚約者!私、高校生の幼妻だよ!フヘヘヘヘ。
吉田さんが板場の女将さんに「女将さん、順子に節子だろ、カエデちゃんにサキエちゃん、それに美久や佳子や紗栄子、これさ、小料理屋止めて、この店、キャパクラにすれば儲かるじゃないか?」「何言ってんの、吉田さん。美久と順子の他はみんな未成年じゃない!それでキャパクラのママが倍の年齢の私?」
キャパクラねえ。もしも、カエデとかみんなとベイビーメタルの衣装を来たら、ここはコスプレ小料理屋?なんて・・・おっと。
11時半頃になって、やっとすいてきた。残っているお客さんも会社員のグループが一組だけ。
女将さんが「早紀江ちゃん、もう11時半を回ってる。お料理の仕込みだけのつもりだったんだけど。接客まで手伝わせてゴメンナサイね。もうお帰りなさいよ。送っていこうか?」と言われた。「大丈夫ですよ、女将さん、ミノルの、遠藤さんのマンションも近いですし、一人で帰れますって」「大丈夫?でも、左手の公園の方は物騒だから行っちゃあダメよ」
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