【完結】佐渡ヶ島のエレーナ少佐 (近未来戦記①)

✿モンテ✣クリスト✿

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第3章 北朝鮮人民軍、佐渡上陸

第26話(1) 佐渡市立両津病院、島民避難民の取材

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 映画や小説では、華々しい戦闘場面ばかりが喧伝される。しかし、近代的な軍隊(中露はどうか知らないが)は、死傷者の処置はおろそかにしない。屍体が転がっているとか、重症者が前線から後送されないとか、軽症者が前線で手当を受けられないことなどないのだ。たとえ遺体であってもできる限り回収して母国に後送する。
 
 軍事行動を計画する場合、死傷者(重軽傷者を含)の数を想定して、それに対処できる医療スタッフ、医療設備、野戦病院の設置を計画する。
 
 ところが、このサドガシマ作戦の北朝鮮上陸に際して、その計画はすべて狂った。陸自水陸機動団の場合、千名中約三百名、東ロシア共和国のエレーナ部隊(女子部隊)千名中約二百名、男子部隊千名中三百名が、死亡・重軽傷を負った。

 ソーニャの率いるタイフーンL三台と水陸機動団のトラック二台の計五台は、佐渡一周線を二見漁港、相川火力発電所の方まで大回りして、市内に入り病院を探した。まずは佐渡ヶ島の中央部にある佐渡総合病院。一般病床は350床。

 しかし、サドガシマ作戦が発生して、島民が退避してからまだ数日経過しただけで、医療スタッフはあまり帰ってきていない。中程度、または軽症の兵士はここで降ろした。残りは、規模は小さく病床数99床だが、両津港の大型揚陸艦ペレスヴェート、オスリャービャの停泊場所に近い佐渡市立両津病院を使うしかなかった。
 
 日本人医療スタッフはもちろん不足しているが、手術室などの設備を使えれば、ペレスヴェート、オスリャービャの医療スタッフも援助して、重症者の対処も可能という体制が取られた。
 
 佐渡総合病院で中軽症者を降ろし、水陸機動団のトラック二台は前線に戻して、さらなる死傷者の収集にあたらせた。タイフーンL三台は重症者を乗せて、猛スピードで佐渡市立両津病院に向かう。
 
 ソーニャは、佐渡縦貫350号線を120キロで飛ばして、両津港正面の両津夷の交差点手前をを左折、佐渡市立両津病院に滑り込む。すでに、日本人スタッフ、ロシア人スタッフが待ち構えていて、ストレッチャーで救急治療室、手術室に患者を運び込んだ。途中で自衛隊分屯基地にいる取材クルーの一部も藤田が呼んであり、撮影をしている。

 カテリーナ伍長の傷はたいしたことはない。近接して通過した機銃弾で上腕部の皮膚と筋肉が多少裂かれた程度である。もちろん、軍人にとっての大したことがない程度であって、一般人とは別物だ。消毒し、包帯を巻いただけで、作業に参加している。

 ソーニャ准尉は、ロシア人軍医と相談、アナスタシア少尉を手術室に運ばせた。意識はない。部下をかばって脇腹を撃たれている。出血が激しい。貫通銃創で弾丸は体内には残っていないようだが、軍医は難しい顔をしていた。

 卜井ウライたちの立っている方にソーニャが戻ってきた。卜井ウライたちは、防弾チョッキを車内で脱ぎ捨てていて、ロシア軍の制服姿だ。車内で衛生兵を手伝っていたので、三人とも血みどろだ。佐々木の長い髪に血がべっとりへばりついている。卜井ウライも藤田も動脈からの失血を浴びて、顔が赤い迷彩のようになっている。

 ソーニャ准尉が「エレーナ少佐は、『どうせ、こんな作戦、中国の台湾侵攻のお付き合いの陽動作戦なんだから、二週間ほど空自設備を占拠して、一滴も血を流さず、誰も死なず、ロシアに帰るんだ、結婚して残りたいやつは別にして』って言っていたのに、なんで、なんで、こんなことになるんでしょう・・・北朝鮮のくそったれども!」と緊張が溶けたのか、両手で顔を覆って泣き出した。カテリーナが彼女の肩を抱く。「・・・ごめんなさい。取り乱しました。卜井ウライさんたちは大丈夫ですか?お怪我はありませんでしょうか?」

「なんともないわ。車内で治療を手伝っていただけだもの。佐々木はほっぺたに擦り傷ついているけどさ。まったく、ビックリしちゃうよ。機銃掃射をするなんて。ま、それで助かったのかもしれないけどさ・・・藤田、あれって、銃刀法違反なの?」と卜井ウライ
「戦場でのああいう行動は法規適用が難しいだろ?正当防衛行為だよ」
「そうよね・・・って、民間人が戦闘に参加するのはジュネーブ条約違反じゃないの?」
「佐々木はついに国際法を犯したか。こりゃ、マスコミのカメラマンを辞めて、自衛隊に入隊した方がいいかもしれないな・・・冗談はともかく、これは内緒にしておこう・・・」
「・・・ス、スミマセン、逆上してしまいました・・・」と佐々木が泣きそうな顔で言う。
「佐々木は逆上すると何するかわからんのだなあ。浮気したら大変だ」と藤田。
「そうよ、私と佐々木だけにしておきなさい!だいたい、一夫二妻なんだから、不満はないでしょ?」と卜井ウライ

 カメラをカチャカチャいじっていた佐々木が「あ!卜井ウライさん、藤田さん、このカメラ、スタビライザーを付けていたんで、画面の隅ですが、機銃掃射と敵の車輌の横転の場面、映ってます!私は・・・映ってません!良かったぁ!」と言った。「おい、まさか!それ、クルーに渡して!編集させよう!」

「あの、卜井ウライさん」とソーニャ。「シャワーが使えるそうです。着替えはペレスヴェートから衣料品を持ってこさせてありますので、シャワーを浴びて着替えてはいかがでしょうか?」と聞いた。

「ソーニャ、ありがとう。でも、このままでいいわ。このままで、編集が終わったら、この様子を録画するわ。それを東京に送りつけてやれ!」

「え?また?」と藤田。
「もう、首でもなんでもいい!流すか、流さないか、局長が判断すればいいじゃん!藤田、佐々木、二人共覚悟するのよ!もう、三人は一心同体よ!」と怒鳴る。

 一心同体に反応して、佐々木は頬を赤らめる。え~、こんな時に不謹慎だけど、今晩も?と思った。藤田は何を佐々木ちゃんは身をよじっているんだろう?と不審に思った。

 ソーニャが「では、卜井ウライさんたち、私たちは二見町に戻ります。まだ、死傷者が出る様子。少佐に死傷者の搬送任務を命じられましたので。また、死傷者を運んで戻ってくると思います。みなさんは、ここなら安心でしょうが、十分お気をつけて!では!」と敬礼して、タイフーンで去ってしまった。卜井ウライたちも敬礼をして見送った。

 すごいなあ、軍人というのはああいうものなんだ。あれで私より10才以上年下なんだから。カテリーナなんて18才よ!だけど、今日は私だって、相手を倒したんだもん。ちょっとスカッとした、と佐々木は思った。

 血みどろの姿で卜井ウライは録画を始めた。
 
「・・・現在までに判明しているだけで、陸自水陸機動団千名の内、三百名以上が死傷しました。東ロシア共和国軍は、二千名の内、女性兵士二百名、男性兵士三百名以上が死傷しております」

 死亡した人数はまだわかっておりません。幸いなことに民間人の死傷者はおりません・・・私は、死傷者を搬送するロシア軍の装甲車輌に同乗しておりました。人手も足りず、治療を手伝っておりました・・・

 ロシアの女の子・・・まだ、ティーンの女の子だったでしょう。名前もまだわかりませんが、その子の頸動脈から血が吹き出ていて、私は、と自分の右手の親指と人差指を擦り合わせてジッと見た。

「この指で彼女の動脈を抑えてやるしかできませんでした。彼女は失血して亡くなりました・・・ここ佐渡で何が起こっているのか、みなさんには知っていただきたい。自衛隊隊員のみならず、祖国でもないここ日本で、北朝鮮の武力による現状の変更を命を賭して闘っている外国人もいるということを。今でも戦闘は続いております・・・」卜井ウライは死んだ女の子を思い出して泣き出してしまう。

「失礼しました。・・・よろしいでしょうか?今、ウクライナで起こっていることが、ここ日本でも起こってしまったということを」

 これは・・・これは・・・相手が話し合いなどという甘っちょろい土俵に乗ってくるという期待をしてはならないのです。この相手は、土俵が違う、ルールが違うスポーツをしているようなものです。

 今まで、日本国民、日本政府が信じていたことは、相手も同じルールに則ってくれる、という希望的観測にしかすぎなかったのです。こういう相手に見せるのは、相手に多大な犠牲を払わせ自身も血を流す覚悟、姿勢だと私は思います。

「しばらく前まで想像もつかず、私は思ってもいませんでしたが、武力による現状の変更は、武力以外では解決できない、敵国の土俵と同じルールで闘うのみだ、それ以外に選択肢はあり得ないとこう信じるようになりました・・・以上、佐渡ヶ島、佐渡市立両津病院から、卜井ウライでした」

 また、卜井ウライ、やったぞ。これ、放送されそうな気がする。局長がスタジオを占拠しなくても、世論の流れが放送しないことを許しそうもないよなあ、と藤田は思った。
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