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第4章 サドガシマ戦役終了
第30話 ジトコ大将とエレーナ
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ジトコ大将とエレーナ
北朝鮮の特殊作戦部隊を撃退して、一段落付いたエレーナは久しぶりにオスリャービャの執務室で書類作業をしていた。そこに、ソーニャ准尉が執務室をノックした。「少佐、ウラジオからです。ジトコ大将が少佐と打合せされたいそうです。通信室を使われますか?ここでお話されますか?」と聞いた。「わかった。ここにしよう」
スクランブルのかかったパソコンでロシア軍のチャットアプリを立ち上げた。
「ジトコ大将、エレーナ少佐であります」
「また、堅苦しい。誰かそこにいるのか?」
「誰もおりませんが」
「まったく、娘よ、父親に他人行儀は止めてくれ」
「ダメです。ちゃんと規律を守らねば」
「まあ、わかった。ニャーナの情報でな・・・」
「あ!女狐め!」
「こら、ニャーナは中佐だぞ。オマエの上官だ。自分で規律とか抜かしおって」
「・・・スミマセン・・・」
「第一、彼女は私のガールフレンドだ。私だって独身、オマエの母親、冴子が亡くなって以来、ワシは独身だったし、彼女も独身。不倫をしているわけでもなし、問題なかろうが」
「・・・だって、パパ・・・」
「今度はパパか・・・ジトコ大将という呼び名はどうした?ところで、そのオマエの言う女狐が隣におるんだが・・・」
「・・・ハバロフスクのダーチャからね?ウラジオって言ってたくせに・・・」
「エレーナ少佐、女狐のニャーナよ。お久しぶりね」
「ハ!ニャーナ中佐、失礼いたしました!」
「いいわよぉ~。あなたの大事なパパを取っちゃった悪い女なんだから。まあねえ、自分でも清楚で気品がある女だなんて生まれてから思ったことがないもの。女狐で結構よ」
「今日の話は、ニャーナの話なの?それは、北朝鮮と中国北部戦区(旧瀋陽軍区)の諜報情報ってことよね」
「さすが、エレーナ。よくわかっているわね。これはね、今日入ってきた諜報情報なのよ。私の親戚で人民解放軍に送り込んでいる金容洙って知っているわよね?」
「以前、少しだけ聞いたことがあるわ」
「そう、それでね、金容洙、彼女は今海軍少尉なのだけど・・・」
ニャーナ 1、ハバロフスク
ハバロフスクは、アムール川の右岸中流域に位置し、ウスリー川との合流点のすぐ下流にある。人口は62万人。鹿児島市、船橋市並の人口だ。
首都モスクワからシベリア鉄道経由で8,523km。東京から8,500kmというと、ニュージーランドのオークランド、オーストラリアのタスマニア島、ギリシャのアテネ、オーストリアのウィーンとの距離。日本人の感覚で言うと同じ国とは思えない距離だ。それだけ、モスクワの目の届かない遠隔地にある。
ハバロフスクは極東連邦管区の本部が設置されていたが、2018年12月にプーチン大統領が極東連邦管区の本部をウラジオストクに移転した。
ロシア連邦軍、東部軍管区、司令官、ゲンナジー・ジトコ大将も普段はウラジオストクで執務しているが、彼はハバロフスクにダーチャ(別荘)を所有していた。彼のダーチャの存在は連邦軍もモスクワも知らない。登記は彼の愛妾のニャーナになっている。
ニャーナは、白系ロシア人の父とロシア系コレイツィ人(ロシア語の高麗、コリアのロシア語読み)の母を持つ生まれだ。コレイツィ人は第二次世界大戦中に中央アジアに集団追放された。ニャーナの母はソ連邦のウズベキスタン共和国でモスクワから派遣されていた陸軍少佐と出会い結婚した。
ニャーナの容貌は、父親の血が勝っているのか、ロシア美人なのだが、体型は母親に似て痩せ型で手足が長くひょろりとしている。顔立ちにアジア系のエキゾチックな雰囲気が時折現れる。
32才という年齢には到底見えない。あどけなく、清楚な印象を与えるが、内実は氷のような女だ。さらに、ロシア軍の格闘術システマの名手でもある。危険極まりない。
ロシア語はもちろんのこと、ウクライナ語、朝鮮語、英語、フランス語を話す。国際会議でジトコ大将の通訳を務めたのが大将との出会いだった。それ以来、五年間、ジトコの愛人になっている。
ニャーナは、ジトコの愛人のみならず、ビジネスパートナーでもある。ロシア連邦軍東部軍管区と国境を接する中国北部戦区(旧瀋陽軍区)高官の一族たちは、中国朝鮮族出身者が多く、ニャーナの朝鮮語で意思疎通をしている。
彼女は、ロシア軍の武器装備を瀋陽軍区高官に横流ししている。その範囲は、個人的な密売の範囲を超えて、高濃度ウランを生み出す遠心分離機用の金属・酸化アルミニウムなど核開発関連物資や、戦車用バッテリー、はてはミサイルのエンジンに至るまで横流しを行っている。エレーナ少佐が知れば激怒するだろう。
瀋陽軍区高官たちは、それら先端物資を北朝鮮に北京に内密にして譲渡している。その代わりに彼らは、鴨緑江をはさみ隣接する北朝鮮に埋蔵されるレアメタルの採掘権を相当数保有しているのだ。
ジトコは、ニャーナを通じて、中国北部戦区(旧瀋陽軍区)の動き、北朝鮮の動向の情報を得ている。中国北部戦区が北京と袂を分ければ、国境を隔てた彼の極東連邦管区にも甚大な影響があるからだ。
習近平国家主席は、北京より平壌と親しい瀋陽軍区によるクーデターを極度に恐れている。
彼が進める軍の大改編は、現代戦への適合も視野に入れるが、「瀋陽軍区」を解体しなければ北朝鮮に直接影響力を行使できないだけでなく、「瀋陽軍区」に寝首をかかれるためでもある。
瀋陽軍区が北京を半ば無視して北朝鮮とよしみを通じる背景にはわけがある。
中国は朝鮮戦争勃発を受けて義勇軍を送ったが、その義勇軍は人民解放軍所属の第四野戦軍だった。この第四野戦軍こそ瀋陽軍区の前身であり、朝鮮族らが中心となって編成されていた。瀋陽軍区の管轄域には延辺朝鮮族自治州も含まれ、軍区全体では180万人の朝鮮族が居住する。いわば、瀋陽軍区と北朝鮮の朝鮮人民軍は同族と言っていい。
今回の朝鮮半島有事も、北京の指示を無視している。北朝鮮が不利とわかれば、支援のために瀋陽軍区の戦力が朝鮮半島に進出する。瀋陽軍区の演習も半島全域を想定している。とりわけ、瀋陽軍区第39集団軍は、人民解放軍最精強と言われている。
昔の7大軍区は5大戦区に統廃合された。しかし、問題は北京の頭越しに対北朝鮮独自対応を行う瀋陽軍区を北京軍区に吸収合併できなかったことだ。
習近平は、北京軍区司令官に彼と近い上将を抜擢して着々と布石を打ってはいた。その布石にもかかわらず、上将失脚で2014年、上将の腹心の第39集団軍幹部はクーデターを起こした。
クーデターは小規模で鎮圧されたが、このような北京に対する抵抗勢力が存在する不穏な情勢では、瀋陽軍区を北京軍区に吸収合併する目論みが成功するわけがない。むしろ、瀋陽軍区は北京軍区の一部を形成していた内モンゴル自治区を北部戦区へと編入、人民解放軍海軍の要衝・山東省も飛び地の形で獲得し、膨張に成功した。
こういった情勢で、ジトコのロシア連邦軍東部軍管区が北海道攻略を始め、北京が台湾侵攻を企てた時、瀋陽軍区はどう動くのであろうか?
だから、今回、北朝鮮の冒険主義者がこれ幸いと南進を試み、金正恩と一脈通じる瀋陽軍区の朝鮮族高官たちが北京を無視したのだ。そして、モスクワが習近平の誘いに乗って、北海道と佐渡ヶ島に侵攻した。台湾侵攻の陽動作戦というわけだ。
台湾・先島諸島・沖縄・南西諸島で中国が軍事行動を起こした時、さてロシア連邦はどうするのか?オビ川以東の東部ロシアはどう行動するのか、とジトコは考えている。そんなことになったら、西のウクライナとの紛争を抱え、我がロシア連邦は終わりだ、
それこそ、中央軍管区のウラジミール・ザルニツキー大将と組んで、中央軍管区のオビ川から東と東部軍管区が独立して、東ロシア共和国を樹立、ロシア連邦内に所属するものの、経済・外交・軍事は西のロシアとは別個とするようなクーデターを実行しないとならないだろう。
その際は、東ロシア共和国は西側諸国に対して恭順の意思を示し、プーチンやその眷属の率いるオビ川以西の欧州ロシア、旧ロシア連邦と一線を引くしかあるまい。ロシア連邦を解体する必要もあるやもしれない。
(おかしな欲を捨てて、軍を辞任し引退して、ニャーナとスイスにでも移り住もうか?ニャーナにはスイス国籍も取得させてある。隠し預金もあるから、その余生も悪くはあるまい。祖国ロシアを見捨てることになるが、プーチン、習近平、瀋陽軍区の奴らと一緒に討ち死にするよりもマシだろう)
さて、ニャーナの母親は、ロシア系ロシア系コレイツィ人(ロシア語の高麗、コリアのロシア語読み)だが、親族は中国にも北朝鮮にも中央アジアにも広がっている。言ってみれば、クルド人(中東のクルディスタンに住むイラン系山岳民族)がトルコ・イラク北部・イラン北西部・シリア北東部等、中東の各国に広くまたがる形で分布して住んでいるように、民族は分裂して朝鮮半島、中国、ロシア、中央アジアに分散している。
ただ、クルド人と異なり、民族の特性なのか共通の世界宗教を持たないためなのか、一致団結して分離独立をしようとはしない。同民族で反目しあう。血族は団結する。まるで中国人のようだ。日本人とは違う存在だ。
ニャーナの親族のうち、金(キム)という一家が中国満州の吉林省に住んでいたが、家長の商売の都合で浙江省寧波に移住した。そして、金(キム)の三女の金容洙(キム・ヨンス)は中国人民解放軍海軍に募集し、現在は東海艦隊に所属している。28才だが、中国人民解放军海军士官学校を優秀な成績で卒業、少尉に昇任している。彼女の上官は漢族の楊(ヤン)少校だった。
楊(ヤン)少校は、中国人民解放軍東海艦隊、先島諸島侵攻作戦の一部、石垣島侵攻を担当していた。
中国の佐官(校官)
大校(上級大佐):副軍団長、師団長、副師団長/旅団長
上校(大佐):副師団長/旅団長、連隊長/副旅団長
中校(中佐):連隊長/副旅団長、副連隊長、大隊長
少校(少佐):副連隊長、大隊長、副大隊長
中国の尉官(尉官)
上尉(大尉):副大隊長、中隊長、副中隊長
中尉(中尉):中隊長、副中隊長、小隊長
少尉(少尉):小隊長
ニャーナ 2、ハバロフスク
「以上がこちらのスパイの諜報報告なのよ、エレーナ」とアーニャ。
「う~ん、台湾侵攻、南西諸島攻略・・・台湾の太平島占拠・・・北朝鮮の半島南進で韓国は放棄・・・今が台湾侵攻の好機・・・、この情報は日本政府には伝えたんですか?」
「内閣情報調査室と自衛隊の幕僚監部の担当者には話したわ。え~っと、誰だっけ?空自の紺野二等空佐という女性が担当していた」
「紺野二等空佐?(この前来ていた遠藤夫妻を派遣した人だったような・・・)」
「紺野二等空佐は真剣に受け止めてくれたわ、彼女はね。だけど、あの日本でしょ?この情報がどこまで上に届くのか?またまた、お話し合い、善処します、検討します、憂慮しています、遺憾に思います、で終わっちゃう気がする」
「確かに、この国の危機意識は低いわ。だけど、私レベルでなんとかできる問題じゃない」
ジトコ大将が話に割り込む。「それから、日本政府から正式に依頼が来たんだ。佐渡に駐留しているオスリャービャとペレスヴェート、ポモルニク型エアクッション揚陸艦を4隻、貸してほしいと」
「ハイ?なんのことです?」
「兵器輸送をお願いしたいという話だ。北の韓国侵攻で自衛隊の艦艇が払底している。貨物輸送艦も足りない。そこで、我が海軍艦艇で、佐渡を出港、佐世保で燃料とミサイルなどの補給を行って、沖縄を経由、石垣島という沖縄本島から400キロ、台湾から240キロの距離にある離島に自衛隊装備を運搬する任務なんだ。戦闘をするわけじゃない」
「それで、パパ、了解したの?」
「ああ、こちらこそ、日本政府にまた貸しを作れてうれしいよ。なにせ、ロシア連邦と手切れしたからカネがないんだよ、我々は。日本の財閥に樺太でジャンジャン天然ガスを採掘していいから、前借りさせて欲しいくらいだ」
「銭ゲバみたいね?この兵器輸送は・・・有償?有償なのね!お金を要求したのね!」
「無い袖は振れない。金がなければ国民も文句を言う。南西諸島が百億円で防衛できれば安いもんだよ。ところで・・・」
「パパ、まだあるの?」
「ああ、南西諸島防衛で在日米軍空軍のバックアップがもしもないと空自だけでは困るだろう?と思ってな、日本政府に申し入れた。前向きに検討すると言っていた」
「何を手配なさったの?パパ?」
「今、ロシアの国営軍事コングロマリット、ロステックがUAEやインドに売り込みをかけている最新型ステルス戦闘機、Su-75、『チェックメイト』がここにある。ロシア連邦と袂をわかったが、ロステックの会長も商売は別とぬかしおる。それで、実戦で『チェックメイト』が中国の殲20よりも高性能なら売り込みに有利だろう?と言ったら使ってくれとこうきたもんだ。『チェックメイト』八機編隊を石垣島に派遣する。ウラジオから石垣島まで2,200キロ。『チェックメイト』の航続距離は3,000キロ。ロステック曰くは、F-35並以上の能力だと言っている。どうだか知らんが。自衛隊も買わんかね?約28億から33億円だよ。F-35 1機で4機買えるんだよ。安いもんだけどね・・・ま、アメリカが邪魔するだろうが・・・」
「パパ、武器商人も始めたの?」
「何事も東ロシア共和国のためだよ。『チェックメイト』の装備搬送用に輸送機のアントノフ72も1機送る。アメリカ製のミサイルや弾丸は兵器装着のパイロンが合わないので使えないからな」
「・・・」
「そうそう、編隊の機長はアレクサンドラに頼んでおいた。仲良くやってくれ」
「ゲッ!アレクサンドラァ~?勘弁して!」
「まだ、すぐってわけじゃない。日本政府とも調整しないといかんからな。途中給油の問題もあるかもしれん。いずれにしろ、オスリャービャとペレスヴェート、ホバーの佐世保、石垣島への派遣を準備してくれ。オマエはいかんでよろしい。だれか、気の利く人間を派遣しろ。南国の島だ。バカンスみたいなもんだ」
「アデルマンもアナスタシアも入院中です」
「あの、下士官上がりの有能な二人がいるだろ?」
「スヴェトラーナとアニータですか?」
「アカデミー士官学校上がりのオマエやアデルマン、アナスタシアよりも彼女らのほうが頼りになる」
「失礼な!」
「軍隊の背骨は下士官だよ、エレーナ。曹長、兵曹長がしっかりしている軍隊は強いんだ」
「了解いたしました。南の島かあ。良いよなあ・・・」
「バカンスみたいなもんとは言ったが、兵器輸送だ。くれぐれも注意しないと。特に中国に勘ぐられるわけにはいかないから、日本との友好親善のための航海とか適当に理由を考えておけ」
「わかりました」
北朝鮮の特殊作戦部隊を撃退して、一段落付いたエレーナは久しぶりにオスリャービャの執務室で書類作業をしていた。そこに、ソーニャ准尉が執務室をノックした。「少佐、ウラジオからです。ジトコ大将が少佐と打合せされたいそうです。通信室を使われますか?ここでお話されますか?」と聞いた。「わかった。ここにしよう」
スクランブルのかかったパソコンでロシア軍のチャットアプリを立ち上げた。
「ジトコ大将、エレーナ少佐であります」
「また、堅苦しい。誰かそこにいるのか?」
「誰もおりませんが」
「まったく、娘よ、父親に他人行儀は止めてくれ」
「ダメです。ちゃんと規律を守らねば」
「まあ、わかった。ニャーナの情報でな・・・」
「あ!女狐め!」
「こら、ニャーナは中佐だぞ。オマエの上官だ。自分で規律とか抜かしおって」
「・・・スミマセン・・・」
「第一、彼女は私のガールフレンドだ。私だって独身、オマエの母親、冴子が亡くなって以来、ワシは独身だったし、彼女も独身。不倫をしているわけでもなし、問題なかろうが」
「・・・だって、パパ・・・」
「今度はパパか・・・ジトコ大将という呼び名はどうした?ところで、そのオマエの言う女狐が隣におるんだが・・・」
「・・・ハバロフスクのダーチャからね?ウラジオって言ってたくせに・・・」
「エレーナ少佐、女狐のニャーナよ。お久しぶりね」
「ハ!ニャーナ中佐、失礼いたしました!」
「いいわよぉ~。あなたの大事なパパを取っちゃった悪い女なんだから。まあねえ、自分でも清楚で気品がある女だなんて生まれてから思ったことがないもの。女狐で結構よ」
「今日の話は、ニャーナの話なの?それは、北朝鮮と中国北部戦区(旧瀋陽軍区)の諜報情報ってことよね」
「さすが、エレーナ。よくわかっているわね。これはね、今日入ってきた諜報情報なのよ。私の親戚で人民解放軍に送り込んでいる金容洙って知っているわよね?」
「以前、少しだけ聞いたことがあるわ」
「そう、それでね、金容洙、彼女は今海軍少尉なのだけど・・・」
ニャーナ 1、ハバロフスク
ハバロフスクは、アムール川の右岸中流域に位置し、ウスリー川との合流点のすぐ下流にある。人口は62万人。鹿児島市、船橋市並の人口だ。
首都モスクワからシベリア鉄道経由で8,523km。東京から8,500kmというと、ニュージーランドのオークランド、オーストラリアのタスマニア島、ギリシャのアテネ、オーストリアのウィーンとの距離。日本人の感覚で言うと同じ国とは思えない距離だ。それだけ、モスクワの目の届かない遠隔地にある。
ハバロフスクは極東連邦管区の本部が設置されていたが、2018年12月にプーチン大統領が極東連邦管区の本部をウラジオストクに移転した。
ロシア連邦軍、東部軍管区、司令官、ゲンナジー・ジトコ大将も普段はウラジオストクで執務しているが、彼はハバロフスクにダーチャ(別荘)を所有していた。彼のダーチャの存在は連邦軍もモスクワも知らない。登記は彼の愛妾のニャーナになっている。
ニャーナは、白系ロシア人の父とロシア系コレイツィ人(ロシア語の高麗、コリアのロシア語読み)の母を持つ生まれだ。コレイツィ人は第二次世界大戦中に中央アジアに集団追放された。ニャーナの母はソ連邦のウズベキスタン共和国でモスクワから派遣されていた陸軍少佐と出会い結婚した。
ニャーナの容貌は、父親の血が勝っているのか、ロシア美人なのだが、体型は母親に似て痩せ型で手足が長くひょろりとしている。顔立ちにアジア系のエキゾチックな雰囲気が時折現れる。
32才という年齢には到底見えない。あどけなく、清楚な印象を与えるが、内実は氷のような女だ。さらに、ロシア軍の格闘術システマの名手でもある。危険極まりない。
ロシア語はもちろんのこと、ウクライナ語、朝鮮語、英語、フランス語を話す。国際会議でジトコ大将の通訳を務めたのが大将との出会いだった。それ以来、五年間、ジトコの愛人になっている。
ニャーナは、ジトコの愛人のみならず、ビジネスパートナーでもある。ロシア連邦軍東部軍管区と国境を接する中国北部戦区(旧瀋陽軍区)高官の一族たちは、中国朝鮮族出身者が多く、ニャーナの朝鮮語で意思疎通をしている。
彼女は、ロシア軍の武器装備を瀋陽軍区高官に横流ししている。その範囲は、個人的な密売の範囲を超えて、高濃度ウランを生み出す遠心分離機用の金属・酸化アルミニウムなど核開発関連物資や、戦車用バッテリー、はてはミサイルのエンジンに至るまで横流しを行っている。エレーナ少佐が知れば激怒するだろう。
瀋陽軍区高官たちは、それら先端物資を北朝鮮に北京に内密にして譲渡している。その代わりに彼らは、鴨緑江をはさみ隣接する北朝鮮に埋蔵されるレアメタルの採掘権を相当数保有しているのだ。
ジトコは、ニャーナを通じて、中国北部戦区(旧瀋陽軍区)の動き、北朝鮮の動向の情報を得ている。中国北部戦区が北京と袂を分ければ、国境を隔てた彼の極東連邦管区にも甚大な影響があるからだ。
習近平国家主席は、北京より平壌と親しい瀋陽軍区によるクーデターを極度に恐れている。
彼が進める軍の大改編は、現代戦への適合も視野に入れるが、「瀋陽軍区」を解体しなければ北朝鮮に直接影響力を行使できないだけでなく、「瀋陽軍区」に寝首をかかれるためでもある。
瀋陽軍区が北京を半ば無視して北朝鮮とよしみを通じる背景にはわけがある。
中国は朝鮮戦争勃発を受けて義勇軍を送ったが、その義勇軍は人民解放軍所属の第四野戦軍だった。この第四野戦軍こそ瀋陽軍区の前身であり、朝鮮族らが中心となって編成されていた。瀋陽軍区の管轄域には延辺朝鮮族自治州も含まれ、軍区全体では180万人の朝鮮族が居住する。いわば、瀋陽軍区と北朝鮮の朝鮮人民軍は同族と言っていい。
今回の朝鮮半島有事も、北京の指示を無視している。北朝鮮が不利とわかれば、支援のために瀋陽軍区の戦力が朝鮮半島に進出する。瀋陽軍区の演習も半島全域を想定している。とりわけ、瀋陽軍区第39集団軍は、人民解放軍最精強と言われている。
昔の7大軍区は5大戦区に統廃合された。しかし、問題は北京の頭越しに対北朝鮮独自対応を行う瀋陽軍区を北京軍区に吸収合併できなかったことだ。
習近平は、北京軍区司令官に彼と近い上将を抜擢して着々と布石を打ってはいた。その布石にもかかわらず、上将失脚で2014年、上将の腹心の第39集団軍幹部はクーデターを起こした。
クーデターは小規模で鎮圧されたが、このような北京に対する抵抗勢力が存在する不穏な情勢では、瀋陽軍区を北京軍区に吸収合併する目論みが成功するわけがない。むしろ、瀋陽軍区は北京軍区の一部を形成していた内モンゴル自治区を北部戦区へと編入、人民解放軍海軍の要衝・山東省も飛び地の形で獲得し、膨張に成功した。
こういった情勢で、ジトコのロシア連邦軍東部軍管区が北海道攻略を始め、北京が台湾侵攻を企てた時、瀋陽軍区はどう動くのであろうか?
だから、今回、北朝鮮の冒険主義者がこれ幸いと南進を試み、金正恩と一脈通じる瀋陽軍区の朝鮮族高官たちが北京を無視したのだ。そして、モスクワが習近平の誘いに乗って、北海道と佐渡ヶ島に侵攻した。台湾侵攻の陽動作戦というわけだ。
台湾・先島諸島・沖縄・南西諸島で中国が軍事行動を起こした時、さてロシア連邦はどうするのか?オビ川以東の東部ロシアはどう行動するのか、とジトコは考えている。そんなことになったら、西のウクライナとの紛争を抱え、我がロシア連邦は終わりだ、
それこそ、中央軍管区のウラジミール・ザルニツキー大将と組んで、中央軍管区のオビ川から東と東部軍管区が独立して、東ロシア共和国を樹立、ロシア連邦内に所属するものの、経済・外交・軍事は西のロシアとは別個とするようなクーデターを実行しないとならないだろう。
その際は、東ロシア共和国は西側諸国に対して恭順の意思を示し、プーチンやその眷属の率いるオビ川以西の欧州ロシア、旧ロシア連邦と一線を引くしかあるまい。ロシア連邦を解体する必要もあるやもしれない。
(おかしな欲を捨てて、軍を辞任し引退して、ニャーナとスイスにでも移り住もうか?ニャーナにはスイス国籍も取得させてある。隠し預金もあるから、その余生も悪くはあるまい。祖国ロシアを見捨てることになるが、プーチン、習近平、瀋陽軍区の奴らと一緒に討ち死にするよりもマシだろう)
さて、ニャーナの母親は、ロシア系ロシア系コレイツィ人(ロシア語の高麗、コリアのロシア語読み)だが、親族は中国にも北朝鮮にも中央アジアにも広がっている。言ってみれば、クルド人(中東のクルディスタンに住むイラン系山岳民族)がトルコ・イラク北部・イラン北西部・シリア北東部等、中東の各国に広くまたがる形で分布して住んでいるように、民族は分裂して朝鮮半島、中国、ロシア、中央アジアに分散している。
ただ、クルド人と異なり、民族の特性なのか共通の世界宗教を持たないためなのか、一致団結して分離独立をしようとはしない。同民族で反目しあう。血族は団結する。まるで中国人のようだ。日本人とは違う存在だ。
ニャーナの親族のうち、金(キム)という一家が中国満州の吉林省に住んでいたが、家長の商売の都合で浙江省寧波に移住した。そして、金(キム)の三女の金容洙(キム・ヨンス)は中国人民解放軍海軍に募集し、現在は東海艦隊に所属している。28才だが、中国人民解放军海军士官学校を優秀な成績で卒業、少尉に昇任している。彼女の上官は漢族の楊(ヤン)少校だった。
楊(ヤン)少校は、中国人民解放軍東海艦隊、先島諸島侵攻作戦の一部、石垣島侵攻を担当していた。
中国の佐官(校官)
大校(上級大佐):副軍団長、師団長、副師団長/旅団長
上校(大佐):副師団長/旅団長、連隊長/副旅団長
中校(中佐):連隊長/副旅団長、副連隊長、大隊長
少校(少佐):副連隊長、大隊長、副大隊長
中国の尉官(尉官)
上尉(大尉):副大隊長、中隊長、副中隊長
中尉(中尉):中隊長、副中隊長、小隊長
少尉(少尉):小隊長
ニャーナ 2、ハバロフスク
「以上がこちらのスパイの諜報報告なのよ、エレーナ」とアーニャ。
「う~ん、台湾侵攻、南西諸島攻略・・・台湾の太平島占拠・・・北朝鮮の半島南進で韓国は放棄・・・今が台湾侵攻の好機・・・、この情報は日本政府には伝えたんですか?」
「内閣情報調査室と自衛隊の幕僚監部の担当者には話したわ。え~っと、誰だっけ?空自の紺野二等空佐という女性が担当していた」
「紺野二等空佐?(この前来ていた遠藤夫妻を派遣した人だったような・・・)」
「紺野二等空佐は真剣に受け止めてくれたわ、彼女はね。だけど、あの日本でしょ?この情報がどこまで上に届くのか?またまた、お話し合い、善処します、検討します、憂慮しています、遺憾に思います、で終わっちゃう気がする」
「確かに、この国の危機意識は低いわ。だけど、私レベルでなんとかできる問題じゃない」
ジトコ大将が話に割り込む。「それから、日本政府から正式に依頼が来たんだ。佐渡に駐留しているオスリャービャとペレスヴェート、ポモルニク型エアクッション揚陸艦を4隻、貸してほしいと」
「ハイ?なんのことです?」
「兵器輸送をお願いしたいという話だ。北の韓国侵攻で自衛隊の艦艇が払底している。貨物輸送艦も足りない。そこで、我が海軍艦艇で、佐渡を出港、佐世保で燃料とミサイルなどの補給を行って、沖縄を経由、石垣島という沖縄本島から400キロ、台湾から240キロの距離にある離島に自衛隊装備を運搬する任務なんだ。戦闘をするわけじゃない」
「それで、パパ、了解したの?」
「ああ、こちらこそ、日本政府にまた貸しを作れてうれしいよ。なにせ、ロシア連邦と手切れしたからカネがないんだよ、我々は。日本の財閥に樺太でジャンジャン天然ガスを採掘していいから、前借りさせて欲しいくらいだ」
「銭ゲバみたいね?この兵器輸送は・・・有償?有償なのね!お金を要求したのね!」
「無い袖は振れない。金がなければ国民も文句を言う。南西諸島が百億円で防衛できれば安いもんだよ。ところで・・・」
「パパ、まだあるの?」
「ああ、南西諸島防衛で在日米軍空軍のバックアップがもしもないと空自だけでは困るだろう?と思ってな、日本政府に申し入れた。前向きに検討すると言っていた」
「何を手配なさったの?パパ?」
「今、ロシアの国営軍事コングロマリット、ロステックがUAEやインドに売り込みをかけている最新型ステルス戦闘機、Su-75、『チェックメイト』がここにある。ロシア連邦と袂をわかったが、ロステックの会長も商売は別とぬかしおる。それで、実戦で『チェックメイト』が中国の殲20よりも高性能なら売り込みに有利だろう?と言ったら使ってくれとこうきたもんだ。『チェックメイト』八機編隊を石垣島に派遣する。ウラジオから石垣島まで2,200キロ。『チェックメイト』の航続距離は3,000キロ。ロステック曰くは、F-35並以上の能力だと言っている。どうだか知らんが。自衛隊も買わんかね?約28億から33億円だよ。F-35 1機で4機買えるんだよ。安いもんだけどね・・・ま、アメリカが邪魔するだろうが・・・」
「パパ、武器商人も始めたの?」
「何事も東ロシア共和国のためだよ。『チェックメイト』の装備搬送用に輸送機のアントノフ72も1機送る。アメリカ製のミサイルや弾丸は兵器装着のパイロンが合わないので使えないからな」
「・・・」
「そうそう、編隊の機長はアレクサンドラに頼んでおいた。仲良くやってくれ」
「ゲッ!アレクサンドラァ~?勘弁して!」
「まだ、すぐってわけじゃない。日本政府とも調整しないといかんからな。途中給油の問題もあるかもしれん。いずれにしろ、オスリャービャとペレスヴェート、ホバーの佐世保、石垣島への派遣を準備してくれ。オマエはいかんでよろしい。だれか、気の利く人間を派遣しろ。南国の島だ。バカンスみたいなもんだ」
「アデルマンもアナスタシアも入院中です」
「あの、下士官上がりの有能な二人がいるだろ?」
「スヴェトラーナとアニータですか?」
「アカデミー士官学校上がりのオマエやアデルマン、アナスタシアよりも彼女らのほうが頼りになる」
「失礼な!」
「軍隊の背骨は下士官だよ、エレーナ。曹長、兵曹長がしっかりしている軍隊は強いんだ」
「了解いたしました。南の島かあ。良いよなあ・・・」
「バカンスみたいなもんとは言ったが、兵器輸送だ。くれぐれも注意しないと。特に中国に勘ぐられるわけにはいかないから、日本との友好親善のための航海とか適当に理由を考えておけ」
「わかりました」
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