ケーキの上の一粒のラムレーズン 第二宇宙

✿モンテ✣クリスト✿

文字の大きさ
8 / 8
第1章 1985年12月7日以後

第8話 絵美のコンドミニアム、1985年12月11日

しおりを挟む
19851211

 俺たちは、モルグを出た。三人に聞いた。「娘さんの住まいは、ピーター・クーパー・ビレッジといって、このモルグの裏手にあるんだ。もうすぐそこなんだが、住まいを見るかね?鍵は不動産屋から預かってあるんだが」というと、三人は「ぜひ、見たい」と言った。「じゃあ、ヨウコ、俺の車について来てくれ」と言って、車を出した。

 守衛所で「NYPD、ノーマンだ」とバッチを見せた。「ガイシャの部屋の検分だ。いや、殺されたのはここじゃない。心配するな。俺の車の後ろのキャディラックは連れだ。通してやってくれ」と言って、C棟の8階、801号室に向かった。

19851211

 私、明彦、絵美のママは、絵美さんのドミトリーの玄関前にいた。ノーマンは遠慮するよ、ただし、何か持ち出すときは俺に見せてくれ、と言って、廊下で待っていた。私たちは部屋に入った。

 室内は多少雑然としていたが、私の部屋よりは遙かにマシだ・・・

 絵美のママは、胸がいっぱいらしく、絵美の洋服ダンスの中を見ている。私は彼女に「絵美の本棚を見ていいでしょうか。何か狙撃された理由がある書物とかファイルがあるのではないかと思います」と聞くと「ええ、ええ、ご自由にどうぞ」と言って、絵美の寝室に入った。私と明彦は絵美の書斎に行った。

「明彦、何を探しているの?研究ファイルはこっちの本棚よ。そっちの本棚は日本の本しか詰まってないじゃない?」
「ぼくの探しているのは・・・これだ」と、明彦はその本を差し出した。濃い緑一色のカバー、白いフォントで、湾岸道路、片岡義男。
「片岡義男?なんなの?」と私が訊くと、「ぼくがあげたんだ。カバーが気に入ったから。絵美が『あら?片岡義男?私、このような本は読まないわ』と言ったよ。でも、洋子、本を開いてみるといい」と明彦が本を差し出して言う。

 私は、本を開いた。本の中身はダイアリーだった。カバーとまったく同じサイズで同じ厚さの英国の老舗のダイアリーだった。「あ!」

「去年、まず、ダイアリーを買った。それは毎年絵美が使っているヤツだから。それにピッタリのサイズの本は?と探していたら、片岡義男の湾岸道路がちょうど良かった。彼の本の中身はぼくの本棚の隅でホコリをかぶっている。ぼくだって、片岡義男なんか読まないよ。なんとなく、こういうのがしてみたかっただけだ。でも、彼女は気に入ってくれたようだよ。『フン、おかしなことして』と憎たらしげに言っていたけどね。洋子、何が書いてある?」

「明彦、いかに私でも、絵美さんのダイアリーを私は読むわけにいかないわよ」と、明彦にダイアリーを戻した。
「なぜ?」
「明彦の絵美さんだから。彼女だって、私のダイアリーは読まないでしょうね。あなたが読むのよ」
「そんなものなのかな・・・まあ、いいや。え~っと・・・」と、明彦は言うと読み出した。

 私は大学の研究ファイルがある本棚に戻って、ファイルをチェックする。Vol.01、02、03、04、05、07、09、10、12・・・ファイルの一部が飛んでいる。ない。Volume 06、08、11はどこに行ったのか?

 絵美のダイアリーを読んでいた明彦が私を呼んだ。「洋子、ちょっとこれを読んでみてよ」と言う。彼がダイアリーを私に差し出した。

「絵美に初めて会ったときから、絵美は犯罪心理学、その一部門のプロファイラーになろうと思っていた。初めて会った時から、彼女が例に出したのは、シャロン・テート事件、チャールズ・マンソンの話だった」と明彦が説明する。「ほら、ここのページで、プロファイラーのことが書いてある」と絵美の几帳面な日記の開いてあるページを指で抑えた。

 プロファイラー?ああ、あれね。私は、モンペリエの講義のために調べていた資料でプロファイラーのことを知っていた。そこには日本語でこう書いてあった。

(プロファイリング技術の精度をより高めるため、1979年から1983年にかけ、BSU(FBI行動科学課)の捜査官はシャロン・テート殺害事件のチャールズ・マンソンら、服役中の多くの殺人犯に面談し、生い立ち・行動様式等を聞き出していた)

(1982年、米国バージニア州クアンティコのFBIアカデミーに「反復殺人者の素性を割り出して犯人をつきとめる」目的でNCAVC(国立暴力犯罪分析センター)が設立され、全国規模の情報交換センターとしてデータベースと専門家を集約し、全米における凶暴犯逮捕プログラムとプロファイリングの中核施設とした)

(現在このNCAVCの行動科学部特別捜査官に配属されるためには、最低でも修士の学位と一定以上の捜査経験が求められる。以上の点から判るようにFBIプロファイリングチームは警察に対する助言者であり、犯罪分析専門担当者であり、犯罪研究者であるが捜査官ではない。後述のデヴィット・カンターはFBIプロファイリングチームを評する際に『犯罪捜査コンサルタント』と言う表現を用いている)

 絵美は「最低でも修士の学位と一定以上の捜査経験が求められる」に赤のアンダーラインを引いていた。どういうことかしら?彼女は、ニューヨーク市立大学の大学院研究生よね?「修士の学位と一定以上の捜査経験」はないはず?でも、正規配属ではなく、研究生という身分なら、大学に所属しながら、クアンティコの一員として、『犯罪捜査コンサルタント』アシスタント程度にならなれるかも?彼女は、FBIへの配属を狙っていたの?プロファイラーになるために?NCAVC(国立暴力犯罪分析センター)?

「絵美は犯罪心理学、その一部門のプロファイラーになろうとしていた。そのてっとり早い手段がFBIに潜り込むということじゃないのかな?それとも、すでに、FBIに潜り込んでいたかだよね」と明彦が言う。「それで、ここも見てくれ」と別のページを開いた。

 そこには、マンソン・ファミリーとシャロン・テート殺害事件、ジョン・ヒンクリー、ジョディ・フォスターのストーカー、副大統領で元CIA長官のブッシュ、CIA、FBI、ピンカートン社などの言葉が散見された。FBIのNCAVC(国立暴力犯罪分析センター)、凶暴犯逮捕プログラム、プロファイリングの技術資料などの言葉があり、マンソン・ファミリーとシャロン・テート殺害事件の資料は「Volume 06参照」、ジョン・ヒンクリー、ブッシュファミリー、CIA、FBI、ピンカートン社の資料は「Volume 08参照」、「Volume 11」はFBIのNCAVC(国立暴力犯罪分析センター)と凶暴犯逮捕プログラム、プロファイリングの技術資料とあった。

19851211

 廊下で待っていると、ドアが開いてヨウコが俺を呼ぶ。書斎に招き入れられた。

 そして、キツイ調子で「ノーマン、正直に言って。正直に言わないと、あなたの腸を引きずり出して、私のガーターベルトの代わりにしちゃうわよ」と、ロンドンのコクニー訛りを真似てニヤッとして言った。

「おいおい、ヨウコ、日本人の淑女がそういう言葉を使っちゃいけないなあ」と俺は言った。日本人の女性で、コクニー訛りで喋れる人間がいるのかい?え?

「ノーマン、エミの本棚を探っていたら、彼女の資料の一部が見当たらないのよ。Volume 06、08、11というファイルがないの。あなた、その資料を知らない?NYPDの捜査員の誰かが持ち出したとか?」
「Volume 06、08、11?・・・ああ、それなら、俺が持っているよ。エミが狙撃された原因になるかもしれないと思って持ち出した。悪かった」
「それはよかったわ。どこにあるのよ?」
「俺の車の中だ」
「すぐ、持ってきて頂戴!」

 おっかねえ女だ。彼女、俺よりも年下だろ?「わかった。すぐ持ってくる」と俺は部屋を出て、階下の駐車場の俺の車からファイルを持ってきた。

「これだろ?何か、彼女の手書きの日本語のページは読めなかったが、マンソン・ファミリー、シャロン・テート殺害事件、ジョン・ヒンクリー、ブッシュファミリー、CIA、FBI、ピンカートン社、FBIのNCAVC(国立暴力犯罪分析センター)、凶暴犯逮捕プログラム、プロファイリングの英文のコピーがあったから、これから読もうと思っていたんだ。ついでに、絵美の手書きの日本語の部分を説明してくれると助かる」
「ああ、誰かに盗まれたかと疑っていたのよ、ノーマン」

 ヨウコはダイニングテーブルに3冊のファイルを広げた。「ノーマン、さっきマーガレットが狙撃に使用された銃は『アーマライトAR-7というライフル』だというのが弾丸からわかって、『そのライフルの持ち主は、探偵事務所のピンカートン社の探偵が登録していた。だけど、この探偵、2週間前に死亡している。狙撃されてね。他殺だわ。そのあと、銃の行方はわかっていないのよ』と言っていたわね?う~ん、となると・・・まずは、このファイルね」とジョン・ヒンクリー、ブッシュファミリー、CIA、FBI、ピンカートン社の資料のVolume 08を広げて読み出した。

 俺もピンカートンが怪しいと思っていたのだ。ライフルはピンカートンの探偵が持ち主で、そいつも殺されて、銃は行方不明だったからだ。

 マーガレットと俺の考えでは、狙撃に使用された使用された銃器は、アーマライトAR-7ライフル。 口径5.6mm(22口径)の競技用ライフルを使用したのではないか?プリズムを使用した光学照準機を使用したのかもしれない。小口径の弾丸なので、弾丸は頭部を粉砕せずに、頭部に残存したと想定される。射入口は左側頭部で、弾丸は右側頭部内から摘出された。射入口と弾丸の残存位置は角度差40°前後である。よって、銃器が使用された位置は、被害者が座っていたオープンカフェの反対側のビルの3~8階だと思われる。反対側のビルの部屋をひとつひとつ洗うのは手間がかかるな、と俺は思った。

 ピンカートン社ってのは、CIA、FBI等のOB達によって、創立され、飲酒癖・窃盗癖・強姦・収賄等で、CIA、FBI、NSAを解雇された「犯罪者・ゴロツキ」の再就職先=身分保障先となっている。

 アメリカ国内では、「愛国者法」の成立、国土安全保障省の創立等々で、一般市民に対する政府による「私生活の監視」体制が急速に進んでいる。

 これまで、犬猿の仲でさえあった、CIA、FBI、NSAと言った既存の組織の間でも、「一般市民監視」体制部門で、協力の動きが出て来ている。この各組織の縦割り、反目の「緩衝材」となっているのが、CIA、FBI、NSAの下部組織として、市民監視に乗り出している、ピンカートン社等の、民間監視ビジネス会社である。

 外見は、警備会社の形態を取っているが、既存の警備会社に、こうした市民監視を「依頼している」と言うものではなく、市民監視のために、こうした、犯罪者群が、一般市民の私生活情報を「収集」し、監視し始めている。

 そして、ドナルド・レーガンを狙撃したのがジョン・ヒンクリーだった。奇しくも、彼は羊たちの沈黙でプロファイラー役をしていたジョディ・フォスターのストーカーだった。ヒンクリーの家と当時副大統領で元CIA長官のブッシュ家とは関係があったと言われている。俺は、レーガン狙撃にブッシュ家がからんでいるんじゃないか?と思っている。

 レーガン暗殺未遂の後、ヒンクリーは1982年の裁判では13の罪で起訴されたが、6月21日に精神異常が理由で無罪となった。弁護側の精神医学上の報告書では「ヒンクリーが精神異常」であると報告したが、検察当局の報告書は彼を法律上健全であると宣言した。



「絵美の資料だと、こう日本語で書いてあるわ」とヨウコが英語で解説した。

 ヒンクリーの父親ジョン・ウォーノック・ヒンクリーは副大統領ジョージ・H・W・ブッシュへの一番の寄付を行っていた。暗殺未遂事件の数時間前に、ヒンクリーの兄弟、スコット・ヒンクリーの会社ヴァンダービルト・エナジーは不適切な価格設定によりエネルギー省から警告を受けていた。

 エネルギー省の警告の翌日に予定されていたスコットとニール・ブッシュの夕食会はキャンセルされた。が、ヒンクリーの家族とブッシュ一家に深い関係があること、およびレーガンを搬送して病院に向かう途中シークレット・サービスが道に迷ったことなどが非常に疑わしい。

「レーガン暗殺未遂犯の家族と副大統領に関係がある?なんだろう?」と明彦が首を捻る。
「ブッシュについては、彼女はこう書いてあるわ」

 ブッシュは1966年と1968年の終わりにテキサスの第7区から下院議員に選任された。彼はその後1970年に、民主党の予備選挙でヤーボローを破ったロイド・ベンツェンに、二度目の上院議員選挙で敗れた。

 ブッシュは70年代を通してリチャード・ニクソンおよびジェラルド・フォード大統領の下で、共和党全国委員会委員長、アメリカ国連大使、中華人民共和国への特命全権公使(米中連絡事務所長)、CIA長官(1976年1月30日~1977年1月20日)、危機委員会評議員などの要職を歴任した。

「ジョン・ヒンクリー、ブッシュファミリー、元CIA長官の副大統領、CIAが関与するピンカートン社、エミを狙撃したライフルの持ち主がピンカートン社の探偵、この探偵が2週間前に狙撃されて、他殺で死亡している。銃の行方不明・・・エミが調べていたのがこれらの人間、FBIの訓練生だったかもしれない・・・CIAとFBIは仲が悪い・・・すごく臭わない?」とヨウコ。
「ヨウコ、俺は陰謀論者じゃないが、そんな俺でもすごく臭うな、これは」

「あ!このページにはヒンクリーのことが詳しく書いてあるわ」と更に説明した。



 ジョン・ヒンクリーはオクラホマ州アードモアで生まれ、テキサス州とコロラド州で成長した。1973年から1980年までテキサス工科大学で休学と復学を繰り返した。

 1976年にはソングライターになることを望みロサンゼルスに行くが、成功しなかった。彼の両親に宛てた手紙には身の上の不運を嘆く言葉と金銭の援助を願う言葉でいっぱいであった。彼はコロラド州エバーグリーンの両親の自宅へ戻った。

 映画『タクシードライバー』を繰り返し見たヒンクリーは、映画の中で売春婦を演じたジョディ・フォスターへの偏執的な憧れを抱く。

 フォスターがイェール大学に入学したとき、ヒンクリーは彼女の側に近づくためにコネチカット州ニューへブンに転居し、彼女の自宅のドアの下に自作の詩を書いたメッセージを挟み込んだり、繰り返し電話をかけるなどした。

 フォスターとの接触に失敗した彼は、飛行機をハイジャックし彼女の前で自殺して注意を引こうとする計画を考えた。

 結局、彼は歴史上の人物として彼女と同等の立場になるために、大統領の暗殺を企てる。計画実行のため彼は当時の大統領ジミー・カーターを州から州へと追いかけたが、テネシー州ナッシュヴィルで重火器不法所持の罪で逮捕された。

 無一文になった彼は家に帰り、神経衰弱となり精神療法を受けたが改善しなかった。1981年になると新任大統領のロナルド・レーガンを再びつけねらい始めた。

 ヒンクリーはレーガン狙撃事件の直前にフォスターに宛てた手紙を書いた。:

 過去7ヶ月にわたって私はあなたに対して多くの詩や言葉、愛のメッセージを送りました。私たちは二三度電話で話したけれど、私はあなたに厚かましく近づいて自己紹介することはありませんでした・・・私が今この計画を進める理由はもはやあなたに印象づけるのを待つことが出来ないからです。

 レーガン大統領暗殺未遂後のワシントン・ヒルトン・ホテル前の混乱。

 1981年3月30日、ワシントンD.C.のヒルトン・ホテルでレーガンがAFL-CIO会議で演説した後にホテルを出ようとしたところで、ヒンクリーはリボルバー銃を六発発射した。弾丸はレーガンの胸部に命中し、報道担当官ジェームズ・ブレイディ、警官トマス・デラハンティおよびシークレット・サービスのティモシー・マッカーシーが負傷した。

 ヒンクリーは逃亡しようともせず、その場で身柄を拘束された。レーガンはジョージ・ワシントン大学病院で緊急手術を受け助かった。ブレイディは頭部に弾丸を受け、永久に障害が残った。マッカーシーとデラハンティは軽傷で済んだ。

 ヒンクリーの使用した銃はローム RG-14 リボルバー22口径、1と7/8インチの銃身長であった。シリアルナンバーはL731332。

 ヒンクリーは1982年の裁判では13の罪で起訴されたが、6月21日に精神異常が理由で無罪となった。弁護側の精神医学上の報告書では彼が精神異常であると報告したが、検察当局の報告書は彼を法律上健全であると宣言した。

註)この時点では起こっていないが、ヒンクリーは、ワシントンD.C.の聖エリザベス病院に拘束された。彼は両親の監督下に1999年に退院を許可され、2000年には監督なしでの釈放が許可された。これらの権利はヒンクリーがフォスターに関する資料を密かに病院に持ち込んでいたことが判明し、無効となった。

 ヒンクリーの無罪判決は広範囲の狼狽を引き起こし、下院議会および多くの州で精神異常者の犯罪に対する法律改正につながった。

 アイダホ、カンサス、モンタナ、ユタの四つの州が免罪措置を全て廃止した。ヒンクリーの事件に先立つ裁判では、重罪事件の裁判の2%未満で精神異常での免罪が使用され、その80%が敗訴した。

「『ヒンクリーは1982年の裁判では13の罪で起訴されたが、6月21日に精神異常が理由で無罪』?なぜ?大統領を狙撃した犯人が、重罪事件の裁判の2%未満で精神異常での免罪が使用され、その80%が敗訴するにもかかわらず、無罪?」とヨウコが考え込んだ。

 確かに、ヒンクリーが無罪を勝ち取ったのは奇跡に等しい。そもそも、文無しの彼にどういう有能な弁護士がついたのか?誰が何らかの隠蔽工作を行なったのか?それがブッシュファミリーだとしたら?



 アキヒコが「つまり、絵美が何かヒンクリーのことを調べていて、偶然か何か、ブッシュファミリーに関わることをつかんだとしたら?元CIA長官のブッシュがCIAに今でも影響力があったとしたら?絵美がFBIのクアンティコ所属の研究をしていたとしたら?、何かまずいアメリカ合衆国の政治トップにまつわる醜聞を知ってしまったとしたら?ピンカートン社に関係する人間が絵美が狙撃された反対側のビルにいたとしたら?・・・まさか、こういうことなのか?」と言う。

 俺は頭をかいた「何か、そのようなことらしいが・・・俺は警官だ。FBIでもCIAでもない、単なるNYPDの警視にしか過ぎない。こういう国家的な問題を捜査するのは任務外だ。できるだけのことはしたいと思うが、こういう件はしばしば迷宮入りになる。申し訳ない話だがな・・・」
 
「いいわよ、ノーマン。あなたの立場はわかるわ。そうね、こうしましょう。この3冊のファイルは私が持ち帰っちゃダメかしら?それで、日本語の部分を私が翻訳する。それで、それをコピーして、あなたとアキヒコとエミのママに送るわ。捜査してもしなくても、私たちでこの情報は共有するのよ」と洋子。

「まあ、今のところ、この狙撃事件に直接の関連が証明されない資料だ。想像はできるが、現時点で絶対に証明できない。疑わしいってだけだ。だから、ここにあるものは、一度検分したので、あとは遺族の所有になる。遺族がそれでよければ、ヨウコ、そうしても俺は構わない」

「それで結構ですわ」といつの間に来たのかエミの母親が部屋に入ってきた。「みなさんが娘の狙撃の調査をしてくださるのはありがたいですが、それがあなた方の日常生活をかき乱すようなことは望みません。それで娘が生き返るわけでもないです。ですので、ヨウコさんがそのファイルにご興味がおありであれば、フランスに持って帰っても構いません」と流暢なクイーンズ・イングリッシュで言った。

「確かに、ママ、このファイルに書いてある内容を今ここニューヨークでどうこうできることでもありませんね。では、このファイルは私がフランスに持ち帰ります。翻訳したら、オリジナルはお送りいたします。それよりも、ここの荷物の片付け、日本への送付、部屋の解約、火葬の手続き、航空機手配などやることがたくさんありますね。仕方なし、今回はここまでで諦めましょう」

「残念ながら、ヨウコ、そのようだな」と俺はヨウコの肩を叩いた。
「でもね、ノーマン、近い将来、あなたとマーガレットにはお会いするような気がするわ。これで終わりとは思えないわ」と彼女が言った。
「ああ、俺もできる限り、この件は心に留めておく。マーガレットにもそういっておくよ」

 彼らが部屋を出て、俺は部屋の鍵を閉めた。俺は、ここの鍵をエミの母親に渡した。

 さて、これで、ケースクローズドだろうな、と俺は思った。

 ヨウコの言うように、そうはならなかった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...