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第2章 イシガキ作戦、オキナワへ
第5話 事務職の女性は実は二等空佐だった
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佐世保で兵器弾薬、燃料、消耗品、食料を満載したオスリャービャとペレスヴェートは出港して、一路沖縄に向かった。積み荷の一部をおろすためだ。
出港して半時間ほどして、広瀬二尉がアニータ少尉から呼び出しを受けた。申し訳ないですが、小官の居室に来ていただきたい、とのことだった。佐官、尉官の居室の奥がアニータの居室になっていた。廊下の途中でソーニャと出会った。「あれ?ソーニャ、どこへ?」「アニータ少尉から呼び出しなんです・・・カオル・・・」まだ、ソーニャは婚約したのに広瀬の名前を呼ぶのに慣れていない。
アニータの居室に入ると、事務職の紺野さんがソファーに座っていた。「あれ?紺野さんじゃないですか?」と広瀬。「広瀬二尉、石垣島までご一緒させていただくことになったの」という。佐世保海自基地の事務職が出張?変だよなあ、管轄が違うよな?広報活動なんだろうか?と広瀬は考えた。広瀬とソーニャはアニータに促されて紺野の正面のソファーに座った。
アニータが「実は、日本の首相官邸から連絡で、紺野さんと・・・いえ、石垣島まで紺野二等空佐の当艦への乗船を指令されましたので二人にも知っておいてもらいたいと思いまして」と言う。首相官邸?指令?なんのことだ?と広瀬は思った。
「ハ?紺野二等空佐?・・・でありますか?」と広瀬はソーニャと顔を見合わせた。
紺野がソファーから身を乗り出して二人に言う。「広瀬二尉、ソーニャ准尉、わるい、わるい、事務職なんて言っちゃって。佐世保でね、石垣島行きの待機をしていたら、あなた方に関する変な指令が市ヶ谷から来たんで、面白そうだから本物の事務職の女性と変わってもらったのよ。あのね、私、今は内閣情報調査室に防衛省から出向しているの。所属は、自衛隊情報保全隊本部、情報保全課」
「え?それは、諜報担当の?」驚く広瀬。
「そう、諜報が主任務。安心してね、広瀬とソーニャをスパイしに来たんじゃない。南西諸島で人民解放軍の諜報部隊と日本人のシンパが暗躍しているんで、その調査が目的なのよ」
「紺野二佐、そうでありましたか!了解いたしました」驚いた広瀬はなんとか言葉を返した。彼女、スパイだったじゃないか!
「私の所属は内緒にしてね」
「了解であります!」
「そうそう、佐渡であなたたちと一緒だった南禅と羽生は防衛大学の同期なのよ。あの二人とは縁があるのね」
「南禅二佐・・・あの、航空自衛隊の方々って・・・変わってますね?・・・ご、ゴメンナサイ」とソーニャ。
「あら、私、南禅ほど変わってないわよ。普通よ、普通。ところで、昨日は良かったようね?相性が合ったのかしら?ねえ、ソーニャ?」
「紺野二佐・・・あの・・・ええっと・・・私、初めて逝きました・・・」と両手で顔を覆う。
「お~お、お熱いこと。いいわねえ。私も結婚したいわ。広瀬、キミの部下、食っちゃってもいいかしら?アラフォーだけどまだまだ現役よ?」
「紺野二佐、返答に困ります!」
「広瀬を食うと、ソーニャに殺されそうだからね」
「ハイ、紺野二佐、そんなことをなさったら、あなたを銃剣で八つ裂きに致します!」とニコニコしてソーニャが言う。
その後、雑談で、中国の台湾侵攻の話を紺野とした。広瀬が促すので、ソーニャが彼女の持論の石垣島侵攻の話を紺野にした。
彼女の南西諸島の分析を聞いた紺野は「ソーニャ、あなたの推測はかなり高い確率で起こるかもしれない」とかなり感心したようだ。
「留萌《ルモイ》の陽動作戦と主目的の佐渡ヶ島侵攻、その相似としての、尖閣諸島と石垣島、兵站維持と敵のインフラを奪う見方は納得できる。今回、私が石垣島、与那国島などを回るのも、南西諸島の人民解放軍の諜報部隊と日本人のシンパの動きが活発になっているため。南西諸島から発信される暗号通信の量が増えている。中国の主目的は台湾そのものだけど、彼らにとって、自衛隊の干渉、ひいては、在日米軍の干渉は怖い。南西諸島に居住している日本人のシンパを理由に住民保護とか、沖縄独立とか、バカな中国の口車に乗る日本人もいる。ウクライナで親ロシア派住民を口実にしたロシアのやり方よね。あ、アニータ、ソーニャ、ごめんね」
「いいんですよ、違うロシアの話ですから」とアニータ。
「あなた方の東ロシア共和国は、欧州ロシアとは違う国になったもんね。そう、それで、最近、南西諸島に移住してきた沖縄県外の人間の中に、革マル派、中核派などの破壊活動防止法(破防法)に引っかかる組織くずれの人間が増えている。ところが、沖縄県自体が知事が左旋回気味で、南西諸島の警察力の強化に難色を示している。沖縄県警の公安は人がいないため、調査がうまくいってないってこと。事前調査を政府としてもしないといけないので、佐世保基地所属の営繕課を隠れ蓑にした私が自衛隊の現状調査なんて口実で南西諸島の各自治体と打合せをする、という筋書きなの」
「だから、中国は、尖閣諸島はおいておいて、後で占領するとして、目標とするのは、沖縄本島よりも台湾に近い南西諸島の島々だと思う。第一は八重山列島、第二は宮古列島ね。面積は、西表島(いりおもてじま)も石垣島も290、220平方キロとあまり変わらないが、西表島には空港がない。石垣島には、ソーニャの指摘の新石垣空港が有る。与那国島は空港が有るが面積は30平方キロ弱で、小さく、兵站の維持が難しい。現地調達も無理。だから、中国の第一目標は石垣島と我々は考えている」
第二目標は、宮古列島の下地島。ここは面白い島で、面積は10平方キロで、面積の約98%を公有地(国・県・市有地)、人口95人、ほとんどが空港施設なのよ。日本で唯一、パイロット訓練用空港として造られた下地島空港がある。もちろん、自衛隊は駐屯していない。
「私だったら下地島を狙うわ。石垣島と違って、自衛隊の駐屯はない、日本国内のパイロット養成の訓練飛行場だから、新石垣空港の2,000メートルじゃない、3,000m×60mの滑走路があるのよ。問題は、石垣島よりも沖縄に近く、面積が小さいから兵站維持が難しいってこと。伊良部島とは橋でつながっていて、近くに宮古島があって、これも橋でつながっているから、それほど悪いこともないけれど」
全員、これから向かう沖縄、石垣島の将来を考えて暗鬱な気分になった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ポモルニク型エア・クッション揚陸艦艇、奄美大島沖
ロシア軍のポモルニク型艦は、エア・クッション揚陸艦艇としては世界最大で、アメリカ軍のLCAC(LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇)のように母船である揚陸艦から海浜に車両などを運搬する揚陸艇ではなく、洋上を高速自力航行して戦車揚陸艦のようにビーチングして揚陸を行う、単艦運用される大型の揚陸艇である。
ただし、長距離渡洋侵攻を目指したものではない。その運用が想定されているのは内海や近距離での作戦である。その航続距離540キロ程度である。速度は圧倒的に速く、時速96キロ以上である。
全幅26メートル、全長56メートルのエアクッション揚陸艦は、小型揚陸艦のオスリャービャとペレスヴェートの船内ドックに入り切るものではない。自力航行で沖縄へ向かうしかない。
だが、佐世保から那覇まで直線距離で800キロほど有る。このホバーでは途中で燃料切れだ。種子島沖合の馬毛島の港で給油する案もでたが、航路が長くなるだけだ。
そこで、燃料の有るうちは自力で航行し、燃料が少なくなった場合は、オスリャービャとペレスヴェートに曳航してもらい、両艦から燃料補給させてはどうか?ということだ。無茶な話だが、検討した結果、可能だった。
旧型艦で鈍足のオスリャービャとペレスヴェート両艦の速度では、佐世保から那覇まで30時間ほどかかる。途中、エアクッション揚陸艦に給油するとして、結局、二日程度の航行時間を予定した。
夕陽が東シナ海の地平線に落ちていく。オスリャービャとペレスヴェート両艦は、ホバーに給油作業を行っていた。全幅16メートルの両艦は、26メートルのホバーよりも幅が狭く、ホバーがやけに大きく見える。
ペレスヴェートの前部76.2 mm単装両用砲のあるデッキから、紺野二佐、アニータ少尉が前部甲板を見下ろしている。前部甲板には、広瀬二尉とソーニャ准尉が歩きながら話し込んでいるのが見えた。
「あの二人、チビデカコンビだねえ」と紺野。
「本人たちが『ゴリラと子猫』と言ってました。183センチの広瀬二尉に154センチのソーニャですものね」とアニータ。
「私だったらあんなゴリラにのしかかられたら潰れちゃうよ。もちろん、広瀬はこんなおばさん、相手にしないだろうけど」
「あらあら、二佐、まだ現役でしょう?美女の南禅二佐に負けませんよ」
「南禅?あれは美女の皮を被った魔女だよ。頭のネジが外れているのさ。羽生は何がよくて、南禅にくっついているのか、わからん」
「あの二人もちょっと変わったコンビですものねえ」
「羽生が南禅に興味がなくなったら、南禅も気づくんだろうが。南禅は人並みの感情に欠けているからな。私とは違う。アニータ、イケメンのロシア人を紹介してよ」
「ロシア人男性はお勧めしません。ウォッカの飲み過ぎで、67才で死にます。ロシア人男性の平均寿命です。私が日本人の"とおちゃん"を選んだのもそのためですわ」
「とおちゃん、か・・・」
「バカスカ、子供を産もうかなと思ってます」
「あんたらロシア女性、タフそうだもの。超安産型のケツだもんな。バカスカ産めるよ。日本の少子化を止められそうだ」
「そう言えば、ソーニャが、紺野二佐の自衛隊情報保全隊の調査第2部が、自衛隊員の外国人配偶者が諜報員かどうか、身辺調査する、警察の公安も身辺調査するって言っていました。自衛隊情報保全隊の二佐に聞くのもおかしな話ですが、私達、身辺調査されるんですよね?」
「一応はね。だけど、こんなバカげた諜報活動があると思う?キミらが女スパイで、ハニートラップを仕掛けて、日本人男性と結婚、諜報活動を行うの?バカスカ子供を産みながら?」
「わかりませんよぉ~。東部軍管区のジトコ大将発案ですから・・・」
「大将はエレーナ少佐の父上だったわね。エレーナ少佐が鈴木三佐をひっかけて、結婚したってこと?ロシア人女性兵士が『サドガシマ作戦』で、三百人の死傷者を出したのに?それで、諜報員の立場を隠蔽?馬鹿馬鹿しいわね。一応、書類上、審査しますけどね。それよりも、内閣情報調査室と自衛隊が考えている案がある。あなた方、結婚したら除隊するんだろう?」
「ハイ、民間人になって、私は、とおちゃんが農家なので、農業を手伝おうかなと思ってます」
「まあ、それもいい。ただ、あなた方は軍事情報の宝庫だ。自衛隊で教官もできるし、参謀補佐なんてのもできる。戦闘戦術も教えられる。エレーナ少佐の部下は通信情報隊でしょ?通信諜報活動のスーパーバイザーもできる。自衛隊員にならなくても、外注職員として働ける。と、こういうことを考えているのよ」
「ハァ、私でも?」
「もちろん、アニータ准尉は叩き上げの下士官上がりだから、その技術は相当売れるわね」
「もし、そういう打診が有るなら、とおちゃんと相談します。農家も厳しいと言ってますから」
「私の部下として働くかい?自衛隊員の俸給は安いけど、外注職員で特別手当を出すわ」
「魅力的ですわね?」
「腹が減っては、バカスカ、子供を産めないわよ。スヴェトラーナにも話しておいて。ヘッドハントされてるってさ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
奄美大島沖、ペレスヴェートドック内
防衛省は防衛上の空白地帯を解消するため、南西諸島で自衛隊配備を推進している。奄美大島、沖縄本島、宮古島、石垣島に陸上自衛隊のミサイル部隊を配備し、四拠点態勢で島嶼防衛を強化中だ。
防衛省が南西諸島に配備する03式中距離地対空誘導弾(SAM-4)、12式地対艦誘導弾(SSM-1改)。前者は、侵攻してくる中国の航空機や巡航ミサイルを迎え撃つ対空戦闘用装備、後者は、侵攻を試みる中国艦艇を阻止する装備。両者とも移動式発射機で機動性がある。有事には他の離島への展開も可能だとされている。
03式中距離地対空誘導弾は、ミサイル本体は発射筒を兼ねた角型コンテナに収められた状態で、発射装置及び運搬装填装置に各6発ずつ搭載、垂直発射方式である。12式地対艦誘導弾は、03式と同様。発射装置及び運搬装填装置に各6発ずつ搭載、垂直発射方式。
オスリャービャとペレスヴェートの船内ドックには、角型コンテナに収められた03式、12式が各6発ずつ、各4セット、24発+24発、それとコンテナなしのミサイル本体が、48発+48発格納されている。
半数のミサイルは、寄港する沖縄県うるま市の海自沖縄基地で引き渡され、残りの半数は、石垣港離島ターミナルのある久部良港に荷降ろしされ、石垣市平得大俣の陸上自衛隊駐屯地に搬送される。
その他に、石垣島の自衛隊駐屯部隊への砲弾、弾薬、消耗品、衣料、食料なども積載していた。船内ドックには通常は積載されている小型ホバーはない。その場所はすべて自衛隊から依頼の積載物で埋め尽くされている。むろん、このような数千トンクラスの強襲揚陸艦に入り切らない大型エアクッション揚陸艦は、曳航されてついてきている。オスリャービャに二隻、ペレスヴェートに二隻である。計四隻が自衛隊に貸与される。東ロシア共和国海軍の八十名のホバー運転要員は、貸与地の沖縄で下船する。
ペレスヴェートの広瀬二尉率いる水陸機動団は、これら積載兵器の積み込み、荷降ろしも担当していた。
ドックに来てこれら積載物を紺野とアニータが見ていた。「アニータ、こんな03式の対空ミサイル、12式の対艦ミサイル、役に立つと思う?」と紺野が聞いた。
「正直申しまして、日本政府、自衛隊が想定している大型艦船、J-20(殲20)などの最新式航空機で人民解放軍が攻撃してくれば有効と考えます。しかしながら、今回のサドガシマ作戦のように、ホバー、小型魚雷艇・ミサイル艇で上陸を敢行した場合、どうなんでしょうか?SAM-4、SSM-1改は、そのような分散型の小規模艦隊にはあまり意味がないでしょうね。それよりも、今回で痛感したのが、白兵戦のようなレトロな闘いでの通常兵器の不足です。歩兵の携行兵器が足りませんでした。それから、重装備の戦車、装甲車両ではなく、軽装備のタイフーンLのようなSUV車輌やモーターバイクがあったら、戦闘は楽だったでしょう。ウクライナでもそうですが、最新兵器ではなく、小型分散のレトロな兵器が非常に有効であると考えます」
「少尉、私も同感だ。私は内閣情報調査室出向、情報保全隊本部情報保全課所属だから、作戦立案の任にはないが、頭の硬直した市ヶ谷の統合幕僚監部に准尉の意見を聞かせたいよ。離島防衛を経験した准尉他ロシア人兵士、広瀬たちの水陸機動団の意見を離島防衛のために活かせないのが残念だよ」
「二佐、やはり、石垣島は人民解放軍のターゲットになるんでしょうか?」
「その可能性、大だな。石垣島駐屯のミサイル部隊、五、六百名、今回派遣される水陸機動団、四百名で、少尉、果たして石垣島が防衛できるかな?」
「佐渡では、北朝鮮人民軍三千名に対して、陸自水陸機動団千名、東ロシア共和国軍二千名でした。人民軍の死傷者は半数に達し、しかし、我が方も25%が死傷しました。惨憺たるありさまです。石垣島の防衛は、自衛隊のこの布陣では困難かと思います」
「まったく同感だよ、少尉。そうなったら、エレーナ少佐揮下の諸君らロシア軍最強女性部隊をオスプレイやC-1輸送機で石垣島に降下してもらうよう、ジトコ大将にお願いするか?まさかね。じゃあ、アメリカ海兵隊が助けてくれるかね?まさかだな。相手は核保有をしている大国。そうそう、核保有国相手に戦争を開始できないのは、ウクライナでも証明済みだ。自衛隊は、自衛隊だけで離島防衛をせざるを得ないんだ」
出港して半時間ほどして、広瀬二尉がアニータ少尉から呼び出しを受けた。申し訳ないですが、小官の居室に来ていただきたい、とのことだった。佐官、尉官の居室の奥がアニータの居室になっていた。廊下の途中でソーニャと出会った。「あれ?ソーニャ、どこへ?」「アニータ少尉から呼び出しなんです・・・カオル・・・」まだ、ソーニャは婚約したのに広瀬の名前を呼ぶのに慣れていない。
アニータの居室に入ると、事務職の紺野さんがソファーに座っていた。「あれ?紺野さんじゃないですか?」と広瀬。「広瀬二尉、石垣島までご一緒させていただくことになったの」という。佐世保海自基地の事務職が出張?変だよなあ、管轄が違うよな?広報活動なんだろうか?と広瀬は考えた。広瀬とソーニャはアニータに促されて紺野の正面のソファーに座った。
アニータが「実は、日本の首相官邸から連絡で、紺野さんと・・・いえ、石垣島まで紺野二等空佐の当艦への乗船を指令されましたので二人にも知っておいてもらいたいと思いまして」と言う。首相官邸?指令?なんのことだ?と広瀬は思った。
「ハ?紺野二等空佐?・・・でありますか?」と広瀬はソーニャと顔を見合わせた。
紺野がソファーから身を乗り出して二人に言う。「広瀬二尉、ソーニャ准尉、わるい、わるい、事務職なんて言っちゃって。佐世保でね、石垣島行きの待機をしていたら、あなた方に関する変な指令が市ヶ谷から来たんで、面白そうだから本物の事務職の女性と変わってもらったのよ。あのね、私、今は内閣情報調査室に防衛省から出向しているの。所属は、自衛隊情報保全隊本部、情報保全課」
「え?それは、諜報担当の?」驚く広瀬。
「そう、諜報が主任務。安心してね、広瀬とソーニャをスパイしに来たんじゃない。南西諸島で人民解放軍の諜報部隊と日本人のシンパが暗躍しているんで、その調査が目的なのよ」
「紺野二佐、そうでありましたか!了解いたしました」驚いた広瀬はなんとか言葉を返した。彼女、スパイだったじゃないか!
「私の所属は内緒にしてね」
「了解であります!」
「そうそう、佐渡であなたたちと一緒だった南禅と羽生は防衛大学の同期なのよ。あの二人とは縁があるのね」
「南禅二佐・・・あの、航空自衛隊の方々って・・・変わってますね?・・・ご、ゴメンナサイ」とソーニャ。
「あら、私、南禅ほど変わってないわよ。普通よ、普通。ところで、昨日は良かったようね?相性が合ったのかしら?ねえ、ソーニャ?」
「紺野二佐・・・あの・・・ええっと・・・私、初めて逝きました・・・」と両手で顔を覆う。
「お~お、お熱いこと。いいわねえ。私も結婚したいわ。広瀬、キミの部下、食っちゃってもいいかしら?アラフォーだけどまだまだ現役よ?」
「紺野二佐、返答に困ります!」
「広瀬を食うと、ソーニャに殺されそうだからね」
「ハイ、紺野二佐、そんなことをなさったら、あなたを銃剣で八つ裂きに致します!」とニコニコしてソーニャが言う。
その後、雑談で、中国の台湾侵攻の話を紺野とした。広瀬が促すので、ソーニャが彼女の持論の石垣島侵攻の話を紺野にした。
彼女の南西諸島の分析を聞いた紺野は「ソーニャ、あなたの推測はかなり高い確率で起こるかもしれない」とかなり感心したようだ。
「留萌《ルモイ》の陽動作戦と主目的の佐渡ヶ島侵攻、その相似としての、尖閣諸島と石垣島、兵站維持と敵のインフラを奪う見方は納得できる。今回、私が石垣島、与那国島などを回るのも、南西諸島の人民解放軍の諜報部隊と日本人のシンパの動きが活発になっているため。南西諸島から発信される暗号通信の量が増えている。中国の主目的は台湾そのものだけど、彼らにとって、自衛隊の干渉、ひいては、在日米軍の干渉は怖い。南西諸島に居住している日本人のシンパを理由に住民保護とか、沖縄独立とか、バカな中国の口車に乗る日本人もいる。ウクライナで親ロシア派住民を口実にしたロシアのやり方よね。あ、アニータ、ソーニャ、ごめんね」
「いいんですよ、違うロシアの話ですから」とアニータ。
「あなた方の東ロシア共和国は、欧州ロシアとは違う国になったもんね。そう、それで、最近、南西諸島に移住してきた沖縄県外の人間の中に、革マル派、中核派などの破壊活動防止法(破防法)に引っかかる組織くずれの人間が増えている。ところが、沖縄県自体が知事が左旋回気味で、南西諸島の警察力の強化に難色を示している。沖縄県警の公安は人がいないため、調査がうまくいってないってこと。事前調査を政府としてもしないといけないので、佐世保基地所属の営繕課を隠れ蓑にした私が自衛隊の現状調査なんて口実で南西諸島の各自治体と打合せをする、という筋書きなの」
「だから、中国は、尖閣諸島はおいておいて、後で占領するとして、目標とするのは、沖縄本島よりも台湾に近い南西諸島の島々だと思う。第一は八重山列島、第二は宮古列島ね。面積は、西表島(いりおもてじま)も石垣島も290、220平方キロとあまり変わらないが、西表島には空港がない。石垣島には、ソーニャの指摘の新石垣空港が有る。与那国島は空港が有るが面積は30平方キロ弱で、小さく、兵站の維持が難しい。現地調達も無理。だから、中国の第一目標は石垣島と我々は考えている」
第二目標は、宮古列島の下地島。ここは面白い島で、面積は10平方キロで、面積の約98%を公有地(国・県・市有地)、人口95人、ほとんどが空港施設なのよ。日本で唯一、パイロット訓練用空港として造られた下地島空港がある。もちろん、自衛隊は駐屯していない。
「私だったら下地島を狙うわ。石垣島と違って、自衛隊の駐屯はない、日本国内のパイロット養成の訓練飛行場だから、新石垣空港の2,000メートルじゃない、3,000m×60mの滑走路があるのよ。問題は、石垣島よりも沖縄に近く、面積が小さいから兵站維持が難しいってこと。伊良部島とは橋でつながっていて、近くに宮古島があって、これも橋でつながっているから、それほど悪いこともないけれど」
全員、これから向かう沖縄、石垣島の将来を考えて暗鬱な気分になった。
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ポモルニク型エア・クッション揚陸艦艇、奄美大島沖
ロシア軍のポモルニク型艦は、エア・クッション揚陸艦艇としては世界最大で、アメリカ軍のLCAC(LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇)のように母船である揚陸艦から海浜に車両などを運搬する揚陸艇ではなく、洋上を高速自力航行して戦車揚陸艦のようにビーチングして揚陸を行う、単艦運用される大型の揚陸艇である。
ただし、長距離渡洋侵攻を目指したものではない。その運用が想定されているのは内海や近距離での作戦である。その航続距離540キロ程度である。速度は圧倒的に速く、時速96キロ以上である。
全幅26メートル、全長56メートルのエアクッション揚陸艦は、小型揚陸艦のオスリャービャとペレスヴェートの船内ドックに入り切るものではない。自力航行で沖縄へ向かうしかない。
だが、佐世保から那覇まで直線距離で800キロほど有る。このホバーでは途中で燃料切れだ。種子島沖合の馬毛島の港で給油する案もでたが、航路が長くなるだけだ。
そこで、燃料の有るうちは自力で航行し、燃料が少なくなった場合は、オスリャービャとペレスヴェートに曳航してもらい、両艦から燃料補給させてはどうか?ということだ。無茶な話だが、検討した結果、可能だった。
旧型艦で鈍足のオスリャービャとペレスヴェート両艦の速度では、佐世保から那覇まで30時間ほどかかる。途中、エアクッション揚陸艦に給油するとして、結局、二日程度の航行時間を予定した。
夕陽が東シナ海の地平線に落ちていく。オスリャービャとペレスヴェート両艦は、ホバーに給油作業を行っていた。全幅16メートルの両艦は、26メートルのホバーよりも幅が狭く、ホバーがやけに大きく見える。
ペレスヴェートの前部76.2 mm単装両用砲のあるデッキから、紺野二佐、アニータ少尉が前部甲板を見下ろしている。前部甲板には、広瀬二尉とソーニャ准尉が歩きながら話し込んでいるのが見えた。
「あの二人、チビデカコンビだねえ」と紺野。
「本人たちが『ゴリラと子猫』と言ってました。183センチの広瀬二尉に154センチのソーニャですものね」とアニータ。
「私だったらあんなゴリラにのしかかられたら潰れちゃうよ。もちろん、広瀬はこんなおばさん、相手にしないだろうけど」
「あらあら、二佐、まだ現役でしょう?美女の南禅二佐に負けませんよ」
「南禅?あれは美女の皮を被った魔女だよ。頭のネジが外れているのさ。羽生は何がよくて、南禅にくっついているのか、わからん」
「あの二人もちょっと変わったコンビですものねえ」
「羽生が南禅に興味がなくなったら、南禅も気づくんだろうが。南禅は人並みの感情に欠けているからな。私とは違う。アニータ、イケメンのロシア人を紹介してよ」
「ロシア人男性はお勧めしません。ウォッカの飲み過ぎで、67才で死にます。ロシア人男性の平均寿命です。私が日本人の"とおちゃん"を選んだのもそのためですわ」
「とおちゃん、か・・・」
「バカスカ、子供を産もうかなと思ってます」
「あんたらロシア女性、タフそうだもの。超安産型のケツだもんな。バカスカ産めるよ。日本の少子化を止められそうだ」
「そう言えば、ソーニャが、紺野二佐の自衛隊情報保全隊の調査第2部が、自衛隊員の外国人配偶者が諜報員かどうか、身辺調査する、警察の公安も身辺調査するって言っていました。自衛隊情報保全隊の二佐に聞くのもおかしな話ですが、私達、身辺調査されるんですよね?」
「一応はね。だけど、こんなバカげた諜報活動があると思う?キミらが女スパイで、ハニートラップを仕掛けて、日本人男性と結婚、諜報活動を行うの?バカスカ子供を産みながら?」
「わかりませんよぉ~。東部軍管区のジトコ大将発案ですから・・・」
「大将はエレーナ少佐の父上だったわね。エレーナ少佐が鈴木三佐をひっかけて、結婚したってこと?ロシア人女性兵士が『サドガシマ作戦』で、三百人の死傷者を出したのに?それで、諜報員の立場を隠蔽?馬鹿馬鹿しいわね。一応、書類上、審査しますけどね。それよりも、内閣情報調査室と自衛隊が考えている案がある。あなた方、結婚したら除隊するんだろう?」
「ハイ、民間人になって、私は、とおちゃんが農家なので、農業を手伝おうかなと思ってます」
「まあ、それもいい。ただ、あなた方は軍事情報の宝庫だ。自衛隊で教官もできるし、参謀補佐なんてのもできる。戦闘戦術も教えられる。エレーナ少佐の部下は通信情報隊でしょ?通信諜報活動のスーパーバイザーもできる。自衛隊員にならなくても、外注職員として働ける。と、こういうことを考えているのよ」
「ハァ、私でも?」
「もちろん、アニータ准尉は叩き上げの下士官上がりだから、その技術は相当売れるわね」
「もし、そういう打診が有るなら、とおちゃんと相談します。農家も厳しいと言ってますから」
「私の部下として働くかい?自衛隊員の俸給は安いけど、外注職員で特別手当を出すわ」
「魅力的ですわね?」
「腹が減っては、バカスカ、子供を産めないわよ。スヴェトラーナにも話しておいて。ヘッドハントされてるってさ」
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奄美大島沖、ペレスヴェートドック内
防衛省は防衛上の空白地帯を解消するため、南西諸島で自衛隊配備を推進している。奄美大島、沖縄本島、宮古島、石垣島に陸上自衛隊のミサイル部隊を配備し、四拠点態勢で島嶼防衛を強化中だ。
防衛省が南西諸島に配備する03式中距離地対空誘導弾(SAM-4)、12式地対艦誘導弾(SSM-1改)。前者は、侵攻してくる中国の航空機や巡航ミサイルを迎え撃つ対空戦闘用装備、後者は、侵攻を試みる中国艦艇を阻止する装備。両者とも移動式発射機で機動性がある。有事には他の離島への展開も可能だとされている。
03式中距離地対空誘導弾は、ミサイル本体は発射筒を兼ねた角型コンテナに収められた状態で、発射装置及び運搬装填装置に各6発ずつ搭載、垂直発射方式である。12式地対艦誘導弾は、03式と同様。発射装置及び運搬装填装置に各6発ずつ搭載、垂直発射方式。
オスリャービャとペレスヴェートの船内ドックには、角型コンテナに収められた03式、12式が各6発ずつ、各4セット、24発+24発、それとコンテナなしのミサイル本体が、48発+48発格納されている。
半数のミサイルは、寄港する沖縄県うるま市の海自沖縄基地で引き渡され、残りの半数は、石垣港離島ターミナルのある久部良港に荷降ろしされ、石垣市平得大俣の陸上自衛隊駐屯地に搬送される。
その他に、石垣島の自衛隊駐屯部隊への砲弾、弾薬、消耗品、衣料、食料なども積載していた。船内ドックには通常は積載されている小型ホバーはない。その場所はすべて自衛隊から依頼の積載物で埋め尽くされている。むろん、このような数千トンクラスの強襲揚陸艦に入り切らない大型エアクッション揚陸艦は、曳航されてついてきている。オスリャービャに二隻、ペレスヴェートに二隻である。計四隻が自衛隊に貸与される。東ロシア共和国海軍の八十名のホバー運転要員は、貸与地の沖縄で下船する。
ペレスヴェートの広瀬二尉率いる水陸機動団は、これら積載兵器の積み込み、荷降ろしも担当していた。
ドックに来てこれら積載物を紺野とアニータが見ていた。「アニータ、こんな03式の対空ミサイル、12式の対艦ミサイル、役に立つと思う?」と紺野が聞いた。
「正直申しまして、日本政府、自衛隊が想定している大型艦船、J-20(殲20)などの最新式航空機で人民解放軍が攻撃してくれば有効と考えます。しかしながら、今回のサドガシマ作戦のように、ホバー、小型魚雷艇・ミサイル艇で上陸を敢行した場合、どうなんでしょうか?SAM-4、SSM-1改は、そのような分散型の小規模艦隊にはあまり意味がないでしょうね。それよりも、今回で痛感したのが、白兵戦のようなレトロな闘いでの通常兵器の不足です。歩兵の携行兵器が足りませんでした。それから、重装備の戦車、装甲車両ではなく、軽装備のタイフーンLのようなSUV車輌やモーターバイクがあったら、戦闘は楽だったでしょう。ウクライナでもそうですが、最新兵器ではなく、小型分散のレトロな兵器が非常に有効であると考えます」
「少尉、私も同感だ。私は内閣情報調査室出向、情報保全隊本部情報保全課所属だから、作戦立案の任にはないが、頭の硬直した市ヶ谷の統合幕僚監部に准尉の意見を聞かせたいよ。離島防衛を経験した准尉他ロシア人兵士、広瀬たちの水陸機動団の意見を離島防衛のために活かせないのが残念だよ」
「二佐、やはり、石垣島は人民解放軍のターゲットになるんでしょうか?」
「その可能性、大だな。石垣島駐屯のミサイル部隊、五、六百名、今回派遣される水陸機動団、四百名で、少尉、果たして石垣島が防衛できるかな?」
「佐渡では、北朝鮮人民軍三千名に対して、陸自水陸機動団千名、東ロシア共和国軍二千名でした。人民軍の死傷者は半数に達し、しかし、我が方も25%が死傷しました。惨憺たるありさまです。石垣島の防衛は、自衛隊のこの布陣では困難かと思います」
「まったく同感だよ、少尉。そうなったら、エレーナ少佐揮下の諸君らロシア軍最強女性部隊をオスプレイやC-1輸送機で石垣島に降下してもらうよう、ジトコ大将にお願いするか?まさかね。じゃあ、アメリカ海兵隊が助けてくれるかね?まさかだな。相手は核保有をしている大国。そうそう、核保有国相手に戦争を開始できないのは、ウクライナでも証明済みだ。自衛隊は、自衛隊だけで離島防衛をせざるを得ないんだ」
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