北千住物語 Ⅲ、紗栄子と純子、アキラ編 ー 美久と武の周りのラブストーリー

✿モンテ✣クリスト✿

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第1章 楓/佳子編

第5話 佳子と一朗3

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 タケシは「夏目漱石の弟子で、寺田寅彦という高名な物理学者がいました。え~っと彼がなんて言ったかというと」とパソコンで検索する。「あったあった。『全くこのごろは化け物どもがあまりにいなくなり過ぎた感がある。これはいったいどちらが子供らにとって幸福であるか、どちらが子供らの教育上有利であるか。日常茶飯の世界のかなたに、常識では測り知り難い世界がありはしないかと思う事だけでも、その心は知らず知らず自然の表面の諸相の奥に隠れたある物への省察へ導かれるのである。このような化け物教育は、少年時代の我々の科学知識に対する興味を阻害しなかったのみならず、かえってむしろますますそれを鼓舞したようにも思われる』と言っています。人類の物理学、科学というものは、森羅万象、自然のすべてをわかっているわけではありません。そういうわからない部分を、非科学的だ、と頭から否定するのは、科学を学ぶ者の正しい姿勢じゃあないと思うんですよ」と言った。

 他の三人もウンウンとうなずく。女将さんもうなずいている。おっと、もう一人、物理学科の院卒がいたよな、と南禅は思った。女将さんは、節子に店を任せて空いている時間を大学院に通って、博士課程の論文を書いているのだ。おかしな居酒屋だよなあ、と南禅は思った。
 
「確かに、自衛隊でもそういう話はよくあるわ。自衛隊の駐屯地って、昔の帝国陸海軍が使っていたのがほとんどで、そこで空襲などで亡くなられた軍人も多い。よくそういう超常現象は耳にする」と南禅が言うと、羽生が「南禅は硫黄島に行ったことがあるかい?」と聞いてきた。

「ないけど、羽生はあるの?」
「ああ、俺は実際にあそこで感じたよ。第二次大戦の最激戦地の一つ。日本軍も米軍もニ万四千人以上が戦士した。人骨がすべて回収されたわけでもない。霊感がまったくない自衛官でも何かを感じざるを得ない。自衛官だけじゃない。米軍の軍属も感じているんだ。自衛隊の駐屯地中、最凶の場所だ。我々は、夜寝る前に必ず水を入れたコップを部屋の入口にお供えしていたよ。お供えしないと、廊下からうめき声が聞こえたりするからね。俺は心霊現象を信じる、信じない前に体験した。それが物理現象なのかどうかもわからんがね」と言った。

「佳子さん、このお店って、なんなの?なんなのって失礼だけど・・・」とイチローが佳子に聞いた。
「ああ、イチローさんには紹介していなかったわね。板場のお二人、こっちが女将さん。物理学科の院卒で、いま博士号の論文を書いている。その隣が節子。私の高校の同期。和服を着ているけど、私と同じ元ヤン。この店の女将代理。カウンターに座っている三人は、南禅二佐と羽生二佐。現役の航空自衛隊の中佐。その隣の黒尽くめは、同じく私の同期の紗栄子。元ヤン。来年、自衛隊に入隊予定」

「・・・な、なるほど・・・」

「テーブルに座っているのが、奥から、美久ネエさんは会ったわね。美少女でしょ?でも、元ヤンの元総長。私のアネさん。大学ニ年で物理学専攻。その隣が兵藤さん。アネさんの彼氏。同じく大学ニ年で物理学専攻。背中を向けているのが楓さん。兵藤さんの義理の妹。美人でしょ?美久ネエさんの大学に来年進学予定。そのとなりが丸尾さん。兵藤さんの大学の同期で大学ニ年の数学専攻。楓さんの彼氏。歴史マニアで、能と歌舞伎に造詣が深いのよ。それから・・・」
「それから?」
「板場とカウンターの五人は、みんな非童貞で非処女、テーブル席はみんな童貞で処女なの。私たちは童貞で非処女だけど・・・」と佳子が言うと、美久がパソコンから顔を上げて「こら!佳子!余計なことを言うな!」と睨みつける。佳子は舌を出した。

「佳子さん、ちょっと、ぼくはノーコメントです」
「それが正常な判断よね?」と彼にウィンクする。

 タケシが、「いずれにしてもスタディーが済んだら、実地検証をしないといけないな。イチローくんは一晩とか二晩とか、実家に泊まれるかい?」とイチローに聞く。

「ええ、泊まれますけれど・・・」
「それじゃあ、ぼくたちはキミの部屋に泊まって、実地検証をしたい。カエデ、測定器具はいくらぐらいするんだ?」
「そうねえ、Flirのサーモグラフィーは高い!フィリップスのデジタルレコーダーは人間の非可聴域まで録音できる。一万円ぐらい。電磁波測定器が二万ニ千円。フルスペクトラム・カメラが六千円。Spirit Boxは怪しいけど三万円。とりあえず、こんなものかなあ。六万八千円くらい」
「美久、どう?」
「そのくらいなら、お父さんに言って買ってもらうわ」と美久が答える。

「兵藤さん、ぼくも泊まりますよ」とイチローが言う。「私も泊まる!」と佳子。「六人か。狭いなあ。まあ、当事者なんだから、六人で泊まろう」とタケシ。

「鉄平さん、大丈夫よ。私の後ろに隠れて、美久お姉さまと佳子さんとの間にお兄とイチローさんをはさめば、危険物から隔離できるわ」とカエデが言う。美久は、将来の義理の姉の私が危険物ってどういうこと?と思った。

「うわぁ、北千住近辺に限らないけど、事故物件ってこんなにあるんだ?」と鉄平。「え?どれどれ?」とカエデが鉄平のパソコンを覗き込む。「ほんとだ。たくさんあるのね?」「いろいろな死に方が含まれているから、一概に全部が問題ありとは言えないけどね。カテゴリーでわけないといけないな」と鉄平。

北千住付近の事故物件

●東京都足立区千住河原町xx-x
歌手・尾崎豊が遺体で発見された場所。
死後、「尾崎ハウス」の名で有名になったが
建物の老朽化による建て替えで無くなってしまった。
●東京都足立区千住東二丁目xx-x
火災による死亡
令和2年2月1日
●東京都足立区千住五丁目xx-xx
ミイラ
●東京都足立区千住寿町xx-x ◯コーポ1階
死体発見
平成30年4月13日
●東京都足立区千住仲町xx
若い女の子がベランダで首吊り
平成30年11月11日
●東京都足立区千住x丁目x
飛び降り自殺
平成27年7月31日
●東京都足立区千住中居町x-x◯◯◯コーポxxx号室
住人が死亡 発見時死後時間が経って部屋では臭いがし、
ハエが大量に発生した
令和元年10月27日
●東京都足立区千住元町xx-x
302号室 孤独死放置・・・
平成28年3月4日
●東京都足立区千住五丁目xx
告知事項有り(スーモより)
令和元年11月27日
●東京都足立区千住中居町xx-xx
心理的瑕疵物件
平成26年7月6日
●・・・・

 鉄平とカエデがモニターのマップを見ていると、美久が鉄平の背後から覗き込んだ。「わ、ほんとうだ!いっぱいある!」と美久が言うと、美久が背後にいたのを鉄平が気づいて、タコ踊りのように手を舞わした。

「ワッ!ワッ!ワッ!」
「え?あ!丸尾さん、ゴメン」と距離を取って謝る美久。
「わあ、ビックリした」と鉄平。

 私、ショックだわ、嫌われているわけじゃないのはわかるけど、ほんとに危険物扱いなのね、私って、と美久は思った。
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