見習い陰陽師の高校生活

風間義介

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奮闘記

27、怪しき女占い師

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 その頃、街の大通りは仕事や塾から、あるいは部活終わりなど。
 様々な事情で外出していた人々が、自分の家へ戻るとごった返していた。
 その人ごみの中で、何かを待っているかのように一人の占い師が椅子に腰かけている。
 フードを目深にかぶっているため、顔まではわからない。
 だが、ゆったりとしている服でも隠すことが難しい豊満なふくらみで、占い師が女性であるということはわかった。
 ふと、その女占い師の目に一人の年若い通行人が入り込んでくる。

「そこのあなた」
「え?わたしですか?」

 占い師は、通行人の少女に声をかけた。
 声をかけられた少女は引き寄せられるかのように、占い師の方へと歩いて行った。
 その少女を愛おしげに眺めながら、占い師は薄く笑い、問いかけた。

「あなた、悩みがあるわね?」
「はい?」
「それも、恋の悩み」

 少女は誰にも話すことなく、自分の胸だけに抱えているその悩みを指摘され、顔を真っ赤に染まった。
 その反応に、占い師は妖しげな微笑みを浮かべ、席を勧める。

「占ってあげる……座りなさい」

 占い師の言葉に、少女は引き寄せられるように用意されていた椅子に腰かけた。
 少女が腰掛けると、占い師から一枚の紙とペンが差し出される。
 その紙には名前と年齢、生年月日を記入する欄が設けられていた。
 占いというものを初めて経験する少女は、差し出された紙に首を傾げていた。

「あの、これはいったい?」
「そこに指定されているものを、包み隠さずに書いて。これからあなたに起きる運命、必然の定めを見極めるために、必要なことなの」

 占い師にそう言われ、少女は眉をひそめた。
 昔ならいざ知らず、情報化社会と呼ばれる現代では、名前だけで様々な情報を引き出すことは可能だ。
 そのため、こういった場所で個人を特定できるような情報を明らかにすることは好ましくないと指摘されている。

「安心して、占い以外使うことはないし、終わったらあなたの目の前で焼き捨てるから」

 占い師はそのことも考慮し、用が済んだら情報は処分することを誓約した。
 破棄する、と口では言っても本当に破棄されるのか、提供者はわからない。
 だが、わざわざ目の前で焼き捨てる、と宣言してくれているのだ。
 多少は信頼してもいいかもしれない。
 そう思ったのか、少女は指し出された紙に必要なものを書き入れる。
 その様子を、女性は怪しげな瞳と笑みで見守っていた。
 少女が書き終わった紙を占い師に渡すと、占い師は書かれた文字を追いかけ。

「そう……あなた、「綾瀬桃花」というのね。よろしくね、綾瀬さん」
「あ、はい」

 にっこりと笑いながら、占い師は手にしたメモを脇に置き、脇に置いていた商売道具の一つである風水羅盤を自分と桃花の前に引っ張ってきた。

「それでは始めましょうか」
「あの、その前にあなたのことはなんて呼べば……」

 占いを始めようとしていた占い師に、桃花は名前を尋ねた。
 名前を聞かれた占い師は、そうね、とつぶやき。

「蓮田鳴海《はすたなるみ》、というのよ。よろしくね」

 そう名乗り、鳴海は妖艶な笑みを浮かべた。
 桃花は鳴海のその微笑みに不気味な何かを感じながらも、椅子から離れない。

「それでは、いくつか質問していくわね」

 そう言い数分の間、鳴海は桃花にいくつか質問をする。
 その質問に桃花が答えるたびに、机の上にある風水羅盤を動かしていく。
 不意に、鳴海がその動きを止めた。

「……あら?その子、好きな人がいるみたいね。それも、その人はあなたに一番近い人らしいわね」
「やっぱり……」

 鳴海の言葉に、桃花は胸に小さな痛みを覚える。

――そんなこと、わかってるのに。なんで胸が痛いの?

 自分が想いを寄せるあの人が、自分の親友の想い人であることはわかっていた。
 その人もまた、親友に想いを寄せていたということもわかっている。
 桃花にとって彼女は親友だ。
 上手くいってほしいし、何より親友の幸せは喜ぶべきものなのだが、なぜだか心の奥底にとげのようなものがささっている感覚がしていた。

「あなた、その人と結ばれたいの?」

 鳴海は、怪しげな瞳で桃花を見つめ、問いかける。
 その問いかけに、桃花はどう答えたらいいのかわからなかった。

――できることなら、結ばれたい。けど、あの人はあの子が好きな人で、あの人もあの子を想ってる……

 何より、自分たちの出会いは、ある意味で最悪のものだったのだ。
 好い印象を持っているはずがない。
 そんな人間に告白されたからといって、彼の想いが自分の方へ向いてくれるはずがない。
 声には出さず、頭の中でそう思っていたのだが、鳴海はその考えを見透かしているかのように。

「できるわよ。その人の心をあなたの親友からあなたへ移すことが」

 と口にした。
 見透かされていることに驚きを隠せず、桃花は目を見開く。
 その表情を慈しむように、鳴海は微笑みながら続けた。

「あなたが思っている人とあなたを結ぶこと。私ならできるわ」

 聞き間違いかとも思った。
 しかし、彼女の妖艶な瞳は、艶やかな声は、それが嘘ではないという確信を持たせてくれる。
 本当にできるというのならば、縋れるものには縋りたい。
 桃花の口から出てくる言葉は、すでに決まっていた。

「どうすれば……どうすればいいんですか?」

 その言葉を待っていた。
 まるでそういいたそうに口角を吊り上げ、荷物の中身を漁り始める。

「まず、この符をあなたが想っている人に渡しなさい。そして、もう一枚のこちらをその人が想っている人に渡しなさい」

 そう言いながら、鳴海は二枚の紙を渡してきた。
 一枚は、神社や寺でお守りを飼うときに見かける、ごく一般的な呪符のようなもの。
 もう一枚は、先ほど渡されたものとは逆に、黒い紙に白で文字と線が描かれた呪符だった。
 最初の一枚はともかく、後から出されたもう一枚は、どう見ても危ないものにしか見えない。
 危険を回避する理性があれば、呪符を受け取ることを断ることもできただろう。
 だが、桃花はこれを使えば自分の望みが、あの人と結ばれることが出来るという思いに負け、二枚の呪符を受け取った。
 その瞬間、ふと一つの疑問が浮かび上がる。

「……これを渡したら、あの子はどうなるんですか?」
「それはあの子のこと。あなたは知らなくていいわ。それに……いえ、何でもないわ」

 桃花の質問に、鳴海はそう答えた。
 その後、何かを言いかけてて、口を閉ざす。

――黒の呪符を渡した相手がどうなるか。それを知ったところで、力のないあなたにはどうしようもできないわ

 鳴海は桃花に笑みを向けながら、そうつぶやく。
 同時に。

――あなたにはあの子をこちらに引き込むために、あなたに一役買ってもらうには、知らせない方が都合がいいのよ

 と、心中でつぶやき、怪しげな微笑みを浮かべていた。
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