241 / 276
再臨譚
26、異国より来る術者
しおりを挟む
一方、護より一足先に動いていた調査局は、いまだに有力な情報をつかめていなかった。
穢れが蔓延しているという事実があることから、穢れの浄化がしきれていないことは確かだ。
だが、肝心の発生源がつかめていない。
穢れの気配が特に色濃い場所がわかりさえすれば、そこからあたりをつけることもできるのだが、それすらもわからないというのが現状となる。
一向に進展しない状況に、今回の一件を担当することとなった光は、ストレスのあまりついに。
「まったくわからん!」
「そういらいらするな。老けるぞ」
「これがいらいらせずにいられるか!」
書類を投げ出し、叫びだしてしまった。
それをたしなめている満も、うんざりしたようなため息をついている。
周囲にいる職員たちも、口にこそ出していないが、同じようにため息をついたり、苛立たし気に頭をかきむしったりしているところを見るに、どうやら、なかなか進展しない捜査に苛立っているのは、何も満と光だけではないようだ。
「そもそも、あっちこっちに穢れが蔓延しすぎなんだ!一体、何をどうすればここまで放っておくことができる!」
「そろそろ影響が出始めてもおかしくないころではあるんだが、その兆候すら見られないからな」
「おかしいだろ!昨年末からこの状態だというのにもかかわらず、だぞ!」
そもそも、穢れというものは物質ではなく霊的な気配のようなもの。
長い期間、蔓延するということ自体がおかしいのだが、そもそも、蓄積するものでもない。
その気配に濃い薄いという多少の違いはあっても、気配が濃いからといって、その場所が発生源とは限らないのだ。
それはわかっているのだろう。だが、占い以外に情報を収集する方法が地道な調査以外になく、当然、進展も遅くなる。
「天文の方で何か報告は上がっていないのか?」
「まったくない。ついでに言えば、暦占のほうからも何もない」
「占術で何もなくてどうするんだ!あいつら、仕事してるのか!!」
調査局の部署は、光たちが所属している調査部をはじめとして、三つの部署に分かれている。
そのうちの一つに、占術部という部署が存在しており、その名の通り、天文や暦、式占、水鏡。その他さまざまな占術を用いて調査部の補佐を行っている。
だが、今後の国の大まかな動きや降り注ぐであろう災厄。あるいは皇室で執り行われる祭祀に都合の良い日を選ぶなどの役目が存在する。
仕事をしていないなどということはまったくない。
むしろ、彼らからすれば、国の将来を予測し、皇室が祭祀をつつがなく執り行うことで国を霊的に守護する一翼を担うことのほうがよほど重要なもの。
特殊生物の居場所や怪現象の原因特定を占術部に依頼すること自体、調査部の職務怠慢なのではないかとすら思っていることだろう。
「彼らには彼らの本来の職務がある。あまり我々の仕事をさせるわけにもいくまい」
「わかってはいるが!」
「わかっているなら、少し落ち着け。焦っていては見えているはずのものも見えなくなるぞ」
そう言いながら、満は光にコーヒーが注がれたカップを手渡した。
それを受け取りながら、光はため息をついて。
「それもそうだな……すまない」
と謝罪していた。
物事が上手くいかないせいで、苛立ってしまうことでストレスが蓄積し、余計焦ってしまう。
その焦りのせいで、さらに物事がうまくいかなくなる、という悪循環が発生する。
その悪循環に陥り、心の平静を保てなくなることは、冷静な判断力を必要とすることが多いこの仕事に置いて、最も避けなければならない事態だ。
それを思い出したのか、光は受け取ったコーヒーを口に含み、一息入れた。
どうにか落ち着いたことを確認すると、気分転換のつもりか、満が仕事とはまったく関係のない話を振り出した。
「そういえば、聞いたか?」
「何を?」
「バチカンからエクソシストが派遣されてくるそうだ。なんでも、研修という名目のようだが」
「エクソシストが?珍しいな」
通常、異国の術者やエクソシストのような退魔師は、自分の国籍の国を動くことはあまりない。
ヨーロッパのように国と国とが陸続きになっているような場所はともかく、海を隔てているこの国に霊的守護を担う役職に就いている人間がやってくるということは非常にまれなケースだ。
「なんでも、追いかけている存在がこの国にいるらしい」
「追いかけている存在?」
異国の存在とは言っても、海を超えてやってくることなどよくあることだ。
それこそ、この日本にも九尾の狐が、遠く離れたインドから中国を経てやってきたという記録も存在している。
まして、空を行き来することができるようになった昨今だ。
霊的な存在を呼び出す手法を記した書物や封印を施した物体、あるいは呼び出すための術を知る人間が海を越えてやってくることなど、容易にできるようになった。
今回も、何かしらの手段で海を越えてきた霊的存在を追いかけてきた、ということなのだろう。
とはいえ。
「まぁ、それはそれだろうな。私たちには関係あるまい」
「だといいんだがな」
「おいおい……」
満の言葉に、光は苦笑を浮かべた。
だが、満のその予想は外れることとなる。
突然、コンコン、と扉を叩く音が聞こえてきた。
次の瞬間、扉が開き、その向こうからブロンド髪の美男子が姿を見せ、西洋人とは思えない、流ちょうな日本語で。
「失礼。特別事例調査局の賀茂光さんはいらっしゃるでしょうか?」
と問いかけていた。
なお、声をかけられた当の本人が目を丸くしていたことは言うまでもない。
穢れが蔓延しているという事実があることから、穢れの浄化がしきれていないことは確かだ。
だが、肝心の発生源がつかめていない。
穢れの気配が特に色濃い場所がわかりさえすれば、そこからあたりをつけることもできるのだが、それすらもわからないというのが現状となる。
一向に進展しない状況に、今回の一件を担当することとなった光は、ストレスのあまりついに。
「まったくわからん!」
「そういらいらするな。老けるぞ」
「これがいらいらせずにいられるか!」
書類を投げ出し、叫びだしてしまった。
それをたしなめている満も、うんざりしたようなため息をついている。
周囲にいる職員たちも、口にこそ出していないが、同じようにため息をついたり、苛立たし気に頭をかきむしったりしているところを見るに、どうやら、なかなか進展しない捜査に苛立っているのは、何も満と光だけではないようだ。
「そもそも、あっちこっちに穢れが蔓延しすぎなんだ!一体、何をどうすればここまで放っておくことができる!」
「そろそろ影響が出始めてもおかしくないころではあるんだが、その兆候すら見られないからな」
「おかしいだろ!昨年末からこの状態だというのにもかかわらず、だぞ!」
そもそも、穢れというものは物質ではなく霊的な気配のようなもの。
長い期間、蔓延するということ自体がおかしいのだが、そもそも、蓄積するものでもない。
その気配に濃い薄いという多少の違いはあっても、気配が濃いからといって、その場所が発生源とは限らないのだ。
それはわかっているのだろう。だが、占い以外に情報を収集する方法が地道な調査以外になく、当然、進展も遅くなる。
「天文の方で何か報告は上がっていないのか?」
「まったくない。ついでに言えば、暦占のほうからも何もない」
「占術で何もなくてどうするんだ!あいつら、仕事してるのか!!」
調査局の部署は、光たちが所属している調査部をはじめとして、三つの部署に分かれている。
そのうちの一つに、占術部という部署が存在しており、その名の通り、天文や暦、式占、水鏡。その他さまざまな占術を用いて調査部の補佐を行っている。
だが、今後の国の大まかな動きや降り注ぐであろう災厄。あるいは皇室で執り行われる祭祀に都合の良い日を選ぶなどの役目が存在する。
仕事をしていないなどということはまったくない。
むしろ、彼らからすれば、国の将来を予測し、皇室が祭祀をつつがなく執り行うことで国を霊的に守護する一翼を担うことのほうがよほど重要なもの。
特殊生物の居場所や怪現象の原因特定を占術部に依頼すること自体、調査部の職務怠慢なのではないかとすら思っていることだろう。
「彼らには彼らの本来の職務がある。あまり我々の仕事をさせるわけにもいくまい」
「わかってはいるが!」
「わかっているなら、少し落ち着け。焦っていては見えているはずのものも見えなくなるぞ」
そう言いながら、満は光にコーヒーが注がれたカップを手渡した。
それを受け取りながら、光はため息をついて。
「それもそうだな……すまない」
と謝罪していた。
物事が上手くいかないせいで、苛立ってしまうことでストレスが蓄積し、余計焦ってしまう。
その焦りのせいで、さらに物事がうまくいかなくなる、という悪循環が発生する。
その悪循環に陥り、心の平静を保てなくなることは、冷静な判断力を必要とすることが多いこの仕事に置いて、最も避けなければならない事態だ。
それを思い出したのか、光は受け取ったコーヒーを口に含み、一息入れた。
どうにか落ち着いたことを確認すると、気分転換のつもりか、満が仕事とはまったく関係のない話を振り出した。
「そういえば、聞いたか?」
「何を?」
「バチカンからエクソシストが派遣されてくるそうだ。なんでも、研修という名目のようだが」
「エクソシストが?珍しいな」
通常、異国の術者やエクソシストのような退魔師は、自分の国籍の国を動くことはあまりない。
ヨーロッパのように国と国とが陸続きになっているような場所はともかく、海を隔てているこの国に霊的守護を担う役職に就いている人間がやってくるということは非常にまれなケースだ。
「なんでも、追いかけている存在がこの国にいるらしい」
「追いかけている存在?」
異国の存在とは言っても、海を超えてやってくることなどよくあることだ。
それこそ、この日本にも九尾の狐が、遠く離れたインドから中国を経てやってきたという記録も存在している。
まして、空を行き来することができるようになった昨今だ。
霊的な存在を呼び出す手法を記した書物や封印を施した物体、あるいは呼び出すための術を知る人間が海を越えてやってくることなど、容易にできるようになった。
今回も、何かしらの手段で海を越えてきた霊的存在を追いかけてきた、ということなのだろう。
とはいえ。
「まぁ、それはそれだろうな。私たちには関係あるまい」
「だといいんだがな」
「おいおい……」
満の言葉に、光は苦笑を浮かべた。
だが、満のその予想は外れることとなる。
突然、コンコン、と扉を叩く音が聞こえてきた。
次の瞬間、扉が開き、その向こうからブロンド髪の美男子が姿を見せ、西洋人とは思えない、流ちょうな日本語で。
「失礼。特別事例調査局の賀茂光さんはいらっしゃるでしょうか?」
と問いかけていた。
なお、声をかけられた当の本人が目を丸くしていたことは言うまでもない。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる