追放されたから異世界VTuber始めたら魔王もファンになりました

象乃鼻

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第1話 パンとスライムと“神のカメラ”

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 ――勇者パーティーからの追放は、意外とあっさりだった。

「地味で無能。お前のスキル、配信? 戦闘の役に立たねーよ」
 そう告げられた瞬間、ショウタは長年のブラック企業勤めで鍛えた“過労死寸前メンタル”を思い出し、力なく笑った。――また数字で測られ、また切られた。

 けれど今回は、手にしていた。
 黒曜石のレンズが淡く光る《神のカメラ》。
 視聴者が増えるほど、持ち主のステータスが伸びる――そんなチート説明が、システムウィンドウに踊っていた。

 ≪SYSTEM:ライブ配信機能が解放されました≫
 ≪サブスク(物理):投げ銭オブジェクト=パン(栄養+2)≫

「……よし。配信で食っていく。それで全部数字にしてやる!」

 ◇◆ ◇◆

 場所は王都外れの羊毛村。
 日曜朝の商店街より静かな広場に、スライムが1匹、ぷるんと居座っている。
 ショウタは三脚を立て、レンズを向けた。

「みなさんおはようございます! レベル1 VS スライム、実況開始です!」

 風に乗った声が村外れまで響き――返事はない。もちろん“視聴者ゼロ”だ。
 背後で、補佐役の少女ユウナが腕組みをする。銀髪のポニーテールが揺れた。

「司会のユウナです。えっと……ショウタ、カメラはオンですけど、誰も見てませんよ?」

「配信は“切り抜き”が命! アーカイブでバズればいいんだ!」

 言い切るとショウタは木棒を構え、スライムへ突っ込んだ――が、

【村人B】「お、なんか始まったぞ」
【村人A】「パン投げていいのか?」

 ――ごそごそ。
 屋台の奥から次々に差し出される茶色い紙袋。中身は硬めの古パン。
 規格外サイズの“物理サブスク”が飛んできた!

「わぷっ! ちょ、急に投げるな!」

 ≪サブスク ×1 〈フランスパン〉 攻撃力+1≫
 ≪サブスク ×2 〈まるパン〉 防御力+1≫

 袋が当たるたび、ショウタのステータスバーがピコピコ伸びる。
 実況チャットは一気に賑わった。

【村長】「地味でも頑張れ!」
【羊飼い】「レベルいくつ上がるかな?」

「ほら見たか! 数字は嘘をつかない!」

 ショウタはパンを“装備”し、こん棒代わりにスライムを連打。
 ユウナが青ざめた顔でコメントを読み上げる。

「……ショウタ、パンに挟まれて窒息寸前です」

「視聴者サービスだよ! 苦しそうな顔は伸びしろ!」

 その瞬間、カメラの中央でスライムが破裂。
 青いゼラチンとパン屑が派手に飛び散る。

 ≪スライムを討伐! 視聴者+10≫
 ≪攻撃力+10 防御力+10 敏捷+5≫

「数字きたああああッ!」

 ショウタが拳を突き上げるや否や、背後から鈍いドンッ!
 ――牛だ。商人が飼う荷牛が、パンの匂いに釣られて突進。カメラ三脚を直撃した。

 ≪ERROR:映像信号ロスト≫

「ぎゃああああ!? お客さぁぁん!」

 ユウナが咄嗟に盾を構えカメラを守る。が、映像は空へ――。

「ま、まずい……配信事故だ。映像が真っ逆さま!」

【匿名視聴者】「牛カメラww」
【謎のユーザーID:SILENCE_000】「配信は罪。沈黙こそ救い。」

 初登場、“沈黙教会”らしき不穏コメントが混ざる。
 だがそれすら今のショウタには最高の燃料。

「コメント荒れる=注目度アップ。炎上上等ッ!」

 ≪視聴者 10 → 50 → 100≫

 ユウナは眉間にシワを寄せた。

「ショウタ、過激コメントを放置すると規約違反ですよ!」

「大丈夫、君がモデレート担当。頼んだ!」

「ブラック企業の再来ですか!?」

 しかし、チャットの伸びは止まらない。
 牛カメラが空撮する村の全景に、青いゼラチンとパンが散乱――そのカオスが“映え”た。

【旅人】「何が起きてるのこれw」
【漁師】「パン畑かな?」
【謎ID:SILENCE_000】「……声を、断て……」

 ユウナはそのIDを即ブロック。
 けれどログはしっかり保存された。《神のカメラ》が怪しい揺らぎを検知し、ショウタの背筋に微かな悪寒が走る。

 牛をなんとか追い払い、カメラを回収。
 パン屑とゼラチンを拭いながら、ショウタはステータス画面を見上げる。

 ≪現在視聴者:123≫
 ≪サブスク累計:パン×72≫
 ≪追加効果:空腹耐性+∞≫

「はは、やっぱり数字は最高だ……!」

「でも――過労死カウンター、もう黄色ですよ」

 ユウナが示すサブウィンドウには、心拍とストレス値がグラフ化されていた。
 深夜残業のトラウマが脳裏を過る。
 けれどショウタは――レンズ越しの“123”に目を奪われていた。

「あと877人で四桁……。ユウナ、次は“レベル5 VS 羊の大群”やろう!」

「待って! あなた、寝てないでしょ!?」

「睡眠は伸びしろの敵だ!!」

 ――その叫びと同時に、レンズの奥で数値がまた一つ、ぽんと増えた。
 ショウタの瞳に映る“124”は、まるで魔導照明のごとく輝いている。
 その光の裏で、ユウナの影が長く落ちた。

 ≪チャンネル登録者 124 / 1,000≫
 ≪次回予告:コラボのお誘いは魔王から!?≫

 パン屑まみれの画面で、ショウタは笑う。
 数字――それは彼にとって、最高のヒールポーション。
 だが“声を断て”と囁くIDの真意を、彼はまだ知らない。

 To be continued…
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