追放されたから異世界VTuber始めたら魔王もファンになりました

象乃鼻

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第2話 魔王からの“コラボ案件”

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 ――朝。パン屑だらけの宿屋の一室。
 ショウタの《神のカメラ》が枕元で軽く振動した。
 深夜3時まで切り抜きを編集し、そのまま気絶。目覚ましも鳴らず、起きたのは昼前だった。

 ≪SYSTEM:未読メッセージ 99+≫

「うわ、やっべ……!」

 通知の山をスクロールしていると、ひときわ禍々しい赤黒フレームのアイコンが目に留まる。
 差出人――“Zeffaris_Lord_of_Darkness”。

【DM】
 Z「昨夜の“パンとスライム”配信、実に尊い。
 余は貴公の推し活精神に深甚なる感銘を受けた。
 コラボを所望する。場所は魔王城・黒耀大広間。
 期限は本日夕刻。返答は3分以内。」

「3分!? ブラック企業より鬼畜なんだが!?」

 背後でユウナが寝落ち姿勢のまま目を開けた。
「……魔王から直営業? やめてください。何かの罠です」

「でも案件単価は天井知らずだぞ!? スポンサー力∞だし!」

「だからこそ危険なんです。“悪魔の投げ銭”で魂まで担保とか…!」

 ≪DM:タイマー 00:00:17 / 03:00≫

 ――チクタク。
 ショウタは親指を震わせながらキーボードを叩いた。

『やりましょう!!! ギャラ:推し活支援品でOK!!』

 残り1秒。魔王から即レス。

 Z「良き。ではポータルを開く」

 宿屋の床に黒紫の魔法陣が浮かび、風が逆転。
 ユウナが剣を抜きかけた瞬間、ふたりの足元が抜け、闇が飲み込む――。

 ドォン!
 着地したのは、巨大ステージの上。照明は血のような深紅、観客席は闇の軍勢—かと思いきや、推し活ペンライトが規則正しく揺れていた。

【魔族兵A】「推し活…万歳…!」
【魔族兵B】「本日限定グッズ完売しました―!」

「え、魔族ってこんなノリなの!?」

 ステージ奥からバサァッとマントを翻し、魔王ゼファリスが登場。
 白磁の仮面越しに、配信オタク特有のキラキラ瞳が覗く。

「ショウタ殿ッ! よくぞ来た。余の生涯推しがまた一人増えたぞ!」

「ど、どうも…。まず契約書を…」

「契約? 余は推しに契約など結ばせぬ。全額前払いだ!」

 ――ドサッ。
 宝石が詰まった宝箱がステージに落ちる。同時に《神のカメラ》がステータス更新。

 ≪サブスク:魔王宝石箱 ×1 攻撃力+0 ※換金不可≫
 ≪視聴者 123 → 256≫

 ユウナが宝箱を見て顔面蒼白。
「換金できない支払いは“みなし報酬”ですよ!? 税務が地獄です!!」

 魔王は高笑い。
「代わりに“魔王軍公式グッズ販売権”を与えよう!」

「それロイヤリティ何%ですか!?」

 交渉がビジネス会議のテンポで進む横で、ショウタはカメラを構えた。
 視聴者カウンターが跳ねる跳ねる。

 ≪SYSTEM:コラボモードON/相性倍率 ×1.8(人間×魔族)≫

「皆さんこんにちは! 本日はなんと魔王ゼファリスさんとコラボです!」

【視聴者】「嘘だろw」
【勇者サイド】「人類の敵と馴れ合う裏切り者!」
【魔族側】「推しは尊い」「戦争より推し活」

 ユウナがMC席から鋭い視線を飛ばす。
「勇者派アンチが大量流入中。チャット治安、赤信号!」

「任せた! 俺はコンテンツに集中!」

 コラボ第1企画:“魔王城ドッキリツアー”。
 ホラー演出満載の回廊を巡りつつ、魔王が推し活部屋を自慢する企画だ。

「こちらが余の“推し祭壇”だ!」
 そこには等身大ショウタパネル、配信シーン切り抜きアクリルスタンド、パンぬいぐるみ――。

「怖い怖い怖い! 初見でこれなの!?」

【視聴者】「魔王ガチ恋勢w」
【アンチ】「宗教化キモい。沈黙を選べ」
【SILENCE_000】「……また声が満ちた……」

 ユウナが即時モデレートするも、謎IDはなぜかブロックが効かない。

 コラボ第2企画:“魔王の料理配信”
 ゼファリスが黒炎のフライパンで闇色オムレツを作る→ショウタが実況解説→視聴者が味を投票、という流れ。

 だが調理中、魔王の黒炎が換気口を突き破り、警報音が鳴り響く。

「配信事故来たぁー!」
 炎上(物理)がチャット炎上も呼び、ネガティブメーターが急上昇。

 ≪視聴者感情:ポジ 45%/ネガ 55%≫

 ユウナが割り込みMC。
「皆さん、闇オムレツは可愛い♡ #魔王お料理 で感想ツイートお願いします!」

 ポジティブ誘導が功を奏し、データが揺り戻す。

 ≪ポジ 60%/ネガ 40% → 魔王攻撃魔力+20%≫

 魔王がキラキラ顔で吠えた。
「これぞ推し活! 我らの声が力になる!!」


 だが次の瞬間、城の天井に蜘蛛の巣状の漆黒ヒビが走る。
 シン…と音を吸う静寂。チャット欄にも一瞬だけコメントが流れない“空白フレーム”が発生した。

【SILENCE_000】「……沈黙こそ救済……」
 ≪WARNING:未知の呪波“NEG.SIGMA”検出≫

 ショウタの背後で《神のカメラ》が警告色に点滅。
 ユウナの顔色が青ざめる。

「ショウタ! 感情メーターが強制的にネガ側に一斉シフトしてる!」

 ≪ポジ 30%/ネガ 70%≫
 ≪魔王魔力 –10%≫

「何だって!? チートバグじゃねーか!」

 魔王がステージ中央に立ち、闇炎を掲げた。
「この波動……沈黙神シレンシウスの眷属か!」

 ――天井から真っ黒い渦が降下。観客席の魔族兵が次々に声を奪われ、ペンライトが暗転。
 チャットも沈黙。音が死んだ。

「まずい、LIVE感が死ぬ!! ユウナ、場を繋げ!!」

 ユウナは早口で実況を被せるが声が届かない。
 《神のカメラ》も雑音交じりで映像がノイズ化。
 ショウタは歯を食いしばった。

「……よし、非常手段だ。歌枠で突破する!」

「はあ!? 今!?」

「数字は――俺が生きてる証だろ!」

 パン屑と宝石を掴み、ショウタがステージへ。
 魔王が闇炎ドラムを召喚し、ユウナが字幕をリアルタイムで走らせる。
 “世界初、魔王城メタル×パンラップ”が轟いた。

 ≪ポジ 45%/ネガ 55%… 48/52… 50/50≫

 黒い渦が一瞬怯む。
 チャットが微かに蘇り、沈黙を破る声が飛ぶ。

【視聴者】「まさかの歌枠w」
【魔族兵】「推しは尊い‼」
 計測不能ID「……声が……届く……?」

 ネガがポジと拮抗した瞬間、闇渦が苦悶の咆哮をあげた。
 裂け目が閉じ、ペンライトが再点灯。
 チャットが雪崩のように流れ――

 ≪視聴者数 256 → 512 → 777≫

 ショウタはマイクを握り、汗だくで叫んだ。

「これが! ライブの――力だァ!!」


 渦が完全に消滅すると同時に、ゼファリスが巨大魔法陣を展開。
「ショウタ殿、今こそ正式に宣言する! 余は貴公の 専属スーパーチャント・スポンサー となろう!!」

 ≪契約:魔王軍×ショウタチャンネル/資金力∞+公式グッズ化≫

 ユウナはクラクラしながら書類をめくる。
「待って、規約が10万字あるんですが!?」

「後で読む! 数字が呼んでる!!」

 ≪チャンネル登録者 777 / 1,000≫
 ≪次回予告:勇者派アンチ襲来! “コラボの代償”と過労限界≫

 カメラのRECランプはなお赤く輝く。
 その裏で、“SILENCE_000”のIDだけが――画面下端に滲むように残っていた。

 To be continued…
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