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第一章 王弟コーディ
家
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箒に乗り空を飛ぶ。目指すは教員寮……ではなく、校舎から少し離れたところにある一軒家である。この学園は全寮制であり、それは教師も例外ではない。ただし王族は例の如く別枠で、二人ともそれぞれ学園敷地内の別の場所に家を構えそこで暮らしているのだ。
ちなみにその付近でうっかり騒いだ生徒が不興を買わないようにか、パンフレットにも場所が掲載されている。流石学園長、優しい。
「……あ、あれかな?」
十五分ほど飛んだか。漸く明らかに他と違う外装の建物が見えてきて、私は目を凝らした。念の為地図も確認する。うん、間違いない。
「それにしても、意外と大人しめのデザインだな……上品」
本人のルックスはまあ確かに上品より(色彩とか)だが、性格は真逆だろうに。不思議。
そんなことをつらつらと考えつつ、焦茶色のドアに付けられたノッカーを叩く。
「すみません、メアリです。お休みのところ申し訳ありませんがお届け物を預かりまして、出来れば手渡しでお願いしたいのですが」
用件を伝え、そのまま数分待つ。しかし返事が来ない。……もう一回叩くか? いやマナー違反か? 迷っていると、激しくバタンと音を立ててドアが開き、私は飛び跳ねた。開け放たれたドアの向こう側、薄暗い中に立っていたのは。
「……あー、なに、戻ってきたの? うん……ん、気分が最悪だから相手したげるね」
当然の如くコーディであった。ただ、様子が、なんというか……
寝乱れた髪、前を閉めずに羽織った白シャツ、おまけにあちらこちらに点在するピンクのアザ。
まあ、明らかに事後である。えっこの人さっきまで普通に遠隔授業してたよな? なんでまだ服もまともに着てないんだ。おかしいだろ。
「なに、なんでそこで立ってんの? ほら、早く、ね、続きしよ……♡」
しかも絶対誰かと間違えられてる。いやほんとこの状態で良く授業出来たな……。そう考えつつ、私は腕を掴まれ強制的に家の中に引き摺り込まれた。
「あの、コーディ先生?」
「なに? ていうかコーディで良いよ、先生なんて、まるで俺の生徒みたい」
その生徒なんですが。私は至極冷静なまま廊下を歩いていく。いや、この家広い。全く寝室まで辿り着く気配が無い。
「あの、いえ、私はメアリでして。今日ここには届け物と、あとお見舞いをしに来ただけでして」
そう私が再度訴えた瞬間、ぴたりとコーディの歩みが止まり、そのままぐるんと私を振り向いた。おっ気づいたか?
「……お見舞い? ……なんで?」
あっ気付いていないな。私は少しがっかりしながら答えた。
「今日コーディ授業出てなかったじゃ無いですか、だから心配して」
「心配」
「はい、心配です」
「……授業は問題なかったのに?」
「あ、はい。今日も分かりやすかったです。でも、体調不良なんて体大丈夫かなって」
そう言うと、コーディはあの不思議で美しい目を見開いて私を凝視した。なんだ……?
「……それって、俺のこと好きだから? 好きだから、心配したの?」
えっ……私は考えた。確かに好感は持っているが、それほどではない。ただ、それを答えるには。私はちらりとコーディを見上げる。昏い眼をしていた。おそらくあの時、用事があると言った時と同じくらいに。
私はその眼に導かれるように答えた。
「はい、そうですよ。あなたが、コーディが好きだから心配してお見舞いに来ました」
瞬間、手を引かれた。ふわりと鼻腔をくすぐる香水に混じる微かなアルコールの匂い。ああ、当たったなと思う。コーディに抱きすくめられていた。
「本当に、本当に俺のこと好きなんだね?」
「……ええ、愛していますよ」
この人の求めるほどの愛ではないのかもしれない。しかし、どれほど小さくとも愛は愛だ。私は確かな気持ちでもって、それに頷いた。
ちなみにその付近でうっかり騒いだ生徒が不興を買わないようにか、パンフレットにも場所が掲載されている。流石学園長、優しい。
「……あ、あれかな?」
十五分ほど飛んだか。漸く明らかに他と違う外装の建物が見えてきて、私は目を凝らした。念の為地図も確認する。うん、間違いない。
「それにしても、意外と大人しめのデザインだな……上品」
本人のルックスはまあ確かに上品より(色彩とか)だが、性格は真逆だろうに。不思議。
そんなことをつらつらと考えつつ、焦茶色のドアに付けられたノッカーを叩く。
「すみません、メアリです。お休みのところ申し訳ありませんがお届け物を預かりまして、出来れば手渡しでお願いしたいのですが」
用件を伝え、そのまま数分待つ。しかし返事が来ない。……もう一回叩くか? いやマナー違反か? 迷っていると、激しくバタンと音を立ててドアが開き、私は飛び跳ねた。開け放たれたドアの向こう側、薄暗い中に立っていたのは。
「……あー、なに、戻ってきたの? うん……ん、気分が最悪だから相手したげるね」
当然の如くコーディであった。ただ、様子が、なんというか……
寝乱れた髪、前を閉めずに羽織った白シャツ、おまけにあちらこちらに点在するピンクのアザ。
まあ、明らかに事後である。えっこの人さっきまで普通に遠隔授業してたよな? なんでまだ服もまともに着てないんだ。おかしいだろ。
「なに、なんでそこで立ってんの? ほら、早く、ね、続きしよ……♡」
しかも絶対誰かと間違えられてる。いやほんとこの状態で良く授業出来たな……。そう考えつつ、私は腕を掴まれ強制的に家の中に引き摺り込まれた。
「あの、コーディ先生?」
「なに? ていうかコーディで良いよ、先生なんて、まるで俺の生徒みたい」
その生徒なんですが。私は至極冷静なまま廊下を歩いていく。いや、この家広い。全く寝室まで辿り着く気配が無い。
「あの、いえ、私はメアリでして。今日ここには届け物と、あとお見舞いをしに来ただけでして」
そう私が再度訴えた瞬間、ぴたりとコーディの歩みが止まり、そのままぐるんと私を振り向いた。おっ気づいたか?
「……お見舞い? ……なんで?」
あっ気付いていないな。私は少しがっかりしながら答えた。
「今日コーディ授業出てなかったじゃ無いですか、だから心配して」
「心配」
「はい、心配です」
「……授業は問題なかったのに?」
「あ、はい。今日も分かりやすかったです。でも、体調不良なんて体大丈夫かなって」
そう言うと、コーディはあの不思議で美しい目を見開いて私を凝視した。なんだ……?
「……それって、俺のこと好きだから? 好きだから、心配したの?」
えっ……私は考えた。確かに好感は持っているが、それほどではない。ただ、それを答えるには。私はちらりとコーディを見上げる。昏い眼をしていた。おそらくあの時、用事があると言った時と同じくらいに。
私はその眼に導かれるように答えた。
「はい、そうですよ。あなたが、コーディが好きだから心配してお見舞いに来ました」
瞬間、手を引かれた。ふわりと鼻腔をくすぐる香水に混じる微かなアルコールの匂い。ああ、当たったなと思う。コーディに抱きすくめられていた。
「本当に、本当に俺のこと好きなんだね?」
「……ええ、愛していますよ」
この人の求めるほどの愛ではないのかもしれない。しかし、どれほど小さくとも愛は愛だ。私は確かな気持ちでもって、それに頷いた。
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