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第一章 王弟コーディ
王弟コーディ
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「ねえメアリって両親好き?」
あの後一転して砂糖を詰め込んだような甘ったるい声で付いてきて、と言われ、連れてこられたダイニング。てっきり当然のごとく使用人がいるものと思っていたがいないらしく、有難くコーディの入れた紅茶をいただきながら、最初に投げかけられたのが冒頭の台詞である。ようやく私を生徒のメアリ・エインズワースだと認識してくれたようで何よりだが、それはそれとして私は返事に困った。
私__現代日本を生きた真理は両親のことが好きだが、この体の持ち主のリズは実の両親のことが嫌いだと言っていた。メアリとしてはどうして答えていいか分からないが、ひとまず私はカップを置き、口を開いた。
「ええと、まあ、義両親……エインズワース子爵夫妻ですね、のことは好きですよ。恩人だと思っています」
詳しく突っ込まれたらどうしようかと迷ったが、幸いにもコーディはそこには突っ込まず、そっかと言って静かに笑った。
「俺もね、お父さまとお母さまのこと好きだよ。いつもずっと会いたいし、褒められたいし、話せたらいいなって思ってる」
「……いいな、というのは……」
「うん、そうだよ。俺は両親のこと好きだけど、両親は俺のことどうでもいいみたいなんだ」
何の気もないようにそう嘯くコーディは、血の滲むほど拳を握り締めていた。思わず駆け寄り、そっと手を開かせようとするが、力の差でそれは叶わなかった。
「いつもいつもね、俺は色々……本当に色々試したんだ。歴史地理算術魔法理論実践魔法剣術棒術音楽芸術美貌詩歌その他にも。ほら、俺魔法史教師なのに実践魔法の特訓できるでしょ? 実は全科目教えられるんだ、凄いだろ」
凄いだろ、と自賛する癖に、その声は吐き捨てるかのようで。きっと彼はそのすべてに価値など感じていないのだろうと理解させる言葉だった。
「毎日大勢に求められて、それでも全然足りなくて酒にも薬にも手を出して、適当な人間とヤッて翌日吐いて何もしたくなくて今日もこんなとこに居んだよ。最悪でしょ」
私に同意を求めながらコーディは私の首に手を当てる。まずい。手のひらの血が私の首に付き、ぬるりと嫌な温かさを伝えてきた。
「ねえ今日俺ちゃんと出来てた? 努力出来てた? いつもと変わらなかった? 昨日は? お父さまたちも見てくれそうだった?」
目に光がない。これはどうしたものか。私の生命は今彼に完全に握られている。選択肢をミスすればおそらく私は死に、世界は滅ぶ。とりあえず無難な答えで時間を稼ぐか。
「あー、はい、みんなそう言って……」
「みんなじゃない。君の意見聞いてんの」
駄目だ。どうしよう。私は目をつぶり、それから見開き応えた。
「……はい。あなたは今日も真面目にやっていました」
「適当なこと言わないでよ!」
ああ~~~!! 選択ミスした! なんでだ、まぎれもなく本心なのに。
「今日俺休んでんだよ、自分の勝手な都合で! いいわけないでしょこんな、こんなの……」
そこで私は気付き、閃く。待て、待てよ。それなら。
「真面目ですよ!」
私は遮るように叫んだ。
「それをあなたは問題だと思ってるんでしょう? 辞めたいと思ってるんでしょう、変えたいと思っているんでしょう? 本当に不真面目な人はそんなこと思わないんですよ……!」
私とかね! 私なんて三連休に徹夜して乙女ゲームやってたんだぞ、絶対あのまま会社行ったらミス連発していたし、なんならそれでふらついてダンスして水たまりに落ちたんだぞ。
私の剣幕にコーディの目が揺れ、そしてそのまま何度か口を開閉したが、何も言わず黙った。沈黙が落ちる。どうだろう、届いたかな。
「……じゃあ」
独り言のようにコーディは呟いた。
「じゃあ、なんでお父さまとお母さまは俺をいつまでたっても見てくれないの」
「……それは、あなた、本当は知っているでしょう」
私は困ったように答えた。その答えを私が言うのは、あまりにも彼を傷つけてしまいそうだったし、それに彼はもう大人だったから。それを聞いたコーディは少し間をあけ、その後、うん、と小さく頷いた。
王弟コーディ編 完
あの後一転して砂糖を詰め込んだような甘ったるい声で付いてきて、と言われ、連れてこられたダイニング。てっきり当然のごとく使用人がいるものと思っていたがいないらしく、有難くコーディの入れた紅茶をいただきながら、最初に投げかけられたのが冒頭の台詞である。ようやく私を生徒のメアリ・エインズワースだと認識してくれたようで何よりだが、それはそれとして私は返事に困った。
私__現代日本を生きた真理は両親のことが好きだが、この体の持ち主のリズは実の両親のことが嫌いだと言っていた。メアリとしてはどうして答えていいか分からないが、ひとまず私はカップを置き、口を開いた。
「ええと、まあ、義両親……エインズワース子爵夫妻ですね、のことは好きですよ。恩人だと思っています」
詳しく突っ込まれたらどうしようかと迷ったが、幸いにもコーディはそこには突っ込まず、そっかと言って静かに笑った。
「俺もね、お父さまとお母さまのこと好きだよ。いつもずっと会いたいし、褒められたいし、話せたらいいなって思ってる」
「……いいな、というのは……」
「うん、そうだよ。俺は両親のこと好きだけど、両親は俺のことどうでもいいみたいなんだ」
何の気もないようにそう嘯くコーディは、血の滲むほど拳を握り締めていた。思わず駆け寄り、そっと手を開かせようとするが、力の差でそれは叶わなかった。
「いつもいつもね、俺は色々……本当に色々試したんだ。歴史地理算術魔法理論実践魔法剣術棒術音楽芸術美貌詩歌その他にも。ほら、俺魔法史教師なのに実践魔法の特訓できるでしょ? 実は全科目教えられるんだ、凄いだろ」
凄いだろ、と自賛する癖に、その声は吐き捨てるかのようで。きっと彼はそのすべてに価値など感じていないのだろうと理解させる言葉だった。
「毎日大勢に求められて、それでも全然足りなくて酒にも薬にも手を出して、適当な人間とヤッて翌日吐いて何もしたくなくて今日もこんなとこに居んだよ。最悪でしょ」
私に同意を求めながらコーディは私の首に手を当てる。まずい。手のひらの血が私の首に付き、ぬるりと嫌な温かさを伝えてきた。
「ねえ今日俺ちゃんと出来てた? 努力出来てた? いつもと変わらなかった? 昨日は? お父さまたちも見てくれそうだった?」
目に光がない。これはどうしたものか。私の生命は今彼に完全に握られている。選択肢をミスすればおそらく私は死に、世界は滅ぶ。とりあえず無難な答えで時間を稼ぐか。
「あー、はい、みんなそう言って……」
「みんなじゃない。君の意見聞いてんの」
駄目だ。どうしよう。私は目をつぶり、それから見開き応えた。
「……はい。あなたは今日も真面目にやっていました」
「適当なこと言わないでよ!」
ああ~~~!! 選択ミスした! なんでだ、まぎれもなく本心なのに。
「今日俺休んでんだよ、自分の勝手な都合で! いいわけないでしょこんな、こんなの……」
そこで私は気付き、閃く。待て、待てよ。それなら。
「真面目ですよ!」
私は遮るように叫んだ。
「それをあなたは問題だと思ってるんでしょう? 辞めたいと思ってるんでしょう、変えたいと思っているんでしょう? 本当に不真面目な人はそんなこと思わないんですよ……!」
私とかね! 私なんて三連休に徹夜して乙女ゲームやってたんだぞ、絶対あのまま会社行ったらミス連発していたし、なんならそれでふらついてダンスして水たまりに落ちたんだぞ。
私の剣幕にコーディの目が揺れ、そしてそのまま何度か口を開閉したが、何も言わず黙った。沈黙が落ちる。どうだろう、届いたかな。
「……じゃあ」
独り言のようにコーディは呟いた。
「じゃあ、なんでお父さまとお母さまは俺をいつまでたっても見てくれないの」
「……それは、あなた、本当は知っているでしょう」
私は困ったように答えた。その答えを私が言うのは、あまりにも彼を傷つけてしまいそうだったし、それに彼はもう大人だったから。それを聞いたコーディは少し間をあけ、その後、うん、と小さく頷いた。
王弟コーディ編 完
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