どけ!私が白馬の王子様だ!〜百戦錬磨の乙女ゲーマーがお姫様(男)を全員攻略していく話〜

すいか

文字の大きさ
24 / 32
第一章 王弟コーディ

回想(コーディ視点)

しおりを挟む
 ずっと求められたくて仕方なかった。


 豊かな大地を縦に走る、この強大なグローリア王国。その王家と言えば、国中の貴族が頭を垂れ傅き、崇め称えるほどの力を持った存在だ。生まれたときから勝ち組、名の通りその手は未来の栄光を掴むことを約束されたに違いない! 実際俺も有り余るほどの権力を人差し指一つで動かせる。王位継承権などかけらも持たない、この第八王子である俺でさえ、ね。

 ただそれは公的な話だ。君、兄弟はいるか? いなければ想像してみてほしい。多忙な両親が、八人目の息子に十分な時間を取るのかどうか。ちなみに俺は末っ子じゃない。俺のすぐ下の弟が末っ子だ。あと、お姉さま方も合わせれば、彼らの子どもは十二人。どうだろう、分かっただろうか。

 答えは当然いいえ。取らない。

 息子の世話は乳母にやらせればいい。勉強は家庭教師、料理はコック、話し相手はメイドか同年代の適当な子供をあてがう。多忙だから夕食はともに取らない、子どもの睡眠時間に合わせる余裕などない。おかげで俺が成人するまでに両親と顔を合わせたのは夜会や晩餐会といった公的な場所でのみだ。
 俺が神託を受け取ってさえも、それは変わらなかった。どうでもいいんだって。おかしいよね、自分の息子が将来世界を左右するって言うのにさ。

 では俺を見てくれる人間はどこにいる?

 言っておくが使用人その他は頼りにならないぞ。王族の機嫌を万が一にでも損ねたら大変だから、あいつらは俺と目を合わせない。ずっと下を見ている。
 兄や姉は? だめだ。一番上のお兄さまを除けば、お兄さまもお姉さまも俺と同じ状況なんだから。そこで仲間意識が芽生えさえすればよかったのかもしれないが、あいにく俺たちは競争心しか持っていなかった。残念だね。

 幼い俺は考える。一生懸命考える。そして答えにたどり着く。……ああ、そうだ。俺と全く違う人間はどうだろう。きっと近すぎるからいけないんだ。この城の外、例えば貴族なら、それも女の子なら。絵本で読んだあの王子と姫のように、俺に恋をしてくれたなら。__俺を、見てくれるんじゃないか。

 それから俺は最大限の努力を払った。容姿を磨いた。勉強をした。剣術もやった魔術もやった。ああそれから、人に好かれる柔らかな話し方も。それで社交界に出たとき、俺は当然の帰結として馬鹿みたいにモテた。



 毎日大勢の人間が俺を求める。好きだあなたと話したい金が欲しい守ってくれ婚約してうちの婿にどうだ__欲望の種類は問わなかった。俺はその欲望を叶えたり叶えなかったり。時折ひどく甘やかして、時折手酷く裏切って。そうする度、ぎらついた視線が刺さるのがたまらなかった。

「いえ、私など……全てはあなた次第で。あなたの言うことに私は従います」

 そう従順に振舞い頭を下げる人間の、隙間から除く視線と言ったら!

 俺は求められている。俺は今必要とされている。愛されている。ああ見てくれ誰も彼も、この俺を!
 俺は求められるたびに最高の気分で振り返って、そして__玉座に座るお父さまとお母さまの視線を見て、いつも凍り付くように動きを止めた。
 お父さまとお母さまは、俺を見てすらいなかった。人の中心に立つ俺ではなくて、王太子を、お兄さまを見ていた。たとえ冷たくても軽蔑でも、俺を見てさえくれるならそれでよかったのに。

 壁の花のお兄さま。いつもすべての貴族に一番最初に挨拶されるお兄さま。そのあとはずっと婚約者と二言三言話して、静かに笑っているお兄さま。
 まるでみたされているかのようなおにいさま。

 ……俺は?

 俺は誰かに愛されてるの? 本当に?

 気づいてしまえば堪らなくて、全部がどうでも良くなって、気持ち悪くなってしまうから、俺はそうした後はいつも浴びるように酒を飲んで人と踊って、不安に追いつかれないようにしていた。全部終わって部屋に戻ったら胃の中身は全部ぶちまけて、上手くできなかったら喉に手を突っ込んで、ちゃんと綺麗にしてから寝た。大丈夫人は俺を見てる俺は大丈夫間違ってない。
 そのうち気付いた。お兄さまが持ってて俺が持ってないもの。それは婚約者。そうだ、あの絵本だって一人と一人で恋をしていた。俺もそうすればいいと思ったんだった、なんで忘れてたんだっけ。思い出せなかった。でもどうせならお兄さまの婚約者の妹にしよう。確か一人、俺に釣書を送ってた子がいたよね。

 そして婚約した女の子は、俺と目を合わせなかった。

「どうして? どうして俺を見ないの。君、俺のこと好きだって言ったじゃん。言ったよね? 結婚してって言った。ねえ教えてよ。怒んないよ、俺は確かに王子だけど、君のことは処分しないようにもう言ってある。この先何があったってそれは変わらないよ」

「あなたが」

「! 何?」

「あなたがそんな人だなんて思ってなかったの」

 俺の頭が真っ白になって、それから、次の瞬間俺は彼女を叩いていた。乾いた音がした。彼女は泣いた。お兄さまは俺を叱った。お兄さまの婚約者の妹を泣かせるとは何事だ、だって。

「だってさ、お兄さま。その子、俺のこと見てなかったんだよ」

 お兄さまは顔をしかめた。意味が分からないと言っていた。本当は泣きたいのは俺だった。泣きたかった。泣けなかった。泣き方を忘れたらしい。笑えるね。

 ごめんね、と俺は彼女に謝った。彼女は何も言わなかったけれど、手で頬の傷をなぞって、こちらを睨んだ。許してくれなかったらしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

能天気な私は今日も愛される

具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。 はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。 ※表紙はAI画像です

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...