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第ニ章 騎士見習いアントニー
訓練
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「そんなへなへなした腕でどうするってんだ! 誰を倒せる⁉ リス一匹倒せねえだろうよ、ほら剣構え直し!!」
「「「「はい、教官!!!!!!」」」」
今は剣術訓練の時間である。
この暑苦しさと異様な空気が伝わるだろうか。多分ここにいない人間には伝わらないだろうが、ただ学生時代運動部だったならだいぶ分かってもらえるかもしれない。訓練罵倒腕立て訓練ランニング……まあそのような運動メニューである。
この剣術教官、もとは騎士団所属で、右目に怪我を負い失明してから前線を下がったようなのだが、これがまあ強いし怖い。いかつい顔つきもさることながら、身分の別なく全員いっぱしの騎士に育て上げようという気迫を感じる。
私、というかリズは多分ここを卒業したら領地に戻って婿を取って暮らすのだが、なぜこんな訓練を受けているのか……というと、もしこの国に何事かあったら最終的には陛下以外は王族貴族も全員駆り出されるから、という理由らしい。容赦が無い。
とはいえ。私たち一般生徒はこれでもまだ少し休憩を許されている感がある。
「メアリさん、休憩ですって。早くベンチまで行かないと、教官に叱られてしまうわ」
「了解! ありがとう、今行くね」
私は片腕……ではなくハンカチで軽く汗を拭き、髪をくくり直した。今日はポニーテイルである。手の隙間から、遠目にちらりと横__「一般生徒」ではない人を見つめた。
「アントニー、今の動きは良かったが、もう少し腕を強く振れ。次の剣術大会では人をなぎ倒さねばならないのだからな」
「……はい、教官」
肩で息をしながら、アントニーが再び剣を構え直した。視線はまっすぐに教官に合わせたままだ。それからすぐに飛び出し、上段から攻撃した……かと思えば防がれたがそのまま相手の腕を軸に背後に回り込み、足を狙う。
「ああ、相変わらずすごいわよね、アントニー。まさしく別次元って感じ」
視線に気づいた友人もまたアントニーに目を向けた。そのままベンチへ向かって二人で歩きながら話す。
「……やっぱり、昔からあんな風に剣術得意だったの?」
「そうねえ、得意っていうか、彼のお父さまに仕込まれてたわね。彼だけは休みのたびに家に戻るのを許されてたのよ、剣を磨くために」
「え……」
私は目を見開いた。涼しい風がふわりと私たちにまで届いた。アントニーの使った魔法だ。さては噂話をしているのがばれたのかと思ったが、単純に攻撃補助として使っただけであるらしく、彼はこちらを振り向かなかった。友人は突然の風を気にした様子もなく続ける。
「まあ、驚くわよね。私たちも低学年の頃は羨んだものよ、自分だって帰りたいのにって。でもね、あんなに厳しい訓練してるの見てたら、ね」
そんな気も沸かなくなったわ、と友人は話を締めくくった。その視線の先には相変わらずアントニーがいる。いつの間にか実剣を使っていたらしく、アントニーの頬からは血が流れていた。その様子が妙に彼に似合った。きっと今までもあんな風に訓練していたのだろう。
武術の訓練は辛い。今までの一か月を通して身に染みたが、勉強とはまた違った苦しさだ。単純に痛いし、教官は大体厳しく罵倒してくるし、いくら頑張っても上手くならない時期もあるし、何より。「自分が訓練を怠けて本番で力を出せなければ、人が死ぬかもしれない」という恐怖をむざむざと味わわせて来る。
怖いのだ。血が出るから。
まして彼のように、将来人を従えて指揮を執る立場の人間にはすさまじいプレッシャーが掛かることだろう。私は訓練をするたびにアントニーが心配になる。辛くないのだろうか。壊れてしまわないだろうか。
アントニーはまだずっと、真っ直ぐに剣を構え続けていた。
「「「「はい、教官!!!!!!」」」」
今は剣術訓練の時間である。
この暑苦しさと異様な空気が伝わるだろうか。多分ここにいない人間には伝わらないだろうが、ただ学生時代運動部だったならだいぶ分かってもらえるかもしれない。訓練罵倒腕立て訓練ランニング……まあそのような運動メニューである。
この剣術教官、もとは騎士団所属で、右目に怪我を負い失明してから前線を下がったようなのだが、これがまあ強いし怖い。いかつい顔つきもさることながら、身分の別なく全員いっぱしの騎士に育て上げようという気迫を感じる。
私、というかリズは多分ここを卒業したら領地に戻って婿を取って暮らすのだが、なぜこんな訓練を受けているのか……というと、もしこの国に何事かあったら最終的には陛下以外は王族貴族も全員駆り出されるから、という理由らしい。容赦が無い。
とはいえ。私たち一般生徒はこれでもまだ少し休憩を許されている感がある。
「メアリさん、休憩ですって。早くベンチまで行かないと、教官に叱られてしまうわ」
「了解! ありがとう、今行くね」
私は片腕……ではなくハンカチで軽く汗を拭き、髪をくくり直した。今日はポニーテイルである。手の隙間から、遠目にちらりと横__「一般生徒」ではない人を見つめた。
「アントニー、今の動きは良かったが、もう少し腕を強く振れ。次の剣術大会では人をなぎ倒さねばならないのだからな」
「……はい、教官」
肩で息をしながら、アントニーが再び剣を構え直した。視線はまっすぐに教官に合わせたままだ。それからすぐに飛び出し、上段から攻撃した……かと思えば防がれたがそのまま相手の腕を軸に背後に回り込み、足を狙う。
「ああ、相変わらずすごいわよね、アントニー。まさしく別次元って感じ」
視線に気づいた友人もまたアントニーに目を向けた。そのままベンチへ向かって二人で歩きながら話す。
「……やっぱり、昔からあんな風に剣術得意だったの?」
「そうねえ、得意っていうか、彼のお父さまに仕込まれてたわね。彼だけは休みのたびに家に戻るのを許されてたのよ、剣を磨くために」
「え……」
私は目を見開いた。涼しい風がふわりと私たちにまで届いた。アントニーの使った魔法だ。さては噂話をしているのがばれたのかと思ったが、単純に攻撃補助として使っただけであるらしく、彼はこちらを振り向かなかった。友人は突然の風を気にした様子もなく続ける。
「まあ、驚くわよね。私たちも低学年の頃は羨んだものよ、自分だって帰りたいのにって。でもね、あんなに厳しい訓練してるの見てたら、ね」
そんな気も沸かなくなったわ、と友人は話を締めくくった。その視線の先には相変わらずアントニーがいる。いつの間にか実剣を使っていたらしく、アントニーの頬からは血が流れていた。その様子が妙に彼に似合った。きっと今までもあんな風に訓練していたのだろう。
武術の訓練は辛い。今までの一か月を通して身に染みたが、勉強とはまた違った苦しさだ。単純に痛いし、教官は大体厳しく罵倒してくるし、いくら頑張っても上手くならない時期もあるし、何より。「自分が訓練を怠けて本番で力を出せなければ、人が死ぬかもしれない」という恐怖をむざむざと味わわせて来る。
怖いのだ。血が出るから。
まして彼のように、将来人を従えて指揮を執る立場の人間にはすさまじいプレッシャーが掛かることだろう。私は訓練をするたびにアントニーが心配になる。辛くないのだろうか。壊れてしまわないだろうか。
アントニーはまだずっと、真っ直ぐに剣を構え続けていた。
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