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第ニ章 騎士見習いアントニー
箒の上
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「……ここは」
どこかで聞いた覚えのあるようなセリフを携え、アントニーは目を開けた。
「あ、起きた? 今ね、保健室に向かう途中の箒の上」
「……保健室? いや待て、そんなことより今のこの体勢はっ」
アントニーは寝起き特有のぼんやりとした目つきでこちらを眺めたが、不意に何かに気付き慌てて起き上がった。いや、起きあがろうとしたが、出来なかった。何故か。
「うわ、危ないなあもう……」
彼の膝裏と背中に私の腕がまわり__有り体に言えば、彼が私にお姫様抱っこされていたからである。
今何でもないように私は返答したが、正直私は物凄く焦っている。いややっぱりこれ屈辱的だよね⁉︎ しかしあの状況だとこれしか出来なかったのだ、許して欲しい。
彼は騎士であることにこだわりを持っているようなのでたぶん起きたら怒るだろうな、というのは私にも分かっていた。
何らかの要因で意識を失った人間を箒で運ぶとき、普通なら柄の後ろの方に跨った自分の身体と腕の間に意識のない人を乗せホールドする。乗り慣れていない人や子どもと一緒に乗るときも同様だ。
しかしながら、私は今日もスカートである。それも膝丈くらいの。この長さのスカートだと、布が邪魔で箒に跨ることができないのである。よって、私が箒に乗るならば横座りしかない。
では彼をどう運ぼうか。膝に乗せる? 危なすぎる。背負う? 脚が邪魔だ。肩に担ぐ? 腹と頭にダメージを負うのでは?
つまり、これは必然的な出来事だったのだ。
というようなことを早口で説明しようと私は口を開いたのだが、アントニーが目を瞬いているだけなのを見て止めた。あれっ、怒っていない?
「あの、俺……重くないか?」
「え?」
今度は私が驚いた。気にするところそこ?
でも考えてみれば、彼は普通に背も筋肉もある男である。なのに私は今大した重みも感じていない。何故だろう、と改めてアントニーを見下ろすと、その背に風魔法が掛かっているのが見えた。あれ、これちょっと浮いてるのか。しかし、こんな魔法いつ掛けたのだろう。
「いや、羽のように軽い」
私は適当に軽口を返しつつ考えた。まあ私も彼も風属性持ちだし、どっちかが無意識のうちに魔法を使っていたのだろう。たぶん。
「え、あ、そうか……」
目を丸くしたままアントニーは言い、その次の瞬間急に顔を背けた。
「なに、どうしたの?」
覗きこもうとすれば、見るなと怒られた。その時ちらっと頬が見えたのだが、それは真っ赤に染まっていた。
えっなに? 遂にこの状況への怒りが湧いてきたの?
「……その、助けてくれてありがとう。また借りを作ってしまったな」
そのままの体勢で彼が言う。
「えっいや、それくらい全然良いんだけど……それより今怒ってる?」
「怒ってはいない!」
驚いたように彼がこちらを向いた。やはり顔が赤い。怒ってないなら何だ……? 熱が出たのか?
私の訝しげな目線に気付いたのか、彼は説明した。
「いや、ただ、普段は俺がこうする側だから……」
「助ける側ってこと?」
「そちらではなくて、抱き上げる側というか」
ええっと、つまり。
「お姫様抱っこされて、照れてるってこと?」
「うっ……まあ、そうだな」
改めて言われるとさらに恥ずかしいのか、彼は一瞬言葉に詰まった。
「やっぱり嫌だった……?」
「別に嫌、というわけでは……むしろ嬉しいような気もする自分に戸惑っている、というか……」
「えっ」
私が眉をハの字にして問い掛ければ彼は手を顔に当て、隠すような姿勢のまま弁解した。それに私が驚けば、彼は慌てて打ち消してきた。
「いや何でもない、忘れてくれ! 少し疲労で意識が混濁しているみたいで」
「そうなの? ……お、そろそろ保健室着きそうだよ」
「分かった、ありがとう! でもその前に下ろしてくれ!」
「え、このままのほうが早くない? というかもう着いちゃった。あっ先生、急患ですー」
「あああああ……」
とうとう彼は両手で顔を覆ったが、その手の隙間から少し表情が窺い知れた。なんだ、やっぱり嬉しいんじゃないか。
彼は顔を赤くしながらも、照れたように笑っていた。
どこかで聞いた覚えのあるようなセリフを携え、アントニーは目を開けた。
「あ、起きた? 今ね、保健室に向かう途中の箒の上」
「……保健室? いや待て、そんなことより今のこの体勢はっ」
アントニーは寝起き特有のぼんやりとした目つきでこちらを眺めたが、不意に何かに気付き慌てて起き上がった。いや、起きあがろうとしたが、出来なかった。何故か。
「うわ、危ないなあもう……」
彼の膝裏と背中に私の腕がまわり__有り体に言えば、彼が私にお姫様抱っこされていたからである。
今何でもないように私は返答したが、正直私は物凄く焦っている。いややっぱりこれ屈辱的だよね⁉︎ しかしあの状況だとこれしか出来なかったのだ、許して欲しい。
彼は騎士であることにこだわりを持っているようなのでたぶん起きたら怒るだろうな、というのは私にも分かっていた。
何らかの要因で意識を失った人間を箒で運ぶとき、普通なら柄の後ろの方に跨った自分の身体と腕の間に意識のない人を乗せホールドする。乗り慣れていない人や子どもと一緒に乗るときも同様だ。
しかしながら、私は今日もスカートである。それも膝丈くらいの。この長さのスカートだと、布が邪魔で箒に跨ることができないのである。よって、私が箒に乗るならば横座りしかない。
では彼をどう運ぼうか。膝に乗せる? 危なすぎる。背負う? 脚が邪魔だ。肩に担ぐ? 腹と頭にダメージを負うのでは?
つまり、これは必然的な出来事だったのだ。
というようなことを早口で説明しようと私は口を開いたのだが、アントニーが目を瞬いているだけなのを見て止めた。あれっ、怒っていない?
「あの、俺……重くないか?」
「え?」
今度は私が驚いた。気にするところそこ?
でも考えてみれば、彼は普通に背も筋肉もある男である。なのに私は今大した重みも感じていない。何故だろう、と改めてアントニーを見下ろすと、その背に風魔法が掛かっているのが見えた。あれ、これちょっと浮いてるのか。しかし、こんな魔法いつ掛けたのだろう。
「いや、羽のように軽い」
私は適当に軽口を返しつつ考えた。まあ私も彼も風属性持ちだし、どっちかが無意識のうちに魔法を使っていたのだろう。たぶん。
「え、あ、そうか……」
目を丸くしたままアントニーは言い、その次の瞬間急に顔を背けた。
「なに、どうしたの?」
覗きこもうとすれば、見るなと怒られた。その時ちらっと頬が見えたのだが、それは真っ赤に染まっていた。
えっなに? 遂にこの状況への怒りが湧いてきたの?
「……その、助けてくれてありがとう。また借りを作ってしまったな」
そのままの体勢で彼が言う。
「えっいや、それくらい全然良いんだけど……それより今怒ってる?」
「怒ってはいない!」
驚いたように彼がこちらを向いた。やはり顔が赤い。怒ってないなら何だ……? 熱が出たのか?
私の訝しげな目線に気付いたのか、彼は説明した。
「いや、ただ、普段は俺がこうする側だから……」
「助ける側ってこと?」
「そちらではなくて、抱き上げる側というか」
ええっと、つまり。
「お姫様抱っこされて、照れてるってこと?」
「うっ……まあ、そうだな」
改めて言われるとさらに恥ずかしいのか、彼は一瞬言葉に詰まった。
「やっぱり嫌だった……?」
「別に嫌、というわけでは……むしろ嬉しいような気もする自分に戸惑っている、というか……」
「えっ」
私が眉をハの字にして問い掛ければ彼は手を顔に当て、隠すような姿勢のまま弁解した。それに私が驚けば、彼は慌てて打ち消してきた。
「いや何でもない、忘れてくれ! 少し疲労で意識が混濁しているみたいで」
「そうなの? ……お、そろそろ保健室着きそうだよ」
「分かった、ありがとう! でもその前に下ろしてくれ!」
「え、このままのほうが早くない? というかもう着いちゃった。あっ先生、急患ですー」
「あああああ……」
とうとう彼は両手で顔を覆ったが、その手の隙間から少し表情が窺い知れた。なんだ、やっぱり嬉しいんじゃないか。
彼は顔を赤くしながらも、照れたように笑っていた。
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