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第ニ章 騎士見習いアントニー
急降下
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「ね、やっぱり学食のカツサンドって美味しいよね!」
「ああそうだね、あれは随分ボリュームがあって特に訓練後に良い」
「えっ、激しい運動した後って食欲消えない……?」
「……? いや特には……」
「わあ……若さだね……」
というような会話を続けつつ、私はアントニーと共に次の授業に向かっていた。私は少しでもイベントに遭遇するため、普段はお昼休みと授業中を除き単独行動が多い。
しかし今回使用するのはここ一ヶ月漏水で使えていなかった場所であるらしく、アントニーが私の案内を買って出てくれていたのだ。本人曰く、この前のお返しだと言う。
私はそんなのいいよと断ったのだが、
「お願いだからやらせてくれ。ここで断られてしまったら騎士の名折れだ」
との反対にあい、大人しく自分の箒に座った。
「それでこれが__」
アントニーが何か言い掛けた途端、急にガクンと彼の身体が前に倒れた。
「え……」
流石のアントニーも咄嗟に体勢を立て直せず、彼の身体はふわりと空中に投げ出された。
「アントニー!?」
私は慌てて手を伸ばしたが、思いの外彼の落ちるスピードが速く、なかなか掴めない。
「アントニー、風魔法を使って!!」
風魔法は基本的には情報収集用なのだが、先日アントニー自身が戦闘補助として使っていたように、実体を持たせることもできる。私自身、風魔法の使い手だ。風魔法使いにとって、このようなピンチに魔法を使うのは体に染み付いた習慣のはずだった。
しかし、何故か彼は動かない。それどころか、未だ自分の状況さえ飲み込めていないようだった。……疲労で、判断能力が落ちているのだ。
「……っ」
このままでは彼は地面に叩きつけられ死んでしまう。いくらこの世界に治癒魔法があるとは言えど、即死ではどうしようもない。
間に合え……!
私は急降下し、彼を追いかけた。長い赤毛が跡を引いて見える。普段なら私たちに優しい風が、頬に叩きついて肌を裂いた。私の血の赤が視界の端に見えた。
「アントニー、お願い、手を伸ばして!!」
いくら叫べど彼は硬直したままだ。
「ねえ、ちょっと……!」
いつもなら、周りの人がいくらでも助けてくれた筈だった。でも今日私たちは特別棟に来ていて、今いるのは私たちのクラスメイトだけ。
未だ魔法の覚束ない私と、意識も曖昧な彼だけ。
「ああ、もう……!!」
私は覚悟を決めた。実は私は、まだ風魔法の中でも風に実体を持たせたものを使ったことがなかった。
「あれ意外と力加減間違いやすいからさ、メアリはもうちょっと後でね」
コーディですらそう言っていたから。
私がもしここでミスすれば人が死ぬ。それが、怖くてたまらない。
でも、今使わずにいつ使うって言うんだ!
「どうにか、生きててね……!」
私は右腕を思いっきり振りかぶり__彼を救うための魔法を使った。
果たして、彼は生きていた。
私の放った魔法がクッションとなり、地面スレスレのところで止まったのだ。ただ私自身が箒で追いついたとき、彼は一見死んでいるように見えた。というのも、彼は目を閉じていたのである。
思わず背筋が冷えた私が彼に近付いて聞こえたのは、彼の安らかな寝息だった。
「よ、良かったー……」
心底ほっとして胸を撫で下ろした後、私はとりあえず彼を保健室まで運ぶことにした。いくら寝ているだけとはいえ、後遺症があったら嫌だし。
「でも、どうやって運ぼう……」
意識のない人間を箒にそのまま乗せるわけにはいかないが、しかし引きずっていくのは不可能だ。保健室は例に漏れず、箒を使ってしか行けないような高さにあるのである。
うーん……あ。
私は眠るアントニーの腰に刺さっている剣を見て、一ついい案を思いついた。いやでも、これ怒られそうだな……でも、人命救助のためだしな……。
まあ、いっか!
私はあっさりと片付け、そして彼に手を伸ばした__
「ああそうだね、あれは随分ボリュームがあって特に訓練後に良い」
「えっ、激しい運動した後って食欲消えない……?」
「……? いや特には……」
「わあ……若さだね……」
というような会話を続けつつ、私はアントニーと共に次の授業に向かっていた。私は少しでもイベントに遭遇するため、普段はお昼休みと授業中を除き単独行動が多い。
しかし今回使用するのはここ一ヶ月漏水で使えていなかった場所であるらしく、アントニーが私の案内を買って出てくれていたのだ。本人曰く、この前のお返しだと言う。
私はそんなのいいよと断ったのだが、
「お願いだからやらせてくれ。ここで断られてしまったら騎士の名折れだ」
との反対にあい、大人しく自分の箒に座った。
「それでこれが__」
アントニーが何か言い掛けた途端、急にガクンと彼の身体が前に倒れた。
「え……」
流石のアントニーも咄嗟に体勢を立て直せず、彼の身体はふわりと空中に投げ出された。
「アントニー!?」
私は慌てて手を伸ばしたが、思いの外彼の落ちるスピードが速く、なかなか掴めない。
「アントニー、風魔法を使って!!」
風魔法は基本的には情報収集用なのだが、先日アントニー自身が戦闘補助として使っていたように、実体を持たせることもできる。私自身、風魔法の使い手だ。風魔法使いにとって、このようなピンチに魔法を使うのは体に染み付いた習慣のはずだった。
しかし、何故か彼は動かない。それどころか、未だ自分の状況さえ飲み込めていないようだった。……疲労で、判断能力が落ちているのだ。
「……っ」
このままでは彼は地面に叩きつけられ死んでしまう。いくらこの世界に治癒魔法があるとは言えど、即死ではどうしようもない。
間に合え……!
私は急降下し、彼を追いかけた。長い赤毛が跡を引いて見える。普段なら私たちに優しい風が、頬に叩きついて肌を裂いた。私の血の赤が視界の端に見えた。
「アントニー、お願い、手を伸ばして!!」
いくら叫べど彼は硬直したままだ。
「ねえ、ちょっと……!」
いつもなら、周りの人がいくらでも助けてくれた筈だった。でも今日私たちは特別棟に来ていて、今いるのは私たちのクラスメイトだけ。
未だ魔法の覚束ない私と、意識も曖昧な彼だけ。
「ああ、もう……!!」
私は覚悟を決めた。実は私は、まだ風魔法の中でも風に実体を持たせたものを使ったことがなかった。
「あれ意外と力加減間違いやすいからさ、メアリはもうちょっと後でね」
コーディですらそう言っていたから。
私がもしここでミスすれば人が死ぬ。それが、怖くてたまらない。
でも、今使わずにいつ使うって言うんだ!
「どうにか、生きててね……!」
私は右腕を思いっきり振りかぶり__彼を救うための魔法を使った。
果たして、彼は生きていた。
私の放った魔法がクッションとなり、地面スレスレのところで止まったのだ。ただ私自身が箒で追いついたとき、彼は一見死んでいるように見えた。というのも、彼は目を閉じていたのである。
思わず背筋が冷えた私が彼に近付いて聞こえたのは、彼の安らかな寝息だった。
「よ、良かったー……」
心底ほっとして胸を撫で下ろした後、私はとりあえず彼を保健室まで運ぶことにした。いくら寝ているだけとはいえ、後遺症があったら嫌だし。
「でも、どうやって運ぼう……」
意識のない人間を箒にそのまま乗せるわけにはいかないが、しかし引きずっていくのは不可能だ。保健室は例に漏れず、箒を使ってしか行けないような高さにあるのである。
うーん……あ。
私は眠るアントニーの腰に刺さっている剣を見て、一ついい案を思いついた。いやでも、これ怒られそうだな……でも、人命救助のためだしな……。
まあ、いっか!
私はあっさりと片付け、そして彼に手を伸ばした__
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