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第四話 柚葉視点
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15歳12月24日 誕生日(後半)
桃花の言っていたajittoは桃花の好きなアクセサリーショップだ。駅前のビルの一角にあって人通りの沢山ある場所だから外から覗いてちゃんと確かめよう。
大丈夫、人が沢山いるから私だとバレない。
確かめなきゃ。絶対に桃花の嘘だ。信じたくない。
この事だけを考えて全力で走っていた。
人通りが多くなり、走りながらすれ違うこともままならない。柚葉は走るのをやめ、速足でajittoの前までたどり着いた。
お店の入り口はガラス張りになっていて、柚葉は覗こうと近づく。その時、お店のドアが勢いよく開かれた。
!桃花!
柚葉の思考は停止した。
バレないようにソロリと覗こうとして、本人と鉢合わせしたのだから無理もない。
立ち止まっていた足が、ゆっくり一歩ずつ後退していく。
ドアを開けた時点で桃花に睨まれたけど、今はさらに鬼の形相だ。
何かブツブツと言って、柚葉が聞き返そうとした瞬間に桃花は柚葉を勢いよく突き飛ばした。
痛みより、どうして桃花はあんなに怒っているのか解らなくて足がもつれる。
そのまま柚葉は歩道の縁石を踏み外した。
「ドサッ」
柚葉は車道に倒れ込む。体を起こそとしたその時、
柚葉を大きな影が埋め尽くす。
「パッパ――!」
顔を上げることも出来ない速さで、車のクラクションが柚葉の耳を劈く。
その後は無音でスローモーションだった。
柚葉の体は、一回大きな衝撃と共に宙を舞って、再び車にぶつかって前方へと投げ出された。ゴロゴロと体は転がりうつ伏せになってようやく静止した。
ただゆっくりと動くその光景を柚葉は傍観者のように体験していた。
「大丈夫か⁈」
意識が朦朧とする中で、腕に力を込めて半身起き上がってみる。でもそれ以上は無理だった。
下半身が動かない。あたりをゆっくり見渡すと、柚葉を心配そうに見つめる人だかりが出来ていた。その中に桃花はいない。
頭からドロリと右目に何か入って、視界が真っ赤に染まる。もう少しだけだから、お願い、ちゃんと見えて。
首の角度をもたれるように店側にやると、桃花が走り去っていくのが見えた。
そして聞き慣れた声がする。私が一番好きな奏の声が。
「桃花ー!待てって!桃花ー!」
あぁ、そうか、奏の目に私は映らなかったのか。
奏の見る先にあるのは桃花だけ。
柚葉はそれを見届けて、ゆっくりとアスファルトへ顔を近づけた。
私じゃなかったんだね。
どうして期待してしまったんだろう。
バカな私。
柚葉の目に真っ赤に流れたそれは涙だと気付く人は誰一人いなかった。
桃花の言っていたajittoは桃花の好きなアクセサリーショップだ。駅前のビルの一角にあって人通りの沢山ある場所だから外から覗いてちゃんと確かめよう。
大丈夫、人が沢山いるから私だとバレない。
確かめなきゃ。絶対に桃花の嘘だ。信じたくない。
この事だけを考えて全力で走っていた。
人通りが多くなり、走りながらすれ違うこともままならない。柚葉は走るのをやめ、速足でajittoの前までたどり着いた。
お店の入り口はガラス張りになっていて、柚葉は覗こうと近づく。その時、お店のドアが勢いよく開かれた。
!桃花!
柚葉の思考は停止した。
バレないようにソロリと覗こうとして、本人と鉢合わせしたのだから無理もない。
立ち止まっていた足が、ゆっくり一歩ずつ後退していく。
ドアを開けた時点で桃花に睨まれたけど、今はさらに鬼の形相だ。
何かブツブツと言って、柚葉が聞き返そうとした瞬間に桃花は柚葉を勢いよく突き飛ばした。
痛みより、どうして桃花はあんなに怒っているのか解らなくて足がもつれる。
そのまま柚葉は歩道の縁石を踏み外した。
「ドサッ」
柚葉は車道に倒れ込む。体を起こそとしたその時、
柚葉を大きな影が埋め尽くす。
「パッパ――!」
顔を上げることも出来ない速さで、車のクラクションが柚葉の耳を劈く。
その後は無音でスローモーションだった。
柚葉の体は、一回大きな衝撃と共に宙を舞って、再び車にぶつかって前方へと投げ出された。ゴロゴロと体は転がりうつ伏せになってようやく静止した。
ただゆっくりと動くその光景を柚葉は傍観者のように体験していた。
「大丈夫か⁈」
意識が朦朧とする中で、腕に力を込めて半身起き上がってみる。でもそれ以上は無理だった。
下半身が動かない。あたりをゆっくり見渡すと、柚葉を心配そうに見つめる人だかりが出来ていた。その中に桃花はいない。
頭からドロリと右目に何か入って、視界が真っ赤に染まる。もう少しだけだから、お願い、ちゃんと見えて。
首の角度をもたれるように店側にやると、桃花が走り去っていくのが見えた。
そして聞き慣れた声がする。私が一番好きな奏の声が。
「桃花ー!待てって!桃花ー!」
あぁ、そうか、奏の目に私は映らなかったのか。
奏の見る先にあるのは桃花だけ。
柚葉はそれを見届けて、ゆっくりとアスファルトへ顔を近づけた。
私じゃなかったんだね。
どうして期待してしまったんだろう。
バカな私。
柚葉の目に真っ赤に流れたそれは涙だと気付く人は誰一人いなかった。
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