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第十話 柚葉視点
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15歳夏 夏休み
「誰?その子?」
遅れてきたショートカットの部員が1人聞いてきた。水泳部のジャージを着ている。柿崎くんが答える。
「栗原さんだよ。マネージャー。」
「ふーん。やるじゃん晴人。」
ショートカットの部員が柚葉の前に立って自己紹介した。
「佐藤茜だよ。2年。よろしく。」
男の子じゃなかったー。佐藤先輩の第一印象はキラキラな黒髪黒目の王子様だ。男性アイドル顔負けの美少年もとい美少女だ。柚葉はフリーズしてマネージャーを否定する事を忘れて自己紹介してしまった。
「栗原柚葉です。よろしくお願いします。」
「柚葉ね。足怪我してるね。着いてきて。」
佐藤先輩は顎をクイと横に曲げると、柚葉をプールサイド脇のベンチへと促した。柚葉は佐藤先輩と2人でベンチに座る。ここからだと、プール全体がよく見渡せる。
「まずマネージャーの仕事は……」
佐藤先輩はマネージャーの仕事を一通り説明してくれた。柚葉はその説明をメモ帳に書きこんだ。何か質問は?と聞かれたので柚葉は質問を探した。
「佐藤先輩は、」「茜。」
「佐藤の名前は他にもいるし、茜って呼んで。」
はい。と答えて柚葉は質問を幾つかした。
茜先輩は今は怪我してマネージャーの仕事をしてるけど、自分も選手の1人だと教えてくれた。
他にも茜先輩と柿崎くんは幼馴染で水泳部員のほとんどが小さい頃からの友達だった。その日から柚葉もマネージャーとして水泳部員になった。帰り道で柿崎くんに
「晴人って呼んで。」
と懇願されたので、晴人くんと呼んだ。
柚葉は男子の名前呼びは奏しかいなかったからドキドキした。
目紛しくも楽しい高校生活は過ぎていき、夏休みに入った。
夏休み前に寮では帰省届を書いて下さい、と言われたが、帰る理由が思いあたらなくて柚葉は提出しなかった。
夏休みの初日は部活がお休みで、柚葉は部屋で宿題をしていた。柚葉の部屋の電話が鳴る。出ると寮の受付から来客がある旨を伝えられた。
「サワダソウ様がお見えになってます。会われますか?」
柚葉は耳を疑った。奏がここに来てる……。どうして。
柚葉は何も答えられないままでいると
「ロビーにお通し致しますか?」
やめて。
「あ、会えません。る、留守だと言って下さい。か、帰って来ないって伝えて下さい。」
柚葉は吃りながら受付に懇願する。
受話器を持つ手が震える。
「……わかりました。」
受付は電話を切った。昨今、巷ではストーカー等の事件があったために、本人の承諾がない限り面会は出来ない。また待ち伏せされないために、不在時は帰宅時間が相手に知らされない。
柚葉は急いで窓に向かった。バレないようにカーテン越しからそっと外を覗いた。奏だ。
奏は寮を出て、バスのロータリーのベンチに腰を下ろした。良かった帰ってくれる。バスは1時間に1本のペースでやって来る。今、10時10分だから50分後にバスが来る。柚葉は時計をみて、また奏をみた。
11時、バスは定時にやって来た。柚葉はホッとしてバスを見送った。
しかし奏はまだベンチにいた。
次のバスも。その次のバスも奏は乗らなかった。
ずっと柚葉を待っているかのように。
17時の最終バスが来て、ようやく奏は立ち上がり、もう一度柚葉の寮を一瞥してバスに乗った。
奏が乗ったバスが段々小さくなって見えなくなっても、柚葉はしばらく窓から離れることが出来なかった。
「誰?その子?」
遅れてきたショートカットの部員が1人聞いてきた。水泳部のジャージを着ている。柿崎くんが答える。
「栗原さんだよ。マネージャー。」
「ふーん。やるじゃん晴人。」
ショートカットの部員が柚葉の前に立って自己紹介した。
「佐藤茜だよ。2年。よろしく。」
男の子じゃなかったー。佐藤先輩の第一印象はキラキラな黒髪黒目の王子様だ。男性アイドル顔負けの美少年もとい美少女だ。柚葉はフリーズしてマネージャーを否定する事を忘れて自己紹介してしまった。
「栗原柚葉です。よろしくお願いします。」
「柚葉ね。足怪我してるね。着いてきて。」
佐藤先輩は顎をクイと横に曲げると、柚葉をプールサイド脇のベンチへと促した。柚葉は佐藤先輩と2人でベンチに座る。ここからだと、プール全体がよく見渡せる。
「まずマネージャーの仕事は……」
佐藤先輩はマネージャーの仕事を一通り説明してくれた。柚葉はその説明をメモ帳に書きこんだ。何か質問は?と聞かれたので柚葉は質問を探した。
「佐藤先輩は、」「茜。」
「佐藤の名前は他にもいるし、茜って呼んで。」
はい。と答えて柚葉は質問を幾つかした。
茜先輩は今は怪我してマネージャーの仕事をしてるけど、自分も選手の1人だと教えてくれた。
他にも茜先輩と柿崎くんは幼馴染で水泳部員のほとんどが小さい頃からの友達だった。その日から柚葉もマネージャーとして水泳部員になった。帰り道で柿崎くんに
「晴人って呼んで。」
と懇願されたので、晴人くんと呼んだ。
柚葉は男子の名前呼びは奏しかいなかったからドキドキした。
目紛しくも楽しい高校生活は過ぎていき、夏休みに入った。
夏休み前に寮では帰省届を書いて下さい、と言われたが、帰る理由が思いあたらなくて柚葉は提出しなかった。
夏休みの初日は部活がお休みで、柚葉は部屋で宿題をしていた。柚葉の部屋の電話が鳴る。出ると寮の受付から来客がある旨を伝えられた。
「サワダソウ様がお見えになってます。会われますか?」
柚葉は耳を疑った。奏がここに来てる……。どうして。
柚葉は何も答えられないままでいると
「ロビーにお通し致しますか?」
やめて。
「あ、会えません。る、留守だと言って下さい。か、帰って来ないって伝えて下さい。」
柚葉は吃りながら受付に懇願する。
受話器を持つ手が震える。
「……わかりました。」
受付は電話を切った。昨今、巷ではストーカー等の事件があったために、本人の承諾がない限り面会は出来ない。また待ち伏せされないために、不在時は帰宅時間が相手に知らされない。
柚葉は急いで窓に向かった。バレないようにカーテン越しからそっと外を覗いた。奏だ。
奏は寮を出て、バスのロータリーのベンチに腰を下ろした。良かった帰ってくれる。バスは1時間に1本のペースでやって来る。今、10時10分だから50分後にバスが来る。柚葉は時計をみて、また奏をみた。
11時、バスは定時にやって来た。柚葉はホッとしてバスを見送った。
しかし奏はまだベンチにいた。
次のバスも。その次のバスも奏は乗らなかった。
ずっと柚葉を待っているかのように。
17時の最終バスが来て、ようやく奏は立ち上がり、もう一度柚葉の寮を一瞥してバスに乗った。
奏が乗ったバスが段々小さくなって見えなくなっても、柚葉はしばらく窓から離れることが出来なかった。
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