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第十二話 柚葉視点 閑話 奏視点
しおりを挟む柚葉が振り返る。
奏と視線が重ならない。奏の視線の先には晴人くんがいる。奏が真顔で2人に近寄った。
奏は無表情だけど怒っている。ずっと前から見ていた柚葉には分かる奏の顔だ。
どうして今日なの?
今日は桃花の誕生日でしょ。
柚葉は言葉にした。
「どうして来たの?」
奏はずっと見ていた晴人くんから視線を逸らし、柚葉の方を向く。バッグから包みを取り出し柚葉に差し出す。
「これを渡しに……」
差し出された包みを受け取る時、柚葉は奏の長い指に触れた。すごく冷たい。きっと奏は夏休みの時と同様、朝から待っていたんだ……。柚葉は包みから、白い毛糸の手袋を取り出す。柚葉へのプレゼントだとわかり、ありがとうとお礼をする。
奏は何も答えない。
2人の間に沈黙が流れる。
「あのう。」
晴人くんが沈黙を割って話しかけてくる。
晴人くん、お願いだから変なことだけは言わないで。柚葉は心の中で願う。
「このままだと最終のバスに乗り遅れますよ。」
柚葉も奏もハッとする。学校の時計台を見ると、16時50分だった。晴人くんナイス!
「奏、ロータリーへ行こう。」
「……わかった。」
寮の前で晴人くんと別れ、2人でロータリーに向かった。バスはすでにロータリーに停留していて、柚葉はホッとする。バスの前まで来て柚葉は思っていることを口に出した。
「奏。私、今部活に入ってて……。寮に来てくれても会えないとい思う……だから、その……。」
もう来ないで。
この言葉が声にならない。
それでも奏は柚葉が何を言いたいのか理解した。
奏はポケットからメモを取り出し渡す。
メモには奏のスマホのアドレスが書いてある。
「なんでもいいから、連絡して。」
柚葉はおずおずとそのメモを受け取ろとした時、グッと奏に腕を掴まれ引っ張られた。一瞬の事だったけど、確かに奏の唇が柚葉の唇と重なった。
体中に熱い血が巡るような錯覚、そして高揚、羞恥、様々な感情が柚葉の中で渦巻く。
「……会いたかった。」
奏のその声が、その熱を帯びた眼差しが柚葉に電流の様な刺激を与えた。何も考えずにただ奏の胸へ飛び込んでしまいたかった。
それでも柚葉の中に桃花の顔が浮かんだ。
罪悪感。
柚葉の最後に占めた感情はそれだった。
「何してんのっ!奏には桃花がいるじゃない!」
奏の胸をつき飛ばし、柚葉は涙を目に溜めて踵を返した。後ろから奏が
「俺は桃花と付き合ってない!」
柚葉の耳に奏の声は確かに聞こえたけど、振り返らず走って寮に向かった。
奏を乗せたバスが去って行くのを背中に感じとって。
――――――
閑話 奏視点
新幹線が発車するベルを鳴らした。
空いている窓際の席に座る。奏は窓に方杖をつき景色が流れるのをただ見てた。新幹線が進むに連れて雪国の町から次第に景色が変わってく。とうとう雪は雨に変わった。
奏は自分と柚葉のこころの距離が、この新幹線の進む距離に重なる。
「じゃあ辛くなったら一番最初に俺に言って。俺が柚葉を休ませるから。」
どうして俺じゃダメなんだよ、柚葉。
1年会わなかっただけで、綺麗になった柚葉を見て奏の胸は高鳴った。だけど柚葉は自分の知らない男といた。
理性が効かなくなって思わず柚葉にキスをした。
奏は目をぎゅっと瞑って、その事だけを考えた。
新幹線が最終駅に着く頃には雨が止んで曇り空になっていた。
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