僕とジュバック

もちもち

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ヒトリメ

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大きな通りから外れた小道に、少し寂れた喫茶店が、ぽつんとある。

それが、僕がバイトしている喫茶店の『ジュバック』。
昔ながらの煉瓦造りで、看板は煤けている。店内は間接照明にボンヤリと照らされ、古びたカウンターと窓際のボックス席が2つだけの、こじんまりとした店だ。


このジュバックで雇われてから1週間。
仕事には、まだ慣れないが、日に10人前後しか来ないようなお店なので、それほど大変ではない。


いや、むしろ、こんなにお客さんが少なくて大丈夫だろうか…
バイトの分際でアレだが、正直言うと「店潰れないか…?」と心配になる。



あと、マスター……
マスターが僕の雇用主。

年齢は不詳。
だけど、長身細身、白髪で、男の僕がいうのも変だが、中々のイケおじだと思う。

しかし、この、イケおじマスター。
今日もそうだが、ほとんど店にいない。


突然、ふらりとやってきては、常連と話すだけ話すと、帰っていく。
謎な人……だと思う。







コロン、カラァン……

ドアベルが軽やかな音をたてる。
今日初めてのお客さんだ。


「いらっしゃいませ~」
「お一人様ですか?お好きなお席へどうぞ」


「………」

細身の女性。
年は40才くらいだろうか。
上品な美人といった印象だ。

女性は無言で頷いて、一番奥の窓際のボックス席に座った。



僕は、メニューとおしぼり、お冷やを、女性の前に運ぶ。


女性は、メニューを開くこともなく

「あの…、注文いいですか?」
「はい。」

「ブレンド、ホットで一つ。」
「ブレンドのホットをお一つですね。かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」


注文を終えると、女性は、ぼんやりと窓の外を見つめ始めた。





こぽこぽこぽ………
サイフォンの中で、お湯の沸く音が響く。


女性に似合いそうな、薄紫のバラが描かれたカップを選び、コーヒーを注いで、運ぶ。


………コトリ

「お待たせいたしました。ブレンドでございます。」

女性は、カップを見てふんわりと微笑みながら、会釈をした。



「ごゆっくりどうぞ。」

僕はそう言って、またカウンターの奥へと戻った。






1時間ほど経っただろうか。
ふっと、その女性の方を見る。



…………ん?笑ってる?


女性は、静かに窓の外を見ているが、目を見開き、口端がつり上がっているように見えた。
あ、こっち振り向くかも…と感じた瞬間、僕はなぜか激しい悪寒を感じ、カウンターの陰にバッと隠れていた。



訳も分からず、心臓がドッドッドッド…と早鐘をうつ。


女性が動き始めたようで、洋服の擦れる音、ヒールのコッコッコッという音が近づき、僕が隠れている前で止まった。



無音の時が流れる。
一体、どれくらいの時間が流れただろうか。
数分かもしれないし、数十分かもしれない。




どうしよう…そう思った矢先




「ごちそうさま」

小さな呟きが聞こえ、コロン、カラァン…とドアベルの軽やかな音が響いた。



「っ………。はっはっ…はぁ゛~~~……。も~何隠れてんだよ僕~。」

僕は、呼吸するのも忘れていたようで、ハアハア息を切らしながら立ち上がると、キョロキョロと女性が去ったことを確認した。


誰もいない。

「ほ~~~……………」


安堵のため息をもらす。


しかし、直後

「…………ん?無銭飲食?」

ハッと気づき、女性を追って外に出るが、もう女性の姿はどこにもない。




「うわぁ…マジかよ…。」


初めての大きなミスにショックを受けながら、フラフラと店内に戻った。

「マスターになんて言おう」

僕は、ひどく落ち込みながら、渋々と女性のいたテーブルを片付け始めた。
するとそこには、コーヒー代230円が、キッチリと置かれていた。



「も~~~!なんだよ~、金置くなら、ちゃんと言ってってくれよ~」

少し前のショックと、安堵の気持ちがゴチャゴチャになって、僕はそのまま座り込んだ。



「は~~~~~~~~………」

どうせ暇なので、そのまましばらくぼんやりすることに。



「そういえば、あの人、1時間近くも何眺めてたんだ?」
そんな疑問が浮かんだ。





「花?」

女性が見ていたであろう方向には、道路に置かれた花束が見えた。




「あ~………去年だっけ。確か、女の子のひき逃げがあった場所だよなぁ」と思い起こす。




ちょうど高校からの帰宅途中だった。
僕が通りかかったときには、救急車に、パトカーに、野次馬に…。とにかく酷い騒ぎになっていた。



逃げた犯人、まだ捕まってないんだっけ………。


あの人は、なんであれを眺めてたんだろう。
しかもあんな笑った顔で………。


あれは笑ってたんだろうか………?


女性の表情を思い出して、僕はまた酷い悪寒を感じた。


僕は、悪寒を吹き飛ばすようにブンブンと頭を振り、「よし!」と自分に気合を入て、仕事の続きに戻った。
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