泥土に咲く花

りゅ氏

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第三章 花はいつか散る

番外編 過去の自分

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これは俺と陽菜がまだ会う前の話。
ちょっとした意味のない昔話。

俺は家族に捨てられた。親の手がかりとなるものは名前と生年月日の書かれたメモだけだったらしい。
今も手元にあり、たまにボーっと見る事がある。
俺を捨てた親。探し出して問い詰めてやりたい。
勿論こんなメモ一枚で探せるわけもなく…。

「琉弥君、また見てたの?」
「あ、静音さん、おはようございます」

気付けば静音さんが俺を見てた。

「おはよう、何か分かったの?」
「いいえ、これだけでは分かりません、でも不思議なんですよね…」
「何が不思議なのかしら?」
「なぜ、これから捨てるであろう子供にわざわざ名前を書いた紙を置いたのかなって」
「さぁ、私には分からないわね…」
「僕も分かりません、だからボーっとしてました」

静音さんはここでは一番優しくしてくれる。私を母親のようになんて言うけど、静音さんには本物の家族が居るのだ。そんなおままごとみたいな事、悲しくなるだけ。

「ね、本当に一人部屋で良いの?誰か居たほうが良いんじゃないの?」
「僕は一人の方が気楽ですから、お気遣いありがとうございます」

物心ついた時から色んな大人に囲まれて育ち、なんとなくワガママを言ってはいけないような状況になり、俺は皆に壁を作っている。というより、一人の方が楽だ。

「相部屋にしたかったら何時でも言ってね、それとそろそろ学校よ」
「はい、準備して行ってきますね」

いつものように学校に行き、一人でボーっと過ごし、何もしない人生。
俺の人生はこんなので良いと思ってた。



ある日、学校で先生がホームルーム中にこんな事を言い出した。

「明日の課題は両親についての作文を書いてきてもらう」

そんな事俺に書けるわけがない。そして誰かがいたずらに手をあげる。

「先生ー、このクラスに両親が居ない人がいまーす」

そしてクラス中にクスクスと笑い声が響く。きっと何気ない一言だったんだろう。腹を立てる事もない。
特に何事もなかったかのようにしていると、手を挙げた男子が無視をされたと思ったのか、怒り口調で俺を責める。

「お前に言ったんだよ、佐倉、無視すんな」

なおも無視する俺にその男子は顔が真っ赤になる。なぜ怒るのか理解出来ない。

「こら、喧嘩はやめろ、あー、佐倉はその、保護者の人の事を書きなさい」

いかにも湿った空気でホームルームが終わった。そして先生が去った後、その男子が仲間を引き連れて俺の元へやってくる。

「良くも無視したな、お前、生意気なんだよ!」
「あーごめん」

適当に返事してたのがバレたのか、男子の怒りは頂点に、そのまま校舎裏に連れていかれる。
そして殴る蹴るの暴行。少し痛いが我慢できる痛みだ。ただ、耐えればいいだけ。

「お前、虐め決定な、毎日やってやるから」

さすがに毎日は面倒だなって思いつつも、そのうち飽きるだろって思った。
それからは暇を見ては呼び出され、殴ったり蹴ったり。人に見られても、俺から喧嘩を売ってきたと言ってきて、自己を正当化する。
そんな中、静音さんが不審に思ったのか、俺に色々尋ねてくるようになった。

「ねぇ、その怪我、ただの怪我じゃないわよね?どうしたの?」
「転んだだけですよ、大丈夫です」
「何かあったら何でも言って頂戴、琉弥君の事心配してるのよ?」

別に言った所で何かが変わるわけでもないし。俺が耐えれるならそれで良い。そう思ってた。


そしてもう何度になるか分からない呼び出し、相手は三人。例によって人目のつかない場所だ。

「お前何も抵抗しないから、楽しくなっちゃうな」

男子の一人が笑いながら殴ってくる。

「こんな事やって楽しい?」

俺は普通に疑問に思ったので聞いてみた。

「お前のそういう態度がムカつく!」

思い切り蹴飛ばされる。

「しかし、こいつ何も抵抗しないね、こいつを育てた奴ってあれだろー、施設の」
「あー、あのおばさんね、あのおばさんも災難だなー、こんな奴を見てないといけないなんて」
「あの、おばさんもどうせアホなんでしょ?頭悪そー」

子供にとっては何気ない思った事を口にするだけのただの悪口。そう思ってた。

「え…っうわぁ!」

気付けば相手の一人を押し倒し、ただひたすらに、拳をふるう。それでも怒りは治まらない。
残りが必死で止めようとするがいう事を聞かないと悟った二人はここから逃げ出す。

「ご、ごめっ・・・」

相手の言う事なんて聞く耳もたずに、ひたすらに黒い感情を開放していく。
そっか、親しい人を馬鹿にされるとこんなにも腹立たしいものなんだな。
やがて戻ってきた二人が先生を連れてきて、無理に引き剥がされた。



その日のうちに相手の母親が来る、事情を聞いたにも関わらず、うちの息子は悪くないの一点張り。

「おばさん、こっち一人なのに、相手三人だよ」
「うちの子はきっと脅されたんです、そうに違いないわ!」

何を言っても聞く耳持たず、先生もあきれ果ててる所に、静音さんがやってきた。

「琉弥君!」
「あ、静音さん」

静音さんは凄い勢いで俺に近づいてくるなり、俺の頬を思いきり叩いた。

「…っ」
「うちの子がすみませんでした!後日お詫びさせていただきますので今日の所は…どうか…」

なんで俺が叩かれたんだろう。良く分からない。

「本当に気を付けてくださいよ!」

俺が悪いという流れのままこの話は終わった。納得がいかない。
訳が分からないまま解散となり、俺は静音さんに連れられて帰る。
そして静音さんが俺に抱きついてきた。

「ごめんなさい、気づいてあげられなくてごめんなさい」
「静音さん…?」
「琉弥君が大変な事になってるの気付いてあげられなくてごめんなさい。だけど、暴力は絶対ダメ。例えやられたとしても、やり返したらその人たちと同じになるの」
「…うん」
「でもね、一番悪いのは気付いて何もしてあげられなかった私だから、琉弥君は悪くないから」

その言葉が先ほどの親子の言葉と重なった。俺はあの親子を見て、ずっと別の事考えていた。
羨ましいと…。
明らかに子供が悪い状況でもあの母親は頑なに我が子を信じていた。
そうか…。静音さんも…。

「静音さん、今日はごめん、俺はもう絶対暴力振るわないよ」
「琉弥君…っ」

静音さんの抱きしめる手が強くなる。

「ね、琉弥君にもいつか家族が絶対できるから、その時は貴方がちゃんとしてあげるのよ」
「俺に家族なんて要らないよ」
「そんな事言ってもいつか絶対出来るときは来るから、私が保証してあげる!」
「うーん、実感沸かないや」
「琉弥君は家族が出来るとしたら妹が欲しいと思う?」
「妹ー?なんかワガママそうだから、ちょっと嫌だなぁ」
「そんな事言って、意外とシスコンになったりして」
「し、しすこん?なにそれ」

その意味を知る事になるのは俺が身を持って証明する事になる。
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