たった五分のお仕事です?

オレンジペコ

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Ⅰ.ファースト・コンタクト

7.これで安心!

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その日のパーティーはエレンドスの件さえ除けば後は問題なく終えることが出来た。
締めの王妃の言葉が辛辣且つ秀逸だったが、それによって事なきを得たと言っても過言ではないだろう。

その後後片付けやなんやらでバタバタとはしたが、今日で最後だからと好きな余り物料理を詰め込ませてもらえた深皿を手に無事自室へと戻ってくることが出来た。
どの料理も美味しい!と思いながらパクパクと食べ、さて後はシャワーを浴びて寝るだけだと思ったところで部屋のドアがノックされた。
もしや第一王子かと一瞬顔色が変わったが、扉の向こうから聞こえたのはラフィの声でホッと安堵の息を吐く。

「ユウジ。俺」
「ラフィ!」

扉を開けると疲れたような顔をしたラフィが立っていたので急いで部屋に入ってもらう。
お茶くらいは出せるので急いで湯を沸かしにかかった。

「お疲れ。今日は助けてくれて本当にありがとうな」

そう言いながら茶葉をティーポットに入れてカップの準備もする。

あの正論は本気で助かった。
あれがなかったら今頃どうなっていたことか……。
牢屋にでも入れられていたらと思うとゾッとする。
俺まだこの世界のことあんまりわかってないから、地雷とかさっぱりわからないんだ。
でも…ラフィが王子らしくない王子でラフに接していいってスタンスだし、マーシュさんも特にその辺のことについては何にも言ってなかったから、特別厳しい世界とかではないのかもしれない。
小説なんかだと王族や上流貴族にちょっとでも無礼な事をしたらその場で首チョンパとかあったりするし…それを考えると今回俺は運が良かったんだと思う。

ちなみにラフィはソファでグテッと寛ぎ中だ。
こういう遠慮なくだらけている姿はやっぱりとても王子には見えない。

「う~…バカの後始末で疲れた~…」

この場合バカというのはエレンドスのことだろう。
確かにあれは酷かった。
侯爵との話し合いを一手に引き受けたラフィは大変だったはずだ。

それを横目にテキパキとお茶を用意してそっとラフィの前に差し出すと、深々と息を吐いた後ふわりと茶の香りを楽しみリラックスした様子で笑ってくれたので、俺も笑顔で正面のソファに腰を下ろした。

「ユウジが淹れてくれたお茶、美味しい…」
「そっか?ありがと」

よくはわからないが王族が飲むお茶は使用人が飲むお茶よりも高級な気がする。
なのにこんな風に言ってくれて、気遣いができるラフィについ嬉しくなってしまった。
そこでそう言えばラフィに謝らないといけないことがあったんだったと思い出し、おとなしく白状してみることに。

「あのさ、さっきラフィが侯爵様と出ていった後なんだけど…」

そう切り出すとラフィがこちらを見て話の続きを促してくれる。

「エレンドスに絡まれてるところを第一王子に助けてもらったのはいいんだけど…さ」

その言葉にラフィの目がどこか真剣な物へと変わったのを感じて、やっぱりマズかったのかと嫌な汗が出始めた。

「その…エレンドスを追い払ってもらえたのは良かったんだけど、その後……」
「…その後?」
「この王子が俺を呼び出したんなら危険かもしれないと思って、ラフィの友人だって言って牽制させてもらったんだ」

ゴメンと謝るとラフィは「なんだ」と言って詰めていた息を吐いて、安堵したようにソファの背に勢いよく凭れかかった。

「それくらい全然構わないし。俺の名前が役に立つならいくらでも使ってくれ」

しかもそんなことまで言ってくれて有難いやら申し訳ないやらで居た堪れない気持ちになった。

「そ…それでさ?その…あと…でな?」
「うん?」

落ち着いてのんびりお茶を飲みだしたラフィに、俺は意を決してその次に起こったことを口にした。

「いきなり頰にキスされたから俺、メチャクチャびっくりしたんだけど、その反応が悪かったのか笑顔でラフィが許可したら夜伽に呼ぶとか言われちゃったんだ…!お、俺、どうしたらいい?明日、朝から逃げた方がいいか?ここから外に逃げる方法、何かない?」

泣きそうな気持ちで相談したら、ラフィはいきなり茶を噴いた。

「ぶっ…ゴホッ…げふっ…」
「だ、大丈夫か?!」

咽るラフィに焦って慌てて背中を撫でに行くと大丈夫だと言われたが全然大丈夫そうには見えない。

「くそっ…どいつもこいつも……ふざけやがって」

どうやらかなり憤慨しているらしい。
そりゃあ友人が身内にそんな目に合わされたと聞いたら気分も悪くなるよな。
本当にゴメンって感じだ。
でもここで頼れるのが目下のところラフィしかいないのは事実なので、何とか知恵を貸してほしいと思ってしまった。

「何か手はないかな?」

不安いっぱいにそう尋ねてみるとラフィは心配するなと笑顔で頭を撫でてくれる。

「大丈夫だ。逃げ出さなくても俺が友情にかけてユウジを守ってやる!」

王子!王子がいる!
なかなか俺の周りでこんなセリフを本心から言うような奴はいない。
まあそういうシチュエーションにならないっていう理由が大きいけど、守ってやるなんてセリフが似合うのはラフィが王子だからだよな。
しかも友情にかけてなんて嬉しいセリフまで言ってくれるなんて…!
流石本物の王子様と思わず感心してしまった。

「取り敢えずあいつの急所は明日蹴り潰してやるから心配するな」

(うん?)

「いや、それはやり過ぎやり過ぎ!」

第一王子ってことは王太子ってことじゃないんだろうか?
つまり次の王様。
蹴り潰したら跡継ぎ出来なくなっちゃうじゃないか!
いくらバカ王子と呼ばれるような王子でも流石にそれは可哀想だ。
それなのに第一王子を庇った俺をラフィはキラキラ笑顔で「ユウジはやっぱり優しいな」なんて言ってくるんだ。
おかしい…。物凄く常識的なことを言ったはずなのに、何故かラフィの中の俺の評価が上がっている気がする。

「それより頬にキスなんてされて大丈夫だったか?」
「あ、それな。一応袖で拭いたけど、びっくりした。ラフィが気をつけろって言ってた意味が凄くよくわかったよ。ゴメンな?折角忠告してくれてたのに」

この件についてもちゃんと謝っておこうと思ってそう口にすると、ラフィはどっちにされたんだと聞いてきたから左の頬だと正直に口にした。
するとそっと手が伸ばされて、その大きな手の平で左の頬を包み込まれ指の腹でそっとキスされた場所付近を拭うように擦られる。

「可哀想に。今度からは思いっきりぶん殴っていいからな」

さっきから一々武闘派発言が多いけど、ラフィなりに俺を気遣ってくれているのはわかるのでありがとうと笑顔で礼だけ伝えておいた。

「明日は執務室でいいなら俺と一緒に居たらいい。俺もその方が仕事が捗りそうだし」

どうせ明日帰るんだろうと言われて、そうだったと気持ちが明るくなる。
魔術師の人は約五日と言っていたし、遅くとも明日の夜には帰れるはず。
その間ラフィの傍に居ていいと言ってもらえるのならこれほど安全な場所は他にない。

「そうしてもらえたらすごく嬉しい!でも邪魔にならないか?」

多分ラフィにも側近とかいう人がいるだろうし、仕事の邪魔だから出て行けとか言われたりしないだろうか?
そう思って尋ねてみると、ラフィは笑顔で全然大丈夫だと返してきた。

「側近はちょっと旅に出てるから大丈夫。やるべき仕事もちょっとだけ溜まってるけどすぐに終わるから気楽にしてて欲しい。片付いたら庭でランチしたり、そうだな…馬にも乗ってみるか?きっと楽しいと思うぞ?」
「馬?!」

凄い!乗馬なんてやったことがないから興味津々だ。
こっちに来て結局チャンスがなくて料理は覚えられなかったけど乗馬ができるならいい思い出になる。

「嬉しい!俺、馬なんて初めてだ!」
「そうか。じゃあ明日が楽しみだな」
「うん!」

折角ここに来たんだし、精一杯楽しんでいってくれと笑顔で言ってくれるラフィに、俺は満面の笑みでお礼を言った。



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