【完結】王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~

オレンジペコ

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【ガヴァムからの来客】

121.ガヴァムからの来客④

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ロキ陛下がブルーグレイへとやってきた。
最初っから本当に常識破りで来たから皆は驚いたようだけど、セドの友人だしと比較的好意的に出迎えられた。
食事の席でもセドは随分機嫌が良さそうで、これには姫もかなり驚いていたように思う。

「あの悪魔があんなに好意的な目で接しているなんて…ロキ陛下って人たらしなのかしら?」

ぽつりとそんなことを溢し、あり得ないものを見たと目を見開いていたほどだ。
でもこれなら必要以上にフォローをしなくて大丈夫そうだと安心した様子。
どうも姫はレオナルド皇子のために自分がフォローをしなければと気合いを入れていたらしい。
なんて苦労性なんだろう?
本当に姫の心境を思うと涙が出そうだ。

取り敢えず昼の食事会は和やかに終わったし、今日はこの後街に繰り出すことになった。
国賓として迎えていることだし案内をするのはおかしな話ではない。
安全面から考えて俺が護衛の一人として付き合うのも有りではあるだろう。

(大体国王の護衛が近衛騎士一人ってあり得ないし)

これでロキ陛下がセド並みに腕が立つとかであれば話は別だが、ロキ陛下は然程強くはない。
普通なら五人くらい護衛を引き連れていてもいいくらいだと思う。
少なくとも姫が街を歩く時はそれくらいは普通に連れている。

いつの間にかロキ陛下の部屋には護衛二名と侍女一名が配置されていたっぽいけど、多分セドがあまりにロキ陛下が連れてきた人数が少なかったから気を利かせたのだろう。
普段気遣いなんかしないセドに気を使わせるロキ陛下はある意味凄いと思った。

そうして街へと出たんだけど────。

(なんかこれ……Wデートって感じなんだけど)

基本的にはセドとロキ陛下が話してるんだけど、食べ物や飲み物は俺やロキ陛下の近衛であるリヒターへとバンバンやってくる。

「アルフレッド。ほら、お前も食べてみろ。なかなかだぞ?」
「え?むぐっ…!」

「リヒター。このレモネードはちょっと俺には甘すぎな気がする…」
「では俺が頂きます。代わりに別なものでも買いましょうか」

おかしい。
ロキ陛下はカリン陛下が大好きなはずなのに、どうしてこのリヒターとこんなに仲が良いんだ?
まるで恋人同士みたいじゃないか。護衛騎士じゃなかったのか?
ロキ陛下が最初の屋台でまだ昼を食べていないらしいリヒターに遠慮なく食べろと言っていたのは知ってるけど、いくら何でも割り切りすぎだろう。
普通主人が口をつけたものをそのまま飲んだりしないと思うんだけど、ガヴァムでは違うんだろうか?
屋台の食べ物にしてもそうだ。
ロキ陛下が一口食べて美味しかったものとかも手ずから一口どうぞと言わんばかりに差し出して、リヒターはそのまま普通に食べている。
そんな姿を見てか、セドも真似して次々俺の口に入れてくるから護衛騎士だからとかそういう言い訳が一切できない。
ロキもリヒターもしてるだろと言われたらおしまいだ。
悔しい!

「アルフレッド。ほら、可愛く拗ねてないでしっかり味わえ」
「お前、絶対わかってて揶揄ってるだろ?!」
「そんなことはない。俺がお前に美味しいと思ったものを食べさせてやりたくてやってるんだ」
「~~~~っ!!」

仕方なくパクッと食べてやるけど、恥ずかしすぎて憤死しそうだ。
ロキ陛下とリヒターは全く気にしてないようだけど、俺は気にする!
俺の常識が崩壊する前に早く城に帰りたい。

そうこうしているうちにロキ陛下が行きたいと言っていた場所とやらの近くに来ていたらしく、大きな商店前へとやってきたのだが…。

「あ、そっちじゃないです。こっちの路地の先です」

俺がその商店へと足を向けようとしたところでストップが入り、ロキ陛下はスタスタと商店脇にある路地を迷うことなく進んでいった。
ブルーグレイは初めてだと言っていたのにその迷いない足取りに戸惑いを隠せない。

「ここです」

そうして辿り着いたのはとても立派な建物で、どうしてこんな目立たない場所にあるんだと首を傾げたくなるような小奇麗な店舗だった。

「ロキ、ここは?」
「知り合いが懇意にしているお店です」
「……ほぉ」

セドの問いに対してサラッと答えたロキ陛下に俺は『ああ、なんだ』と思った。

「こっちに知り合いが居たんだ」

そう納得したのも束の間。
何かを買うために店内へと足を踏み入れたはずなのに意味の分からないやり取りが始まってしまった。

「いらっしゃいませ。本日は何をお求めでしょう?」
「ディグの紹介で来ました。今日はハウルさんはいらっしゃいますか?」
「……ディグの紹介。ではロンギスをご存じで?」
「ええ、お世話になってます」
「ロンギスさんもそろそろいい年だし引退した方がいいんじゃないですかね?」
「ロンギスはまだ若いですし殺しても死にそうにないくらい元気なのでまだまだ現役でいてくれると思いますよ?」
「そうですか。それならよかった。そうそう、最近風の噂でレギドがやらかしたと聞いたのですが…」
「レギドは数年前ちょっと仕事で失敗して亡くなってしまったそうです。親しくしていただけに残念です」
「…………」
「面会は可能ですか?」
「少々お待ちを」

そして待つこと暫し。
先程の男が丁寧にロキ陛下を奥へと案内していく。

「どうぞこちらへ」
「はい。あ、セドリック王子達は店の中を見てますか?」
「いや。面白そうだしついていこうと思うが?」
「そうですか。ではご一緒に」

まさかここでセドがついていく気になるとは思いもしなかったので俺はちょっとびっくりした。
いつものセドならこれ幸いとここで俺に構い倒しながら待っていてもおかしくはない。
だからこそそれほどの何かがあるのかと訝ってしまった。
そして俺も一緒についていって、ようやくセドが同行した訳が分かった。
ロキ陛下がここに来た目的が『挨拶』だったから────。

「はじめまして。ディグの紹介だとか」
「はい。ガヴァムのロキです。今回こちらに旅行に来たのでご挨拶をと思って」
「ほぉ?私の記憶違いでなければその名は国王の名ではなかったでしょうか?」
「ええ。仕方なく就いたので腰掛け同然ですが」
「はははっ!ご謙遜を。まあ…後ろにそれを裏付けるようなお相手をお連れのようですし、アジトを壊滅しに来たのでなければ歓待いたしますよ」
「ありがとうございます」

ちらりとこちらを見定めるように目を向けてくるハウルと言う名の男。
そんな男にセドが酷く楽し気な目を向けていた。

(って言うか、アジトってなんだアジトって…!)

なんだか嫌な予感がするのは俺の気のせいだろうか?

「この国では5つほどのグループに分かれていると聞きましたが、他に挨拶に行った方がいいところはありますか?」
「そうですね。うちと仲良くしているところはラムダとオミクロンですが…友好関係にあるだけでそれぞれ独立しているので特に必要はないかと」
「後の二つとは敵対でも?」
「エプシロンとシグマは…そうですね、あちらとは犬猿の仲と言えるかもしれません」

腕は確かだが、違法薬物とかを扱ったり拉致強姦なんかをするから気に入らないのだとハウルは口にしていた。

(これ、絶対裏関係だろ…)

自分はよく知らないがロキ陛下は裏稼業の連中と親しいと聞いたことがあるし、まず間違いない。

「この国は大国なだけあって色々な文化もあって豊かです。孤児でも学を学べるよう差配されていて、本来不当に扱われるような立場の者でも他国に比べてずっと安全だ。それをわざわざ壊しにかかる連中はうちとしてはどうにも腹立たしく思えてね」
「なるほど」
「ま、うちも暗殺者くらいは普通にいるので、真っ白かというとそうでもありませんけど」
「そんなことを言い出したらガヴァムは真っ黒ですけどね」
「いやいや。色々聞こえてきますよ?あちらは随分闇市場がにぎわっていると。貴方も利用されているんでしょう?」
「まあ最近やっとトーシャス達に許してもらえたと言う感じですけど」
「トーシャスは貴方を随分可愛がっていると聞きますからね。前に弟分だと言っていたとも聞きました」
「小さい頃から出入りしていたせいか、皆兄貴分だと先輩風を吹かせてくるんです」
「ははぁ。なるほど。まあわかる気はしますよ」

仲良く話すロキ陛下には悪いが、俺はやっぱり店の方で待っていればよかったと思ってしまう。
でもセドの方は違ったらしく、興味津々とばかりに二人の話を聞いていた。

「セドリック王子。何かご質問は?」

そして一通りロキ陛下と話終わったハウルがセドへと話を振ってくる。

「随分興味深いやり取りだったな。是非俺もこれからは暗部の情報網に取り入れておきたいものだ」
「またまたご冗談を。殿下の暗部が優秀だと、我々が知らないとでも?」
「それこそ買い被りすぎだな。まあ…そうだな。持ちつ持たれつ良い関係を築けるよう俺も手を尽くそう」

特にこのデルタグループとは────とセドはあくどい笑みを浮かべる始末。
絶対楽しんでいるに違いない。
そしてとうとう何やら連絡方法のやり取りをし始めてしまった。

「では念のためこちらに合言葉を」
「……何か規則は?」
「特には。ただ、悪用されてもいけませんので、暗部にしかわからない内容などの方が良いかと」
「そうか」

そして全く躊躇うことなくいくつかのキーワードを紙に書いてハウルへと渡していた。

「確かにお預かりしました」

そうして取引成立とばかりに話し終わったところでロキ陛下がハウルの前に金貨が入った袋をトンッと置いた。

「ちなみにここではカリーというスパイスは扱ってないですか?」
「ああ、もしや屋台でお召し上がりに?」
「ええ。ただそれが売っている場所がわからなくて」
「ございますよ。ご案内しますね」

そこには先程まで裏稼業の話をしていた空気などはなく、商人とその客の明るい会話しかない。
そして目当てのものを手に入れてロキ陛下はご機嫌で店を出た。

「無事に手に入って良かったですね」
「ああ。これで兄上にも食べさせてあげられる」

最初の屋台で食べたカリー味のものが気に入ったロキ陛下はカリン陛下にもそれを食べさせてあげたかったらしく、スパイスが欲しいと言っていたのだ。
ここで手に入って一石二鳥と言ったところなのだろう。
セドはセドで良い繋がりができて良かったとほくそ笑んでいるし、なんだか俺一人だけが疲れた気がする。

「いや、まあ…ロキ陛下だから仕方ないか」

これくらい想定内と言えば想定内。
複雑だろうと何だろうと深く考えてはいけない。
穏やかに見えてロキ陛下は結構な闇を抱えてるから突っ込んだら負けだ。

気づけば空には綺麗な夕焼けが広がっている。

「さて、そろそろ帰るとするか」

セドの声でロキ陛下達もそれに気づいたらしく、満足げに頷いて見せた。

「夕餉は城で食べよう。父がきっとロキの話を聞きたがっているに違いない」
「そうでしょうか?」
「ああ」

そうして俺達はやけに密度の濃い午後を過ごして城へと帰ったのだった。

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