【本編完結】敵国の王子は俺に惚れたらしい

オレンジペコ

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本編

3.3年後

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【Side.ジークフリート】

ブラッドリアが滅び、逃げた第五王子を追ったあの三年前の事は今でも苦い思いとなって俺の中に残っていた。
結局いくら探しても第五王子クロヴィスは見つからなかった。

どうやって逃げた?どこに逃げた?
どんなに虱潰しに探しても全く見つからないことにイライラが増した。
しかも目撃情報を得ようとしても全く情報が集まらない。

街には来ていないのではないか?
山の中に潜伏しているのでは?
魔物にでも襲われて食べられてしまったのでは?

憶測は憶測を呼び、結局第五王子クロヴィスは死んだということで結論を出された。
それでも何故か彼の写真を捨てることはできなくて、俺はそれを時折見つめていた。

白銀色の髪と夕焼け色の瞳をした綺麗な男。
彼はどんな声で、どんな表情で話したのだろう?
そんな事を思いながら。



そんなある日、旧ブラッドリアの港町に行く用事ができた。
交易品の品々の視察だ。
仕事は順調で、部下達から仕事上がりに機嫌よく酒に誘われる。

「ジークフリート王子!一緒に飲みませんか?」

けれど今日はワイワイ飲むより一人で静かに飲みたい気分だったから、誘いの方は断ってブラブラと良さげな店を探し歩いた。
だからその店に入ったのは本当にたまたまでしかない。
まだオープンしたての時間帯だったのか、人が全然いなかったから入った────ただそれだけだったのに…。


***


【Side.クロヴィス】

ローナ帝国がブラッドリアを攻め滅ぼして取り込んでから三年の月日が経った。
俺はその間に冒険者として日銭を稼ぎ、隣国ガーナードで力をつけた。
そしてある程度金が溜まったところで冒険者を辞め定職に就くことに。
一つ所に落ち着くなら職を得るのは早ければ早いほどいい。
そう思って故郷である旧ブラッドリアへと戻ってきて店を持つことにしたのだ。

『戻らなければ良かったのでは?』と人によっては思うかもしれないが、ちょうどとある冒険者から付き纏われ始めて困っていたからまあ頃合いと言えば頃合いだったのだ。
あの男も流石に国境を跨いでここまで追ってくることはないと思う。
それにこの地は再興真っ只中なため、店を持ちやすいという利点があった。
ここは旧ブラッドリアのそこそこ大きな港町で、三年の間に敗戦の影響からは一足早く抜け出しつつある。
ローナ帝国には少し近いが、ブラッドリアの旧王都からは一応離れているし、ローナ帝国側に俺が見つかるということもないだろう。

そもそも冒険者を三年も経験したことからもう十分一般人として馴染んでいるし、元王族だと口にしたとしても『またまた冗談ばっかり』と笑い飛ばされると思う。
それくらい俺は王子らしさの欠片もなかった。
俺はそれはそれでいいと思っているし、新しい自分の人生に十分満足していた。
昔の俺を知る奴はもうどこにもいない。
これからはこの小さな酒場で誰に煩わされることなく平和に暮らしていくんだ。

そう思っていたのに────。

カランカラン…。
開店直後、店の入り口にあるベルが鳴り、もう客が来たのかと顔を上げたところで一人の男と目が合った。
相手は俺を見て大きく目を見開いて動きを止める。
俺も多分同じように固まっていたと思う。
それだけ衝撃的だったからだ。

金の髪に金の瞳の美丈夫。
三年前に見た時よりも纏う空気は穏やかになってはいるが、それはどこからどう見てもあの時俺を探していたローナ帝国の王族だった。

(ヤバい!)

見つかったと思った。
でもすぐに気を取り直して、向こうは俺の顔を知っているはずがないと思い直す。
しかもあれからもう三年経っているのだ。
第五王子である俺はきっと死んだことになっているだろう。
そう考えを纏め、心臓は嫌な音を立てて弾んでしまうが、顔には出さずに笑顔で接客をすることに。

「い、いらっしゃいませ。お席へどうぞ」

けれど男はスッと目を細め俺を見遣ると、ずかずかとこちらに近寄ってきて、その美声を響かせた。

「クロヴィス…だな」

その言葉に俺は咄嗟にヒュッと息を呑んでしまう。

(バレ…た?)

どうしてバレた?
俺は別にブラッドリアの王族に多い黒みがかった赤い瞳などは持ち合わせていないし、黒髪でもない。
敢えて言うなら魔力が高くて多彩な魔法が使えるくらいしかブラッドリアの王族としての特徴はないし、そんなもの一見しただけでわかるはずもないのに。
グルグルとそんな言葉が頭の中で渦巻くけれど、このままでは殺されてしまうと思い出した。
三年前、あれほど探し回って俺を殺そうとしていたのだ。
見逃してもらえるはずがない。

(逃げないと…!)

この男が確信を持っているのなら尚更だ。
俺はすぐさま認識阻害の魔法を展開し、踵を返して店の裏口へと走ろうと思った。
でもそれよりも速く男の手が俺へと伸ばされる。

「逃がすか!」

手首を取られ咄嗟に振り払おうとするが、男は逃がしてくれない。

「くそっ!離せよ!」
「暴れるな」
「離せ!は~な~せ~っ!!」

肩に担ぎ上げられ俺はまるで荷物のように店から連れ去られていく。
折角スムーズに自分の店を持つことができ、さあこれからというところだったのに。

(こんなに密着してなかったら魔法で牽制して逃げられたのに…!)

魔法だって万能というわけではない。
悔しいがこうなっては下ろしてもらうまでは為す術がなかった。

俺は男に連れられてどんどんと人けのない場所へと攫われていく。
もしかして殺されないまでも、どこかに売り飛ばされたりするんだろうか?
もしそうだったとしたら碌でもないことになりかねないと思って、俺は蒼白になってしまった。

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