【本編完結】敵国の王子は俺に惚れたらしい

オレンジペコ

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本編

10.自国と敵国

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【Side.ジークフリート】

ローナ帝国は俺にとっては自国だが、クロヴィスにとっては敵国だ。
初めて足を踏み入れた時、どんな表情を浮かべるだろうかと気になって、それとなく馬車の中からクロヴィスのことを窺っていた。
けれどそんな心配は杞憂に終わることとなる。

「へぇ…」

どこか楽し気に表情を緩ませるクロヴィスを見る限り、そこに嫌悪はなさそうだった。
そんなクロヴィスを見ているうちに終着地へと辿り着く。
馬車の乗客が皆どんどんとばらけていく中、俺はクロヴィスから目を離さないようにしながらその場へととどまった。
クロヴィスは他の護衛の冒険者達と分け前について話し合っているから少し時間がかかっているようだ。
だから今のうちに逃げられないようそれとなく距離を詰めておこうと、さり気なく気配を消しながら近づいていく。

「ん。じゃあ働いた分きっちりもらっておくから」
「はい。クロードさん。ストーカー野郎はもういないし、ここでまた冒険者に戻ったら声掛けてくださいね!」
「あ~…そうだな。その時は声を掛けるよ」
「はい!それじゃあ」

どうやらクロヴィスがそこそこ名の知れた冒険者だったと判明したせいで憧憬の目を向けられるようになったらしい。
すっかり彼らの言葉遣いが変わってしまっている。
冒険者達は笑顔で手を振ってクロヴィスから離れていったが「待ってますから!」と最後まで言っていた。

「はぁ…」
「終わったか?」
「ああ…。って、しまったぁ!」

やっぱり逃げようとしていたらしく、俺の姿を見た途端踵を返しそうになったから急いで襟首をひっつかんだ。

「どこに行くんだ?クロヴィス」
「え~っと……」
「今逃げてもすぐに捕まえられて投獄されるのが関の山だぞ?」
「うっ……」
「そうなりたくなければおとなしく俺についてきて婚約者になれ。命の保障はしてやる」
「…………ならなかったら?」
「そうだな。それは父次第だ。まあ死罪でなくとも生涯幽閉が無難なところだろうな」
「ひっ?!」
「当然だろう?亡国の王子なのに放逐してもらえると思うな」
「そ…そんな……」
「俺と結婚するのが一番安全で、自由が得られるぞ?」

その言葉にクロヴィスは必死に逃げる算段を考えているようだが、無駄だと言うのがわからないのだろうか?
認識阻害の魔法は得意なようだが、この手を放す前にまたマーキングしてやれば容易に捕まえられるから、その時は容赦する気はない。
即城へと連行してやるつもりだ。
今のうちに素直に頷いておく方が身のためだとどうわからせてやろうか?
そんな事を考えていると、クロヴィスは俺の説得を試み始めた。

「お、俺、ストレートなんだけど?」
「そうか」
「結婚っておかしいだろう?男同士だぞ?」
「そうだな。だがローナ帝国では同性婚は普通だ。俺は第二王子だからお前を娶っても何も問題はない。前向きに検討するといい」
「えぇ…」
「無駄な抵抗はせずおとなしく俺について来い。悪いようにはしない」

そう言って『そもそもお前は国が滅びなければこちらに来る予定だったのだ』と教えてやる。

「人質として姫を側室に一人差し出せと要求したら、ブラッドリアの王はお前を差し出すと言ってきた」
「え?!」
「こちらからも姫を送る手筈は整えていたのに、酷い侮辱だと父が激怒してな。あの時は流石に俺も怒りが湧いた。ちなみにこれがその時手に入れた顔写真だ」

そう言って懐からずっと持ち歩いていたクロヴィスの写真を取り出し見せてやると、絶句していた。


***


【Side.クロヴィス】

これまで敵国だからと敢えて足を踏み入れたことのなかった地────ローナ帝国。
皇帝は普段は寛大な性格と聞くが、敵には容赦しないと耳にしたことがある。
それは当然ブラッドリアを攻め滅ぼした時の苛烈な様子から実しやかに囁かれたことだし、かなり信憑性の高い情報ではあるだろう。
そんな皇帝の元に……向こうの要求を無視して俺を人質に出そうとした、だと?
全く人質として意味のなさない価値のないこの俺を?

(あんのクソ親父!何考えてんだ?!)

そりゃあ怒らせるに決まっている。
ただでさえブラッドリアが押され気味の負け戦だったのに、どうして俺を差し出そうとしたのか…。
火に油だとわからなかったのだろうか?
油断させてそこに攻め入ろうとしていたのだとしたら舐めすぎだと思う。
ローナ帝国の恐ろしさを理解していなかったんだろうか?
いや、わかってなかったからこそ滅んだんだろう。
馬鹿馬鹿しい。
ただの自滅ではないか。

「はぁ…」

思わず呆れ果ててため息が口を突いて出たけど、それを聞いてジークフリートは「理解したか?」と聞いてきた。
余裕綽々なジークフリートをジッと見遣り、俺は必死に頭を回転させる。

三年前、そんな状況下で無事に逃げ切っていた俺は運が良かったとしか言いようがなかった。
そして今回偶然とはいえ見つかって、どんな手を使ったのかこいつはあっさり馬車に乗り込み追い掛けてきたのだ。
そんな気配はなかったけど、何か追跡魔法でも使ったんだろうか?
それがあるのなら次もまた逃げ切れるとは言い切れないし、警戒は必要だった。
逃げてもすぐに捕まるのなら意味がない。

それに自分にブラッドリアの王族の血が流れているのは確かだし、ここで無理に逃げて下手に立場を悪くするよりは提案を飲んだ方が安全な気はする。
『亡国の王子なのに放逐してもらえると思うな』と言われたし『街で暮らさせてほしい』と言う願いはきっと聞き入れてもらえないだろう。
この男の言葉を素直に受け入れて結婚する気はないけど、名ばかりの婚約者としてならありかもしれない。

あの時ストーカー男ではなくこの男を選んでしまったのは他の誰でもない。俺自身だ。
もうこうなったらある程度腹を括るしかない。

(よし。決めた。婚約云々は先送りにして、取り敢えずついて行くだけついて行こう。後は状況を見て考えればいいよな?)

「わかった。今回は大人しく連行されるから、命の保障だけはして欲しい」
「もちろん。約束しよう」

そんなこんなで俺はジークフリートと共に城へと向かうことになった。

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