【完結】お役御免?なら好きにしてやる!

オレンジペコ

文字の大きさ
34 / 48
番外編

番外編Ⅱ ナナシェにて⑨ Side.母メリーナ

しおりを挟む
店に乗り込んできた兵士に攻撃されて気を失い、気づけば私は牢へと入れられていた。
薄汚れた牢の中はネズミも走り回っているし不衛生だし臭いも気になるし最悪だった。
早く出してほしいと鉄格子を掴んで必死に訴えたけど、罪人は黙ってろと怒鳴りつけられ怖くなった。
私は何も悪くないのに、どうしてこんな冷たくて汚い場所に放り込まれなければならないのかと涙が出る。

食事は黒パン二つと味の薄い塩だけで味つけされた野菜スープ、それと冷めきった一切れの固い肉か干物の魚だ。
それが一日三食。全然足りない。
だから文句を言ったのに、文句を言った途端一食分減らされた。
増やすなら兎も角減らすなんて人でなしだとしか思えない。
挙句『文句があるなら食うな!』と言われるし、あんまりだ。
でもこれ以上減らされたらたまったものではないし、仕方なく一日二食で我慢する日々。

何が悪かったんだろう?
そう思ったところで、子供達に話を通しておかなかったのが悪かったのではないかと思い至った。
もしかしたら人攫いと間違えて通報してしまったのかもしれない。

(それなら今度はちゃんと『私のために身体を売って稼いできなさい』と話せば済む話よね)

兎に角ここから出ないと何も始まらないし、何とか出してもらいたい。
でもどうやればいいのかがわからない。
家族の誰かが迎えに来てくれればいいのに…。

そんな日々が一週間ほど続いたところでやっと牢から出してもらうことができた。
もう二度と罪を犯すなよと言われたけど、そもそもが冤罪なのにと悔しさから奥歯を噛み締める。
でもここで下手なことを言ってまた牢に逆戻りなんてことになったら嫌だから、我慢してしおらしく頷いた。

何はともあれこれで無罪放免だ。
さっさと子供達のところへ行って話をしなければ。
そう思ったのに兵舎を出ようとしたところで身柄を確保されて、そのまま前領主の屋敷とやらに連れて行かれてしまう。
なんでも前領主のご指名らしい。
もしかしてどこかで見染められたんだろうか?
私はまだまだ綺麗だから十分有り得る。

(でも太ってたり禿げていたりしたら嫌よね)

そして到着早々その前領主とやらと顔合わせをしたのだけれど、なかなかに見目の良い男だった。
太ってもいなければ禿げてもいない。
寧ろ鍛えられた良い身体をしている人物だ。
見た目は彼の後ろに控えている私の夫の方が断然整っていて好きだけど、今の夫はお金を持っていないから論外だ。
この前領主の方が私に相応しい。
年の頃も自分と近いし、文句のつけようがなかった。

(前領主と言うからにはお金も沢山持っているのよね?)

これはラッキー以外の何物でもない。
苦労せず愛人の座をゲットできて良かったとほくそ笑み、表向きのあれこれを口にし終えた前領主へと向かい私は精一杯の笑みを作って『よろしくお願いします』とカーテシーをした。


***


【Side.ガナッシュ】

ラヴィアンの妻メリーナが牢から出て屋敷へとやってきた。
牢番の話では少しは反省したようだということだったが、どうも反省しているように見えない。
しかもなんだか勘違いしているように見えるのは気のせいだろうか?
ここは最初にしっかり釘を刺しておいた方がいいかもしれない。
そう思って口を開いた。

「私がここの主人、ガナッシュ=レナヴィだ。お前にはこれからここでラヴィアンと共にしっかりと働いてもらうつもりだ。甘やかす気は一切ないからそのつもりで励むように」
「はい。よろしくお願いします」

微笑みを浮かべ、貴族らしい綺麗なカーテシーをするメリーナ。
本当にわかったのだろうか?

(まあいい)

夫であるラヴィアンも一緒なのだし、早々おかしな事もしないだろうと考え直す。

「ラヴィアン。彼女を部屋に案内してやってくれ」

彼女に用意したのはラヴィアンの隣の部屋だ。
夫婦なのだし、慣れるまでわからないことを聞いたり相談事もしやすいようにとそう決めた。

ラヴィアンは最初でこそ手の掛かる奴だったが、きちんと説明して考えさせたらちゃんと納得して動けるようになった。
思い込みが激しく母国では激高しやすい性格だったようだが、きっと根は素直なんだろう。
こちらが褒めれば顔を輝かせるし、叱ればしょんぼり肩を落とす。
なんだか懐いてくれている犬のようで、すっかり絆されてしまった。

だから監視と更生を兼ねてにはなるが、ここに引き取れば、また妻と一緒に住めるようになって喜ぶんじゃないかと思ったのに────。

(…嬉しそうじゃないな)

ラヴィアンの表情はなんだか不安そうで、予想していた嬉しそうな顔からは程遠かった。

もしかして私がメリーナを側に置くと決めた事で、手を出すんじゃないかとあり得ない不安や嫉妬の感情を抱えさせてしまったんだろうか?
もしそうなら完全に誤解だ。

私は五年ほど前に妻に浮気され、そのまま大喧嘩になった挙句離婚に至った経緯を持っている。
それ以来表面には出さないが、男に媚びるような女は心底嫌いになった。
この女はどこからどう見てもそのタイプだろう。
ラヴィアンの妻だからまあいいかとここに引き取っただけで、別に好みだったわけではない。

(失敗したな。早く誤解を解かねば)

そう思い、すぐに手を打った。
二人きりにならないよう常にラヴィアンと二人一組で部屋に呼び指導することにしたのだ。
ラヴィアンも妻が早く仕事を覚えてここに馴染めるようにと頑張っていて、そんな成長した姿を見て嬉しく思った。

そんなラヴィアンとは対照的に、メリーナはやる気が全く見られない。
楽をすることばかり考えている。
例えば掃除一つとってもそうだ。
ラヴィアンが『こうやるんだ』と教えるとする。
すると『わからないわ。あなたがやってよ』と甘えだす。
それでも『ちゃんとやれ』と言って再度丁寧にラヴィアンが説明するとラヴィアンを褒め出し、素敵だなんだと持ち上げ始め、仕事をラヴィアンに丸投げしようとし始める。
なるほど。貴族の妻としてはそれでいいのだろう。
夫を褒めて持ち上げやる気を出させ、仕事に励めるよう鼓舞する。
立派なスキルだ。
だが平民でこれはダメだ。

だからラヴィアンに言って、手本を見せるのは一度でいいからちゃんとメリーナにやらせるようにと言った。

「ラヴィアン。丁寧に教えるのも大事だが、それだとメリーナがいつまで経っても成長できない。手本は一度にして、メリーナはそれをしっかり覚えるように」
「はい。ガナッシュ様」
「わかりましたわ。ご期待に沿えるよう頑張ります」

本当に返事だけは立派だな。
だが満面の笑みのメリーナとは対照的にラヴィアンはどことなく悲しそうな顔をしている。
どうしてそんな顔をしているんだろう?
以前ならすぐに聞いてやれたのに、メリーナがいるからそれもできない。

しかもその後が酷かった。
ちゃんと絞れていない雑巾で拭き掃除をしようとするから注意したら『私、力が弱いのでこれが精一杯なんです』とか弱い女アピールをしながらチラチラとこちらを見てくる。
それでももっとしっかり絞ってやるようにと言ったら今度はラヴィアンの方に向かって『あなた、お願い』と笑顔で頼む始末。

「ラヴィアン。自分でやらせなさい」
「…はい。ガナッシュ様」

また悲しそうな顔をさせてしまった。
そんな顔をされるとすごく慰めてやりたくなる。

それに比べメリーナの方ははっきり言って鬱陶しい。
身支度の際もベタベタと身体に触れてきて不快だし、それだけでは飽き足らず、茶をラヴィアンが淹れている隙を狙い『ガナッシュ様。夜のお世話が必要な時はいつでもお声がけくださいね』などと小さな声で伝えてくる始末。
本当に気持ち悪くて鳥肌が立ったくらいだ。
夫の前で他の男に媚びるなんて、一体どう言う神経をしてるんだと言いたくなる。

なのにソファの後ろから囁くようにメリーナが唇を耳元へ寄せていたから、仲良くしているようにラヴィアンの目に映ってしまったんだろう。
明らかにショックを受けたような表情を浮かべていて、そんなラヴィアンに誤解だと弁明したくなった。
私はこんな女に靡く気はないし、ラヴィアンの妻でなければもっと冷たい対応をしていただろう。

そんな日々が続き、私はラヴィアンが気になって気になって仕方がなくなっていた。
二人きりになりたい。
お前の妻に手を出す気なんてないんだと言い訳をさせてほしい。
そしてまた以前のような笑顔を見せてほしい。

ラヴィアンから笑顔が消え、悲しそうな顔が増える度に心が痛んで、ふと気づいてしまった。

(ああ、そうか)

いつの間にか自分に懐いてくれたラヴィアンのことが好きになってしまっていたのだと、そこに来てやっとわかったのだ。
妻子持ちに惚れるなんて、なんて不毛なのだろう?
どう考えても叶わぬ想いでしかないというのに。

だから気持ちに蓋をして、せめて勘違いだけはされないよう振舞おうと思った。
ラヴィアンに誤解されないよう、メリーナとは適度な距離を取りたい。

そう思うのに────どうしてこの女は色目を使って迫ってくるんだ?
お前がラヴィアンをいらないと言うなら、さっさと別れて俺にくれと言ってやりたい。

「ガナッシュ様。お茶が入りましたわ♡」

ただでさえ色がついているだけのマズい茶を、ボディタッチしながら置いてくるのが凄く不快だった。
こちらが座っていて身を引けないのをいいことにグイグイ身体を押し付けてくる浅ましい姿に、思わず眉間に皺を寄せてしまう。

ラヴィアンはこんなことをしてきたりはしなかった。
色々なことを教えたが、都度ちゃんと考え反省し、次の時には僅かながらでも改善していたというのに…。

「武器の手入れなんて私には無理ですわ。あんな重たい物、女の細腕では持てません。怪我をしてしまいますわ」
「ナイフの類ならできるだろう?それさえ重くて持てないとは言わないだろうな?」
「持てますけど、刃物は怖いですわ。手を切りそうですもの。以前食堂で働いていた時に包丁で手を切ったんですよ?とても痛かったですわ。私には無理です」

目に涙を浮かべ甘ったれたことを言ってくるメリーナ。

「掃除の水が冷たくて手が荒れてしまいそうですの。どうしてもやらなければなりませんか?」

ラヴィアンの隙を突いてはそう訴えてくるメリーナ。
使用人として雇っているんだから仕事はちゃんとやれ。

「私もラヴィアン様みたいなお食事、食べてみたいです。どれもとても美味しそうですよね」

雇い主である私の食事を食べたいとねだってくるメリーナ。
どこまで厚かましいんだ。
お前は自分が罪人だという自覚がないのか?
勝手に私の愛人になったと勘違いしていないか?
そんな事実は一切ないから黙って働けと本気で怒鳴りつけてやりたい。

でもラヴィアンの前だから我慢だ。
そんなこれまで見せたことのない感情的な姿を見せて嫌われたくはない。

だから冷静にと己を律し、理路整然と諭したがこの女は本当に返事だけは立派で、言われたことは右から左へと聞き流し、何一つ変わろうとはしなかった。
ラヴィアンと違い、その場さえ誤魔化せばなんとでもなると思ってるのが丸わかりだからこそ腹立たしい。
糠に釘とはこの事だ。

「はぁ……」

癒しが欲しい。
ラヴィアンと二人だけの時間がどうしようもなく恋しくなった。


しおりを挟む
感想 135

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...