【本編完結】公爵令息は逃亡しました。

オレンジペコ

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33.魔法陣は便利 Side.エディアス&ジオラルド

兄と共に城へと戻ってきた。
ここまでは良かったんだ。
でも俺は、最近の兄がクリストファー王子と一緒だったせいでおとなしかったんだという事をすっかり忘れていた。

兄は暫く宰相と話をして、凶悪に笑ったかと思うと、これでもかというほど傍若無人に人を動かし始めた。
ちょっとでも文句を言う相手は広間に放り込んで、なにやら試験問題?のような紙を渡して『これでもやっとけ』と軟禁し、バラバラの部署から人を引っ張ってきて宰相と自分の補佐をするよう言い放った。
加えて速記ができる者を集めろと言って集めさせ、魔法陣を使ってコピーした書式の紙束をバサッと渡したかと思うと、自分が書類を分別していくからその書式にどんどん書き換えていくようにと言い出した。

(ただでさえ書類は山積みなのに、何でそんな不必要な二度手間を?!)

流石におかしいと思って慌てて止めようとしたら、『自領のことさえ把握できていないお前には言ってもわからないかもしれないが、これを機に書式を統一すべきなんだ!でないといつまで経っても無能な上がバカ丸出しで不必要な書類を回して場を混乱させてくるだろう!これを機にそういうのは全部排除する!何事も効率重視だ!わかったらお前も手伝え!』と怒鳴りつけられた。
意味がわからない。
効率重視?これが本当にそれに繋がるのか?
でも無理を言って来てもらったのは俺だし、取り敢えず一週間の辛抱と思えば…まあいいのか?いいんだよな?!

取り敢えず今の兄は『俺は一週間しかここに居ないんだ。その俺の時間を一分一秒たりとも無駄に使わせるな!』と言わんばかりの気迫で満たされているし、触らぬ神に祟りなし。俺は俺で文句より先に手を動かそう。
問題が発生したらいつも通り俺が出来る範囲でフォローすればいい。

それにしても兄の書類を捌くスピードは本気で鬼のように早い。
あれで全部頭に内容が入っているというのだから凄いものだ。

ちなみに書類は『却下』『不備による差し戻し』『保留・要検討』『決済待ち』『至急』の五つに概ね分けられているらしい。
時間がないから却下になった書類は全部一部屋に集められている。
全部終わってから整理するとのこと。
不備による差し戻し分は何が悪かったかを兄が都度言うから俺がササッと付箋にそれを書いて貼りつけ、新書式の紙を添えて差し戻す。
次はこっちの新書式で出してもらえれば手間は減るとのこと。
なるほど。
ちなみにこの差し戻し分はある程度溜まったら各部署へと運ばれていくから心配はいらない。
それから保留・要検討の案件は宰相の元へ。
決済待ちと至急のものは一度宰相のところに渡された後、アリストの元へ行ったり、ものによって王の裁可を貰いに行く予定。
これだけでも随分楽になったと宰相は涙を浮かべて喜んでいた。

「ジオラルド殿には感謝しかない。後光が差して見える」

そう言っていたけど、目が疲れすぎているせいじゃないですかと言ってあげたい。
俺には兄の後ろにはイライラとした感情が炎のように揺らめいて見えるんだけどな…。
どれだけ腹を立てているのやら。
でもこのスピードで書類を捌いてもらえるのなら一週間もあれば何とか目途は立ちそうな気がする。
希望が見えて本当に良かった。
俺には絶対にあの真似はできそうにない。
やっぱり兄は天才だ。

でも疲れというのは溜まるもので、当然だが皆日に日にげっそりしてきた。
これはダメだと思い、俺はふと思いついたことを実行へと移すことに。
それは例の兄開発の回復魔法の魔法陣を活用すること。
疲れ果てていく文官達皆へのせめてものフォローをと、その回復魔法の魔法陣を紙に大量コピーして配布し、自宅のベッドに転写して使ってもらうことにしたのだ。
もちろんこれだけだと魔法陣は発動しないのでひと工夫が必要となる。
それが転写用の魔法陣だ。
これについては兄が作った書式コピーの魔法陣を参考にして俺が作ってみた。
勿論かなり兄にアドバイスはもらったけど、その魔法陣の中にちゃんと光魔法を組み込むことで上手く発動して効果を発揮できるようになっている。
結構使える魔法陣だしこれから普及していくといいなと思う。
これで皆疲れ知らずで仕事ができるし、なかなか良い仕事ができたんじゃないかと個人的に満足している。

ちなみに後からクリストファー王子に『難解な魔法陣をこんなにホイホイ作るなんて、お前達兄弟は揃って規格外だと自覚した方がいいぞ?』と呆れたように言われるなんてこの時は思っていなかった。
ただひとつ、規格外なのは兄だけだと俺は言いたい。
俺だけだと流石にあんなに簡単に作るのは無理だと思うから。




そんな風に日々を送り、一週間が経つ頃にはすっかり書式は統一されて溜まっていた業務も正常に回り始めていた。
各部署トップの人事異動が大幅に行われたというのも大きいかもしれない。
どうやら最初に文句を言ってきた相手にやらせた試験問題のようなものは適性試験のような類のものだったらしく、適材適所だと言って兄と宰相でどこのどんな仕事が向いているかを検討し配置し直したんだとか。
『お陰でやりやすくなった』とすっかり顔色が良くなった宰相が言っていた。
ちなみに何の適正も示せなかった者も中にはいたので(試験内容がダメダメだった者だけではなく、その試験用紙に記入さえせずボイコットし、文句しか言っていなかった者も含む)、そういった者達には暇を言い渡したらしい。
大抵そう言う輩が足を引っ張ったり不正書類を紛れ込ませたりしていたらしいので、膿は出すべきと判断されたようだ。
それにより随分内部はすっきりしたように思う。
たった一週間でここまで城内が変わるなんてと皆は驚いたようだが、兄への反発よりも仕事が回るようになった方の安心感が上回るのか、以前のような兄への批判的なものは今のところ出ていないようだし、俺としてはホッとしている。
これでやっと希望が見えた。
早くアリストと公爵領に行ける日が来るといいんだけど。


***


【Side.ジオラルド】

エディアスと一緒に城へとやってはきたものの、そこは本当に酷い有様だった。
よくも高々数か月でここまでになったなと呆れてしまう。
いくら何でも酷すぎだろう。
しかも自分が変えさせようとしたシステムがまた中途半端に邪魔をしてしまっているからいただけない。

(ちっ…。これが一因か)

すぐにそれが分かって思い切り舌打ちしたくなった。
だから取り敢えず使える人材をかき集めつつ、前回使えると判断した者達を呼び集めさせた。
この者達は俺に追従していたとして王太子に左遷部署に飛ばされていたらしく、何もできず申し訳ないと謝られてしまった。
悪いのは王太子なのに、この者達は本当にとんだとばっちりだ。

「一週間以内に全部元通り以上の状態に戻す。力を貸せ」
「はい!」

そう言ってきびきび動き始める者達。
こんなに使える者達を閑職に追いやるなんて正気の沙汰じゃない。
本当に上は何を考えているんだか。
そして俺は仕事を片付ける傍ら、宰相にも許可をもらって人事も大幅に動かした。
やはり効率を図るには適材適所に限る。
後は今後また同じようなことが起こっても対処しやすいように書式も統一した方がいいな。
普通なら時間もかかるし、それが浸透するのに時間がかかる。
でもこれだけ一挙に片付けるのならこれを機に全部やってしまった方が却って早い。
エディアスとアリスト殿下がこれから仕事をしていくのならやりやすいように変えておいてやろう。
そう思い、ササッとコピーの魔法陣を作った。

書式だけコピーする仕様にしてあるから重要書類が勝手にコピーできないようになっていて、魔法陣を改竄するために読み解こうとしても重要な『制限』の部分の文字はフェイクも入れて隠蔽もしてあるから絶対に見抜けないだろう。

そうこうしているうちにエディアスがその魔法陣を応用してやってみたいことがあると言い出した。
ちゃんと話を聞くと実に素晴らしいものだったから即協力してやった。
それは疲れている者を癒すという、実に優しいエディアスらしい提案だったし、俺としても使える人材を最大限扱き使えるから願ったり叶ったりだ。

そして仕事を順調にこなしつつ、ついでとばかりに他の仕事も片手間に片付けにかかった。
一つはジルフィール公爵家の事。
少し調べればすぐに分かったが、やはり思った通り両親がまだいるためか俺が国を出る前と何一つ変わらず放置されていた。
あの家の権利はとっくの昔に俺の物になっているというのに呑気なものだ。
もしかしたら廃嫡届けでも出す際に気づくかと思っていたのに、それさえ出されておらず、祖父が手続きしていた書類がそのまま有効になっていて、成人を迎えた俺は名実ともにジルフィール公爵家の当主として認定されていた。
馬鹿な奴らだ。

(だから俺にいいようにされてしまうんだぞ?)

ジルフィール公爵家の権利はすべて俺に渡ったから、決定したものを後から無効にするのは難しくなった。
これでもしもの時の対策がとれる。
そう思いながら俺はフッと笑った。

次に俺がしたことはアリスト殿下が拝領したという領地の確認。
そこは思った通りジルフィール公爵領のすぐ隣にある大きな港がある元王領だ。
なかなかの広さで活気もあり、王子が拝領するのにこれ以上ないほど文句なしに栄えた地と言っていいだろう。
そしてジルフィール公爵領もそこそこ裕福で大きい領地だ。
だからこそ、俺はその書類を作成した。

「アリスト殿下」
「ジオラルドか。なんだ?」
「エディアスでなくて悪かったな」

あからさまに嫌そうな顔をされたからそう言ったら、更に渋面になるアリスト殿下。
弟とイチャイチャしたいのにできなくてきっと不満なんだな。
仕方がない。
でも俺が朗報を届けに来てやったことだし、少しは気も晴れることだろう。

「それで?何の用だ?」
「俺はあと数日でサザナードに戻る。だからその前にこの書類を渡しておこうと思ってな」
「書類?」
「ただの保険だ。もし万が一オーフェン王太子や周りの者達が馬鹿なことを言い出した場合に手札として使えるだろう」

そう言うと訝しげな顔をしながらそっと書類を確認し始めた。

「これは……」
「アリスト殿下の公爵領とジルフィール公爵領の領地を一まとめにする書類と、その後独立宣言をして公国を立ち上げる際の手順だ。首尾よくやればエディアスと二人独立した国で幸せになれる」
「…………」
「もちろんアリスト殿下がこの国の王となった場合は不要となるし、その際は破棄してくれて構わない。あくまでもこういう道もあるとだけ知っておいてくれ」
「……わかった」

エディアスの幸せのためにもアリスト殿下にこのまま国と共に沈まれるのは困るし、できる限り飼い殺しにされる道は回避しておきたいところだ。
どうもあの国王と王太子は信用ならない。
復活したらしたできっとまたアリスト殿下にあれこれと押し付けてくるのは明白だ。
逃げる手もあるんだと俺がちゃんと教えておいてやらないとな。
独立しても合併後の領地はそれなりに広大だし、十分公国として認められることだろう。

(さて。そろそろ少しは仕事も回るようになってきたことだし、今日も頑張るか)

「サボるな!今日もきびきび働け!」

さっさと全部片づけて、クリスのところへ帰りたいなと少し思った俺だった。


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