【本編完結】公爵令息は逃亡しました。

オレンジペコ

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34.城での仕事 Side.アリスト

エディアスと共に長らく留守にしていた城へと帰ってきたものの、そこは物の見事に混乱の坩堝るつぼと化していた。
その上兄の暴言に耐える羽目になったものの、宰相の方はまだ良心的だったのは救いか。
気遣いを見せてくれただけマシだ。
けれど現実は甘くなく、書類は山積みだし、城内はあちらこちらが混乱しているしでまともに機能しているようには見えなかった。

正直言ってどこから手を付けていいのかさえ全く分からない。
文官達は宰相を頼りにしながら仕事をこなし、その宰相は疲労困憊中でいつ倒れてもおかしくはない状況。
父は寝込み、兄は使い物にならない。

(これを俺一人で一体どうしろと?)

詰んだ────。
これをどうにかできる者などいるんだろうか?
そんな絶望に襲われたところで、エディアスがジオラルドを呼んでくると言って現状を報告書へとまとめ上げ、サザナードへと向かった。
その間はひたすらできる範囲で宰相と仕事を回す。
はっきり言って焼け石に水のようにしか思えなくて、気が遠くなりそうだった。

それからどれくらい経っただろう。
エディアスがジオラルドを連れて帰ってきた。
とは言えこんな状況で連れてきても正直どうにもならないだろうと思っていたのだが……。

(……あまりに常識外過ぎるだろう?)

予想に反してジオラルドは覚えて間もない魔法陣まで使いこなし、片っ端から仕事を効率的に片付け始め、滞っている各部署の仕事までも徐々に回し始めたのだ。
これには俺だけではなく誰もが唖然となっていた。
ここまで有能ってどうなんだ?
ジオラルドなら父王の仕事も軽々こなしそうだなと思ってしまうほど、ジオラルドは次々と仕事をこなしていく。
口は悪いが、頭は頗るいい。
俺の兄とはそもそもの出来が大違いだった。
これは兄が煙たがるわけだ。

「何をしている!ぼんやりせず手を動かせ!速記ができる者はこの書式にどんどん書き換えて書類を各部署へ運べ!書き換え後はミスがないかのチェックも怠るな!クソ忙しいのに二度手間になるような事は絶対にするな!自分の首を絞める羽目になるぞ!わかったらさっさと丁寧に正確に素早く動け!」

無茶振りは変わらぬままどんどん書類に目を通していくジオラルド。
口だけのうちの兄とは大違いの姿に触発されて、皆も慌ててバタバタと活発に動き始めた。




「ジオラルド殿が神に見える。このままオーフェン殿下の代わりに王太子になって将来的に玉座に就いてくれないだろうか…」

数日経ち、仕事の目処が経った頃、宰相が思わずと言うようにポツリと呟いた。
俺としてもその気持ちはわからなくはなかった。
扱き使われる文官達は疲労困憊で大変だろうが、きっとジオラルドなら国を父や兄よりも上手く回してより良い国づくりをしてくれそうな気はする。
俺だってこっちを気にせずエディアスと幸せに領地で暮らせるし、うん。良いかもしれない。
まあ────それは無理な話なんだが。

一瞬疲れ過ぎて現実逃避しそうになったが、ジオラルドをクリストファー王子に紹介したのは俺だし、クリストファー王子はジオラルドを王太子妃として迎える気満々だから絶対に無理だろう。

「宰相。ジオラルドはダメだぞ?」
「何故です?ジルフィール公爵家は遡れば初代国王の王弟の血筋です。血は遠くてもきちんと王族の血筋を引いているのは確かですし、議会の承認を過半数で取れればオーフェン王太子殿下の代わりに立太子させることは可能ですよ?」
「ジオラルドは隣国サザナードのクリストファー王子の妃となるのが内定していてな。流石にあちらと戦争になったら困る」
「なんですと?!クリストファー王子というとサザナードの王太子ではありませんか!なのに妃に内定?!それは本当なのですか?!」
「ああ。あの国では普通に同性婚が認められているからな」
「ですがあまりにも勿体ないです!あの人材を王太子妃という立場とは言え、他国に流出させるなんて…!」
「その人材を先に手放したのはこちらだ。それにクリストファー王子にジオラルドを紹介したのは俺だから、今更なかったことにもできない。すまないな」

そう言ったら物凄く残念そうな顔をされてしまった。

「ではやはりアリスト殿下の継承権を復活させましょうか。こちらも議会で過半数の承認が取れれば簡単に戻せるはずです。エディアス殿と養子縁組をされたと聞いたので非常に心苦しいのですが、そちらは解消されて王太子となってご令嬢を妃としてお迎えしていただきたいです」
「断る。折角エディアスの誤解が解けて上手くまとまったのに蒸し返す気か?絶対にお断りだ!」
「それではエディアス殿を王太子に?」
「もっとダメだ。エディアスは俺の嫁だぞ?そんなことになったら俺は独立宣言をした上でエディアスを掻っ攫ってここから出ていく」

キッパリとそう言ったら宰相から思い切り溜息を吐かれた。

「アリスト殿下…。もしや既にその構想をお持ちで?」
「ああ。ジオラルドが万が一の時はそうしろとアドバイスをくれてな」
「…………その際は殿下について行かせてください」

宰相は意外にもあっさりとそんなことを言ってきた。
きっともう父と兄を見限っているんだろう。
あの二人のためにこれ以上頑張りたくないと思っているのがありありとわかってしまった。

「苦労を掛けるな」
「…………いいえ」
「そう言えば兄の様子は?」
「オーフェン王太子殿下ですか。私の部下をつけていますが、どうやら全く話にならないようです。その考えを改めさせるべく、鍛え直してくれてはいますが、高々一週間程度であの性根は変わらないでしょう。だからこそ王太子の座を引いていただいて、他の者をそこにつかせたかったのですが……」

どうやら兄は更生の余地があまりないらしい。

「はぁ…。父上は?」
「陛下はアリスト殿下がお戻りになったと聞いて元気が出たようで、食事もモリモリ摂り始めたそうです。ただ今すぐ復帰というわけではなく、医師から『また倒れてもいけないので城の仕事が落ち着くまで暫くの静養を』と伝えてもらっています。なので復帰時期はいくらでも調整はきくでしょう。ただ…問題が一つ。王の意向としましてはアリスト殿下にオーフェン王太子殿下の補佐を頼みたいということのようです」
「………ストレスでしかないな。何とか上手く言って、補佐を別の者に任せて俺は公爵領に引っ込んでもいいだろうか?」

エディアスとの挙式も新婚生活も堪能したい。
そう言ったら宰相は『何とか手は打ってみますが、あまり期待はしないでください』と言ってきた。
まあ当然だろう。
あの父はこうと決めたらなかなか意見を聞かないから、それを諦めさせるのはただでさえ骨が折れる。

「アリスト殿下。もしもの時はジオラルド殿のアドバイスに従っていただいても結構ですが、ギリギリまでその手は使わないようお願い申し上げます。必ずご相談ください」

宰相が敢えてそう言いたくなる気持ちもよくわかる。
現状でこれ以上の心労は御免被りたいと言ったところだろう。
独立するにしても時期を見計らって欲しいという意味だと思う。

結局のところ、問題の先送りにしかならないが、父が戻ってきて兄を王太子に据え置き、俺以外の優秀な補佐をつける。それが一番自分にとって都合がいい展開なのだと俺は結論付けた。
一先ず宰相達には申し訳ないが、父が復帰すると同時にさっさとエディアスと一緒にここから逃げ出そう。




「ではもうひと踏ん張り、頑張りましょうか」

そう言って宰相は俺の執務室から出て行った。
俺の執務机には俺の判断で裁くことができる書類が積み上げられている。
溜息はつい出てしまうが、大変なのは皆一緒だ。
俺はそれを手に取り、気合を入れ直して再度自分の仕事へと取り掛かったのだった。


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