【本編完結】公爵令息は逃亡しました。

オレンジペコ

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37.※新婚生活

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城を出てアリストと一緒に転移魔法で公爵領へとやってきた。
一応アリストの部下の人達も了承を貰えたから一緒に。

これからここで俺達の生活が始まるんだけど、取り敢えずまずは公爵領のことを色々知るところから始めないといけないからなかなか大変だ。
そう思ってあれこれと調べに走ろうとしたら何故かいきなりアリストに引き留められた。

「エディアス?どこに行く気だ?」
「どこって…普通にまずはこの公爵領についての調査?」
「違う!」
「え?!」

まずはどんな時でも情報収集をしないといけないと思ったんだけど、違ったのか?

(おかしいな。何もわからないと動くに動けないんだけど…)

せめて最低限の情報だけでも得ておくべきだと思うんだけどなとそっとアリストを窺ったら、何故か思い切り溜息を吐かれてしまった。

「エディアス」
「うん?」
「まず、一旦落ち着いて、ジオラルドのことは忘れろ」
「え?兄上のことは全く頭になかったけど?」
「本当か?」
「ああ。本当に」
「ちゃんとしないとジオラルドに叱られるとか、そういったことも考えてなかったか?」
「うん。もちろん」
「…………ならいいんだが」

なんとなく腑に落ちない顔をしながらも俺を離そうとしないアリストに、そのまま引き寄せられて抱きしめられる。

「まだ公爵領に着いたばかりだ。これから少しずつ知っていっても構わないだろう?」
「え?でも情報収集は早い方がいいっていつも兄上が…」
「だからっ!」

そう言って顎を持ち上げられたかと思うと、何かを言う暇もないほどの速さで唇を塞がれてしまう。

「んっ…」
「はぁ…。折角仕事も片付いて公爵領に来られたんだから、ジオラルドより俺のことを見て、俺のことで頭をいっぱいにしてほしいんだ」

真っ直ぐに見つめられてそんなことを言われて俺は一瞬呆けた後、真っ赤になった。

(は、恥ずかしい…っ!)

こんなセリフを言われて狼狽えるなという方が無理だ。
俺達は元々友人同士で、ここ一年だって身体の関係はあったけど一歩引いた関係を保ってきた。
だから相思相愛になっても急にそこまで大きくは変わらないかなと勝手に思ってたんだ。
それは兄をサザナードへと送って戻ってきた時も思ったし、イチャイチャするのは夜とか二人きりになった時だけかなと。
あのすれ違いからの仲直りの後ならまだしも、落ち着いた今、こんな人目がある中でイチャイチャするなんて考えてもいなかったから完全に不意打ちだ。

(そもそもアリストは元々クリストファー王子みたいに雰囲気作りとかしてくるタイプじゃないし、俺も別に可愛いタイプでも何でもないし…)

そんなパニック状態の俺にアリストが追撃をかけてくる。

「エディ。このまま部屋でゆっくりして、その後結婚式についての話をしないか?」
「へ?!」
「ここ最近忙しすぎてエディが不足してるんだ。だからいっぱい一緒に過ごしたい」

熱い眼差しで俺を見つめてくるアリストに俺の胸はバクバクと弾みっぱなしだ。

(お、俺は一体どうしたら?!)

そう思いながら真っ赤になって俯いたら、アリストが満足げにクスリと笑って『それでいい』と言ってきた。
何が『それでいい』んだろう?
もしかして揶揄われたのか?!

「アリスト?!」
「エディアスはジオラルドが嫌いなくせになんでも言うことを聞いてしまうところがあるだろう?それが全部悪いとは言わないが、俺と一緒の時くらい忘れてほしい」

しかもまるで嫉妬しましたと言わんばかりのことまで言われてしまって、なんだかこう…落ち着かないと言うか何と言うか、そわそわ?ムズムズ?する。
慣れてないことをされると非常に困るし、なんだか居た堪れない。
でもアリスト的には慣れてほしいんだって。

「エディは俺と結婚するんだから、もうちょっと自覚してくれ」

『籍だって入れただろう?』と言われてそうだったと思い出す。

そしてなんだか甘い雰囲気の中、部屋でお茶をすることになった。
しかもソファに座るアリストの腕の中にすっぽり囲われて離してもらえない。
最初はなんとなく気恥ずかしさを誤魔化すために、公爵領のことを最低限でも把握したいなと言っただけだったんだけど、『じゃあ一緒に見ようか。エディ。こっちへ』と引っ張り込まれこうなった。
書類を一緒に見るのはいいけど、ドキドキし過ぎて全然頭に入ってこない。

「自分の領なら邪魔も入らないし、こうしてエディとずっと一緒に居られるからいいな」

そして向けられるキラッキラの笑顔。
おかしいな。
こんなはずじゃ…。

「結婚式の打ち合わせもこのまましようか。ついでに領の法令も変えて、この領内でだけなら同性婚は認められるようにしてしまおう。それを聞きつけて他領から良い人材が来てくれることもあるかもしれないし。色々住みやすくしていきたいな」
「それは名案だな」
「ああ。エディもやりたいことがあったらなんでも俺に言ってくれ」

『頼れるところをエディアスに見せたい』と耳元で囁かれてまた赤面してしまう。
これは…どうしたらいいんだろう?

「ア、アリスト!」
「なんだ?」
「その……」
「ん?」
「し、心臓がもたないから…それ以上はちょっと……」
「俺で頭がいっぱいになったか?」

そう問われてコクリと小さく頷く。

「そうか。徐々に慣れていってくれ」

これからはこれが普通になるからと嬉しそうに言われてドキドキが止まらなくなった。
なんだこれ?新婚ってみんなこんな感じなのか?

それから結婚式のことをあれこれ決めて、食事もアリストのリクエストで何故か食べさせ合いをすることになり、これでもかと甘い時間を過ごして夜になった。

「エディ。一週間ぶりだから優しくする」

仕事が忙し過ぎて当然夜はそのまま遅くに自室で休む日々だったし、朝は早いしで全く触れ合っていなかったし、こうなるのは予想の範囲内ではあったけど、改めてそう言われるとやけに恥ずかしい。
逃げたい!

「ア、アリストっ!俺、そのっ、わ、忘れ物を思い出したからっ」
「エディ?もう逃す気はないから。忘れ物はまた明日な」
「んっ、は、あっ…!んぅっ…」

キスで宥められながらの愛撫は好き。
きっとアリストはわかっててそれをするんだ。

「アリスト…」
「エディ。甘え方を忘れたなら思い出させてやる。だから素直に甘えてくれ」

その言葉に小さく頷いて、俺はアリストにそっと抱きつきながらキスをした。


***


「んっ、あっ、んんぅっ…」

久し振りに受け入れたアリストの熱い肉棒が俺の中を擦り上げ、俺の熱を煽っていく。

「は…ぁ…アリ、アリストっ…」

優しく丁寧に施される愛撫と緩やかに行き来する熱に身悶えさせられる。
もどかしい。もっと欲しい。

「あ…ん…っ、焦らすな…よぉ…っ」
「エディがねだってくれたらいいなと思って」
「ん、ん、欲しっ、欲しいっ!アリストっ!もっと奥までいっぱいきてっ…!」

そう言ったらアリストは嬉しそうに笑い、奥へと何度も強く突き上げてくれた。

「あっあっ…!アリストッ!」

気持ち良過ぎて腰が勝手に揺れ、アリストを貪るように締め付けてしまう。

「エディッ!」

キスしながら奥深くまで嵌められるのがたまらなく気持ち良くて、俺はそのまま一気に高みまで上り詰めてしまった。

「あ…あぅ…っ」
「上手にイけたな。エディアス。このままずっと気持ちいいのが続くから、可愛い声を沢山聞かせてくれ」

そしてアリストはその言葉通り、その後俺を高みから降ろしてくれなくなった。
なんて気持ちがいいんだろう?
もうアリストの事しか考えられなくて、ずっと溺れるように名前を呼んでいたように思う。

気づけばアリストの隣で爽やかな朝を迎えていて、寝起きのキスまでされていた。

「やっとエディアスとの新婚生活を満喫できた」

そう言って笑うアリストがやたらと眩しい。
それから一緒に朝食を取って、一緒に領地を見回りに行ったり、書類に目を通して領地のことを把握したりしたけれど、常に一緒に行動していたからすっかり俺達は周囲から微笑ましい目で見られるようになってしまった。
というより、アリストが『俺の妻です』としょっちゅうアピールするせいだと思う。
隠す気なんて全くないから、俺はその度に狼狽えて、アリストから恥ずかしい言葉で囲い込まれるのだ。
全部が全部甘過ぎる!!

そんなこんなで二週間後、『兄上のところへ行ってくる!』とそれを口実に逃げようとした際も『一人で行くのはダメだ』と言ってついてこられたし、本当に勘弁してもらいたい。

でも兄のところへ行った際にクリストファー王子の息子だという子に会うことはできた。
なんだか随分兄に懐いていたのは意外だったけど、『ウィルはクリスの子だからな』と兄が言っていて、似た者親子かと納得がいった。
兄への順応力がきっと遺伝子レベルで高いんだろう。
何はともあれ幸せそうで良かった。

そして俺達の結婚式の話をされて、結婚式には家族揃って出たいが、お忍びで行ってもいいかと言われた。
なんでもそのクリストファー王子の息子、ウィルバートに他国の領地はこんな感じだと勉強がてら見せてやりたいのもあるそうだ。
なんだかんだで仲良くやっているようでウィルバートの方も『行ってみたいです!』と乗り気だったし、こっそり来てもらう分にはいいんじゃないかということで話はまとまった。
こういう時は転移魔法って便利だなと思う。
普通なら国外追放になっている者は国境で止められるし、ダメなんだけど、まあ見つからなければ大丈夫だろう。

それから結婚式は婚礼衣装の仕立てが終わる三か月後にしようと決めてお開きになった。
兄達の結婚式の参考にもしたいからちゃんとするように言われたし、手抜きはできない。

そうして特に宰相からも呼び出されることなく穏やかに日々は過ぎていったのだけど、ある日その平穏を乱す手紙が届けられた。

「アリスト殿下!宰相閣下から至急の手紙が届けられました!」

その内容は────。

「父がエディアスを…?」


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