エニグマ(王道ファンタジーを目指した小説です。)

sirosai

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第10話 天使

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「グウオオオオオオ!!」

 姿を現したベヒモスの身体は、とてつもなく大きい。爪は鋭く、禍々しいオーラを纏っている。前足を地面に降ろした瞬間、近くの草木が一瞬にして灰とかした。

「おいおい嘘……。だろ!!王国騎士最強と戦うなんて聞いてないぞ!!」

 敵兵は恐れおののき、多くの兵が戦意をそがれた。

「進めええええ!!何としても!お二人をお守りするのだ!!」

 イグニスの掛け声と共に、騎士団、王妃、ナイン、ニケ達は移動を始める。
ベヒモスが口を開けると、赤く光る球体が発生した。ベヒモスがそれを口の中へと取り込むと、隙間から赤い光が見え隠れし、光は次第に大きくなっていった。

「ぼっ!防御魔法を発動せよーー!!」

 敵魔導師達は、急ぎ呪文を唱え始めた。その間、ベヒモスの身体がうっすらと赤く発光していく。

「我が力、とくと見るがいい。」

 次の瞬間、ベヒモスの口から赤い光線がうたれる。敵に受け止められた光線は、敵の魔法障壁を貫通し、着地点一帯を爆発と業火で包み込んだ

「ぐわああああ!」

 ベヒモスの攻撃を受けた敵兵士による悲鳴が、敵側から数多く発せられた。レクサスは目の前に立ちはだかる敵を次々と切り払っていき、味方を先導する。

「よし!このまま行けば突破出来るぞ!」

 レクサスや騎士団、ニケ達、誰しもがこの絶望的状況から抜けられる、そう思った瞬間にそれは降りてきた。どこからともなく呪文の詠唱が聞こえ、それが終わった瞬間、月明かりで明るかった空が薄暗くなった。

「ゴオオオオオオオ!」

 ニケ達が上を向くと、上空から直径七メートル程の岩石が、数十発落下してきていた。

「なっなんなんだ……。これは……。」

 ニケ達はただ佇む事しか出来ず、上を見上げている。

「きゃああああああ!」

「うわあああああ!」

 メルとアギトは、落ちてきた岩石のせいで衝撃を受け、身体を飛ばされそうになっていた。

「くぅっ!このままでは!!」

 レクサスも周りを援護してはいるが、味方の犠牲は徐々に増えていった。イグニスやベヒモスも炎を操り、岩石を破壊していく。

「ベヒモス!!王妃様達を何としてでも守ってくれ!!」

「わかっておるわ!」

 ベヒモスは大きな身体と腕で岩石を叩き落としていくが、数が多い為に全部を落とすことは出来なかった。騎士達も魔法を使うが、力強い岩石の威力を落とす事や軌道を変える程度で精一杯だった。

「ドクンッ!!!」

「ぐっ!!!?」

 イグニスは心臓を潰されるような痛みを感じ、膝から地面に座り込んだ。

「イグニス!奇跡を使いすぎだ!後先も考えず私を呼びおって。」

「仕方なかろう。ここで呼ばずにどこで呼ぶというのだ!!」

「ぎゃあああああ!」

「うわあああああ!」

 敵の魔法攻撃により、騎士達は次々と倒されていった。それでもレクサス、王妃、ニケ達は走るしかなかった。
ニケ達のいる場所から遥か遠く、そこにいた黒いローブを身に付けた者は、呪文の詠唱を終わらせようとしていた。

「~~。~。母なる大地よ!我が祈りを叶えたまえ!我が怒りと苦しみを力に変えよ!!ランページ オブ アースドラゴン!!(地龍の大暴れ)」

 黒ローブは、持っていた杖を高く掲げた。その瞬間、杖の先についた宝玉が光を宿した。

 あと数キロのところにまで到達したニケ達だったが、地面から龍の形をした土石流が現れ、ニケ達を繰り返し襲った。

「レクサスっ!」

 王妃マーレは、我慢ならないという表情で、レクサスに目線を送った。レクサスはその合図に対して顔を横に振り、王妃を見つめていた。

「ぎゃあああ!」

 騎士達の悲鳴は絶えず聞こえ、戦場はとても悲惨な状況となっていた。そこら中に黒服や騎士の亡骸が転がっており、赤い水溜りが少しずつ水位を上げていく。

「ん……。潮時かもしれませんね。」

「どういうことですか?!」

 王妃の言葉にナインが嫌な予感を覚え、真意を問う。

「私はこれから敵の妨害を止める為に、ここで戦います。」

「なっ!何を言っているのですか?!」

 ナインは王妃マーレの言葉に対して、全く理解出来ないと言わんばかりに顔をしかめた。

「今、まともに戦えるのは私くらいでしょう。騎士も団長達も、既に力を使い果たして来ている頃です。ならば、ここで最低限の人数で敵を食い止め、可能性のあるものを生き延びさせる、それが私に出来る唯一の事なのです。」

「いや!嫌です!これ以上大切な人が居なくなるのは……嫌です!!」

「ありがとうサーガ。でも、これはしょうがないのです。宿命なのだから。」

「どっ!どうゆうことですか?!」

「直にわかります。あなたの奇跡は、あなたの行き先を指し示すでしょう。」

 マーレの言葉を聞いたナインは、声を震わせながら顔を横に振った。

「いや……いっ……。」

「例え捕まったとしても、すぐに殺されることはないはずです。きっとまた何処かで会えます。」

 ナインは何も聞きたくないと言わんばかりに下を向き、沈黙し続けていた。それでも、マーレは話しかけ続ける事をやめなかった。

「私もみすみす敵に勝ちを譲るつもりはありません。ロック・フィールドの王妃が、ただの見せかけではないという事を、あの者達に教えてみせましょう。」

 ナインは涙を流しながら、己の感情を押し殺す様に手を握りしめていた。ナインは全身に力が入らず、立っているのがやっとの状態になりながらも、お腹から声を絞り出した。

「はっ……。はいっ!……。ご無事を…お祈り…しております……。」

 マーレとナインは別れの抱擁を終え、ナインは涙を流しながら走り始める。マーレはナインの背中に笑顔を浮かべ、ナインの斜め上を見て話しかけた。

「あなたの力。お借りします。」

 マーレはゆっくりと後ろを振り返り、黒服や敵兵の向かいに立ちはだかった。

「ん?王妃が止まったぞ!!」

「はっはっ!やっと諦めたか!!」

 黒服以外の敵兵士達は、マーレの行動に一切の疑問を持たず、立ちはだかるマーレのもとに全速力で向かっていく。そんな中、黒服は何かに勘付き、進むスピードを遅くした。

「何かがおかしい……。」

 マーレは目を瞑り、呪文を唱え始めた。

「我らが天使よ。秘密の領域と至高の神秘の名の下に、地上と天界の全てに平等な制裁を与えたまえ。」

「なっ!!あっ……あれは!!」

 王妃マーレの足元から、巨大な魔方陣が発動する。黒服はマーレの言葉を聞き即座に足をとめるが、敵の兵士達は手柄欲しさに、我一番とマーレに向かっていく。

「強国には、ある奇跡が王家代々受け継がれている。奇跡という呼び方の由来。とくと見よ。」

 マーレはゆっくりと目を見開き、敵兵士達を見る。黒服は周りの兵士達の進行を止めようとするが、言う事を聞くものはいない。

「バカがっ!!さがれー!!」

「顕現せよ!!!大天使ラツィエル!!」

 マーレの発言と共に、足元にあった大きな魔方陣が強く光り始める。王妃の身体は光に包まれ、その光は一直線に夜空にある雲を突き抜けた。
マーレの上空からは、ニケ達が地下神殿で見たあの美しい女性が現れた。マーレはその女性に願いを告げる。

「大天使ラツィエル!彼らに、塵一つ通さない結界を!!」

 女性は羽根を大きく広げ、人間にはわからない呪文を唱えはじた。その後、女性はニケ達の方を向き、手を身体の前に突き出した。

「ブンッ!!」

 レクサス、ニケ達、騎士達の周りを、大きな半球の結界が覆った。

「あの者達に、天使の鉄槌と慈悲を与えたまえ!シャークォルズ・オブ・ライト(光の枷)」

 ラツィエルは腰にかけた剣を抜き、空にかかげた。その剣は黄金に輝き、光となってラツィエルの手からすり抜ける。
 天高く舞い上がった光は勢い良く弾け、その一つ一つが十字架となり敵兵めがけて落下していく。十字架は敵兵を次々と貫いていき、敵兵はなす術も無く、地面にひれ伏すような形で拘束されていった。

「イグニス!!」

「はっ!」

「あの者たちと共に急ぎここを離れるのです!」

「出来ませぬ!!」

 マーレはイグニスにここから離脱するよう伝えたが、イグニスはその言いつけを断った。

「これは命令です!!」

「マーレ様!!」

「ここでサーガを失う訳にはいきません。そしてあなたも!」

「しかし!!」

「あなたも力を使い過ぎました。」

 マーレはイグニスの状態がもう限界に近いことを見抜いており、離脱する事を命じた。

「私ならば大丈夫です!!」

「バシッ!ビキビキビキ!!」

 力の使い過ぎから来る痛みが、強がるイグニスの全身を襲った。

「ぐっ!!!」

 マーレはイグニスの肩に優しく手を置き、話しかけた。

「イグニス。お願いします!私はあなたにナインを守ってもらいたいのです!」

「……くっ!……。」

「あなた達の武運を……祈っています。」

「マーレ様!! ……必ずっ!……必ずお迎えに参ります!!」

「ありがとう。……さあっ! 行くのです!!」

「くっ!……はっ!!」

 マーレはイグニスがナインの元に向かったことを確認し、微笑みながらゆっくりと黒服の方を向いた。

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読んでいただきありがとうございます。

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