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第15話 感知

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 満天の星空の下。ニケ達四人は寝転びながら上を向き、これからどうしていくのかを考えていた。

「明日から当分の間、みんなと会えないんだね……。今……みんなは……何しているんだろう……。」

 メルは脱力しきったように、体を敷かれた布に置く。

「うん……。」

 ニケが返事をしてしばらくたった後、アギトがメルに話しかける。

「父さんと母さんに会いたいの?」

 メルは勢いよく起き上がり、アギトの方を見る。

「会いたいよ!」

 メルは再び横になり、腕で顔を隠した。ニケは右手を上に掲げて開く。

「僕、必ず強くなる!そして戻って来る!僕達の故郷に!」

「俺もだ!」

「私も!」

「必ず!」

 四人は上を見ながら、己の決意を口にした。

「取り戻そう。僕達の帰る場所を。いつか……。必ず!!」

「おおおおお!」

 四人は横一列に並んで眠っている。ニケも眠ろうとはしているが、なかなか寝付けないでいた。

「はぁ。…………うっ!」

 ニケの身体が「ビクッ!」と跳ね上がった。そこで起きた事に、意表をつかれたからだ。ニケの手は横で寝ているはずのナインの手に、握られていた。

「えっ!!ん?……え!?」

――ウソ……。ナインて、もしかして……僕のこと……。 いや……。そんなわけ……。でも……。

 ニケの全身からは変な汗が出始め、顔を真っ赤にしている。ニケはこのままの状態でいたいと思いつつ、小さい声でナインを呼んだ。

「……ナ、ナイン?」

 ニケはナインの名前を何度か呼ぶが、一向に返事はなかった。ニケの手には、ナインの温もりが伝わる。ニケはおそるおそる人差し指を少しだけ動かすが、やはり反応がない。

「……起きて…る?」

 ニケがゆっくりナインの方に身体を向けた時、小さな音が聞こえた。

「ぅっ……。」

「…えっ?」

 ニケがナインに話しかけようとした瞬間、ニケの手はナインの手によって恋人繋ぎで握られた。ニケの心臓は、爆発するのではないかというほど激しく鼓動が打たれた。

「ういっ!?」

 ニケは頭に血が上りクラクラしていた。次第にニケの感覚は麻痺し始めナインの手の温もりが心地よくなった。

「ぐすっ……。」

 ナインの方から鼻水をすする音がした。

「え?……。」

 ニケからは見えないが、ナインの目からは涙がこぼれ落ち、敷かれた布を湿らせていた。ニケはようやくナインが泣いている事に気づき、何も言わずナインの手を優しく握り返した。

「あり……が……とう……。」

 ナインのギリギリ聞き取れるくらいの声を聞いたニケは、ゆっくりと目を閉じた。

 翌朝、鳥のさえずりと共にメルの声が響き渡る。

「朝だよー!!ニケー!」

「んっ……。あさ……?」

「珍しいねー?ニケが最後に起きるなんて。」

「うぐっ!!」

 ニケは昨夜のことを思い出し、固まってしまった。昨日のナインとの間で起きた事から、なかなか寝付けなかったなんて、ニケには言えるはずもなかった。そんなことを知らないメルは、いつもと違う雰囲気のニケに尋ねた。

「どうしたの?」

「えっ!?なっなんでもないよ!!」

「ん??なんか、おかしくない?」

「ん?いやーはは、は……。」

「じーっ……。」

 メルの何かを探ろうする視線に対して、背中を向けるニケは、わざとらしくせっせと準備をする。

「変なのー。」

 横目でニケを追いかけるメルは、ニケに何が起きたのかを考えていたが、やはり何もわからないままだった。ニケはメルと目を合わせないように、そそくさとテントから出ていく。

「……。次は、いつになるか分からないもんね。」

 メルは何気ないこの一瞬一瞬を、大切に過ごそうと改めて思っていた。

 湖の近くまで移動したニケは、先に来ていたナインを見つけた。ニケは声をかけられずに、ただナインを見ている事しか出来なかった。ナインの髪は風になびいており、その髪を耳にかけるナインの姿を、ニケは視線から外せないでいた。
ぼーっとしているニケに、あとからやってきたメルが話しかける。

「ん?ニケ?そんなとこでどうしたの?」

「えっ!!いや、なんでもないよ!!」

 メルの声で二人に気づいたナインとニケは、目が合い互いに頬を染めた。

「あっ、ありがとうね!」

「っ!?……え?!」

 ナインは恥ずかしさを隠すように、ニケに礼を言う。ニケはナインの唐突な発言に対して、驚き戸惑っていた。

「きっ、昨日……。」

「あっ……。うん……。」

 真っ赤になった二人の顔は、今にも破裂しそう風船のようであった。

「あっ!…わっ、私も!そろそろ準備しなきゃ!」

 用事を思い出したかのように振る舞うナインは、逃げるようにそこから去っていった。その後ろ姿を見ていたニケの手は、強く握りしめられていた。

 ナインたち一行は準備を済ませ、イグニスの話に耳を傾けている。そこにいた者達は、皆険しい表情をしていた。これからどうなるのか全くわからない状況で、不安を募らせるのは至極当然であった。

「皆!準備は出来たか!?」

「はっ!」

 兵士達は、イグニスの言葉に力強く返事をした。イグニスは皆の反応を確認すると、続けて演説を始める。

「よし!……これからどうなるか、全く予想が出来ない状態だ。どこに裏切り者がいてもおかしくはない。そんな 状況でも、我らが母国を得体の知れぬ奴らから守るため、全力で動いて欲しい。私達にはまだ希望がある。サーガ姫がおられる限り、エルミナス王国は不滅である!」

「おおおおおおおおおお!!!」

 イグニスは一通り喋ると、ナインに合図を送った。ナインは首を縦に振り、皆の前に立ち息を大きく吸い込んだ。

「皆さま!私達の帰るべき場所、エルミナス王国を取り戻すため!力を貸してください!」

「おおおおおおお!!!」

 ニケ達四人に別れの時が来た。四人は不安の感情を押し込めながら、向かい合って互いを確認し合う。

「しばらくのお別れだね……。」

 ニケは名残惜しそうに三人を見つめた。

「ああ。みんな!負けるなよ!」

 いつもの元気な姿で激励の言葉を送ったアギトに、メルも力強く応える。

「うん!また四人で集まるからね!」
 
「はい!」

 三人を見て心強さを感じたナインは、この約束を守ろうと心に誓った。

「行こう!!」

 ニケはこれから進む道を、力強い眼差しで見つめた。

「行動開始いい!!」

 イグニスの掛け声とともに、そこにいた者達は心を一つにして、片手を頭上に向けて高くあげた。

「おおおおおおおおお!!!」

 晴れ渡る空の下には、広大な山々と平野が広がっている。

 ニケとアルバートは二人で一頭を、二人の騎士は一頭ずつ、この四人で馬三頭に乗り、皆の元から離れていく。アルバートは、少し表情が暗くなっているニケに話しかける。

「恐ろしいか?」

「……はい。でも僕は強くならなくてはいけないんです。大切な人を守るために。」

「よく言った!これから鍛えてやるからな!覚悟しろよ!」

「はい!」

「バシンッ!!!」

 ニケの強い意志からくる返事と同じタイミングで、アルバートは乗っている馬に合図を送った。すると馬は大きく前足を上げ雄叫びをあげた。ニケがバランスを崩した瞬間、馬は勢いよく地面を蹴り、前に向かって走り出す。

「うわあああああ!」

「突き進むぞー!明日に向かってー!!」

「まだ朝ですよおおおおおお!」

 二人の騎士は、ニケ達を見てつぶやく。

「あらら。」

 アルバートについて来た二人の騎士は、「まあ、いつもの事か。」と言わんばかりに顔を見合わせた。

 一方、イグニスとナインは、一台の馬車で移動していた。男女二人の騎士が手綱を引き、中にナインとイグニスの2人が座る。
ナインは喋らず下を向き、動く馬車に揺られていた。心配になったイグニスは、向かいに座るナインに話しかける。

「姫さま。ご体調は大丈夫でしょうか?馬車に乗られてご気分を悪くされてはいませんか?」

 心配そうに声をかけるイグニスに対して、下を向いていたナインがゆっくりと顔を上げた。その表情はこれからの未来を覚悟したものだった。

「姫さま……。」

「イグニス。」

「はっ。」

「私はもう迷ったりしない。一国の姫として、毅然たる振る舞いをし、王国の再興を果たします!……イグニス、不甲斐ない私ではありますが、力を貸して頂けないでしょうか?」

 ナインの今までとは違う雰囲気を感じ取ったイグニスは、内からこみ上げる興奮を抑え、ナインに語りかける。

「はっ!このイグニス。この命が尽きるまで、あなた様と共に歩み続けます!」

「ありがとう。……行きましょう!西大陸最強の軍を持つと言われるレフィーリア王国へ!」

「はっ!」

 二人が乗る馬車は、真っ直ぐにレフィーリア王国へ向かっていった。

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読んでいただきありがとうございます。

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