エニグマ(王道ファンタジーを目指した小説です。)

sirosai

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第18話 戦場

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 エルミナス王国の崩壊後、ロック・フィールド家が城を追われてから国を支配していたのは、何処の国でもない新しい勢力である黒服の男達だった。抗う事の出来ない国民は圧政に苦しんでおり、兵士は牢獄行き、ひどい場合は処刑された。

「ガシャーン!」

「ぐあ!!」

 ある家のテーブルに置かれた食器類が、全て地面に投げ出された。

「いいから出せ!!」

「これ以上はありません!本当にもうお金なんてないんです!」

 黒服の男は、その家の住人である男の手を振りほどき、棚などを物色する。

「嘘をつくな!ならば今お前らが食べている物はどうしたんだ!」

「これは今日稼いだ全てで買った物なんです!」

 住人の男の妻であろう女も必死に許しを請うが、黒服の男はそんな話を聞いてなどいなかった。

「ちっ!使えねーな!次は用意しておけよ!でないとお前らのものをはじから貰っていくからな!」

「そっそんな……。」

 国民は虐げられ、日々食べるものにも困っていた。しかし、黒服の男達に反抗することは許されず、ただ従うしか生き延びる術は残されていなかった。

※∮※⌘※∞※⁂※§※∮※⌘※∞※⁂※§※

「はあああ!!」

「カッ!!ガッ!カン!!カッカッカッ!」

 ニケとアルバートの剣が幾度となく重なり、その度に鉄が弾ける音が辺りを包む。

「ほう。やる様になったではないか!」

「くっ!……ああああ!!」

「ギャンッ!!」

「ぐあっ!!」

 アルバートが振った剣は、ニケの剣をやすやすと弾き飛ばし、飛ばされた剣は木の幹に刺さる。

「あっありがとうございました!」

「うん!よいぞよいぞ!その年でお前ほどの物はなかなかいないだろうよ」

「いえ、まだまだこんなものでは……。」

 エルミナスの革命が起きた二週間後の朝。ニケは汗だくになりながら、剣の稽古を受けていた。

 汗を滝で流していたニケに、偵察から帰ってきたエディが合流する。

「よっと!!」

 エディは木々の枝を軽々と移動し、池のほとりに着地した。エディはニケに向かって、何かをもったいぶるように話し始める。

「ニケ!いよいよだ!」

「えっ?何がですか?」

「何がって、いよいよ向かうぞ!」

「どこにですか?」

「街道だ!久しぶりの人通りだ!」

「はっ…はいっ!」

 ニケは素直に喜べずにいた。エルミナス王国が落とされた今、どこに敵の刺客がいるのかもわからない。人通りを行くという事は、常に危険と隣り合わせな状態になるということを指していたからだ。

「心配すんな。俺たちが付いてる!」

「はっはい!」

 ニケの足は震えていた。誰にも気づかれまいと、全力で押さえ込もうとはしているが、意思とは裏腹に恐怖が込み上げていた。しかし、ニケにも少しばかりの自信はあった。アルバート達と積み重ねてきた特訓の日々。その時間を信じる事だけが、ニケにとって唯一自我を保っていられる術だった。

「ガサッ!バサッ!ザッ!」

 走る馬に乗り、素早く森を切り開いていく四人は北に進み続けた。

「抜けるぞおおー!!」

「ガサッ!バサッ!ザッ!ズバアアアン!!」

「ピカッ!」

 森を抜けた瞬間、四人を待ち構えていたのは広大な砂漠だった。ギラギラとした太陽の日差しが、四人を容赦なく襲う。

「ぐっ!」

 人の皮膚を焼くような熱さが、その環境の過酷さを充分に物語っていた。

「よしっ!このまま一気にテュミニー街道のあるガーラム国まで行くぞ!」

「はいっ!」

 ニケがアルバートの掛け声に返事をした瞬間、それは起きた。

「続けー!!」

「おおおおおおお!!」

「ザザザッ!ズババッ!」

 離れた森の二箇所から、布で全身を覆った者達が、五人ずつ鳥の様な獣に乗って飛び出して来た。

「なっ!!」

「ほう。これは一本取られたな。」

 呆気にとられるニケの後ろで、アルバートは感心したように呟いていた。

「私達の包囲網をかいくぐりながら、こちらの位置を掴んでいたのか。向こうにはかなりの高位探索者がいますね。」

「ああ。只者でない事だけは確かだな。」

 エディの分析を聞いたアルバートは、面倒くさいという顔をしながら頭をかいている。

 ニケは布で覆われた者達を見て、鞘を強く握りしめていた。鞘を持つニケの手からは、大量の汗がかかれている。それが熱さからなのか、恐怖からくるものなのか、ニケにとってはどちらでもいい事だった。

「隊長ー!どうしますー?」

「エディとフェルトは向こうの奴らを!俺とニケでこっちをやる!」

「はっ!」

 アルバートは素早く状況の確認をして、エディの問いに答えた。その命令に、エディとフェルトもわかっていたかの様な速さで返事をした。

 エディ達が勢いよく手綱を引いた瞬間、馬は両前足を高く上げ方向転換をし、敵に向かって勢いよく走りだす。

「よおおし!こっちも行くとするかーなっと!!」

「ぐあっ!」

 アルバートが手綱を引くと、馬は敵の方へ向かうために円を描くように走り、進行方向を敵に向けた。

「ニケよ!臆するな!お前が怖がると馬も怯えるからなあ!」

 アルバートは風で声がかき消されぬように、ニケに大声で話しかけた。話し終えたアルバートは少し微笑み、再び前を向く。

「はっ、はいっ!!」

 敵の兵士は剣を抜き、頭上に振りかざした。その剣の周りからは風の流れが生まれ、徐々に竜巻の様な物を形成した。

「あっあれは!」

「ほう、風を使う者か。あれは奇跡なのか魔具なのか。ん~。まあ、わからぬなら行くしかあるまい!!はあっ!!」

 敵の頭上に目を奪われているニケを横目に、アルバートは両足を馬にぶつけ速度を加速させた。

「真なる姿!我らの前に現したまえ!我の言葉に呼応せよ!!」

 アルバートは右手でハルバードを回転させ、前に突き立てながら勢いよく叫んだ。

「フォールス・トゥルース(偽りの真実)」

「ズゥーン!ズッズズッズズズズズッ!!!」

 敵との間に広がる地面は、アルバートの声に反応したかのように、勢い良く揺れ始めた。

「喰らえー!」

「ビャン!」

 敵兵は、剣をニケ達に向けて振り払った。剣にまとっていた風は、斬撃となって勢いよく放たれた。

「行くぞっ!!  蹴散らせ!!ガルガンド!!」

 アルバートが何者かの名前を呼ぶと、敵兵とアルバート達の間から高さ六メートルくらいの砂で出来た巨人が現れた。」

「ヴォオオオオ!!」

「なっ!……。」

 いきなりの事で、敵兵とニケはただ驚くことしか出来なかった。風の斬撃は砂の巨人によって軽々と止められ、鳥獣の速さと方向を変えることが出来なかった二人の敵兵は、砂の巨人の大きな手によって、鳥獣ごと弾き飛ばされた。

「ぐわああああ!!」

 交差するアルバート達と残りの敵兵は、互いの存在を確認する。すれ違った三人の内、二人の敵兵は弓を取り出し、こちらに狙いを定めた。もう一人の敵兵は再度こちらに向かって走り出す。

「アルバートさん!敵が弓を!」

「あいよー!」

「ビャンッ!」

 弓から放たれた矢は真っ直ぐこちらに向かってくる。

「カルタス!!」

 アルバートの一声で、ガルガンドより一回り小さいゴーレムが、魔法陣の中から現れた。カルタスは砂の盾を使用し、向かって来る矢を次々と弾き返した。
近づいて来ていた敵兵は、アルバートとすれ違う瞬間を見計らい、アルバートの身体を真っ二つにするべく剣を振るった。しかし、アルバートはハルバードの柄を敵の剣の腹に当て、悠々と弾き返し敵を斬り伏せた。

「ザンッ!!」

「ぐあああああああ!!」

 敵兵の腹は、アルバートの攻撃によって切り裂かれた。その傷口からは、勢いよく血が吹き出す。

「ひっ!!」

 ニケはただ驚くことしか出来なかったが、恐怖に負けないように、何度も自分を鼓舞し続ける。

「あの時だって向かって行けたんだ。怖がるな!怖がるな!!」

「ピラー・オブ・ウィンド!!(風の柱)」

 前に出されたフェルトの両手からは、風のうねりが生まれ、それはやがて竜巻となった。
発生した竜巻は、渦を巻きながら敵兵達に襲いかかり、敵兵を飲み込んでいった。

「ぐああああ!」

「ドサッドサ!」

 四人の敵兵は、瞬く間に乗っていた鳥獣から振り落とされた。

「ナイスッ!あとは任せろ!」

 エディは構えていたランスを、敵四人のカラダ側面に、立て続けにぶつけていく。その瞬間、エディの持つランスと敵の身体との間で爆発が起こり、敵は爆炎に包まれていった。

「ズガアアアアアン!!!」

「があああああ!!!」

「なっ!!何なんだこいつら!!」

 呆気に取られることしか出来ない敵兵達は、エディ達の強さに恐怖し、後ずさりをする。

「ん?こいつら、俺たちのことを知らないのか。」

 エディの発言を聞いた一人の敵兵は、身体をピクッとさせ仲間に合図を送る。

「くっ、くそっ!!退却だ!!」

「逃すか!!」

「エディ。追わなくても良い。」

「っ!  はっ!」

 アルバートはゆっくりと馬を走らせ、エディ達に駆け寄る。

「あいつらは何者でしょうか?魔法や剣の腕前は大したことないですが、統率が取れすぎている。」

 近寄るアルバートに、エディが質問をした。

「うむ。おそらくは雇われの盗賊といったところだろうよ。エルミナスが落とされてから、各国に不安な動きが起きていると報告が入っている。その類かとは思うが……嫌な予感がするな。」

 四人が重い空気に包まれる中、沈黙をかき消すかのように、いきなりエディが笑顔で喋り始めた。

「まっ!俺たちの敵ではなかったですけどね!」

「がっはっは!そうだな!」

 アルバートも笑顔で同意した。二人の会話を聞き、呆れたようにフェルトは頭を下に向け、二人に移動を促す。

「急ぎましょう。また追手が来るやもしれません。」

「うむっ!そうだな!行くとしよう。」

 三人の横で、顔を下に向けているニケ。それに気付いたエディが近づき話しかける。

「どうした?気分が悪そうだな。」

「あっ、はい。少し気分が悪くて。」

「まあ、いきなりあんなのを見ちゃうとな。」

 ニケの脳内には、アルバート達の攻撃によって倒された、敵兵達の顔が浮かんでいた。

「はい……。」

「でも魔物とは戦えただろ?それと一緒だと思えばいいんだよ。」

 エディはあっけらかんとした顔で、ニケの思い悩む事への回答をだす。

「そんな無茶な……。」

 終わりが見えない砂漠。照りつける陽のおかげか、ニケの体調も普段に比べやや回復が早い。

「行きましょう、じっとはしていられないですよね……。」

「そうですね、幸い砂漠を横断するわけではないのだから夜には街に着くでしょう。」

「はあっ!!」

 アルバートの掛け声で、四人が乗る馬は一斉に砂漠を走り始めた。

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読んでいただきありがとうございます。

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