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第21話 探査

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 日が暮れ始めた街道は、多くの冒険者達で賑わっていた。街道に点在する武器屋からは、鉄を打つ音と値段交渉をしている会話の声が聞こえてくる。

「へ~。やっぱり武器屋が多いですね。」

 興味津々な顔をするニケに、エディは自慢気に話し始める。

「何たって、ここは全世界の中でも、四本の指に入る有数の武器屋街だからな!ここで手に入らない武器はないと言われるくらいだからな。」

「は、はあ。」

 一人で盛り上がるエディに、ニケは圧倒され苦笑していた。

「よしっ!あそこに入ってみようぜ!」

 エディが指差した先には、大きく立派な建物が建っていた。その建物の造りはとても堅牢で、他とは一線を隠す外観をしていた。出入り口に立つガードマンの横には、看板が掛けられており「フィリップス・ナイトレイ」という文字が彫られていた。

「ここ……めちゃくちゃ高そうなんですけど……入って大丈夫なんですか?」

 ニケは外観に圧倒され、あまり気が進まない様であったが、そんなことを微塵も考えていないエディは、ズカズカと建物に入って行く。

「おおいっ!早く来いよー。」

「はっ…はあいっ!」

 呆然と立ち尽くすニケに、エディは早く来るよう促す。ニケは慌ててエディの後に着いて行き、大きな扉を押して中に入った。そこでニケの目に飛び込んできたのは、数多くの豪華な装飾の武具や、プレミアの価値がついているであろう魔剣などの魔道具であった。

「うっ…うわあ……。」

「すごいだろ!ここは武器屋の大人気店!フィリップス・ナイトレイだ!」

 ニケは歩きながら、飾られている武器を眺めて行く。
金や銀、宝石等で装飾を施されたダズリングシリーズ、ドラゴンやグリフォン等、魔獣の身体の一部を用いて作られるフィリップスシリーズ。魔族の身体の一部を用いて作られるナイトレイシリーズ。
数多くの種類、シリーズの武具が並べられているが、フィリップスとナイトレイだけ、値段が異常に高く設定されていた。

「この二種類はとても高価なんですね……。まあ、他の武器でも、僕に買えるものはありませんが……。」

「まあそうなるわな。宝石なんてものは時間をかければ手に入るかもしれないけど、フィリップスとナイトレイに使われる素材は、時間があっても手に入るものじゃあないからね。」

 ニケの疑問に答えるエディも、あきらめ顔で商品を眺めている。

 ニケが近くを見回すと赤く光るレイピアが飾られていた。

「これは……。」

「どれどれ。え~とっ。これはフェニックスの爪と羽と骨、あと心臓の一部が使われている……だってよ。へえ~。」

 エディは、疑いの眼差しでレイピアを見つめながら、ぶつくさと呟いている。

「本当かね~。まあ、ここにあるってことは本物なんだろうな~。」

「そういえば、エディさんが使っているランスはどういう物なんですか?」

 ニケはエディの使っていたランスを思い出し、エディに尋ねた。

「ああ。あれは魔道具だよ。ただ、フィリップスシリーズじゃあないけどな。他の店で買った魔獣の力を宿す武器だよ。フィリップスには劣るが、負けず劣らずの力を秘めてるんだぜ。」

 自慢気に話すエディを、ニケはキラキラした目で見つめている。

「僕も……いつか……。」

 ニケは独り言を呟きながら、一番安いフィリップスシリーズの値段を見て、ため息をつく。

「はあ……。一番安くても五万六千エリン……。パンが五万六千個買えるよ……。」

 今までの人生で、見たこともない金額の値札を見たニケは、外に向かってトボトボと歩き始める。

「まあまあ!何も魔道具はこれだけじゃないぜ!もっと安く手に入れる方法だってあるんだ!」

「ええっ!!どっ!どうすればっ!?」

 ニケはエディの言葉を聞き、食い気味に質問をした。

「簡単さ!自分で素材を手に入れる。」

 二人の間に沈黙が流れる。ニケは再度ため息をついて、また歩き始めた。

「簡単だけど簡単じゃないですよ……。」

「まあね。ただ、まだ魔道具はいらんだろ。今は俺たちの稽古に集中すればいいさ。それからでも全然遅くないしな。」

「はっ、はい……。」

 エディは、笑いながら落胆するニケの頭に手を乗せた。それに対して、ニケは少し顔を赤くしながら頷き、店のドアを開けた。

「ガチャッ、ギイイイイ。」

 ニケ達が店を出る時には、日も完全に暮れており、辺りは暗くなっていた。歓楽街は冒険者や街の住人によって、宴会場とかしている。

「パンッ!」

「よしっ!じゃあそろそろ本気で仕事をするか!」

 エディは拳を左手で受け止め、気合いを入れた。

「はいっ!」

 ニケは返事をして、エディの後ろについて行く。

「今をもって、俺達は年の離れた親戚な。あと周りにはあまり目線を向けるなよー。何気ない会話をしながら、周りの奴の会話だけを聞くんだ。」

「はい!」

 ニケの返事を聞いたエディは、目線を上に向け考え事を始める。

「ニケー。今何か食べたいものとかある?」 

「んー。そうですね~。シチューですかね~。」

「ん~、ニケ…ちょっと堅いかな?」

「シッ、シチューかな~。」

 指摘を受け、すぐに言い直したニケに向かって、エディはよしよしと言いたげな顔で頷いている。

「ドンッ!」 

「痛っ。」

 ニケは急に立ち止まったエディの背中に、頭から突っ込んだ。

「よしっ!ここに入ろう!」

 ニケは自身の鼻を抑え、エディを横目で見ながらついて行く。エディが入っていったのは、とても賑わっているレストランだった。むさ苦しい男達のいる各テーブルには、パーリ鳥の丸焼きやソリメノ海の海産物のスープ等、多くの食材が用いられた豪華な料理が、至る所に並べられていた。

「らっしゃーい!!」

 店主と思われる男のいかつい声が、店内に響き渡る。しかし、店にいる男達は酔っているのか、話に夢中なのか、その言葉に反応するものは、誰一人としていない。

「よし。あそこに座ろう。」

 エディは、迷わず奥の席を指差し、ニケと共にテーブルの方へと向かう。左隣には冒険者と思われる三人の男達、右隣には見つめ合うカップルらしき二人の男女が座っている。二人が席に着くと、エディはおもむろにメニューを開く。

「おっ…お腹空いたね~。」

 ニケは、ぎごちなくならないように話そうと意識するが、なかなかうまくはいかないようであった。

「そうだね~。んー。ほうほう。」

 エディはニケの言葉に軽く相槌をうちながら、メニューを吟味している。

「なるほどね~。」

 一人でメニューを読み進めるエディに、ニケがたまらず話しかける。

「決まりました?もう僕お腹すきましたよ~。」

「ん?おう、わりいわりい。好きなもの頼んでいいぞ。」

「えっ?」

 エディは読んでいたメニューを、ニケにひょいっと渡し、辺りを見回しはじめる。

「えっ?もう何にするか決めたの?」

「ん~。何でもいいかな~。適当に頼んじゃっていいよ~。」

「じゃあ、勝手に頼んじゃうよ。」

「はいはーい。」

 ニケはメニューに一通り目を通し、店員を呼ぶ。
 
「すいませーん。」

「あいあいさー!!」

 ニケの呼びかけに反応した店員は、素早い動きでこちらに近づいてきた。

「おう!キュートな僕!何にするんだい?」

 ニケは複雑な顔をしながら、注文をし始める。

「えーっと。パーリ鳥のシチューと炭火焼きパン、バインエルン豚カツレツのライス付き。あとシカーゴ牛のハンバーガーを二つお願いします。あっ!すいませんが、そのハンバーガー二つは、お持ち帰りでお願いします!」

「まいどーありっ!」

「えっ?!」

「サンキュー。」

 おかしな店員を見て動揺しているニケに向かって、エディの雑な感謝の言葉が送られた。

「食べたらどこに行きましょうか?」

「あー、もう大体決まったから。」

「えっ決まってたの?先に言っといてよー!」

「ドンッ!!」

 左隣からテーブルを叩く音がした。

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読んでいただきありがとうございます。

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