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第31話 不足

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 ニケとエディが森で修行していた頃。

「カンッ!カッ!」

 エディとニケの持つ木刀は激しくぶつかり、その音はあたり一帯に響いていた。

「やっぱりな。」

 エディは唐突に話し始める。

「ハァハァ……。どうしたんですか?」

 何の事だかさっぱりわからないニケは、目を点にしながらエディの顔を見ていた。エディは真剣な顔付で理由を説明し始める。

「お前は洞察力が高い。」

「どう……さつりょく?」

「ああ。相手の動きを見抜く力ってところかな。」

 ニケはエディの言葉を理解し、喜びつつも過去の経験を思い返していた。

「お前の戦闘スタイルはこれだな。」

「これ?」

 エディの発言を聞いたニケは、興味津々な顔でエディの顔を見つめる。

「ああ。相手の攻撃を避けつつ、雷魔法で撹乱し敵を討つ!!」

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「避けつつ撹乱し、敵を討つ!!」

「はああああああ!!」

「何っ!」

「ギャンッ!!」

 ガルは想定していたよりもずっと洗練されたニケの剣さばきに動揺しながらも、何とかニケの攻撃を防いだ。
ニケの振り払った剣とガルの持つアックスは激しく接触し、甲高い金属音を辺りに響かせた。

――くそっ!この人身体が大きいのに案外素早い!

 ガルはすぐさま反撃に転じた。ガルはアックスでニケの剣を弾いた後、そのままニケに向かってアックスを振り抜いた。

 しかし、ニケは剣が弾かれた瞬間に後方へとジャンプしていた。そのおかげでガルの攻撃は完全に空振りとかした。

「かっかっか。ガキのくせにやるじゃねえか。なめていると痛い目に合うってか?」

 ニケの額から一滴の汗が流れ落ちた。ニケは一瞬の気も許せないことを改めて実感し、剣を持つ手に一層の力を込めた。

「待てえこらー!!」

 バルはルーカス達を追いかけながら、二人に向かって怒鳴りつけていた。

「くそっ!このままではっ!」

 ルーファスの手を引くルーカスは全力でバルから逃げつつ打開策を模索するが、一向に見い出す事が出来ず ただただ走る事しか出来ないでいた。

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「ブゥンッ!ブゥン!」

「オラオラ!どうした!?避けてるだけじゃ何も変わらないぜ!」

 ガルはニケへ目掛けて何度もアックスを振っていく。しかしニケはそれらをことごとくかわし、カウンターを当てようとずっと耐えていた。

――何故だ!?何故当らぬ!?

 ガルは自身の攻撃が当たらない事に対して、段々と苛立ちを募らせていた。

――この人、段々と動きが大きくっ!それならっ!

 ガルの異変に気づいたニケは、わざと隙が生まれたような動作を動きに取り入れた。

「うわっ!」

――んっ!

 待ってました!と言いたげな顔付きになるガルは、ニケに向かって大声で叫ぶ。

「がっはー!!馬鹿め!!死ねええええ!」

「ブウウウウゥン!!」

 ガルが全力で放った斬撃は勢いよく空を切った。

「はああああ!」

 ニケはすかさず持っていた剣でガルに突き攻撃を放った。

「ザシュッ!!」

「ぐああっ!!」

 ニケの攻撃はガルの右肩にヒットした。すかさずニケが追撃をしようとした瞬間、ルーカス達のいる方向から泣きじゃくる子供の悲鳴が轟いた。

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「ちょこまかと逃げやがってー!!」

 バルは顔を真っ赤にしながらルーカス達の後を追っていた。

――くそがっ!このままじゃいつまでたっても!!ん?……この先にはたしか……。

 バルは今走っているこの通路に見覚えがある事にふと気が付き、策を思い付いたのかニヤリと笑みを浮かべた。

「よしっ!確かあの扉の先は出口へと繋がっていたはずだ!ルーファス!もう少しの辛抱だぞ!」

「うんっ!」

 ルーカスの気遣いのお陰もあってか、二人は全速力で扉の方へと走っていくことが出来た。

「ここだっ!!」

 この時を待っていたと言わんばかりに叫んだバルは、ルーカス達の進む先の地面に手の平を向けた。そこには小さな床下扉が設けられていた。

「オープン!」

「ガチャンッ!!」

 バルの掛け声と共に開かれた小さな扉は、楽々とルーカスをつまづかせる事に成功した。

「ぐあっ!!」

 ルーカスは思いもよらないアクシデントによって勢いよく体勢を崩した。

「ぐあっ!」

「ドサッ!」

「パパっ!早く!」

「ああっ!」

 ルーカスが再び走ろうと身体を起こした瞬間、電流が走ったかのような痛みがルーカスの足首を襲った。

「ぐうう……。くっ!ルっルーファス!!来るなー!先に行けー!!」

 ルーカスは倒れた衝撃で足を動かす事が出来なくなったことを察し、力を振り絞ってルーファスにここから去るように叫んだ。しかし、ルーファスはルーカスの言葉が聞こえなかったかのように、迷いなくルーカスの元へと近寄った。

「パパっ!早くっ!手をおおお!」

「いいから行けーー!!!」

 ルーカスの叫びが辺りに響いた瞬間、ルーカスと泣きながらルーカスの手を肩に回すルーファスの二人を黒い影が覆った。

「そんなに慌てるなよ。」

 吐息混じりのバルの声を聞いたルーファスは、身体を硬直させながらもゆっくりと後ろを振り向いた。

 そこには近すぎて顔が見えないバルと、その奥で険しい表情のニケが走ってこちらに向かってきている光景があった。

「ルーファーーーーース!!」

 ルーファスはニケの叫び声と共に、バルのおぞましい発言を聞いてた。

「お前を痛めつければこいつも逃げねえだろ。」

――くっ!!どっ、どうすればっ!はっ!ぎっ、銀色のっ!!あれさえっ!!あれさえ出せれば!!!

 ニケは必死に打開策を考えたが何も見出せず、過去に己を助けた銀色の何かが出るよう願う事しか出来なかった。

「頼む!出てくれー!」

 ニケの事など気にもとめていないバルは、アックスの先にある杭をルーファスに向ける。

「またっ!助けられないのか!?」

 バルはルーファス目掛けアックスを突き出す。

「ああああああ!!」

 絶叫するニケに気づいたルーファスは、ゆっくりとニケの方へと顔を向け、ぎこちない笑顔を浮かべた。

 ニケはあらゆるものに願ったが何も起きず、ただその光景を見ていることしか出来なかった。

 ルーファスはほんの少しだけ口を動かし、ニケにメーセージを伝えた。それと同時に太い杭がルーファスの身体を貫通した。

「ドスッ!!!」

「うぐっ!!」

 杭が人体に刺さる音と子供の小さな声がニケをさらなる絶望へと貶めた。

「あああああああ!!!」

 ニケの殺気に満ちた叫びに気付いたバルは、貫かれたルーファスごとアックスをニケの方へと振り払った。

「ブオオン!!ブシュッ!!」

 その衝撃でルーファスの体がアックスから離れニケの方へと飛ばされた。ニケはすぐさま剣を捨て、飛ばされてくるルーファスの体を受け止めた。

「きっ貴様ああああああああ!」

「んん?」

 辺りに響き渡るルーカスの怒号、それに気づいたバルは気怠げに後ろを振り向いた。ルーカスはありったけの力で剣をバルに向けて振ったが、バルは軽々とその剣をアックスで弾き返した。

「なっ!!」

「ドンッ!!」

「がはっ!!

 丸腰のルーカスはバルの力強い蹴りによって五メートル程吹き飛ばされた。

「ルーファス!!!」

「ぶはっ……。ニっニケ……。こっこんなところで再開するとはな……おっ俺……。」

 止まらない吐血に苦しむルーファスは、痛みに耐えながらもニケに何かを伝えようとしていた。

「ジワ」

 ニケはルーファスが力を込める度に服にある赤いシミが広がっていく事に気がついた。

「ダメだ!休んで!傷口が!」

「うっうん……。ニっニケ……。」

「なっ何!?」

 ニケは涙で光り輝くルーファスの瞳を見つめ、ルーファスの手を握った。

「俺……死ぬのかな……。」

「しっ死なないよ……。死ぬわけない!だって……なるんだろ!?立派な……鍛冶師に!!」

「……んっ、あっああ……。おれ……なるよ……。」 

「なら、今は休んで……。」

「うん……。おれ………うう……。しっ…しに……死に…た…く…な……い……。」

 意識が段々と薄れていくルーファスの手を握っていたニケは、手を震わせながら目を閉じるルーファスを地面に横たわらせた。

「やっとおいついたぜ。」

「ぐっ!」

 ニケは自身のすぐ後ろからガルの声が聞こえた為、すぐさま後方へと振り向き防御の姿勢をとった。

「ドガッ!!」

「がっ!!」

 ガルはニケが振り返ったのと同時に足を下から上へと蹴り上げた。その攻撃でニケは交差させていた腕を崩し上げられ、無防備な状態にされてしまった。

「終わりだ。」

 ガルはボソッと呟いた後、ニケの体を真っ二つに切り離すべく持っていたアックスを勢いよく横に振り払った。

「みんな……。ごめんっ!!」

 ニケが何もかもを諦めかけた瞬間、ガルとニケの間からどこか知らない場所に繋がっていそうな空間の狭間現れた。

「なっなんだこれは!!!」

 二人の間に現れた空間の奥では、眼のようなものが底知れない怒りを表すかのように赤く光っていた。

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初めての小説で至らないことが多々ありましたが、読んで頂きありがとうございました。

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