地球にダンジョンができたと思ったら俺だけ異世界へ行けるようになった

平尾正和/ほーち

文字の大きさ
5 / 54
第1章

第5話 シャノア

しおりを挟む
 玄関に転移した俺は、靴を脱いで家に上がった。

「ニャア」

 奥から、黒猫が現れた。
 飼い猫のシャノアだ。

「ただいま、シャノア」

 ダンジョン発生の混乱で家族を失った俺にとって、こいつは唯一残された家族だ。

「待ってろよ、新しいポーション買ってきたからな」
「ウニャァアア」

 足下にまとわりついてくるシャノアを蹴飛ばさないように注意しながら歩く。

 居間に入った俺は、浄水器内を循環するシャノアの飲み水に、ライフポーションを一滴垂らした。

「これでひと安心だな」

 シャノアは魔素不全症という病気にかかっていた。


 魔素が世界に溢れたことで、人類を始め地球上の生物がそれに適応した。

 そのことで、人には新たに魔力という力に目覚めた。

 魔力は、スキルや魔法を使うための力だ。

 ちなみに魔法とは、スキルの一種である。
 ただ、魔法系スキルは『魔法』と呼ばれ、それ以外のものは『スキル』と呼ばれている。

 そのほうがなんとなくわかりやすいからだ。

 魔素に適応したことで、人々や他の生物は魔力を得た。
 ただ、適応できない者もいた。

 別名魔素アレルギーとも呼ばれるこの病気は、魔素を異物と判断した脳が身体から無理やり魔素を排出してしまう、という症状を引き起こす。

 魔素が排出されると、魔力が消費される。

 そして消費された魔力を回復するために、生命力を消耗する。

 生命力を失った生物は、死に至る。

 この魔力不全を治療するには、魔素濃度の低い場所でゆっくりと時間をかけて魔素を身体にならしてやる必要があった。

 だが専用の治療施設は使用料が高いうえ、いまのところ動物は使用できない。

 そこで対症療法として、ライフポーションを飲ませて消耗した生命力を補う必要があった。

 1本100万円のライフポーションを、およそ2ヶ月で消費してしまう。

 俺の収入の大半は、シャノアのためのポーション代に消えていた。
 そのため、俺は新しい武器も、スキルも買えず、底辺を彷徨っているというわけだ。

 だが、シャノアを見殺しにするという選択肢はない。
 というか、彼を助けるために、俺は冒険者になったのだ。
 全財産をはたいたうえに借金までしてスキルセットを買ったおかげで、当初はそれなりに稼げた。

 すぐにスキルの価値が下がり、収入は減ったが、借金を返し終わったあとだったのは幸運だったと言えるだろう。

 その後も途切れることなくポーションを買い続けられるだけの収入はあるので、これ以上望むのは贅沢というものだ。

 もう十数年生きているシャノアの老い先は、それほど長くない。

 ならば、彼の最期を看取るまでは、いまの生活を続けようと思う。

「ニャア」

 ぴちゃぴちゃと音を立てて水を飲んだあと、ひげを濡らしてかわいく鳴くシャノアを見て、俺は決意を新たにした。

○●○●

「そうだ、魔石を補充しとかないとな」

 風呂に入り、夕食を終えたところで、ふと思い出して呟く。

「ニャウ」

 返事をするように鳴くシャノアの頭を撫でたあと、俺は裏口から外に出た。

 家の裏、その一角に、四角い箱のような機械が設置されている。

 魔力発生機だ。

 ダンジョンの出現により、送電網や有線通信網が寸断された。
 復旧作業をしたところで、いつどこに現れるかわからないダンジョンや、野良モンスターの手で台無しになってしまう。

 そのため、混乱初期は太陽光発電や蓄電池、電気自動車、家庭用発電機が、主なエネルギー源となった。

 ダンジョン発生にともなう人口の減少で、家庭用の電力は最低限以下ではあるが、ゼロにはならなかった。
 企業向けの電源については、各企業がいろいろがんばってなんとかなったりならなかったりしたそうだが、詳しいところは俺もよくわからない。

 とにかく、エネルギー問題は、早急に解決しなくてはならなかった。

 そんななか、ある研究所が魔法に目をつけた。

 〈火魔法〉〈風魔法〉〈土魔法〉などがあるなか、〈雷魔法〉というものもあった。
 つまり、魔力から電気が作れるのではないかと考えたのだ。

 それから官民一体となって魔法と科学の研究がなされた。

 そして魔石から抽出した魔力を電力に変換できる装置が完成した。

 魔力発電機と名付けられたそれは、魔石を入れれば電気が生まれるうえ、構造自体は簡単なので量産もできた。
 そこで各家庭に1台は置かれるようになった。

 ちなみにこうやって魔法と科学を組み合わせた技術は、錬金術と呼ばれるようになった。
 当時の官僚に、アニメ脳の持ち主でもいたのだろう。

 ついでに言っておくと、医療用の錬金術は錬丹術と呼ばれる。
 ポーション類を作る技術だ。

 そうやって生まれた魔力発電機だが、なんといっても効率が悪かった。
 そこで各企業は、魔力発電機の改良ではなく、電化製品の改良に乗り出した。

 ようは、魔力で動く機械を作ろうというわけだ。

 その結果できあがったものは、魔道具と呼ばれた。

 魔道具の登場によって、日本は失われた文明を一気に取り戻した。

 ほどなく魔素と電波を融合した無線通信網も開発され、かつてのようにスマホも使えるようになった。

 それどころか、スキルの研究がすすんだおかげで、ある面での文明は飛躍的に進歩を遂げたと言っていいのかもしれない。

「よいせっと」

 俺は魔力発電機のフタを開け、魔石を放り込んでいく。
 電池のように規格をあわせる必要はなく、様々な大きさの魔石を入れるだけでいいのはありがたい。

「これなら半月はもつかな」

 魔力発生機のエネルギー残量を見て、呟く。

 この魔力発生機に使う魔石代が、ダンジョン発生以前でいうところの水道光熱費にあたるといっていい。

 そう、電気やガスの代替だけでなく、水もまた魔力によって生成されていた。

 当初は純水、すなわち不純物のないH2Oしか作り出せず、飲み水はスーパーやドラッグストアで購入する必要があった。

 だがそこは食にこだわる日本人。

 錬金術の研究を進めた結果、各種ミネラルを含むそこそこ美味い軟水を生成できるに至った。

 まぁ飲料水に関しては名水を産出するダンジョンもあるので、いまだに各所で販売はされているが。

「さて、明日に備えてそろそろ休むか」

 魔石の投入を終えた俺は家に戻り、シャノアをひとしきり愛でたあと、眠りについた。
 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

処理中です...