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第1章

27話 ルーシーの成長

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 あれからしばらく、ルーシーはケントの胸で泣き続けた。

「ううっ……ぐす……ごめん……。あと、ありがと……」
「ん?」
「警戒……して、くれてたでしょ」

 彼女は涙を拭い、顔を上げてそう言うと、ぎこちないながらも笑みを浮かべた。

「うん、まぁ……」

 ケントはルーシーを抱き寄せながら、コボルトの魔石を取り付けた銃を手にあたりを警戒していた。

 【攻撃力】がCになったいま、たとえオークが現れても足止めくらいはできるはずだ。
 それに敵が襲ってきたとなれば、ルーシーも切り替えるだろう。

 幸いコボルトやゴブリンを含め、魔物は一切現れなかった。

「ルーシー、落ち着いた?」
「うん。おかげさまで」

 あらためて、ルーシーが微笑む。
 笑顔は少し、自然なものになっていた。

「じゃあ、能力値を上げてしまおう。ルーシーさえ強くなれば、オークだって怖くないからな」
「うん、わかった。相談してもいい?」
「もちろん」

 いろいろと考えた結果、ルーシーの能力値はこうなった。

**********
【名前】ルーシー
【レベル】24→25
【HP】87/100
【MP】43/100
【SP】25→24→0
【EXP】2/100
【冒険者】F

【攻撃力】H→G→D
【防御力】H→E
【魔力】H→G
【精神力】H→G
【敏捷性】H→G
【器用さ】H
【運】S
**********

 重要なのは、どの能力でもいいからまずはCにすること。
 そこでルーシーが選んだのは【攻撃力】だった。

 すでにGになっていたので、HからDに上げるため、【SP】14を消費。
 残り10のうち、やはり生死に直結する【防御力】を優先してEに上げ、あとは【器用さ】以外に振った。
 彼女がこれまでに身に着けた技術を考えれば、そこは後回しでもいいだろうとの考えからだ。

 DからCへの消費【SP】は16で、次にレベルアップすれば26を得られるため、残しておくよりもすぐに強くなることを彼女は選んだ。

「魔力が結構減ってるな」
「戦うときは魔術を使って剣に魔力を纏わせてるからね。そうしないと、すぐに刃こぼれしちゃうもの」
「じゃあ、【魔力】を多めに上げなくてよかったのか?」
「これだけ【攻撃力】が上がったんだもの。ひとつ上げとけば充分よ」
「なるほど」

 ルーシーは加護板を見ながら、本当に嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「ふふふ……これであとひとつレベルを上げれば、あたしもついに……!」
「でも、ルーシーはかなりレベルが高いから、上げるの大変なんじゃないのか?」
「そうね。でも問題ないわ」

 加護板を見ていたルーシーが、心配そうに言うケントに自信ありげな顔を向ける。

「あたしはこれまでの活動で、かなりの評価がたまってるはずなのよ。だから、能力値の問題さえ解決できればすぐにでもDランクになれるわ。たぶん、ケントも」
「Eを飛ばして? 俺も?」
「ええ」
「というか、俺のランクがなにか関係あるのか?」
「もちろん! だって、そうなればダンジョンに入れるもの!!」
「なるほど、ダンジョンか」

 ケントはバートたちが話していたダンジョンという言葉を思い出した。

「たしか、Fランクは入れないんだったな」
「そうね。特例でもない限り」

 エデの町にあるダンジョンの入場規制は、ランクと人数によって決められている。

 Eランクなら4人。
 Dランクなら2人。
 Cランク以上はひとり。

 これ以上の人数がパーティー内に所属していれば、ダンジョン探索が可能となるのだ。
 ただしFランク以下の冒険者は除く、という注釈はつくが。

「そうか。じゃあ、まずは目指せDランクだな」
「ええ。でもそこまで気負わなくていいわ」

 聞けばDランクまでは、評価よりも能力値が重視されるらしい。
 通常はどれかの能力値がDになるところまでレベルアップすれば、それなりに評価もあがっているので、そこまで生き延びられれば自然とDランクになれるそうだ。

「今日の報告で一気にランクアップするかもしれないし、気楽にいきましょう」
「わかった」

 そのあとふたりは倒したオークの魔石と豚肉を回収し、帰路についた。

 帰りは、上がった能力値に慣れるためにも積極的に魔物と戦った。
 ルーシーは最初のほうこそ急激に成長したことに翻弄されていたが、すぐに慣れた。

「あはははっ! すごい! コボルトがスパスパ斬れるわ!!」

 彼女は敵を見つけるたびに突進し、まるで草を刈るように次々と倒していく。
 そんなルーシーの姿に、ケントは少しだけ顔を引きつらせた。

(でもまぁ、俺も人のことは言えないか)

 ケントはゴブリンの魔石でコボルトの頭を吹き飛ばせるほどに、【攻撃力】が上がっていた。
 ホーンラビットにしたところで、銃にMP1を込めるだけであっさりと倒せた。
 そのことが、少しだけ快感だった。

 そのあとも戦闘をこなすために寄り道や遠回りをしたせいで、ふたりが町に着くころには日も暮れ始めていた。

 ギルドに戻ると、ちょうど人が混む時間帯になっていた。

「結構待たなくちゃいけないし、少し時間をずらしたほうがいいかも」
「俺は別に待ってもいいけど」
「でも、いろいろ報告することもあるじゃない? できれば人が少ないほうがいいかな」

 十数年、まったく上がらなかった能力値が一気にあがった。
 レベルの割には低い能力値ではあるが、それでも大きな変化だ。

 レベル25になったら突然成長した、と報告するつもりだが、人によってはいろいろ詮索してくるかもしれない。

「そういうことなら、明日にするか?」
「そうね。できればクラークさんに直接報告したいから、お昼前の空いてる時間がいいかも」
「じゃあ、今日は帰るか。引っ越しもしなきゃだしな」
「ええ、そうね」

 ふたりがそう決め、帰ろうとしたときだった。

「ルーシー!」

 彼女を呼ぶ声が聞こえた。

 そちらに目を向けると、中年の男女が並んでおり、女性のほうが手を振っていた。

「バルガスさん! ニコールさん!」

 ふたりに気づいたルーシーは、彼らの名を呼び、駆けだした。

 どうやら彼女の知り合いらしかった。
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