14 / 55
Prologue
盗賊団 継ぎし者 レイシュール 1
しおりを挟む
私は、強くなど無い。
その事に気が付いたのは兄が私を打ち果たし、敗北の味を知ったその日だった。
家督相続の争いに負けただけ、後は兄を支えながら生きていく。それが私に残された道だったハズなのに、私は今、レイシュール盗賊団という仲間を率いている。
レイシュール盗賊団の首領なんて言えば響きは格好良いが、私はこの中で一番、他の仲間たちと比べると経緯を見るに盗賊らしい男だ。いや、盗賊として生きる事を、誘われたでも無く自ら選択したというのが一番しっくりくるだろうか。
私は自分の家を継がない事が決まった段階で何かが振り切れた。
弱いのなら、何処までも弱さを抱えて生きてやると思い切った行動に出たのだ。
まずは父の金庫から金を盗んだ。その金で遊ぶ訳でも無く。ただただ盗んだ事も隠して銀行に私の口座を作った。手元に残った私の口座を示す木板が…何故か、凄く重たく感じたのを覚えている。
木板を渡せば預けた金を引き出してくれる。そういうシステムだ。
そして私は、その木板を手に持った瞬間…確かに感じたんだ。
罪悪感を…それに伴う。背徳的な楽しさを…。
段々と家族も私を見なくなった。自由奔放な生活を始めた私を、『気が狂った』とまで誹り見て見ぬふりをした。
『お前を、勘当する』
その言葉を受け、次の日には出て行けと言われた。
喜んで…と言った所だった。
そして、家宝の白銀の盾と剣を持って私は飛び出した。ただ山の中へ、山の中へ、何かを考えていた訳でも無い、父の金を盗んだ時と同じ、ただ衝動的に何かを求めて。
そしてそこで、私は1人の女性に出会った。
その山で暮らしていると言いながら、血の付いた短剣を振るって辺りに血を飛ばした姿は私には今でも…今だからこそ脳裏に焼き付いて離れない光景となっている。
山の中で暮らしているから、まともな人間では無いことは分かりきっていた。今時、樵ですら山の麓で暮らす世の中だ。
なぜ山の中に?
そんな疑問はあったが、彼女との出会いは私が野犬の群れに襲われて命を助けられるという何とも情けない形だったので、尋ねたのはしばらく後になってからだ。短剣の血は、その為だ。
野犬に襲われて血を流していた私は彼女の下で療養し、山の中での暮らしを覚えた私は毎晩ふらりと家から出ては朝方近くにふらりと帰ってくる彼女に、「山奥にいるのと夜に出掛けているのは関係が?」と尋ねた。
すると彼女は悪びれる様子も無く。爽やかな笑顔と共に「盗賊やってんのよ!」と私に告げた。
それが、私と彼女…後に私が名を継ぐ女性、レイシュールとの出会いだった。
盗賊団 団長 継ぎし者 レイシュール
私は彼女に盗賊だと告げられて驚く反面、憧れを抱いた。
盗賊という存在が悪として見られているのは、この世の中では周知の事実、彼女もそれを分かり切った上で盗賊だと名乗ったのだろう。
彼女の下で療養をしながら、私はその仕事ぶりに耳を傾けた。
『今日は貧困街を任されてるのに着服してるヤツの金をバラ撒いてやった』
『乱暴な盗賊連中から宝を奪い取った』
『酒場で女に手を出してる馬鹿を全裸で柱に縛りつけて来た』
何処までも面白可笑しくて、盗賊というよりは義賊の働きを彼女はそれでも『盗んでいる事に変わりは無いのよ!』と自分を悪として貫いていた。
たった一人の盗賊、レイシュール。
私は療養の中で、彼女に惹かれて行った。
誰にもトロッコの脱線を予期出来ない様に、私も自分の幸せな日々が突如として道を踏み外す所など想像していなかった。
レイシュールは強かった。私などとは違い、彼女は涙を流す姿も、悔しさに震える姿も私には見せなかった。
だがある日、彼女がボロボロになって帰って来た。涙も流して、短剣も折れて、土と砂を身体に付けて泣いていた。
『護れなかった』
とある街から離れた所に建てられた小さな教会、孤児院も営むその教会、彼女はそこに寄付を続けていたのだという。だが、彼女の努力は国の騎士によって壊されてしまった。
豊かな財源を有しているのに、虚偽の報告をして王国より金を騙し取った罪…らしい。彼女が寄付をした事で、孤児院の経営は成り立っていた。だが、成り立つ筈の無い孤児院が未だに続いている事を王国は疑問に思い、調査し…多額の寄付金の帳簿をみつけられてしまったらしい。
そして、王国の騎士団が攻め入って来たのだという。異端の徒を駆逐せよと、宗教国家でも無いくせに邪魔な存在を潰す為の隠れ蓑に宗教を一時利用する事を選んだのだ。
王国騎士団12人に対して、レイシュールはたった1人で戦ったのだ。
結果は…相手は撤退して行ったが、教会はもう建てなおす事も出来ない程に壊れてしまった。
そしてレイシュールはその日から、夜中にも出かける事は無くなった。
ベッドの上で、傷付いた身体を休める日々だった。
一カ月が経って、彼女はベッドの上で泣きながら私に告げた。
『脚が動かなくなった』と、『もう誰からも盗めない』と、涙を流した。
彼女は語った。盗賊を始めた理由を、彼女もまた盗賊に拾われ、盗賊に育てられ、盗賊である義父が亡くなった時、盗賊を継ぐと決めたのだという。
苦難の日々だった。それでも、自分の行動が誰かの未来に繋がるのだと、義父に拾われ、命を救われた自分の様に未来を作るのだと信じて行動を続けたのだと話してくれた。
彼女の持つ短剣は、その義父の形見だったとも話してくれた。
決して弱者からは盗まず。強者からのみ盗んでいた父の姿に、彼女は盗賊に憧れすら抱いていたという。
強かった彼女が俺の胸にしがみついて涙を流す姿は、胸を締め付ける痛みを私に与えた。
そして段々と、彼女の容態は悪くなっていった。傷が化膿している訳でも無く。彼女の体力そのものが限界を迎えていたのだ。出血、心的疲労、睡眠不足から彼女は視界さえも曖昧な中で…私に告げた。
『君は、強くなれるよ』
そして、息絶えた。
恋愛関係にあった訳でも無い、ただ恩があっただけだ。
本名すら教えず。彼女が作ってくれるご飯を食べるばかりの日々だった。
今なら分かる。私にはそれで充分だったんだと…。
私はその日から、己の名を捨てた。強くなる為に、強く在った彼女の名を受け継いだ。
それが私、レイシュールという人間の真実だ。
そして出会う。
私に光をくれる。彼等と…。
その事に気が付いたのは兄が私を打ち果たし、敗北の味を知ったその日だった。
家督相続の争いに負けただけ、後は兄を支えながら生きていく。それが私に残された道だったハズなのに、私は今、レイシュール盗賊団という仲間を率いている。
レイシュール盗賊団の首領なんて言えば響きは格好良いが、私はこの中で一番、他の仲間たちと比べると経緯を見るに盗賊らしい男だ。いや、盗賊として生きる事を、誘われたでも無く自ら選択したというのが一番しっくりくるだろうか。
私は自分の家を継がない事が決まった段階で何かが振り切れた。
弱いのなら、何処までも弱さを抱えて生きてやると思い切った行動に出たのだ。
まずは父の金庫から金を盗んだ。その金で遊ぶ訳でも無く。ただただ盗んだ事も隠して銀行に私の口座を作った。手元に残った私の口座を示す木板が…何故か、凄く重たく感じたのを覚えている。
木板を渡せば預けた金を引き出してくれる。そういうシステムだ。
そして私は、その木板を手に持った瞬間…確かに感じたんだ。
罪悪感を…それに伴う。背徳的な楽しさを…。
段々と家族も私を見なくなった。自由奔放な生活を始めた私を、『気が狂った』とまで誹り見て見ぬふりをした。
『お前を、勘当する』
その言葉を受け、次の日には出て行けと言われた。
喜んで…と言った所だった。
そして、家宝の白銀の盾と剣を持って私は飛び出した。ただ山の中へ、山の中へ、何かを考えていた訳でも無い、父の金を盗んだ時と同じ、ただ衝動的に何かを求めて。
そしてそこで、私は1人の女性に出会った。
その山で暮らしていると言いながら、血の付いた短剣を振るって辺りに血を飛ばした姿は私には今でも…今だからこそ脳裏に焼き付いて離れない光景となっている。
山の中で暮らしているから、まともな人間では無いことは分かりきっていた。今時、樵ですら山の麓で暮らす世の中だ。
なぜ山の中に?
そんな疑問はあったが、彼女との出会いは私が野犬の群れに襲われて命を助けられるという何とも情けない形だったので、尋ねたのはしばらく後になってからだ。短剣の血は、その為だ。
野犬に襲われて血を流していた私は彼女の下で療養し、山の中での暮らしを覚えた私は毎晩ふらりと家から出ては朝方近くにふらりと帰ってくる彼女に、「山奥にいるのと夜に出掛けているのは関係が?」と尋ねた。
すると彼女は悪びれる様子も無く。爽やかな笑顔と共に「盗賊やってんのよ!」と私に告げた。
それが、私と彼女…後に私が名を継ぐ女性、レイシュールとの出会いだった。
盗賊団 団長 継ぎし者 レイシュール
私は彼女に盗賊だと告げられて驚く反面、憧れを抱いた。
盗賊という存在が悪として見られているのは、この世の中では周知の事実、彼女もそれを分かり切った上で盗賊だと名乗ったのだろう。
彼女の下で療養をしながら、私はその仕事ぶりに耳を傾けた。
『今日は貧困街を任されてるのに着服してるヤツの金をバラ撒いてやった』
『乱暴な盗賊連中から宝を奪い取った』
『酒場で女に手を出してる馬鹿を全裸で柱に縛りつけて来た』
何処までも面白可笑しくて、盗賊というよりは義賊の働きを彼女はそれでも『盗んでいる事に変わりは無いのよ!』と自分を悪として貫いていた。
たった一人の盗賊、レイシュール。
私は療養の中で、彼女に惹かれて行った。
誰にもトロッコの脱線を予期出来ない様に、私も自分の幸せな日々が突如として道を踏み外す所など想像していなかった。
レイシュールは強かった。私などとは違い、彼女は涙を流す姿も、悔しさに震える姿も私には見せなかった。
だがある日、彼女がボロボロになって帰って来た。涙も流して、短剣も折れて、土と砂を身体に付けて泣いていた。
『護れなかった』
とある街から離れた所に建てられた小さな教会、孤児院も営むその教会、彼女はそこに寄付を続けていたのだという。だが、彼女の努力は国の騎士によって壊されてしまった。
豊かな財源を有しているのに、虚偽の報告をして王国より金を騙し取った罪…らしい。彼女が寄付をした事で、孤児院の経営は成り立っていた。だが、成り立つ筈の無い孤児院が未だに続いている事を王国は疑問に思い、調査し…多額の寄付金の帳簿をみつけられてしまったらしい。
そして、王国の騎士団が攻め入って来たのだという。異端の徒を駆逐せよと、宗教国家でも無いくせに邪魔な存在を潰す為の隠れ蓑に宗教を一時利用する事を選んだのだ。
王国騎士団12人に対して、レイシュールはたった1人で戦ったのだ。
結果は…相手は撤退して行ったが、教会はもう建てなおす事も出来ない程に壊れてしまった。
そしてレイシュールはその日から、夜中にも出かける事は無くなった。
ベッドの上で、傷付いた身体を休める日々だった。
一カ月が経って、彼女はベッドの上で泣きながら私に告げた。
『脚が動かなくなった』と、『もう誰からも盗めない』と、涙を流した。
彼女は語った。盗賊を始めた理由を、彼女もまた盗賊に拾われ、盗賊に育てられ、盗賊である義父が亡くなった時、盗賊を継ぐと決めたのだという。
苦難の日々だった。それでも、自分の行動が誰かの未来に繋がるのだと、義父に拾われ、命を救われた自分の様に未来を作るのだと信じて行動を続けたのだと話してくれた。
彼女の持つ短剣は、その義父の形見だったとも話してくれた。
決して弱者からは盗まず。強者からのみ盗んでいた父の姿に、彼女は盗賊に憧れすら抱いていたという。
強かった彼女が俺の胸にしがみついて涙を流す姿は、胸を締め付ける痛みを私に与えた。
そして段々と、彼女の容態は悪くなっていった。傷が化膿している訳でも無く。彼女の体力そのものが限界を迎えていたのだ。出血、心的疲労、睡眠不足から彼女は視界さえも曖昧な中で…私に告げた。
『君は、強くなれるよ』
そして、息絶えた。
恋愛関係にあった訳でも無い、ただ恩があっただけだ。
本名すら教えず。彼女が作ってくれるご飯を食べるばかりの日々だった。
今なら分かる。私にはそれで充分だったんだと…。
私はその日から、己の名を捨てた。強くなる為に、強く在った彼女の名を受け継いだ。
それが私、レイシュールという人間の真実だ。
そして出会う。
私に光をくれる。彼等と…。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる