幸せを知る異世界転移

ちゃめしごと

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第一章

氷雪大陸 紅蓮の父

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 我が父は、我に様々な事を教えてくれた。

 空の飛び方、司る物の使い方、我の覚えている全ての事は父親から教えられた事だ。

 父は我が生命を司ってはいないと知って少し落胆していた様だった。

 それでも、少しの愛は感じた。愛と呼ぶには少しばかり手厳しい物が多かったが…。

 いや、あれは愛だったのだろう。父はただ不器なだけなのだ。

 思えば、我がユーマにした様に寄り添って眠る事もしてくれた。未だに炎の加護を上手く扱えぬ我に、寄り添う事で熱を与え寒き中を過ごす助けとなってくれた。

 父は、我を愛していたのだろう。

 今ならば分かる。それに気付かせてくれたのはほかでも無いユーマだ。

 さぁ、この羽を魅せに行こう。この大きくなった翼を、我が父に。



 ―――氷雪大陸 紅蓮の父―――



 雪が強い、そう思ったのはおかしな話なのだが、いかんせん雪が強い。

 父がこの山脈を管理しているのなら、雪がこうも強いのは有り得ぬ事だ。

 雪の強さを風で和らげる事など、我等龍には容易い事の筈だ。

 だが、この一帯の雪は強い…父は管理していないのだろうか。それとも、この地は以前からこの強さで雪が降っていたからそのままにしているのだろうか。

 山頂に近付くにつれて、段々と雪の強さは増して行く。

 まるで近付く事を拒んでいるかのような、そんな風にも感じた。

 だが、だとすればあの龍鱗の化身で攻撃をしてきた筈だ。つまり、害意がある訳では無い…だとしたら、何故。

 様子は気になったが逢いたくは無い…その様な中途半端な思考をする父だっただろうか、気になるなら逢うという極端な方だった筈だが…。

「義父さん…これじゃあ…」

 ユーマの言葉で考えから抜け出すと、目の前に広がる豪雪の降り注ぐ光景に困惑を覚えた。

 一体、何が起きているというのか…。

 我がこの吹雪で根を上げる訳が無いのだが、ユーマとしては心配な様で先程から感情が伝わって来る。嬉しい半面で、その様な感情を覚えさせている事が…申し訳ない。

『仕方あるまい…一度、山の壁面に穴を作り、そこで休むとしよう』

 ユーマにそう提案し、嬉しそうに頷いた息子に我もまた頬が緩んだ。




『少し広く作り過ぎたか…すまぬな、我が小さくなれぬ故…』
「ううん、大丈夫です…目の前で吐かれる炎の光景には驚きましたけど…」

 少し良い所を見せようとして力加減を誤ったのは内緒だ。

 我がこの洞穴に居る事も、我が父は知っている事だろう。だが、龍鱗の化身の気配もせぬし、知っているだけにとどめているのか、それとも興味が無いのかまでは分からない。

 どうにも違和感を覚える。

「ごめんなさい義父さん…僕はちょっと、ねむ…」

 ユーマが我に凭れ掛かり、背に鱗から伝わる熱に気持ち良さを感じたのか身を預ける様に眠りに落ちた。

 そこまで安心、信頼されていると気恥かしさもあるが、嬉しさが大きい。

 最初、本当に最初の頃はユーマは怯えが含まれていた。

 なんと言ったのだったか、あぁ、そうだ『刺さりませんよね』と我の鱗を見て怯えていたのだ。

 あの時の様子は可愛い物だった。我からすれば刺さる筈の無い物だ。だが他の生物から見れば威圧感を与える物なのだとユーマは話していたな。

 我と、我以外の生物の違い。

 そんな事、これまで意識した事も無かった。

 ユーマに言われて初めて、我とユーマを、我と人間の違いを考えてみた。

 …そして、我と他の龍、龍種の中でも違いはある筈だと…考える機会を得た。

 我と父は違う。我とユーマは違う。それは個として違うからだ。同じな訳が無い。だが、それならば子と親とは…考えの行き着いた先は、そんな疑問だった。

 …父に聞いてみたいと思った。疑問だ。

 外の雪はまだ止まない、まるでこの洞穴の中に閉じ込めるかのように降り注いでいる。

 雪はまだ止まない、その時間が、我に思考させる。

 山頂に居る時は疑念にも思わなかった様々な事に疑念を抱く。

 何故、どうして、おかしいのでは…我はそれらを、父に問うてみたいと思った。

 我もまだまだ…子なのかもしれんな。










 次の日になったと言う事を告げてくれた陽の光は、薄明光線となって降り注いだ。

 いつの間にか寝ていたらしく。我は外から感じた眩しさに眼を薄く開けながら目を慣れさせていった。

 未だ安心しきった表情で我に抱き着き眠るユーマを軽く身を揺する事で起こし、外より雪を僅かに掬い、我の手に乗せれば自然と溶けだしてユーマの顔を洗う為の水に早変わり。

 すっきりした面持ちのユーマが身支度を整えるのを待ちながら、我は外の様子を窺った。

 吹雪は止み、山頂へ向かう事も可能であろう天候、されども薄く敷かれた雲からは雪が絶え間なく降り注いでいる。

 吹雪は止めども雪止まず…氷雪大陸の名は伊達では無いと感じさせられる。

 さぁ、向かうとしよう…。

 もう邪魔する者は何も居ない、邪魔する天候も無い、今ならば問題無く向かう事が出来るだろう。
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